【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
校長室を出ると、廊下の空気がやけに静かに感じられた。
足音が無駄に響く。ジョージは短く息を吐き、ポケットに手を突っ込んで歩き出した。
淡々と進む。
面倒ごとからようやく解放された――はずだった。
「ジョージさん!!」
背後から名を呼ぶ声。
足音。2人分。迷いなく一直線。
ジョージは振り返り、わずかに眉をひそめる。
駆けてくるのは、さっきの2人。
ワラビーとジェシカ。
ワラビーが息を切らしながら距離を詰め、ズボンのポケットをごそごそ漁る。
手にしていたのは、小さく折りたたまれた紙。
「これ、僕の連絡先です!
電話番号と、SNSのアカウント!」
ジョージの視線が、紙の上へと落ちる。
雑な字。にじんだインク。手汗か。
数字の羅列と、読めるような読めないようなユーザーネーム。
「……それがどうした?」
無表情で問い返すと、ワラビーが背筋を伸ばし、真っ直ぐに言った。
「ジョージさん!
僕に、柔道を教えてください!!」
一瞬、脳内に静かなバグが走る。
(何を言ってるんだ、こいつは……)
悪ふざけの末に投げ飛ばされたと思えば、今度は弟子志願。
脈絡がない。だが本人は真剣だ。
「……は?」
「僕、あの時の投げられた感覚、忘れられないんです!」
拳を握る音すら聞こえそうなほど、ワラビーの声は熱かった。
「体が宙に浮いて、何が起きたのかわからないうちに床に叩きつけられて……
正直、最初は怖かったです。
でも、あの瞬間、こんな世界があるのかって、衝撃を受けました!」
ジョージは顔色ひとつ変えずに、その巨体を見上げる。
視線の先、190超えのガタイが、子犬みたいな目をしていた。
「それで、教えてほしいと?」
「はい! 絶対に強くなりたいんです!
お願いします!!」
ジョージは小さく息を吐く。
その場で断る気力も、もうなかった。
この手のタイプは一度火がつくと、しつこい。
仕方なく紙を受け取る。
「……考えておく」
そう言った瞬間、ワラビーの顔がぱっと明るくなった。
「ありがとうございます!!
連絡待ってます!」
拳を軽く胸に当て、全力の笑顔で頷くと、ワラビーは踵を返し、全力で走り去っていった。
まるで何かを成し遂げた戦士のように。
ジョージはその背中を呆然と見送り、手元の紙に目を落とす。
そこに書かれた雑な文字が、やけに現実感を欠いていた。
(……なんだ。なんなんだ、この展開は?)
隣にいたジェシカに、ぼそりと訊いた。
「……なんなの? アイツ?」
ジェシカは肩をすくめる。
「私も知らない。1番体が大きいから頼んだだけ」
ジョージは眉をひそめる。
「なんでワラビー?」
「さあ? 本名は違うと思うけど、みんなも本人もワラビーって呼んでるし……」
「由来は?」
「両親がオーストラリア出身だからじゃない? 知らないけど」
言い終わると、ジェシカはさっさと先を歩き出す。
ジョージは、その後ろ姿とワラビーの消えた方向を交互に見やる。
弟子志願の巨漢と、気まぐれな依頼人の娘。
どっちも、予想の外に生きている。
――面倒なことになりそうだ。
呟きは心の中で留めたまま、ジョージは小さな紙片を内ポケットに押し込んだ。
個人的な話になりますが、人生で一番好きなアニメがあります。
2001年に放送された「旋風(かぜ)の用心棒」。
本作「潜誠(せんせい)の盾」には、その作品のオマージュをたくさん詰め込みました。
例えば主人公の名前、ジョージ・ウガジン(宇賀神丈二)は、谺丈二から。
外見も、身長を低くした谺丈二。
ジッポライター。
依頼人の高校生、ジェシカ・グレナン(田野倉美雪)との接点。
狂気じみた敵役キングスリー(銀鱗-しろがねりん-)
もしかしたら今後、距離が近くなるかもしれない、ナンシー・グレナン(荒鬼早苗)
まだ出てきていませんが、
今後は、裏カジノ、ブラックジャックなども。
そして今回、「ワラビー」は旋風の用心棒のチンピラ、アライグマ(新井熊吉)からかなりインスピレーションを受けました。
アライグマも、自分より小柄な谺丈二に倒され、谺丈二に勝手に懐くようになります。
ワラビーと異なる点は、アライグマは成人済みのヤクザのチンピラで、谺丈二からかなりボコボコにやられます。
そして女(美雪と早苗)にモテる丈二に、「俺にもモテ方を教えてください!」という何ともまあ、不純な動機で勝手に弟子入りして着いてまわるのです笑
ですがアライグマはのちに、彼を救う重要なキーパーソンになります。
アライグマがいなかったら、谺丈二は殺されていた。
ワラビーも内容は違えど、彼がいなかったらジョージもジェシカも死んでいたという重要なキーパーソンにしました。
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