【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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035:父親じゃないけど、父親みたいだった

 その夜。

 ナンシーの家には、昼間とは異なる種類の緊張が漂っていた。

 

 ダイニング。

 チェアに座るジェシカの前に、ナンシーが腕を組んで立っている。

 顔には怒り――静かに抑えられた本気のそれが滲んでいた。

 

「ジェシカ」

 

 低く、よく通る声。

 部屋の空気が、言葉と一緒に引き締まる。

 

「学校から連絡があったわ。校長先生から」

 

 ジェシカは何も返さず、俯いたまま椅子の背に沈んでいた。

 

「あなた、何を考えてるの?」

 

 ナンシーの声音には苛立ちが混じる。

 

「ふざけ半分でジョージを巻き込んで、学校で騒ぎを起こして……

 一歩間違えたら、警察沙汰になってたのよ?」

「……別に、そんなつもりじゃ……」

 

 ジェシカの声は小さかった。

 その小ささが、かえって火を足した。

 

「そんなつもりじゃない? ふざけないで」

 

 ナンシーが目を細める。

 

「あなたの悪ふざけのせいで、ジョージは学校に出入り禁止になったのよ?」

 

 ジェシカの肩が一瞬だけ震えた。

 

「……それは……」

「何か言い訳があるなら言ってみなさい」

 

 ナンシーの口調は冷静だったが、張り詰めた怒気がその下に見えた。

 

「あなた、自分が何をしたのか、ちゃんと理解してるの?」

 

 ジェシカは唇を噛み、視線をそらした。

 そのまま、沈黙が数秒。

 

 ――そして。

 

「……そのくらいでいいんじゃないか」

 

 静かな声。

 部屋の隅で聞いていたジョージが、ソファの肘掛けに片肘をついたまま、ようやく口を開いた。

 

 ナンシーが振り返る。

 目が驚きと困惑で揺れる。

 

「ジェシカは反省している。それ以上、責める必要はない」

 

 声のトーンは一定。

 淡々と、だが断言だった。

 

「でも――」

「事態はもう収束した」

 

 ジョージの言葉がかぶさる。

 静かだが、線を引くような音だった。

 

「学校の処分も決まったし、ジェシカも罰を受ける。

 それ以上は責めても意味はない」

 

 ナンシーの口がわずかに開いたまま止まる。

 ジョージは、じっと彼女の目を見た。

 

「ナンシー」

 

 名前を呼ぶ。その一音で空気が変わる。

 

「大事なのは、ジェシカが何を学ぶかだ。怒鳴ることじゃない」

 

 言葉に熱はない。だが、含みはあった。

 ナンシーが言い返せずに、言葉を飲み込んだ。

 

「……ジョージ」

「それに」

 

 少しだけ間を置いて、ジョージは続けた。

 

「今回のこと、俺はそこまで気にしていない」

「……ほんと?」

「嘘を言ってどうする」

 

 表情も変えずに言うその姿に、ジェシカの肩がわずかに緩んだ。

 ナンシーはしばらく黙ったまま、ジョージを見つめ、そして静かにため息をついた。

 

「……はぁ、もう……」

 

 肩の力を抜くようにソファへ腰を下ろす。

 視線が、ジェシカへ戻る。

 

「次はないわよ」

 

 ジェシカは真っすぐ頷いた。

 

「……うん」

 

 ナンシーがもう一度ため息を吐き、ジョージに横目を向ける。

 

「あなた、本当にそう思ってるの?」

「思ってる」

 

 短く答える。語尾にも揺れはない。

 そしてそのまま立ち上がる。

 

「もう遅い。そろそろ寝るんだ」

 

 ジェシカが、かすかに笑ったような表情で頷く。

 ナンシーは呆れたように目を伏せ、やれやれという顔でジョージを見た。

 

「……あなたって、本当に変わってるわよね」

 

 ジョージは何も言わず、ただ肩をひとつ、すくめた。

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