僕っ娘天使が俺の部屋でサボってる件。   作:世嗣

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特別なひと
過去


 

 『篝幸太郎』。

 桜加高校の二年生。素直になれないお人よし。人外横丁桜加町の現人神。

 

 そして、僕の初めての迷える子羊。

 僕の導くべき、一人の人間。

 

 三週間の間幸太郎と一緒にいて、彼のことを理解していったと思っていた。

 心の中のことを素直に口に出せずに誤魔化してしまうこと、困ったときに口元を隠す癖があること、自分のことよりも他人が喜ぶと嬉しそうに頬を緩めること。

 

 現人神なんて大それた肩書を持っていても、彼はただの人間だと感じた。

 だからこそ愛おしかったし、彼に救われて欲しいと、善行を積んで、これからの人生を末永く生きてほしいと思っていた。

 

 だけど、だからこそ、あの日、幸太郎の寿命が変わらないことが分かったときに、急に幸太郎のことがわからなくなってしまった。

 

 だって、幸太郎は死んじゃうのに。

 自分の寿命が変わらないって気づいていたのに。

 それでも自分のためではなくて、誰かを助けることに最後の時間を使った。

 それは素晴らしいことだけど、あんな満足した顔で、それを受け止められるのはなんでだろう。

 

 わからない。僕には、篝幸太郎がわからない。

 

 だから、聞いてみることにした。僕が知る限り、誰よりも『篝幸太郎』に詳しい人に。

 

 いや、正確には『人外』に。

 

「というわけで、幸太郎のこと色々教えてほしいんだけど!」

「……あんたが、うちのこと尋ねてくるとは思わんかったわ、天使」

「お前しか頼る人がいない! ムカつくけど頼ってあげるよケルベロス!」

「人にモノ頼む態度やなさすぎやろ」

 

 喫茶『猫柳』の扉を開けてわざわざ頭を下げてまで頼んだ僕に、ケルベロスはムカつく仕草でハア、と大げさにため息をついた。

 

 

 ◆

 

 

 店の中に入ったユウヒは、カウンター席に座ってあせびと向き直った。

 あせびはユウヒの前にドデンとお冷を雑に置いて、自分は淹れたコーヒーにどぼどぼと砂糖とミルクを投入する。

 

「メロンソーダがいい」

「鳥公に出すもんはない」

 

 あせびはズバッとユウヒを切り捨てると、ダダ甘のコーヒーに口をつけた。

 やたらと自分にだけ辛辣なことに腹を立てたのか不満そうにユウヒが睨むが、あせびはそれを気にした様子もなく、口を開いた。

 

「で、幸太郎のことを聞きたいってのはどういう事情なん。今までの天使なら気になったら、アホみたいに直接幸太郎に聞いとったやろ」

「う、それは、その……」

 

 上目づかいであせびに見つめられ、言葉に詰まる。

 あせびは幸太郎を大切にしていて、その寿命を伸ばすために今まで協力してくれていた。

 その協力が全て無駄になったとは、いい出しづらい。

 

 きっとそんなことを聞けば怒り狂って、またいつものように「あんたのせいや」と噛みついて来るだろう。

 ……と思っていたのだが、当のあせびは、ユウヒの様子にゆっくりと再びコーヒーに口をつけると、静かに呟いた。

 

「そか。やっぱ幸太郎の寿命は変わらへんかったんやね」

 

 コーヒーの水面に視線を落とし、淡々と事実を確認するようにそう口にするあせび。

 その表情はすごく穏やかで、とてもじゃないが、昨日今日で幸太郎の寿命が変わらないことに気づいた態度ではなかった。

 

「……わかってたんだ」

「うちは地獄の番犬やで。アンタみたいに()()()()使()ほど正確にやないけど、死を嗅ぎ取る力はある」

「……そっか」

「ま、うちは先代の神さまにそこらへんの可能性を聞いとっただけやけど」

「なんだ、カンニングかよぉ」

「秘密と嘘は大人の女を彩る手軽な化粧やからね」

「年齢不詳ケルベロスが何言ってんの」

「やかましいわペチャパイ天使が」

 

 ああん?とお互い睨み合って十秒。

 

「あほらし」

「同感」

 

 いつもの二人を止めてくれる少年がいないことに虚しさを感じたのか、お互いにそっぽを向いてため息をひとつ。

 ユウヒはそのまま自分の隣、いつもなら幸太郎が座っているであろう椅子の方に目を向けた。

 

 幸太郎とちゃんと話したのは、もう数日前のことになる。

 別に喧嘩したわけでもないし、幸太郎がユウヒを避けているから話せていないわけでもない。

 

 むしろ、避けているのはユウヒの方だ。

 理解していると思っていた彼のことがわからなくなって、何を話せばいいのかも、どんな顔をすればいいのかもわからなくなってしまった。

 

「人間って、みんな幸太郎みたいな感じなのかな」

「本気でそう思うなら、天使の審美眼ってのも大したもんやないな」

「む、うるさいなぁ。言ってみただけだってば」

 

 とげとげしいあせびの物言いに、ユウヒが口をとがらせて言い返した。

 

 ユウヒにだって幸太郎が「普通の人間」に当てはまらないことくらいわかっている。

 そもそもが人外の見える「現人神」だ。生きている世界がそもそも普通の人間と違う。

 

 でも、ユウヒの感じた幸太郎の「普通じゃ無さ」はそこではなかった。

 

「幸太郎にとって、人助けってなんだったのかな」

「うん?」

 

 あせびが何を言いたいのかわからない、と言うかのように目を細める。

 するとユウヒは「だってさ」とカウンターにべたーっと身体を預けて、お冷のコップのふちを指でなぞる。

 

「自分にとって最後の時間だよ? あと一ヶ月で死ぬときに、幸太郎は人助けをやってたんだよ? 自分の利なんかなにもないのに」

 

 普通なら、自分のために生きたくなるものではないだろうか。

 今は離れてるらしい家族に会いに行くとか、美味しいものを食べたり、やり残したゲームを片っ端からやったっていいし、最後だからってずっと好きだった人に告白しに行ったっていいだろう。

 

 でも、幸太郎が選んだのは「人助け」だった。

 自分のことではなく、他人の悩みを、他人の不安を、他人の未来を、自分ではない誰かのためにだけ、時間を使っていた。

 

 それは、とても「普通じゃない」と、ユウヒは思う。

 

「……」

 

 あせびはしばらくユウヒを見ていた。

 

 白金の髪。華奢な身体つき。背中に見えるのは真っ白な翼。

 まだ人間のことを何も知らない、腹立つくらい無知な人外。

 それが自分の記憶の中にいる数百年前地上にやって来た、無知で馬鹿な人外と重なる気がした。

 

「……はあ」

 

 あせびはしばらく遠くを見て何かを考えていたようだったが、やがて大きなため息をひとつ吐き出すと、何かを諦めたかのように語り始める。

 

「天使は先代の神様の話を聞いたことある?」

「え? まあ、なんか時々『先代の神様からお役目を引き継いだ』とか幸太郎は言ってたけど……」

「そ。まあ、あの子なら語ったとしてもそんなもんやろね」

 

 ユウヒが身を起こして自分の方を向いたので、あせびはその視線から僅かに逃げるように空になったカップを片手に席を立った。

 

「先代は桜加町に古くからいた人外でな。人間のことが大好きな子やった」

 

 いつから続けて来たのか、手慣れた様子で豆を計り、手挽きのミルに入れる。

 ごりごりと豆が挽かれていく音がする中で、あせびは淡々と言葉を続けていく。

 

「人外と人間とが交わるこの町を愛して、それを守ろうとしていた。神様なのにいつだって誰かのことを気にかけて、困ってる人に手を差し伸べるお人よしやった」

 

 神様相手にお人好しって使っていいのかわからんけどね、と付け足してドリッパーとフィルターにお湯をかけて湯通しをする。

 

「そんな子やからね、人外が見えて孤独な幸太郎と出会ったのは必然やったんやろね。どこからかあの子を助けて、うちの店に連れて来た」

「幸太郎もそんなこと言ってたよ。オマエと先代が、色々教えてくれたって」

「10年くらい前のことや。そのことに幸太郎はえらい感謝してな。そのせいか、子どもの頃は『神様みたいになりたい』って目を輝かせとったよ」

 

 ――昔のこーたってもっと熱血系だったんだよ。

 ――幸太郎が……熱血?????

 ――あはは、今だと想像できないでしょ。

 ――困ってる人を放っておけない奴でさ、ガンガン人助けに走り回ったりとかしてた。

 

 ふと、織姫の言葉を思い出す。

 織姫が言うには、昔の中学生くらいまでの幸太郎はもっと熱血系であったらしい。

 高校生になってからの彼しか知らないユウヒとしてはにわかに信じがたかった言葉だったが、どうやらそれは「先代」に影響されてのことだったらしい。

 

「そんな幸太郎のことを、先代のあの子は気に入っとった。ああいう子がいるから、私は人間が大好きなんだーなんて言ってな」

「いい神様だったんだね。この街にとっても、幸太郎にとっても」

「……せやね」

 

 湯通ししたフィルターに挽いた豆を入れて慣らすと、あせびはゆっくりと湯を注ぐ。

 くらり、とコーヒー豆の香りと湯気が立ち上った。

 

「でも、そんないい神様がどうして幸太郎に後を譲ったの? どこかに行っちゃったの?」

「あんたも会ったことあるはずやで」

「え? ウソ!? 僕を騙そうとしてる!?」

「そんなことして何の得があるんや」

「じゃあどこであったの?」

 

 ばっと身体を起こしたユウヒを視界の端にとらえつつ、ゆっくりと回すように湯を注いでいく。

 そして、あせびは努めて淡々と言葉を続けた。

 

「学校の校庭に、枯れた桜の木があるやろ」

「え、うん。あの死にそうなあれがどうしたの?」

 

 ユウヒの脳裏に幸太郎が昼休みや放課後によくいるという枯れかけの桜の木が思い起こされる。

 あまりにも幸太郎がよく立ち寄るものだから、『枯れ木の篝』なんてあだ名がついている(正しくは九条がつけている)のだと、ユウヒは聞いていた。

 

 そんな木が、一体どうしたというのだろう。

 

「あれやよ」

「え?」

「あれが先代の神、桜の木の精霊。彼女は、人々に存在を忘れられ、その身体を保つことができずに消えてしまった」

 

 覚えがあるんちゃう?とあせびに見つめられ、ユウヒの脳裏に初めて幸太郎とちゃんと話した日のことが思い起こされた。

 今にも死にそうな桜の木を見上げて、何かを思うその姿。そのままにしていたら、風に攫われて消えてしまいそうだった。

 

 ―――好きなの? この木。

 ―――……なんとなく、ここにいると落ち着くだけだよ。ここにいると、世界に置いていかれても安心って感じがする。

 

 ここにいると落ち着くと困ったように、でもユウヒに嘘をつかないように選んだその言葉。

 何かを隠してはいると思っていたけれど、幸太郎はあの木に何を思っていたのだろうか。

 

「学校ではなんとなく力が使いにくかったやろ? それはあの桜の木が『先代』だからや。あの子は消えてしまった後も、ああして桜の木として僅かに周囲に影響を与えている」

 

 覚えがある。織姫の心の声を聞こうとしたときに、外で聞くほどに上手くは聞けなかった。

 幸太郎とした『人助け』も、学校の外ばかりで、学校の中でした『人助け』はほとんどなかった。

 

「先代は元は桜の木霊でな。でも、それがひょんなことからこの街の神さまになった。人々の畏敬をを集めて、神さまとしての役目を果たしていた」

「人々の、畏敬」

「あんたも天使ならわかるやろ? 『神』って言うのは自分だけじゃ存在を保てへん。覚えている誰かがいて、信仰してくれる誰かがいて、ようやく存在できる」

「なら、それが消えたのは、そういうことなの?」

 

 ユウヒの問いかけに、あせびは「そやね」と短く答えた。

 そして、自分が飲んでいたものに加えて、さらに戸棚からカップをひとつ取り出すとコーヒーを注いでいく。

 

「2年前。信仰の足りなくなった先代は幸太郎に後を託して、あの枯れた桜の木になった」

 

 ―――でも、中学時代かなぁ。なんかこーたの周りで色々あったみたいでさ。それから、ちょっとこーたも変わっちゃったんだよね。

 

 二年前。幸太郎は中学三年生。織姫の言っていた、「幸太郎が変わった」と言われていた時期だ。

 

「神は信じられて神になる。覚えられてるから神であれる。でも、先代(あの子)の社は誰にも覚えられてない。覚えていた人も死んで、社も野山に呑まれてしまった。あんだけ、人のために尽くしたあの子がや」

 

 あせびがカップにコーヒーを注ぎ終わった。でも、口をつけることはせずに何かに思いをはせるように黒い水面を見つめている。

 

「それ以来かな、幸太郎が人と関わるのにすごく臆病になってしまったのは。口数も減って、人間たちと最低限しか関わらへんようになった」

 

 ユウヒが、学校での彼を思い出す。

 

 篝幸太郎。教室の端でいつも窓の外を見ていた。

 何を思うっているのか、何をしたいのか、クラスメイト達は誰も知らなかった。

 唯一の友人だという九条だけは幸太郎のことを、「もうこれ以上自分の中の色を増やしたくないんだろうね」なんて、言っていた。

 

 人助けをするとき、幸太郎はいつも臆病だった。

 自分のような人間が誰かを助けてもいいのかと迷っていて、自分の言葉が誰かを傷付けないかと恐れていて、自分の行いに意味があるのかと自分に問いかけていた。

 

 それが、かつて人に尽くした神が目の前で消えたことが影響しているのなら。

 

「……幸太郎は、神さまを救えなかった自分を責めているのかな」

「さあ、どやろね。あの子は自分のことを隠したがりやから」

 

 こと、とユウヒの目の前にあせびがコーヒーを置いた。ゆらり、と湯気が立ち上り、丁寧に挽かれた豆の香りが二人の間に立ち上る。

 

「僕に出すものないんじゃなかったの?」

「気まぐれや」

「急にデレられても、僕普通にケルベロスは守備範囲外なんだけど、その、ごめんね?」

「なんでうちがちょっと振られた感じになってるんや。しばき倒すで」

 

 あせびはそういうと自分のコーヒーにだけいつも通りどぼどぼと砂糖とミルクを入れ始める。

 

 ユウヒは「こいつ本当に喫茶店やめた方がいいな」と思いつつ、先ほどまであせびがそうしていたようにカップの中に目を落としてみる。

 黒く染まった鏡越しにもわかる色素の薄い白金の髪。幸太郎はその髪と翼についていた落ち葉を取ってくれた。

 瞳は名前と同じ夕日の色。そのことを幸太郎は「適当だなあ」なんて呆れて笑っていた。

 主が作った整った顔立ち。幸太郎と過ごして、いろんな表情をしたように思う。そう言えば、天界ではあんなに笑ったりとか、したことあったっけ。

 

 と、そこまで考えたところで自分の思考に驚いて、次に小さく笑った。

 

「ふふ、驚いたなぁ。こんなところにまで幸太郎がいるんだ」

 

 ユウヒが地上に降りて来たのは幸太郎のためだ。だからユウヒの地上の想い出は幸太郎との思い出になるのは必然だ。

 

 だけど、まさか自分の顔を見てまで思い出すのが幸太郎のこととは。

 

 ただの、100年も生きられない命。ユウヒにとってみれば瞬きのような時間しか一緒にいられないそんな存在のことが、こんなにも今ここの中に残ってる。

 

「でも、死んじゃうんだ。幸太郎は」

 

 運命が変わらなかったから。変えようがなかったから。

 幸太郎の努力が足りないのではなく、世界が「お前は生きていてはいけない」というから。

 

「ねえケルベロス」

「どうかした天使」

「幸太郎が死んだら、その魂はどうなっちゃうのかな」

「人間と同じやろうね。天国か地獄か、どっちかに行くんとちゃう」

「……だよね。そうだよね」

 

 歯切れの悪い返答を聞いて、あせびが横目でユウヒを見た。

 

「あんた、もしかして迷うてるん? 幸太郎をあの世に連れて行くことに」

「まさか! ……まさか。まさか、そんなこと、あるはずないじゃん」

「……」

「僕は、天使だよ。主の命に背くことはないし、背きたいとも、思わないよ。……絶対」

 

 あせびにではなく、自分に対して言い聞かせるような言葉だった。

 最後に「絶対」と付け加えたユウヒは、そうしなければ、自分を保てないようにすら見えた。

 

「だから言うたやろ、人間に軽い気持ちで関わらへん方がええって」

「言ってたね、そんなこと。最初の方に」

「天使は聞き流しとったけどな」

 

 ユウヒが何かを言い返そうとして、でもやがて困ったように笑ってごまかすと、「うるさいなぁ」と言い返した。

 

「人間はうちらからすると瞬きみたいな時間しか生きられへん。でも、でもな、だから、だからこそ……傷が残る」

 

 天使であるユウヒの寿命は無限に近い。それは地獄のケルベロスであるあせびもまた同じだろう。

 生まれた時から今の姿だったユウヒと違って、百年以上容姿の変わらないあせびと違って、人間は変わってしまう。

 生まれて、成長して、いずれ老いて、死んでいく。

 

 それはどうあっても変えれない絶対の原則なのだ。

 

「始まりは気まぐれだったかもしれない。取るに足らないものだと見下してすらいたかもしれない。でも、変えられてしまう。それで大切にしようとしても、あっという間に掌から零れ落ちる。私たちはどうしようもなく、生きる時間が違うから」

 

 あせびはコーヒーに口をつけようとして、その直前で手を止めた。そしてこめかみを軽くなでて、ほうと一つ息を吐いた。

 まるで、もう消えかけた記憶をほんの一瞬思い出そうとして、それが叶わなかったかのようだった。

 

「一度ついた傷は、もう治らない。時が経って、顔も声も思い出せなくなったとしても、その生き方が目の裏に焼き付いてるんだ。短くて、眩しいその生き方が」

 

 あせびはそう言ってまぶたを閉じた。

 

「話し方、変わってるよ。それが素?」

「……さあ、どやろね」

 

 夕日色の瞳があせびを見つめる。あせびも夜の色の瞳でそれを見つめ返していたが、しばらくすると、ユウヒの質問を誤魔化すようにコーヒーに口をつけた。

 そして、もうそれ以上は何も語らなかった。

 

 だから、ユウヒは店の天井を見つめて、考えて、今までのことを思い出していた。

 

 地上に降りてきて初めて彼を見た。

 彼に正体がバレて、二人で迷子の木霊を助けた。

 ケルベロスのあせびの紹介で人魚のセナと出会って、彼女がまた歌う手伝いをした。

 幼なじみだという憑霊体質の織姫を暴走した式神から守った。

 

 その中のどこに『篝幸太郎』はいたのだろうか。

 

「うーん……」

 

 腕を組んで考える。首をひねって悩んでみる。こめかみを抑えて唸ってみる。

 

「よし、もういいや! 考えるのやーめた!」

 

 そして、その結果難しいことを全部放り投げた。

 そのままあせびの淹れてくれたコーヒーを一気に煽ると、ガン!とカウンターに叩きつける。

 

「色々聞いたけど辛気臭くここで考えるのは僕に向いてないね!」

「山ほど言いたいことはあるんやけど、うちのコーヒーをビールジョッキみたいに叩きつけるのはやめてくれへん? うちは美味しいコーヒーをお出しする喫茶店なんよ」

「加湿器売り場の間違いでしょ。店主が急に湿度ダバダバの聞いてもない過去話してくるし」

「いや、別にうちの話とは言ってへんけどね?」

「ピザにコーラくらい間違いのない確定演出! 無理あるんだよねぇ」

 

 やれやれ、とショッピング番組の外国人みたいなリアクションをユウヒが取ると、カウンターの椅子からぴょんっと飛び降りた。

 

「じゃ、僕行ってくるね」

「……どこに、って聞いたほうがいい雰囲気やな」

「そこまで分かってるなら聞けよぉ。幸太郎のところ、行ってくる」

「またいつもみたいに幸太郎の部屋に押し掛けるん?」

「んー、それも悪くはないけど……」

 

 にしし、とユウヒが笑ってポケットからスマホを取り出すと、軽く振ってあせびに見せびらかす。

 

「デートだねデート! どうせなら楽しく行くよ!」

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