今までと比べるとかなり長くなりますが、どうかお付き合いください。
なにはともあれ、まずは前回の失敗に意気消沈している光秋がこれからどう動くのかをご覧ください。
では、ぞうぞ!
11 再会、あるいは出会い
6月20日日曜日午前9時。
体調の方はすっかり回復した光秋は、唯一持っている服であるESOの緑の制服を着、右肩にカバンを斜め掛けして医療棟から本舎の藤原隊の待機室へ向かう。
小型器への録音と自筆による書き取りを行う小田一尉に、光秋はニコイチが暴走した時のことを話す。
撃たれた伊部二尉と『蜂の巣』である廃ビルを見たら抑えようのない怒りに駆られたこと、ニコイチとの今までにない一体感を感じたこと、衝動的にNPの1人を握り潰しかけたこと、無事な伊部の姿を見て、頭が冷めたこと。
「……以上が、僕のニコイチでの体験です」
「……了解だ。今の言葉、俺が責任持ってしっかり上に報告しておく!」
「……おねがいします」
その後光秋は、職員寮の自室へと向かう。
6月21日月曜日午前11時すぎ。
朝の間に連絡を受けていた光秋は、白地に黄の縦線が入った服と深緑のズボンを着た姿を藤原三佐が運転する白い軽トラックの助手席から降ろし、正面に力なく座り込むニコイチに歩み寄る。
日がまともに入らない曇り空の下、立ち入り禁止の黄色いテープをくぐると、コクピットの右側に掛けられた長梯子を上って、右肘掛に納めてあるカプセルを取り出し、左の脚ポケットに入れる。
「……!」
その時イスの上に通信機が置きっぱなしになっているのが目に入り、右手で肘掛に納める。と、
―……濡れてるなぁ―
伸ばした指先が、イスに染み込んだ湿気を感じ取る。
「…………」
ふと脳裏に、雨の中、咄嗟に操縦席を上げて嘔吐した時の記憶が蘇る。そうなるに至るまでの記憶にも気が行きそうになるが、なんとか堪えて、ハッチの左端からリフトを出して下へ降りる。
地面に着くとすぐに、
「持ってきたか?」
と、着地場の近くで待っていた制服姿の藤原に訊かれ、
「はい」
と応じて、左手に持ったカプセルを見せる。
「よし」
応じた藤原は速足でニコイチの右側に向かい、両手で長梯子を持って機体から離れる。
「いいぞ!」
「了解!」
応じた光秋は右手でカプセルのレバーを「入」に切り替え、先端をニコイチに向けて左の親指でボタンを押す。放たれた白光がすぐにニコイチ腰部分に当たり、そこを基点に機体が縮小し、カプセル内へと収容される。
と、ニコイチが消えると同時に、光秋の少し前にバシャッと音を立ててまとまった量の水が落ちる。
「これは?……」
ニコイチが消えたことで正面に現れた梯子を抱えた藤原の問いに、光秋は、
「おそらく、ニコイチの操縦席に染み込んでいた水です。カプセルはニコイチとその備品しか吸収しませんから、取り残されて落ちて来たんです」
と、マニュアルから得た知識を基にして説明する。
「うーむ……」
訊くと藤原は梯子の脚先を地に着け、左手を上から下へ下げる仕草をする。と、その動きに合わせて梯子が上から段階ごとに収縮し、最後には藤原の頭頂までの長さになる。
藤原はそれを左脇に抱えて軽トラックへ向かい、光秋もカプセルを左脚ポケットに入れてそれに続く。
藤原が荷台の右前部に梯子を置くのを見た光秋は、ドアを開けて助手席に乗り込み、少し遅れて藤原が運転席に乗り込むと、席の左側からシートベルトを伸ばして締める。藤原もシートベルトを締めると、エンジンを掛けて車を右回りにUターンさせ、来た道を戻る。
「ニコイチは今まで通り、お前が管理することになる。が、基本的に使用はおろか、カプセルから出すことも禁止だ……さすがに、そうしなければ対処できない事態が生じたらお前の判断で出していいだろうがな」
最後の方は微笑んで放たれた藤原の言葉に、光秋は、
「はい……」
と、覇気のない声で応じる。
「…………」
同時に光秋は、脚ポケットに仕舞ったカプセルに意識を集中し、自分がお気に入りのオモチャを取り上げられた子供の様な、幼稚な喪失感を抱いていることを自覚する。その自覚が、一昨日に比べてだいぶ持ち直してきた心を、再び沈めさせる。
―つくづくしょうもない奴だな、僕は…………―
7月1日木曜日午前10時。
白地に赤と青の短い線の模様が入った半袖のワイシャツに、薄手の薄茶色い長ズボンという服装をし、茶色いサンダルを履いた光秋は、目の定期検査のためにESO京都支部の医療棟を訪れている。
「眼圧は正常、特に異常も見当たらず」
光秋から見て左側にある机に体を向け、その上にあるカルテにボールペンを走らせながら白衣姿の上杉が言う。
「他に何か、気になることは?」
「……特にありません……ただ……」
応じた光秋は、顔を少しだけ上杉の方に近づける。
「竹田二尉から聞いたんですが、伊部二尉が転院したって、本当ですか?」
「あぁ。再検査でちょっと気になる箇所が見つかったってんで、専門の病院に移ったらしい」
上杉が顔を上げて答える。
「それ、どこかわかりますか?」
「それがよぉ、詳しいことはオレも知らないんだよ。お前が退院した翌日にとんとん拍子で手続きが済まされて、その日の内に移っちまってよ。その上担当してたオレたちには、どこが悪いとか、どこに移ったのか一切説明なしでよぉ!」
上杉は最後の方は若干怒りを込めて応じる。
「そう、ですか…………」―結局、見舞いにも行けんか…………―
ここ数日で精神面がだいぶ回復してきた光秋だが、上杉から聞いた現実が、また若干心を沈ませる。
「……加藤お前、もしかして伊部二尉のこと……」
「!……そういうことは!……とりあえず、目薬はいつも通りで!」
「わかったよ、3種類1本ずつな……でも、確かに二尉はなかなかの美人だもんなぁ?」
「……ありがとうございました!」
ニヤケ声で言われた上杉の言葉を受け流した光秋は、立ち上がって座っていた丸椅子の左側に置いてある灰色のカバンを右肩に掛け、ドアに向かって振り返る。
と、
「あ、ちょっと待った!」
上杉が後ろから声を掛け、光秋は首を回して左耳を向ける。
「悪いが、この後ちょっと付き合ってくれねぇか?」
「なにか?」
「いやぁ、ちょっと野暮用でよ。人手が必要でさぁ」
―…………まいっか、どうせ暇だしな―「わかりました」
「サンキュー!とりあえず本舎のロビーで待っててくれ。少ししたら、オレも仕事片付けて、目薬持って行くから」
「……わかりました」
応じた光秋は前に向き直り、ドアに向かう。
―……涼しいなぁ…………―
本舎ロビーの長椅子に座る光秋は、天井から来る冷気に大いに心地よさを感じる。短距離とはいえ30度近い炎天下を歩いてきた身には、冷房の効いた室内に対して他の感想はない。
―……にしても、上杉さんの用事ってなんだろう?…………―
そう思った直後、光秋の前にある正面玄関の自動ドアが開き、首に金色の円形の飾りが付いた首飾りを掛け、青と白の縦縞柄の半袖のワイシャツに青いジーパン姿の上杉が、左肩に黒い大き目のバッグを提げて現れる。
「悪りぃ、待たせたな」
「いえ」
光秋が応じると、上杉は右手で光秋を手招きする。
「?……」
光秋はカバンを掛けたままの体を立たせ、上杉の許へ近づく。
と、
「実はよ、用ってのは、今夜合コンに付き合って欲しいんだよ」
「えぇ!」
上杉に予想外の内容を聞かされた光秋は、大き目の声を上げて動揺する。
「……なんで僕なんです?」
「いや、オレの周りの人間にさ、『すごい新入りが来た』ってお前のこと紹介したら、『今度の合コンに呼んで』って頼まれてさぁ」
「いや、しかし…………」
「なんだよ?」
「……僕はまだ未成年ですし、さすがにそういうことは……」
「あっそう。じゃあ今回分の目薬いらないのな?」
「え!」
「冗談だよ!ほれ」
笑いながら上杉はバッグに右手を入れ、白い紙袋に入った目薬を差し出す。
「まぁ、とにかく来てみろよ。かわいい子いっぱいいるし、いい気分転換になるだろうし」
「……いや、しかしやっぱり…………」
返事に困りながら光秋は目薬の袋を受け取り、それを自分のカバンに仕舞う。
「ホント、お前って真面目なぁ」
「……それしか取り柄がなくて……」
「ふーん。まぁ、無理して来いとは言わねぇし、まだ時間もあるしな。とりあえず、これからちょっと買い物に行くから、それには付き合ってくれよ」
―……それくらいなら―「わかりました。ただ行く前に、ちょっと寮に寄らせてください。目薬を仕舞って行きたいので」
「わかった。じゃあ、正門前で待ち合わせだ」
「はい」
職員寮の自室の冷蔵庫に目薬を仕舞った光秋は、速足で京都支部へと戻る。支部の白い塀を右手にして進み、視界に正門を捉える。
と、
「よう、加藤!」
と、赤い半袖のワイシャツに茶色い半ズボンを履いた竹田二尉が、塀の影から上杉を従えて現れ、右手を軽く上げる。
「竹田二尉?なぜここに?」
「ん?こいつ、オレに今日の合コンのこと黙っててよ!」
「……」
竹田は左手の親指を横に向け、左隣でバツの悪い顔をする上杉を指す。
「もっとも、オレの情報網を甘く見ちゃイケねぇよなぁ?上杉ぃ?」
「……敵いませんよ、竹田二尉には……」
向けられた竹田の皮肉を込めた笑みに、上杉は苦笑いで答える。
と、竹田は光秋の方に向き直る。
「というわけで、オレもお前らの買い物に同行する」
「仕事は?」
光秋はふと浮かんだ疑問を口にする。
「『蜂の巣』作戦の時の後始末に休日返上したから、今日はその振替だよ」
「……そうですか」
竹田が何の気なしに言った「蜂の巣」という単語に、光秋は少し気落ちするが、すぐに持ち直す。
「さ、行こう行こう!」
と、竹田は機嫌よく光秋の方に歩き出す。
「……」
「…………」
その後を気落ちした上杉と、無表情の光秋が続く。
竹田一行は、支部近くの十字路を右折して緑の天井を持つアーケードの下を東進し、鴨川に掛かる橋を渡る。
しばらく進むと、不意に、
「おーい、ジャップ!」
と言う声を聞く。
「!……」
声に聞き覚えのある光秋は、立ち止まり、辺りを見回す。
と、
「こっちだ!こっち!」
「……!」
光秋が左に目をやると、白い半袖のワイシャツに黒い長ズボンを履いた金髪の男が、向かいの歩道から右手を振っている。
「タッカー中尉!」
光秋が応じると、タッカーは車道を横切って3人の許へ駆け寄る。
「こんな所で奇遇だなぁ」
「中尉こそ、仕事の方は?」
「俺は今日非番だよ。ちょっとこの辺観光してたら、お前が見えてよ」
そこで上杉が、光秋の左肩を叩く。
「加藤、こちらさんは?」
「あぁ、合空軍でパイロットをしている、タッカー中尉です。中尉、こちらESO専属医の上杉さんです」
「どうも、アレク・タッカーだ」
「上杉勇児です」
言いながら、2人は互いの右手を差し出して握手をする。
「……?」
その時光秋は、タッカーが上杉の首飾りを一見するのを見る。
と、光秋の右側に立つ竹田が、
「挨拶なんてしなくていいんだよ!」
と、ムッとした顔で呟く。
「ところでお前ら、これからどこ行くんだ?」
「お前にゃ関係ねぇだろう」
タッカーの問いに、竹田が棘のある声で応じる。
「俺はジャップに訊いたんだが?」
と、タッカーも若干怒気を含んだ声で応じる。
と、
「「!」」
竹田がタッカーを凝視し、タッカーも竹田の目を直視する。
「「…………!」」
2人の睨み合いに、光秋と上杉は束の間恐怖するが、すぐに光秋はタッカーに、上杉は竹田に駆け寄り、
「中尉!僕たちこれから買い物に行くんです!一緒にどうですか?」
「二尉!まずは服!服屋行きましょ!ね!」
と、何とか2人をなだめる。
―どうなることか…………―
と、光秋はその様子に不安に駆られる。
タッカーを加えた一行は、しばらく東進して、中規模の服屋に入る。
4人ともバラバラになって店内を見て回る中、買う気も見る気もなくうろついている光秋の許に、上杉が近寄る。
「加藤、悪かったな。気分転換のはずが、余計な気遣わせて……」
「いえ……ところで、今夜の飲み会、僕なんかより竹田二尉を呼んだ方がよかったんじゃ?なんで黙ってたんです?」
「いや、二尉は普段の付き合いならいいんだが、酒が入ると、なぁ……」
「あぁ」―そういうものか?……―
上杉の言い様に、光秋はなんとなく納得する。
午後0時。
竹田とタッカーの衝突もなく、無事に服屋での買い物を済ませた一行は、その近くのレストランに入り、露天席の白い円テーブルを囲んで昼食をとる。
「ところでタッカー中尉って、4月にあったニコイチの飛行実験に参加した、あの?」
光秋の右側に座る上杉が、ミートソースを食べながら尋ねる。
「あぁ。途中でサン教に割り込まれたけどなぁ。こいつと一緒に片付けてやったよ!」
光秋の左側に座るタッカーが、右手にホットドッグを持ちながら光秋を左手で指さして言う。
「そん時ついでに、お前もやられてりゃぁな!」
光秋の向かいに座る竹田が、右手のスプーンでカレーを口に運びながらタッカーに挑発的な言葉を掛ける。
「何?」
タッカーが竹田の方を睨みつけると、右手のフォークにミートソースを巻いていた光秋が、
「ところで、中尉って日本語が堪能ですね?」
と、すぐに話しを逸らすことも兼ねて、親しい関係になった時から疑問に思っていたことを言う。
「あれ、話さなかったっけ?俺の母親は、日本育ちの米日ハーフなんだよ」
「初耳です」
「そうか?ガキの頃からよく日本語で昔話とか聞かせてもらったり、日本の実家に行けば爺ちゃんから日本語で色々教えてもらったりしたからなぁ……極東方面に配属されてしばらく経つのもあるが、俺の場合は基礎ができてたんだろうなぁ……」
「……ちょっと待ってくださいよ?」
上杉が加わる。
「母親の代でハーフってことは、中尉の爺さんか婆さんの代で……」
「あぁ、俺の爺ちゃんが日本人だ」
「てことは、二次大戦が終わった頃に2人とも結婚されてるんですか?」
「終戦後間もなく日本で結婚したって、母親が婆ちゃんから聞いた話を聞いたな」
「……まだ年寄りの中には『敵国アメリカ』のイメージが強い時期に結婚かぁ……愛の力っすかね?」
「さぁな?」
―『愛の力』、か…………柄じゃない!―
光秋は束の間感慨にふけるが、すぐにそれを頭の隅に退ける。
「もっとも、戦闘機乗りは父親の血筋なんだがな―」
と、タッカーが続けようとした直後、バァーン!という耳を貫く程の爆音が辺り一帯に響き渡る。
「「「「!」」」」
4人ともすぐに反応し、首を巡らして爆音の源を探す。
と、
「……!あれじゃないですか?」
光秋が右後ろにある10階程の高層ビルの上部を右手で指す。指の先には、ちょうど光秋たちの方に向かって壁に大穴が空いている。
「あれって……」
竹田が椅子から腰を浮かせて呟く。
「……ESOの研究施設じゃねぇか?」
タッカーが引き継ぐ。
「えぇ、そうです!オレも何度か入ったことがあります!」
上杉が肯定する。
「……超能力の暴走か?」
―暴走!?―
竹田の言葉に、光秋が若干背筋を寒くした、次の瞬間、
「!」
大穴の上の方に点程の影を見ると、それはみるみる大きくなり、光秋に迫る。
「……な!」
光秋は足元に置いてあるカバンも忘れ、思わず椅子から立ち上がり、そのまま後ずさろうとする。
が、3歩と退かない内に影は光秋に達する。
「!」
その際に生じた衝撃で、光秋は後ろに押されて尻もちを着く。
同時に周囲の固定されていない物は全て飛ばされ、竹田たちもテーブルと一緒に光秋の左に1メートル強程吹っ飛ぶ。
「…………痛っつぅ!……」―なんとか、生きてる?……―
目をつむっている光秋は、尻の強打した辺りを左手で摩る。
と、左側から、
「ジャップ!無事か?」
と、タッカーの声が聞こえ、ふと目を開ける。
と、
「…………!」
光秋は目の前に、白い院内用の寝巻を着た黒い長髪に黒色の肌をした女が、地面から数センチ浮かんで自分を見下ろしているのを見る。
いつもは後ろに1本に結ってある髪が解けて広がっている点を除けば、それは、
―……伊部……二尉?…………―
と、
「アヤぁ!」
「アヤぁ!」
「?……」
光秋は大穴の開いた建物の方から、白衣を着た2人の男たちが叫びながらこちらに駆け寄って来るのを見る。
と、
「!……」
女は光秋の肩に両手を掛けて寄り添い、白衣の男たちを一見すると、光秋に怯えた表情を向ける。
「…………?…………ア……ヤ?…………」
光秋には、そう呟くのが精一杯である。
いかがでしたか。
最後に現れた伊部さん似の女性は何者なのか?答えは次回明かされます。
そしてこの女性と光秋がどう関わっていくのか?ご期待ください。
それと、作品外に関する連絡です。
本サイト内での僕の知人たちが集まって、大型コラボ作品製作計画を進めています。
その名も『スーパーロボット大戦H(ハーメルン)』!興味を持ってくれた方は、僕のお気に入りユーザーに「アルファるふぁ」さんという方がいるので、この方の活動報告「スーパーロボット大戦H参戦のお誘い」までおこしください。
お待ちしています。