【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
「ウガジン、お前の射撃は……クソだな」
教官の第一声がそれだった。
ジョージ・ウガジン、当時20歳。部隊の中で最も早く、正確に銃を組み立てる男だった。
だが――
「お前が撃った弾、どこ行ったか分かるか?」
教官が指差す先には、射撃標的とはまったく関係のない、背後の金属板にぽつりと残る弾痕。
「俺が当てたんですか?」
「どう見てもそうだろ!! お前、的の方向見てたか!?」
「はい、ちゃんと……」
「どこを!? 火星か!? 土星か!? それとも冥王星かぁ!?!?」
背後で兵士たちが肩を震わせる。ジョージは静かに応じた。
「冥王星は……もう惑星じゃないです」
「そういう問題じゃねぇ!!
お前の弾丸だけ異世界転生でもしてんのかぁ!?」
「さすがに、それは――」
「じゃあどこ行ったんだよ!? スライムか!? ギルド受付嬢か!? 勇者にでもなってんのか!?」
「……撃った先がずれてたんだと思います」
「知ってるわ!!」
ついに教官は両手で頭を抱えた。
「お前の組み立て技術は特級品だ……
だがな、射撃の腕が台無しにしてんだよ……!」
「つまり?」
「撃て!! 当たるまで撃ち続けろ!! ……って、待てよ?」
教官がふと真顔になった。
「お前、もう20歳だよな?」
「はい」
「部隊に配属されて、どれくらいだ?」
「1年と3ヶ月です」
「……今まで、何やってた?」
「……? 1人で敵の偵察の任務を――」
「そりゃぁ知っている。お前の持ち帰ってくる情報は超一流品だ。そこは褒めよう。だが今俺が聞きたいのは銃の話だ」
「主に銃の整備を」
「いや、撃てや!!!!」
再び地響きのような怒号が鳴り響く。
「お前まさか……ずっと分解と組み立てだけしてたのか?」
「一応、たまには撃ってました」
「たまにかよォ!!」
兵士たちはもはや訓練どころではない。
「整備精度・知識・理論・組み立て速度――
どっっれも完っっ璧なのに……なんで射撃だけ、こうなるんだよォ!」
訓練場のあちこちで、訓練兵たちがうつむく。
笑いを堪えて、肩を震わせている者もいる。
「……っく……」
「ダメだ、笑うな……笑ったら殺される……」
「笑ってはいけない射撃訓練……また始まったな……」
その中心で、ジョージはただ黙って立っていた。
教官の怒号にも、皮肉にも、まったく反応しない。
冷静に、まっすぐ立って、ただ一点を見据えていた。
「何だその顔はァ!!
こっちは感情の波で溺れそうなのに、お前は氷河期か!?
マジで!?
化石かお前は!?」
教官は息を荒らげながらも言葉を続けようとして、ふと気づく。
ジョージが、構えを変えていた。
重心は低く、足幅は柔道の構えのように広い。
右手は身体の軸に沿わせ、左手は弓を引くように前へ。銃口は揺れず、的をまっすぐに見据えていた。
「……おいウガジン、何だその構えは」
訓練兵たちがざわつく。
「クセが強いぞ」
「構えの見た目が完全に必殺技前」
「何始まるのこれ」
「ふざけてんのかッ!!」
教官は怒鳴ると、そのままジョージの尻を蹴り飛ばした。
ジョージは少し前につんのめったが、体勢を崩さずに構えを戻した。
顔色も変えない。
「……撃ちます」
周囲の空気が固まる。
教官が頭を抱えた。
「やめろって……そんな構えで撃ったら、マジで顔面吹っ飛ぶから……ッ!」
ジョージはそのまま、引き金を引いた。
1発、また1発。
そして10発。
すべての弾丸が、的の中央を正確に射抜いた。
訓練場が静まり返る。
「……」
「……は?」
「……おい、何が起きた?」
教官がそっとターゲットを確認しに行き、無言で戻ってきた。
何かを言いたそうに口を開きかけて、また閉じる。
ジョージは1歩後ろに下がり、銃を丁寧に分解し始めた。
「……ウガジン」
教官が咳払いをして言う。
「それは軍の教本にはない構えだ」
ジョージは小さく頷く。
「……はい」
「だが、命中率が100パーセントなら……まあ……続けろ」
そして、教官はその後しばらくしてから、部隊全体にこう言った。
「他のやつはウガジンの構えを真似すんじゃねえ。
あれは
その警告は当然ながら無視された。
◇
数日後——。
兵士のひとり、トミー・サンダース二等兵が調子に乗り、ジョージの構えを完コピ。
そして、撃った瞬間——。
反動で後方に転倒し、後頭部を砂地に強く打ちつけた。
銃は空中に舞い上がり、近くの教官のヘルメットにぶつかって落ちた。
その日、サンダースは一時的に聴覚を失い、日誌にはこう記録された:
“訓練兵、射撃フォームの真似による自爆事故。要経過観察。以後ウガジン型は軍内非推奨”
こうしてジョージ・ウガジンの構えは正式に「絶対真似禁止」に指定された。
◇
現在。
ΩRM本部、地下の個人射撃ルーム。
標的に向かって引き金を引いたジョージの銃から、乾いた音が一発。
中央に開いた穴を確認し、彼は無言で弾倉を外す。
その背後から、チャットが近づいてきた。
「なあジョージ。聞いていい?
なんでお前、銃あんま使わねえの?」
ジョージはしばらく沈黙し、銃を分解しながら答えた。
「……確実じゃない」
「また出たな! 哲学モード!」
チャットが軽く笑いながら腰をかける。
「えーと、何だっけ? 跳弾がー、風がー、運がー、で、“命を奪うには軽すぎる”んだっけ?」
「……そう」
「いや分かるよ? めちゃくちゃ深い。でもさ……」
チャットはニヤニヤしながらジョージの顔を覗き込む。
「それだけ?」
「……構えるたびに言われる」
「え?」
「“その構え何?” “危ない” “プロはそう撃たない”って、毎回突っ込まれる。……うるさい」
「そこ!? いや、俺も初めて見た時言った……けどさ!
お前、それただの愚痴じゃねえか!!」
チャットは崩れ落ちるように椅子の背にもたれた。
「いや待って!? 今すごい良い流れだったよ!? 冷徹なプロの矜持みたいな空気だったのに、オチそれ!?」
ジョージは無表情で弾倉を戻しながら、静かに言う。
「撃てば当たる。なら、黙ってればいい」
「出た〜〜〜! 無言で圧かける童顔!」
チャットは涙目で腹を抱えながら笑った。
「……でも、そういうとこ嫌いじゃないよ?」
ジョージは一切反応せず、銃をロッカーに戻した。
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