【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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【番外編】合理性バカ①:訓練じゃなくてもはや教育

――10年前 陸軍 某訓練施設にて

 

 真夜中の基地に、突如鳴り響く号令。

 「総員、緊急集合!!」

 

 仮眠をとっていた新兵たちが、一斉に飛び起きる。

 各自、軍服を整え、駆け足で訓練場へ向かう。

 まだ眠気の抜けない者もいれば、慌ててブーツを履きながら廊下を走る者もいた。

 

 そんな中——

 

 「ドンッ!!!」

 

 鈍い音とともに、何かが地面に落ちた。

 

 兵士たちが驚いて振り向くと、そこには砂埃の中、淡々と軍服を払う新兵・ジョージの姿があった。

 

 ……どう見ても、3階から飛び降りたばかりだった。

 

 ──基地の構造上、訓練場までのルートは「廊下を通って階段を下り、正面玄関を抜ける」のが普通だ。

 だがジョージは、

 「時間短縮のために3階から飛び降り、2階の手すりでワンクッション入れてから着地する」という最適解を選んでいた。

 

 しかも、

 着地の瞬間、受け身を完璧に決め、衝撃を完全に逃がして立ち上がる。

 

 「……え?」

 

 「今、コイツ……?」

 

 「3階から降りたよな?」

 

 「しかも、途中で手すりに掴まって減速してる……え、そういう問題?」

 

 ザッ、と砂埃を蹴りながら、ジョージは何事もなかったかのように訓練場へ向かう。

 周囲の兵士たちが唖然とする中、少し遅れて到着した教官の軍曹が、異変に気づく。

 

「……待て、お前、どっから来た?」

 

「3階です」

 

「は?」

 

「3階の窓から降りました」

 

「……」

 

 軍曹の表情がみるみる険しくなった。

 周囲の兵士たちが、ヤベェぞ、という目でジョージを見る。

 

「お前は今、何つった?」

 

「時間短縮のために、3階の窓から直接——」

 

「直接!?」

 

「……ではなく、2階の手すりで減速しました」

 

「そういう問題じゃねぇ!!!」

 

 軍曹の怒鳴り声が、基地中に響く。

 ジョージは少し首を傾げた。

 

「ですが、結果として最短でここに到着しました」

 

「違う! そういうことじゃねぇ!」

 

 怒声とともに、軍曹がジョージの胸倉を掴む。

 

「テメェ、人間はな、基本的に3階から飛び降りねぇんだよ!!」

 

「……でも、2階で減速を——」

 

「減速じゃねぇ!!!」

 

 背後で誰かが吹き出す。

「ウガジンのせいで、軍曹が人間の概念を教え始めた……」

 

 軍曹は頭を抱え、深いため息をついた。

 

「いいか、ウガジン……お前の頭の中じゃ、“効率”と“合理性”が最優先なのは分かる。だがな……」

 

「はい」

 

「軍隊はな、人間が集まる場所なんだよ!!」

 

「……なるほど」

 

 ジョージは静かに頷く。

 

「では、3階から降りるのは許可制ということでしょうか?」

 

「違う!!!  二度とやるな!!!」

 

 兵士たちが、必死に笑いをこらえながら肩を震わせる。

 

 だが、軍曹はそこで終わらなかった。

 ジョージを睨みつけ、呆れたように問いかける。

 

「で、お前……怪我するとは思わなかったのか?」

 

 ジョージはしばらく沈黙した。

 少し考えた後、首を傾げながら淡々と答える。

 

「……着地の計算は完璧でした。」

 

「クソッ……だからそういう問題じゃねぇんだよ!!!」

 

「ウガジン、また軍曹の血圧上げたな……」

 

「もう訓練じゃなくて教育だろこれ……」

 

 軍曹はこめかみを押さえながら、苛立ち混じりに言い放つ。

 

「もういい!!  お前は今日から、移動訓練10倍追加だ!!!」

 

「了解しました」

 

「……了解しましたじゃねぇ!!  反省しろ!!」

 

 そのやり取りを遠巻きに見ていたヴィンセントが、腕を組みながらニヤリと笑った。

 「やっぱあいつ、面白ぇな」

 

 

 

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