【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
片手でドアを押し開け、暗がりに目を馴染ませる。
視界の奥。
体育館の一角で、ジェシカが笑っていた。
数人の女子に囲まれ、スマホ片手にクスクスと。
緊張感はない。
空気は、日常の中に溶けていた。
――悪ふざけか。
ジョージは無言のまま、数秒間、立ち尽くした。
喉の奥で、浅く息を整える。
「うそ、マジで来たよ」
「やば……!」
取り巻きの声が小さく弾ける。
ジョージはそのままジェシカを見据えた。
「通知を誤爆した、とは言わせないぞ」
静かな声。
ジェシカは腕を組み、勝ち誇ったような顔をしていた。
「私が呼んだの。わざと」
ジョージは表情を変えない。
ジェシカは軽く肩をすくめる。
「本当に“強い”のか、確かめたかっただけ。
だって、ボディーガードなんでしょ?
だったら証明して」
女子たちの笑い声が再び広がる。
ジョージは言葉を返さず、踵を返した。
だが。
出口が塞がれた。
いや、“壁”が現れたと言うべきか。
人間の形をした、分厚い壁。
190cmを超える巨体。
異常な肩幅。
むき出しの腕は、電柱のように太く、皮膚の下で筋肉がうねっていた。
ジョギングパンツ越しでも、下半身の剛性は明らか。
典型的なラインバッカー体型。
ジョージを真上から見下ろしていた。
首にはゴツめのシルバーチェーン。
クロスピアスが耳元で揺れ、唇の端には挑発的な笑み。
ジョージは一瞥し、わずかに鼻で息をつく。
(ヴィンセントよりデカいな……
何食ったらそうなる、アレ)
空気が変わった。
体育館全体が、微かにざわつき始める。
「やば……マジでやるっぽい」
「ジェシカのボディーガードが、ワラビーと勝負?」
「これは見るしかねぇだろ」
生徒たちが、どこからともなく集まってきた。
群れのように囲み、面白半分の目が向けられる。
ジョージはちらりとジェシカを見やる。
彼女は楽しげに肩を震わせ、こちらを見ていた。
完全に仕組まれた。
息を潜めながら、状況を解析。
視線を再び、目の前の“壁”へ戻す。
そいつは、何も言わなかった。
ただ、両腕をぐるりと回して身体をほぐす。
ゆっくりと。だが明確に。
「やる気はあるぜ」
言葉より雄弁な仕草。
ジョージは静かにため息をついた。
引き金はジェシカ。
笑いながら観客を集め、実戦を娯楽に変えた。
周囲の声が熱を帯びていく。
「マジでいくのか?」
「ちっちゃ……潰されんじゃね?」
「ワラビー、手加減な!」
身長差、31センチ。
ワラビー190cm超。
ジョージ159cm。
それでもジョージの足は、微動だにしなかった。
視線は観客ではなく、目の前の巨体へ。
冷めた判断の瞳だった。
手加減の計算だけが、面倒だった。
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