【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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065:楽しかった。また今度な。

 高級レザーの内装に、仄かな香水の匂いが溶け込んでいる。

 リムジンの後部座席には、ジョージとチャット。

 そして彼らに寄り添うように、2人の美女が腰をかけていた。

 

 ハンドルを握るのは、無言のプロフェッショナルな運転手。

 車内は静かだったが、その空気は艶っぽく湿っていた。

 

「ねえ、今夜はどこ行くの?」

 カールヘアの女が甘えた声で訊く。

 

 ジョージは一瞥だけしてから、無言で窓の外に視線を移した。

 

「すまん。今夜はちょっと、仕事が入った」

「えぇ? もう終わったんじゃないの?」

 

 もう一人の女が不満げに唇を尖らせる。

 ジョージは首を横に振った。

 

「気持ちはありがたい。

 ……けど、遊ぶには集中力が要る。

 今の俺じゃ、君たちの期待に応えられない」

 

 その言い方は、誠実とも、冷淡とも取れた。

 チャットは斜めの席でそのやり取りを聞きながら、こみ上げる笑いを必死に押し殺していた。

 口元に指を当て、震えるのを隠すように。

 

 やがて、ジョージが短く運転手に告げた。

 

「ハイアット・リージェンシーまで頼む。

 ……エントランス前でいい」

 

「かしこまりました」

 

 リムジンはゆっくりと進路を変え、川沿いの道を静かに滑る。

 窓の外には、ハドソン川と摩天楼の残光。

 やがて、ホテルの照明が水面に滲んだ。

 

 車はエントランス前でぴたりと止まった。

 ドアマンが動きかけたが、ジョージは無言の視線で牽制する。

 「客ではない」――そう伝えるだけの冷ややかさで。

 

 ジョージは懐から札を抜いた。

 指先で2つ折りにした100ドル札を、それぞれの手に2枚ずつ。

 厚みと無言が、別れのすべてを語っていた。

 

「楽しかった。

 ……今日はここまで。また今度な」

 

 女たちは一瞬だけ目を見交わし、次いで笑った。

 ヒールの音を響かせ、煌びやかなロビーの前を通り過ぎていく。

 

 ドアが閉まり、車内に静けさが戻った。

 香水の残り香だけが、わずかに漂っていた。

 

 

 リムジンは再び音もなく加速を始める。

 後部座席で、ジョージがサングラスを外し、長く息を吐いた。

 

 ――最悪だ。

 

 ついさっきまで隣にいた女たちは、金の匂いだけを残して去った。

 ヒールを鳴らしながら次の獲物を探し、あの程度の男の顔など明日には忘れる。

 

 ジョージはズボンのポケットを探った。

 ……何もない。

 もう一方も、空だった。

 

「……くそっ」

 

 小さく舌打ちすると、驚いたような顔でチャットが目線を送ってくる。

 

「何やってんだ?」

「……タバコだ」

「……は? お前、禁煙中だろ?」

「知ってる!!」

 

 苛立ちが抑えきれず、声に滲む。

 ジョージは乱暴にシートへ身を沈め、天井を睨みつける。

 思わず、両手で髪を掴んだ。

 

 グシャ、と髪が指に絡まる。

 

「あ゛ーーーもう!! くそったれが!!」

 

 

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