【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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061:フェーズ・4 盗聴器とカメラを仕掛けろ

 

 

「今夜のMC……急きょ代役になりました」

 

 声に艶がある。

 滑らかで、よく通る。

 フロアの空気が、チャットの掌に収まりはじめる。

 

「理由は……とても言えません。

 わたしの口と、このクラブの弁護士の口は、同じくらい堅いんで」

 

 笑いが起きた。拍手も。

 客たちはすでに“その気”だった。

 

 だが、ステージの外周。

 照明ブース、PA席、スタッフ用の動線――

 そこにいる人間たちの空気だけが、逆向きに流れはじめる。

 

「……誰だあいつ」

「MCは?」

「許可は出したか?」

「いや、聞いてない」

「マイク、誰が渡した」

「止めるか?」

「今は無理だ……客が全員、注目してる。

 手を出せば、騒ぎになる……」

「じゃあ、どうすんだよ、アレ。

 キングスリー様にばれたらただじゃ済まされないぞ……」

 

 インカム越しの声は、断片的に重なりながら、焦りに染まっていく。

 だが、表には出せない。

 静かに、確実に混乱は広がっていた。

 

 その裏で、別の男が動いていた。

 ――ジョージ。

 

 黒い空気の中を、音もなく進む。

 背後ではチャットの芝居が、音楽と歓声のように響いている。

 

 左手に、小型カメラ。

 消しゴムほどのそれを指先で滑らせながら、ジョージは天井を見上げる。

 照明の縁、配線カバーの内側、スピーカーの背面。

 視線の死角。音の通路。

 “一度通っただけじゃ気づかない場所”だけを狙う。

 

(……要るのは、“脅しになる絵”だ)

 

 キングスリーがドラッグに触れる瞬間。

 札束を手渡す指先。

 気の緩んだ笑み。

 顔の距離。声のトーン。

 

 法には届かない。

 だが、“警察に提出されたらマズい映像”にはなる。

 それで十分だ。

 

 ジョージの動きに迷いはなかった。

 誰がどこを通るか。視線がどこへ流れるか。

 全てを逆算しながら、歩く。貼る。離れる。

 

(ここは音だけでいい。

 ……だが、VIPルームは顔を押さえる。

 指の動きも、身体の距離も)

 

 彼の中で、すでにキングスリーの“罪”は何パターンも組み上がっていた。

 これは予想ではない。

 

 ――構築だ。

 

 ダクト上。額縁の裏。

 ラウンジの奥、スピーカー横。

 どのアングルから、どの順で見せれば、もっとも効果的か。

 証拠じゃない。

 これは、兵器だ。

 

 最後の盗聴器を、裏通路の配電盤裏に仕込む。

 設定を微調整する。

 設置しても撮れていなければ意味がない。

 

 貼り付けてから、わずかに手を止めた。

 腕時計にちらりと目をやる。

 まだ時間は十分にある。

 

 チャットの艶のあるスモーキーな声が、遠くの方で観客を沸かせていた。

 表の役者と、裏の狩人。

 舞台は整いつつあった。

 

 

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