【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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031:どれくらい強いの?証明して。

 片手でドアを押し開け、暗がりに目を馴染ませる。

 

 視界の奥。

 体育館の一角で、ジェシカが笑っていた。

 数人の女子に囲まれ、スマホ片手にクスクスと。

 緊張感はない。

 空気は、日常の中に溶けていた。

 

 ――悪ふざけか。

 

 ジョージは無言のまま、数秒間、立ち尽くした。

 喉の奥で、浅く息を整える。

 

 「うそ、マジで来たよ」

 「やば……!」

 

 取り巻きの声が小さく弾ける。

 ジョージはそのままジェシカを見据えた。

 

「通知を誤爆した、とは言わせないぞ」

 

 静かな声。

 ジェシカは腕を組み、勝ち誇ったような顔をしていた。

 

「私が呼んだの。わざと」

 

 ジョージは表情を変えない。

 ジェシカは軽く肩をすくめる。

 

「本当に“強い”のか、確かめたかっただけ。

 だって、ボディーガードなんでしょ?

 だったら証明して」

 

 女子たちの笑い声が再び広がる。

 

 ジョージは言葉を返さず、踵を返した。

 だが。

 

 出口が塞がれた。

 

 いや、“壁”が現れたと言うべきか。

 人間の形をした、分厚い壁。

 

 190cmを超える巨体。

 

 異常な肩幅。

 むき出しの腕は、電柱のように太く、皮膚の下で筋肉がうねっていた。

 ジョギングパンツ越しでも、下半身の剛性は明らか。

 典型的なラインバッカー体型。

 ジョージを真上から見下ろしていた。

 

 首にはゴツめのシルバーチェーン。

 クロスピアスが耳元で揺れ、唇の端には挑発的な笑み。

 

 ジョージは一瞥し、わずかに鼻で息をつく。

 

(ヴィンセントよりデカいな……

 何食ったらそうなる、アレ)

 

 空気が変わった。

 体育館全体が、微かにざわつき始める。

 

「やば……マジでやるっぽい」

「ジェシカのボディーガードが、ワラビーと勝負?」

「これは見るしかねぇだろ」

 

 生徒たちが、どこからともなく集まってきた。

 群れのように囲み、面白半分の目が向けられる。

 

 ジョージはちらりとジェシカを見やる。

 彼女は楽しげに肩を震わせ、こちらを見ていた。

 

 完全に仕組まれた。

 

 息を潜めながら、状況を解析。

 視線を再び、目の前の“壁”へ戻す。

 

 そいつは、何も言わなかった。

 ただ、両腕をぐるりと回して身体をほぐす。

 ゆっくりと。だが明確に。

 

「やる気はあるぜ」

 言葉より雄弁な仕草。

 

 ジョージは静かにため息をついた。

 引き金はジェシカ。

 笑いながら観客を集め、実戦を娯楽に変えた。

 

 周囲の声が熱を帯びていく。

 

「マジでいくのか?」

「ちっちゃ……潰されんじゃね?」

「ワラビー、手加減な!」

 

 身長差、31センチ。

 ワラビー190cm超。

 ジョージ159cm。

 

 それでもジョージの足は、微動だにしなかった。

 視線は観客ではなく、目の前の巨体へ。

 

 冷めた判断の瞳だった。

 手加減の計算だけが、面倒だった。

 

 

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