【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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序章:③それは“俺としての誇り”です

 軍の聴聞会は粛々と進められた。

 簡素な会議室。薄暗く、無機質な部屋。

 蛍光灯の青白い光が、テーブルに並べられた書類を照らしている。

 

「貴様の行動が、どれほど重大な規律違反だったか、理解しているか?」

 

 司令官の冷たい声が響く。

 ヴィンセントは背筋を伸ばし、軍服の襟を正した。

 軍人としてのプライドを示すように、まっすぐ前を見据える。

 

「ええ、理解しています」

 

 淡々とした口調だった。

 

「命令を無視し、独断で部隊の危険を増した。

 結果として、部隊全体が危機に陥る可能性もあった。——そう言いたいんですよね?」

 

 司令官の眉が僅かに動いた。

 

「お前は、軍の規律を軽視しているのか?」

 

 ヴィンセントは目を細め、ゆっくりと言葉を選ぶように答えた。

 

「規律を軽視していたら、とっくに死んでますよ。

 俺は軍人として戦場に立ち続けてきた。

 ルールが必要なことも、理解しているつもりです」

 

「ならば、なぜ命令違反を犯した」

 

 ヴィンセントは静かに息を吐く。

 

「……俺は、相棒を見捨てることはできなかった」

 

 司令官は真っ直ぐ彼を見据えた。

 

「それがお前の“軍人としての誇り”か?」

「違います」ヴィンセントは首を振る。

 

 ――俺の故郷じゃ、“仲間”は“家族”だ。

 ――血の繋がりは関係ねぇ。

 ――それに、あいつは俺の命を何度も拾った。

 ――だから、“相棒”なんだ。

 

 ヴィンセントは真っ直ぐ見据え返す。

 

「それは“俺としての誇り”です」

 

 一瞬、場が凍る。

 司令官が視線を落とし、手元の書類を指で弾く。

 

「命令違反、規律違反、公然たる反抗……

 軍法会議にかけることもできる案件だ」

 

「ええ、覚悟はできています」

 

「……処分は、一階級降格・3週間の禁固・減給とする」

 

 ヴィンセントは微かに頷いた。

 

「異議はありません」

 

 部屋にいた兵士たちが驚いたように視線を交わす。

 ヴィンセントは何か言い返すと思われていた。

 だが、彼は一切の反論をしなかった。

 

 

 

――禁固処分――

 

 ヴィンセントは軍の独房に送られた。

 窓のない部屋。

 金属製のベッド。

 簡素な食事。

 

 3週間、戦場に立つことはなく、ただ規則通りの日々を過ごす。

 しかし——彼の表情には後悔の色はなかった。

 

「お前を置いていけるわけねぇだろ!」

 

 あの時、迷いはなかった。

 もしもう一度同じ状況になったら?

 

——同じことをする。

 

 軍が何を言おうと、それだけは変わらない。

 

 

―――3週間後―――

 

 ヴィンセントは禁固処分を終え、再び軍の司令官の前に座った。

 

「……貴様は、今後の昇進の可能性はなくなったと理解しているか?」

「ええ、十分に」

「今後、軍に残るのか?」

「残りません」

 

 即答だった。

 司令官がわずかに息をのむ。

 

「……本気か?」

「本気です」

 

 ヴィンセントは立ち上がり、軍帽を外して机の上に置いた。

 

「ここにいたら、また同じことが起きる。

 俺には、もうそんなのはごめんだ」

 

 司令官は深く息を吐き、静かに言った。

 

「——お前の決断だな」

「ええ。そうです」

 

 ヴィンセントは最後に敬礼をし、軍を去った。

 

 

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