さて、今回が光秋と曽我さんが絡みます。どのようなことになるのか?
では、どうぞ!
大河原主任たちの様子を拡大表示で確認し、独りになった光秋はニコイチを立ち上がらせ、左手でガトリング砲の支持棒を掴んで両手保持する。
「……!」
ハッとした光秋は素早く後ろを振り返り、砲口を真ん前に向けてレーザーを点ける。
が、
「?……!」
習慣的に持ち手の突起ではなく、支持棒を回してしまう。
「いかんなぁ……」―支持棒の方が癖になってる。が、慣れないと困るからな!―
そう思って気を取り直すと、ガトリング砲を下に下げる。
「……!」
素早くガトリング砲を前に構え、持ち手の突起を下げてレーザーを点けて引き金を引く。
―よし!―
ちゃんとできたことに若干の勢いを得ると、体勢や向きを何度も変えて発砲の動作を体に覚えさせる。
しばらくして、動作の覚えに自信を持つと、
「こんなところか?・・・・・」―せっかく出したんだからな―
と、発砲の動きに突きや蹴りなどの格闘戦、近くの敵を想定した動作も加えてみる。
散発的に発砲しつつ距離を詰め、腰溜めにした左突きを放つ。振り返りざまに左蹴りを出す。
そうした流れから、右ペダルを踏んで空中戦の訓練に入る。
両手保持したガトリング砲の引き金を引きながら高速で前進する。撃つのをやめると同時に、敵がいると想定した空域を視界の中心に見据えつつ急上昇をかける。急停止すると同時に砲を右手で持ち、両腕と左脚を腰に引いて右脚を地上に向けて真っ直ぐに伸ばし、
「!」
落ちる様に想定空域に右蹴りを放つ。樹林の先に接触する寸前に蹴りの体勢を解いて急停止し、ゆっくりと高度を取り直す。
「なかなか、いいかな?……」
思い通りに動いてくれるニコイチに、光秋は少し気分よく呟く。
直後、
「?」
光秋はモニター越しに漠然と視線を感じる。ニコイチの感知機能の精密さから思い過ごしの可能性をすぐに捨て、辺りを見回してみる。
と、
「……!」
背後を振り返るや、上空に浮かんでいる人影を見つける。
光秋の意思を拾った拡大映像が表示されると、その中に緑服一式を着た長い茶髪の女を見る。
―あれは……!―
光秋の脳裏に、どこか
「曽我さん?」
かなり印象が強い記憶に、元来名前覚えが悪い光秋でさえすぐに思い出してしまう。
と、
(その声!やっぱりこの間のワンちゃん?)
―!……しまった!外部スピーカー入れっぱなしだった!―
映像内の曽我の驚きに、光秋もハッとしてしまう。
その直後、曽我は驚きの表情を吹き消し、以前の様に他人を小バカにする様な、下目づかいな表情になる。
(それならそれでいいわ。あなた、確か二曹だったわよね。上官として命じます!ソコから出てきて顔見せなさい!)
―上官って……あ、特エスは准尉相当だったな……―
一応の納得をすると、光秋はハッチを開いて席を機外に出しながら制帽を被り直し、曽我を直に見ると黙って敬礼をする。それが最も無難に思えるからである。
「おもしろそうなことやってるじゃない?」
曽我は微笑みを浮かべながら言う。
「……」
もっともその笑みは、光秋の背筋に寒気を与えてくる。
「……明日が本番なんで、最終訓練にと……」
「フーン?……」
寒気を払った光秋が応じると、曽我は胸の前で両腕を組み、少し考え込む。
と、
「!」
何か思い付いた顔をし、不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあ訓練ついでに、アタシとひと勝負しない?」
「勝負?」
「そ。その大砲、レーザーポインターが付いてるんでしょう?それで10分以内にアタシを捉えられたら君の勝ち。どう?」
「『どう』、と言われても……」―遊んでる暇なんて……―
「いいじゃない。君には動きまわる的を捉える訓練になるんだし、どの道アタシが命令すればそれまでだしね」
―……それもそうかぁ―
曽我の最後の言葉に、光秋は納得、というよりも諦める。
「では……お願いします」
言うと光秋は席を機内へ下ろし、ハッチを閉めて制帽を膝の上に置き、いつでも始められるようにする。左手首の時計に目をやると、1時20分を指そうとしている。
モニター正面に映る曽我も、左手首の腕時計を見る。
(それじゃあ、行くわよぉ…………スタート!)
―!この時計で30分まで!―
左手を操縦桿に置きつつ時間確認をした光秋は、すぐにガトリング砲を両手保持して砲口を曽我に向ける。
が、向けきる直前に曽我は素早く上昇し、それを避けてしまう。
―やっぱり!簡単にはか?―
心中に呟きつつ、光秋はすぐに砲口を上に向ける。
が、その間に曽我はニコイチの後ろに回り込んでしまう。
「……!」
それを追って後ろを振り返ると、視界一面を細かな大量の塵が覆い隠す。
「何だぁ?」
(下に落ちてた枯れ葉や土を巻き上げたのよ!これくらいやらなきゃ、おもしろくも訓練にもならないでしょ)
思わず上げた驚嘆の声に、曽我が若干の笑気を含んだ声で答える。
―念力か!―
思いつつ、光秋はニコイチの目を四方八方に向けてみるが、どの方向も塵が視界を塞いでいる。
「クッ!」
小声で呟くと、右ペダルを一杯に踏んで急上昇を行い、なんとか塵の中から脱出する。
「……」
視線を下に向けると、塵でできた巨大な球が上の方から散り散りに崩れていくのを見る。
―ニコイチを核に球状に覆ってたのか!道理でどこを向いても……―
思うと光秋は、右パネルのレーダー表示に目をやる。
―さすがに小さすぎてコレには映らんか……なら!―
パネルから目を離すと右ペダルを踏んでさらに上昇し、モニターを隅から隅まで舐める様に注視する。
「……!」
曽我を見つけるという意思を拾ったモニターが視界の右下に拡大映像を映し出し、その中に上空を見上げる茶髪に緑服の女が映し出される。
―いた!―
思うと同時に拡大映像と入れ替わって表示された赤丸のマーカーに砲口を向け、レーザーを点けようとする。
が、
「あっ!」
誤って支持棒を回してしまい、レーザーを点け損ねる。
「また!」―やっぱり癖になってる!―
思わず心中に自分を毒づく。
直後、
「!」
光秋はモニター越しに塵の塊が猪突して来るのを見、慌てて右に大きく移動してそれを避ける。
その間に、再び曽我を見失ってしまう。
―さっきの
一瞬の後悔を抱きつつ、再びモニターを走査する。
が、直後、
「!」
左前から軽い圧力の様なものを感じ、咄嗟に右に避けて視界の左端を塵の塊が過ぎていくのを見る。
―クソォ!何処だ?―
心中に毒づきつつ、光秋は砲口を真ん前に向けて視線と同期させ、ニコイチを縦横に振って曽我を見つけようとする。
と、
―……いかん!気が立ってる。これじゃ見つかるものも見つからない……―
そう自覚した光秋は、ニコイチを振るのを止め、一つ鼻で深呼吸し、自分を落ちつけようとする。
―コイツの機能と、なによりも自分を信じろ……―
そう自分に檄を飛ばすと、砲口を下に下ろし、平静になるよう努め、じっと宙に止まる。
「……」
と、
「……!」
真後ろから寒気を感じさせる笑みを含んだ視線を感じると同時に、素早く振り返って視界の中央に小さく見える曽我とそれに重なるマーカーを捉え、砲口を前に向けて持ち手の突起を下げてレーザーを点ける。
が、レーザーが点く直前に曽我は上に避け、狙いを外してしまう。
―クッ!……が、今の調子でいけば勝てる!―
外しながらも曽我に掠めるまでのことができたことに自信をつけ、光秋はレーザーを消してニコイチを上昇させつつ、目で曽我を追う。
その頃。
2人が空戦を行っている辺りから少し離れた場所では、移動中だった青服の高官たちが足を止め、木々の合間から見えるその様子を興味深い目で見物している。
5人いる高官の内4人は、頭に白いものが混ざっていたり、顔に小皺が刻まれたりしている年配者なのだが、その中に1人、黒い髪を短く切り揃え、顔つきから「若い」という印象を抱かせる男がいる。合衆国陸軍大佐、富野
「下を飛んでる大きい方は、新兵器の01だな。上の小さい方は?……」
「ESOの特エスでしょう?なんであれ、訓練熱心なのはいいことだ」
「そうですね。これで我らが地球合衆国も安泰といったところか……」
高官たちが口々に言うことに、富野は社交辞令で応じる。
が、一方でその目には、どこか懐かしいものを見る色がある。
「……!」
曽我に再びマーカーを重ねると、光秋はすぐに砲口を上に向け、持ち手の突起に右の親指を掛ける。
が、
「!」
背後から軽い圧迫を感じ、上昇を続けつつも左に回避し、視界の右端を塵の塊が過ぎていくのを見る。そのために一瞬曽我から目を離してしまったが、表示し続けているマーカーのおかけで見失うことはない。
―今度こそ!―
思いつつ、光秋は再び砲口を上に向けて曽我の背に合わせ、持ち手の突起に指を掛け、
「……!」
突起を下ろしてレーザーを点ける。
が、
「!」
レーザーが当たる直前、曽我は左へ大きく動いてそれを避けてしまう。
―惜しい!……―
思うと光秋は、左手首の時計に目をやる。
「25……6分か」―あと4分……―
その認識に、再び気が立ちそうになる。
―……いかん、また!……落ち着け!まだ4分ある!―
そう思うと、右ペダルを踏んで上昇速度を上げ、適当な高度で滞空して下を見る。
「……!」
すぐに曽我を捉えたマーカーを視界の右上に見つけると、ニコイチを下に向け、両腕を伸ばして砲口と視線を一直線にし、マーカー目掛けて急降下する。
「……」
マーカーが徐々に拡大していくのを見つつ、持ち手の突起に親指を掛ける。
それに気付いてか、曽我は射線の上方へ逃れるが、光秋は焦らずに曽我を追って砲口を上方へずらし、接近を続ける。
「……」
いよいよ樹上が迫ってくると、その少し前で弧を描く様に水平飛行へ入り、樹上すれすれの高度で曽我の後を追う。
「……!」
右ペダルを深めに踏み、曽我との距離を詰める。
―……今!―
距離を詰めたと確信するや、親指で突起を下ろす。
が、
「!」
直後に曽我は右に逃れる。
しかし、
「!……」
一瞬後に砲口を右に向け、レーザーポインターに曽我の背を捉える。
「……終わった?」
呟きつつ、ペダルを徐々に上げてニコイチの速度を落とし、少し進んだ辺りで滞空すると、レーザーを消したガトリング砲の砲口を下ろし、振り返って曽我がいるであろう辺りを見る。
と、曽我がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
(今何時?)
外音スピーカー越しの曽我の問いに、光秋は左手首の時計を見る。
「1時……28分です」
(始めたのがだいたい20分頃だから、制限時間内、かぁ……)
言いながら曽我は、ニコイチのハッチの上に降り立つ。
(ちょっと出てきなさい)
「はい……」―この状態で開けて大丈夫かな?―
ハッチ上の曽我を気にしつつ、光秋は左肘掛の白いハッチ開閉ボタンを押す。
光秋の意思を拾ってか、ハッチはいつもよりゆっくりと開き、開き切ると左肘掛のレバーを上げて操縦席を機外へ出す。そうしながら、膝の上の制帽を被る。
機外へ出ると、正面に胸の前で腕を組んで立つ曽我を見る。
「ま、手加減してあげたとはいえ、なかなかやるじゃない?」
「はい……」
他人を小バカにする視線を向けながら言われた言葉に、光秋は無難そうに返事をする。
と、
「……ただ……」
「?……」
曽我が呟く様に言った直後、曽我から伝わってくる背筋が寒くなる様な雰囲気が、少しながら弱まったように感じる。
「……明日の本番は今みたいにはいかないわよ!組分けがどうなるかは知らないけど、別々になったら覚えてらっしゃい!」
下目づかいながら微笑んで一気に言うと、曽我は振り返って飛び立ち、上昇しながら光秋の許を離れていく。
「……」
その背に向かって光秋は、黙って敬礼をする。
―悪い人じゃないんだ……が、難しい人だ……―
遠退いていく曽我を見ながら、そんなことを思う。
「……さてと、訓練の続きしよう……あ、そうだ」
長くなると感じると、左肘掛から通信機を取って左耳にはめ、上着の内ポケットに入れていたカプセルを右肘掛に納める。
操縦席を機内に下ろしつつ制帽を膝の上に置くと、光秋は個人訓練を再開する。
いかかでしたか。
光秋と曽我さんの勝負どうだったでしょうか?本番ではどうなるのか?
次回もお楽しみに。