前回までの話で何度かすれ違いがありましたが、それがどうなるか?
では、どうぞ!
光秋は綾の部屋の前に着くと、左手でドアを2回ノックする。
「綾!僕だ。ただいま」
言うと光秋は、左手で丸ノブを回す。
が、
「……!?」―開かない?―
何度ノブを回しても、ドアは全く開かない。
―……あ!鍵か―
そう思と左手で左の腰ポケットに入っている鍵を取り出し、それを鍵穴に入れて回す。
しかし、
「……!?」―鍵も回らない?―
何度回そうとしても、左手に力を込めても鍵は回らず、とうとう光秋は右手のタッパを地面に置き、その上に本が入った袋を置いて、両手で鍵を持って回す。
が、
「!…………」
渾身の力を込めても鍵は全く動かず、これだけ手こずっていても中から開けてくれる気配も一向にない。
「綾!いるんだろう?どうも鍵の調子がおかしい。開けてくれ」
光秋はドアに向かって叫ぶが、少し待っても返事は一切ない。
―…………まさか、外に出てるのか?―
ふと考えた、直後、
「…………ないで…………」
「!」
光秋はドア越しに、消え入りそうな綾の声を聞く。
「綾!いるんならドアを開けてくれ!どうも調子が―」
「来ないで!」
「!」
自分の言葉を遮る様に言われた綾の強い声に、光秋は束の間絶句する。
「…………綾?」
「……今は……光秋見たくないの…………」
光秋は声の具合から、綾と少し距離があることを察する。
―居間か?……綾が鍵を封じている?でも居間には、万一用のEジャマーが…………切ったのか?―「綾、突然そんなこと言われても、僕も困るよ!せめて何でこんなことをするのか、理由を話してくれ!」
言うと光秋は、鍵から放した両手をドアに当て、左耳をドアに向けて耳を澄ませる。
「…………光秋は、何でアレに乗ってるの?」
「え?…………」
「何でニコイチって、あんなのに乗って、あんな怖い物持って、嫌なことするの!」
綾の声に徐々に怒気が籠る。
「…………言っただろう?何かあったら何とかするって。そりゃあ、この間の喧嘩とは全然規模が違うが、結局僕は、その約束を守るために―」
「でも!」
綾の絶叫が光秋の言葉を遮る。
「でも……何でアレに光秋が乗るの?何で嫌な人たちと同じことするの?約束は約束だけど、光秋には、やっぱりあんなことして欲しくない!光秋は、優しくて、静かで、いろんなこと教えてくれて、おかしいことがあったら小さく笑って…………いつもあたしと一緒にいる時の光秋でいて欲しいのに!…………なのに……全然違う光秋になって…………」
綾の声に徐々に悲しみが籠ってくる。
それを聞いて光秋は、
―…………そろそろ、話す時かな?―
と、漠然とはしているが、ある種の決意を抱く。
光秋は顔をドアに向ける。
「……綾……これから僕が話すこと、今の綾には、子供だましのお話にしか聞こえないかもしれない。でも、全部本当のことなんだ。しばらく、僕の話を聞いてくれ」
「……それが、アレに乗る理由なの?」
若干陰気を含みながらも、概ね落ち着いた綾の声が応じる。
「それも含めて話す。とにかくしばらく、僕の話を聞いてくれ」
「…………わかった……」
綾が短く答えると、光秋は軽く深呼吸して、ゆっくりと話し出す。
「僕はな……この世界の人間じゃないんだ」
「?…………どういうこと?」
綾の戸惑いを含んだ声が訊く。
「言葉通りの意味だよ。例え話や冗談なんかじゃない。僕は、今僕らがいるこの世界とは違う世界から来た、否、送られた、もっと言うと連れて来られたと言った方がいいか?」
「連れて来られた?」
「そう。今が7月だから、もう4カ月くらい前か。大学に進学して、よそに引っ越すことになってな、夜行バスに乗って移動してたんだよ。そしたら、バスが突然揺れだして、地震かと思った次の瞬間には、真っ白な空間に1人で立ってた」
「…………」
「そこで、神モドキさんに会った」
「かみもどきさん?」
「これは僕が勝手に付けた名前なんだがね。白い人の形をした、大きな“力”を持った者だよ。その人が僕を呼んで、ニコイチをくれて、僕をこの世界に送った」
「…………」
「初めてこっちに来た時、ニコイチに乗ってたんだがね、動かし方がよくわからなくて、森ん中に派手に墜落したよ……」
言いながら、光秋の脳裏にその時の記憶が浮かび、口元に苦笑いが浮かぶ。
「降りてニコイチの様子を見てたら、伊部さんに会った。といっても、向こうは最初僕のこと不審人物と思って、銃向けてたけどな。まぁお互い状況がわからなかったから、当然と言えば当然だけど……で、その後京都支部、さっきの騒ぎが起こってすぐに、竹田さんに連れて行ってもらったあそこに運ばれて、その夜に、さっきの騒ぎを起こした人たちの仲間があそこを襲って、怪我人もかなり出た」
「…………」
「その時、僕は自分の意思でニコイチに乗った。初めてね。僕には、そういう“力”があったからな」
「力?……」
「そう。“力”……それで、四苦八苦しながらニコイチを動かして、なんとか襲ってきた人たちをやっつけて、僕が危ない人じゃないって周りに理解してもらった」
「…………」
「でも翌朝、襲ってきた人たちの仲間が来て、その時もなんとかニコイチで撃退して、それでESOに、今務めてる仕事に入らないかって誘われた。最初は迷ったよ。綾も見ただろうが、今日みたいな目に遭うことだってある仕事だからね。でも頼れる人なんて誰もいないような所で生きていくには、僕自身が働かなくちゃいけない。そんな中での誘いだったからね……で、なんだかんだ悩んでたら、伊部さんが言ってくれたんだよ。『自分は人助けをするためにESOに入った』って」
「人助けを、するために?……」
「あぁ。正確には思い出せないけど、そんな感じのことを言ってくれて、それで僕は、ESOに入る決心が付いた」
「…………それが、ニコイチに乗る理由?」
「そう。ニコイチの力を一番いい方向に活かすために、僕はアレで人を救おうと考えた。ただ現実には、今日みたいに暴力に訴えることもある。僕自身、自分のできることを精一杯やろうとしたら、あれで限界なところがあるんだよ。だから今日とか、この間みたいに、綾から怖いって思われる僕になっちゃうんだろうな…………」
「…………」
「もっとも、ESOに入ろうって決めた最大の動機は、食っていくためって、仕事をする上では一番不純な動機だけどな……それに、時には守れなかった人もいるんだよ…………」
光秋の声が若干暗くなる。
「守れなかった人?」
「あぁ…………伊部さんだ」
「…………」
「
「……その後で、あたしが生まれたの?」
「あぁ。確か、怪我の様子を見るために、あっこっち検査して、頭を調べたらサイコキノの素質があって、伊部さんも合意の上でそれを引き出す実験をやって、そうして生まれたのが綾だって…………」
「……そう、なんだ……」
「…………」
綾の言葉を聞くと、光秋はドア越しに自分の許に近づいてくる足音を聞く。
と、
「!…………」
鍵が開く音がするとドアが押し開かれ、数歩下がった光秋は、玄関先に立つ白の半袖のワイシャツと赤チェックのロングスカートを着た綾の姿を見る。
「綾?…………」
「光秋も、辛いんだね…………」
と、綾は静かに言う。
「……あぁ。でも、誰かがやらなくちゃいけないし、僕にはそういう力があるんだよ。例え綾に、嫌なことをする人たちと同じ様に見られてもな。なにより、もう見たくないし、繰り返したくないんだよ。大事な人が、傷つくっていうのをさ…………」
「…………わかった……入って」
「あぁ。あっと!」
言うと光秋は、鍵穴に刺しっぱなしの鍵を左の腰ポケットに入れ、地面に置いていたタッパと袋を右手で持って部屋の中へ入る。
ドアを閉めると靴を脱ぎ、綾に続いて居間に入る。綾がテーブルの、廊下側から見て右側に腰を下ろすと、光秋は廊下を背にして腰を下ろし、タッパと本が入っている袋をテーブルの上に置く。
「…………ごめん」
俯く綾が、呟く様に言う。
「ん?」
「光秋のことよく考えないで、あたし、勝手なこと言って…………」
「いいよ。突然あんなの見せられて、びっくりしたんだよな?言わなかった僕だって……」
「!……そうだよ!なんで言ってくれなかったの?」
「……本当はニコイチのことも、さっき話した僕のことも、無暗に
「特別?」
「……あぁ……それに、綾は無暗に他人に話さないと思って…………」
「…………あたしのこと、シンヨウしてるの?」
「……まぁ、そんなとこかな?…………」
「ふーん?…………」
綾の口元が薄っすらと微笑みの形をとる。
と、
「光秋にとってあたしが特別なら、あたしにとっても光秋は特別?」
「…………それは、綾が僕をどう思うかだよ」
「そう?じゃあ、特別だ!」
さっきまでの陰気さが嘘の様に、綾は顔一杯に笑みを浮かべて言う。
「特別ついでにさ……今から光秋のこと、『アキ』って呼んでいい?」
「アキ?」
「そう。あたしだけの特別な呼び方!」
―…………あだ名みたいなもんか?まぁ、いいか?―「いいよ。ところで、なんで『アキ』なんだ?」
「光秋の『
「なるほど。ただそれなら、
「いいの!あたしだけの呼び方だもん!」
「そう?それならな…………あっ!そうだ」
思い出した様に言うと、光秋はテーブルの上に置いた袋を綾の方に差し出す。
「物で解決っていうのもどうかと思うが、とりあえず、今日の遠出も台無しになっちまったお詫び」
「!……本?」
「あぁ」
「ありがとう!」
言うと綾は両手で袋を掴み、笑顔でそれを胸に押し当てる。
「……あと、これもさ。悪くならないうちに食べちまおう」
言うと光秋はフタを開け、綾と自分の間にタッパを置く。
「これは?」
「仕事中にもらった差し入れ。夕飯までまだ時間あるが、まぁ、せっかくだしさ……」
「ふーん?じゃあ……」
言うと綾は、右手をタッパに伸ばす。
と、
「待った!」
光秋は少し強い声で言い、右の人さし指で廊下を指す。
「食べる前に、水盤で手ぇ洗ってこい」
「はーい」
言うと綾は立ち上がって風呂場に向かい、そこの水盤の水を両手に流す。光秋も綾と入れ替わりに水盤の水を両手に流す。
居間に戻るとそれぞれ元の位置に腰を下ろし、右手で海苔の包まれたおにぎりを1つずつ取る。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
光秋に続いて綾も言うと、2人は同時におにぎりを一口かじる。
と、
「うっ!…………」
綾が両目を固く閉じて悶絶し、光秋は口内に広がる独特の酸味からその理由を察する。
「…………梅だったな…………」
言いながら光秋は、綾には悪いとは思いながらも、綾が騒ぎが起こる前に見せてくれたのと同じ様な表情を見ることができて安堵する。
7月30日金曜日午前10時。
白のTシャツに薄緑色の長ズボンを着た光秋は、サンダルを履いて夏の日差しの下に出ると、家の正面の車道の少し前で立ち止まり、右手を右の脚ポケットに伸ばしてカプセルを取り出す。それを前に向け、レバーを「入」から「出」に切り替えてボタンを押すと、目の前に仁王立ちする白い巨人―ニコイチが現れる。
ニコイチに歩み寄ると、垂れ下っているリフトを掴んで上昇し、操縦席に着いて認証を済ませながら機内へ入る。モニターが灯ると、垂れ下っているニコイチの両腕を正面に突き出す様に上げ、ハッチを開いて操縦席を機外へ出す。
「綾!いいぞぉ!」
光秋が正面の家に向かって叫ぶと、光秋の部屋のドアが開き、白のTシャツに青い長ズボン、ピンク色のサンダルを着た綾が洗濯かごを両手で持ってニコイチに歩み寄ってくる。
ニコイチの足元の近くまで来ると、綾はかごを足元の草原に置き、両手をかごにかざして軽く目をつむる。おもむろに両目を開け、下にかざしていた両手を上に上げると、綾の手の動きに合わせてかごの中の青いタオルケットが大きく開いて高く舞い上がり、ニコイチの右上腕側に覆い被さる様に着地する。
「上手いじゃないか!」
その光景を見て、光秋は率直な感想を言う。
「じゃあ、次!」
言うと綾は、右手を右下からタオルケットが掛かっている方向―左上へと直線を描く様に振り、洗濯かごの中にある洗濯バサミを1つ舞い上げる。綾の手の動きに合わせてニコイチの右腕の肘側に飛んだ洗濯バサミは、しかし、腕の下側にある垂れ下っているタオルケットの近くに来ると、戸惑った様に動きを止める。
「あーん!飛ばしながらだと上手く挟めない!」
綾の声に光秋は、
「僕にハサミを寄こせ。その後で、僕の体を浮かせるんだ」
と、席を立ってハッチの方に歩きながら言う。
「わかった!」
言うと綾は洗濯バサミをハッチの上にいる光秋の方へ移動させ、光秋がそれを受け取るのを見ると、両手を光秋の方に伸ばし、ゆっくりと手前側に引く。
その動きに合わせて光秋の体はハッチの高さを保ったまま宙に浮き、ニコイチの右肘の方へ移動する。
―生身で浮いたのはこれで2度目……いや、三佐に初めて浮かされた時は椅子に座ってたから、身一つはこれが初めてか…………ちょっと怖いが、綾なら大丈夫だろう―
そんなことを考えている間に、光秋はニコイチの右肘側の下部に着き、左手で垂れ下っているタオルケットを押さえ、右手の洗濯バサミでそれを挟む。
「よし!もう1個、飛ばせそうか?」
「…………ちょっと、自信ない」
光秋が首を右後ろの下に向けて訊くと、綾はそう応じる。
「わかった。一度僕を下に下ろせ」
光秋がそう言うと、綾は両手を下へ下ろし、それに合わせて光秋も地面に着地する。
光秋は洗濯かごに歩み寄ると、中から洗濯バサミを1つ取ってニコイチの右肩の方へ向かう。タオルケットの肩側の下に着くと、
「よーし。上げてくれ」
と、綾の方に体を向けて言う。
「はーい」
応じると、綾は光秋に向かって両手をかざし、その手を上へ上げて光秋の体をゆっくりと浮かせる。
光秋はタオルケットの近くに着くと、左手でそれを押さえて右手の洗濯バサミを挟む。
「よし!一度下ろして。今度はシーツだ」
「はい!」
応じながら、綾はゆっくりと光秋を下ろし、着地したのを確認すると、かごに向けた両手を上へ上げて青いシーツを舞い上がらせ、それをニコイチの右腕の手首側に掛ける。
その間に光秋は、かごから洗濯バサミを2つ取り出し、いつでも飛べるようにする。
「今度も上手くできた!アキ、いい?」
「あぁ」
答えると、綾は光秋をシーツの方へ上げ、着いた光秋はニコイチの手首側、肘側の順に洗濯バサミを挟んでいく。
「終わった」
「はい」
光秋の言葉に応じた綾は、両手をゆっくり下ろして光秋を着地させる。
着地した光秋は、綾の許に歩み寄って左手で洗濯かごを持ち、
「そろそろ綾の部屋の分が終わる頃だろうから、取ってくる」
「うん」
と、自分の部屋へ向かう。
部屋に着くと止まっている洗濯機のプラグを抜いて蛇口を閉め、中から洗濯ものを取り出してかごに入れると、その中から枕カバーを取って居間へ向かい、居間の奥、窓側に置いてあるハンガ―ラックの右側に掛かっているハンガ―の1つを取ってれに枕カバーを掛けて竿の中央辺りに吊るす。竿の左側には、先に洗濯した光秋の枕カバーが掛かっている。
掛け終ると、光秋は左手にかごを持って外に出、綾の許にかごを下ろす。
「もう一仕事、頼む」
「うん」
言うと綾は、先程と同じ手順でピンクのタオルケットとピンク色のシーツをニコイチの左腕に掛け、光秋を浮かせて手首側から順に洗濯バサミを挟んでいく。
「よし!終わりだ。綾!そのまま僕をコクピット……ニコイチの胸の所に乗せてくれ」
「わかった」
言うと綾は左上にかざしていた両手を正面―ニコイチのハッチの方へ向け、光秋がその上に着地すると、手を下ろしながら少し張りつめていた精神を落ち着かせる。
ハッチに下りた光秋は操縦席に腰を下ろし、自動で始まった認証のために一度機内へ下りると、認証が済むと同時にハッチを開けて機外へ出る。
操縦席を上げ切ったところにちょうど綾もハッチに下り立ち、席の左側へと歩み寄る。
綾が椅子の背もたれを両手でしっかり掴んで下を見、
「ホントに高ぁい!」
などと言えば、光秋は、
「危ないからやめろ。落ちたら怪我じゃすまんよ」
と、少し脅しを含んだ注意をする。
「うん……ところでアキ……」
光秋の方へ身を寄せた綾が、顔を合わせて言う。
「ん?」
「なんでこんなことしようと思ったの?」
「ニコイチを物干しにすること?」
「うん」
「家に付いてる物干しじゃあ、一度にこんなには干せないし、それに、一度やってみたかったんだよ。ニコイチの身近な平和利用ってやつをな」
「?……どういうこと?」
「僕は、ニコイチを単なる暴力装置にしたくないんだ。こういう穏やかな使い方を、一度してみたかったんだよ」
「ふーん?……」
「……そうだ、ニコイチで思い出したが、昨日言い忘れてたことがあった」
「昨日?」
「あぁ。綾に、ニコイチのこと黙ってた理由、もう1つあるんだ」
「黙ってた理由って……えーっと……言っちゃいけなかったからって以外に、まだ?」
「あぁ…………言ったら、綾に怖がられるかと思って……」
「怖がる?」
「あぁ。この間怒ったところを見られただけで怖がられたんだから、こんなの持ってると知れたら、どうなるかと……なにより一緒にいれば、言う必要もないかと思ってたけど……結局言わなかったが故に、余計に驚かせちゃったな…………」
「…………それなら、もう大丈夫。昨日はアキが言った通り、ちょっとびっくりしただけで…………それにね、あたし飛行機とか機関銃は好きになれないけど、コレ、ニコイチは好きになれそう」
「?……どうして?」
「だって、アキをこっちの世界に連れて来てくれて、アキを今まで嫌なものから守ってきてくれたものだもん。それに今だって、暴力以外の役にたってるし」
言いながら綾は、肘掛に置いてある光秋の左手に両手を添える。
「そう言ってもらえると、僕も今日の物干しの案思い付いてよかったよ」
「うん……アキの手って、ちょっと毛深いね」
綾は唐突に、指の第二関節まで産毛で覆われている光秋の手の甲をしげしげと見ながら言う。
「男はこんなもんだよ。さて!」
応じると光秋は、ニコイチに念を送り、前に突き出されている両腕を胴の左右へ伸ばす。
「この方が、乾きも早いだろう。それと綾。今日僕が勝手にニコイチを出したこと、みんなには言うなよ」
「?……なんで?コレ、アキのものじゃあ?」
「そうだけど、あんまり無暗に出すもんじゃないんだよ。今日はさっき言ったことがしたくて出したけど、本当はダメなんだ」
「ふーん?わかった」
「頼むよ…………」
言いながら光秋は、綾に自分のニコイチについての理想を言えたこと、綾の前でそれを実行できたことを嬉しく思う。
いかがでしたか。
「雨降って地固まる」とはこういうことでしょうか。
ひとまず山を乗り越えた2人の今後に引き続きご注目ください。
では、また次回。