では、どうぞ!
しばらくして光秋と伊部二尉が昼食を食べ終わると、同じく昼食を済ませた竹田二尉と上杉、青服に着替えたタッカー中尉と純が、テントに入ってくる。
「食事は終わったみたいだな」
「……はい……」
ベッドの正面に立って言うタッカーに、光秋は左手に持ったコップの残りの水を飲み干し、目を見て応じる。
「じゃあ、話してもらおうか。あの黒い奴は何か。お前は知ってるんだろう?それに、突然消えて何処で何してたのか。黒い奴とお前とはどういう関係なのか」
「お前の知ることじゃねぇよ」
ベッドの左側の丸椅子に座る竹田が小声で言う。
「俺はジャップに訊いてる。どうなんだ?」
タッカーは語調を強める。
「……機密事項に触れる可能性がありますが?」
「あんな派手にやった後で、機密も秘密もないだろう。それに、俺はちゃんと黙っておくよ……」
光秋の言葉に返しながら、タッカーは左隣に立つ純に目をやる。
「ボクも、ちゃんと黙っておきます。そもそも光秋君が白い犬だっていうのも、機密だったんでしょう?」
―……それもそうだし、やっぱりこうなるか―
純の言葉とタッカーの予想通りの行動にそう思いつつ、光秋は左側で丸椅子に座る伊部に目をやる。
「……いいんじゃない?中尉や純君の言うことにも一理あるし」
少し考える顔をしてから、伊部はそう応じる。
「伊部!」
「まあまあ、二尉……」
面白くないという顔をする竹田を、ベッドの右側に立つ上杉が鎮める。
「伊部二尉が言う通り、2人の言うことは一理あります。それにタッカー中尉は、オレたちと一緒にあることに関わったんですから、信用できると思いますよ?」
言いながら、上杉は伊部を見、光秋を見る。
―綾のことか―
「……わかったよ」
上杉の言葉に竹田は渋々合意し、顔を右に逸らす。
「…………では」
伊部の「どうする?」と言っている視線に応じる様に、光秋はタッカーと純に事情を話すことを決心する。
「その前に一つ」
「なんだ?」
光秋の言葉にタッカーが応じる。
「今日のことを話す前に、僕の
「理解に必要なんだろう?別に構わないが」
「……念のため言っておきますが、これから話すことは皆事実です。おそらく途中で口を挟みたくなるかもしれませんが、僕がいいと言うまで、最後まで聞いてください」
「わかった」
「……」
「……では」
タッカーの返事を聞き、純の頷きを見た光秋は、いよいよ話し始める。
「……結論から言うと……僕はこの世界の人間じゃないんです」
一旦言葉を切ってタッカーと純を見る。
「「……」」
光秋の予想に反して、2人とも真顔のまま、聞き手の体勢を崩さないでいる。
「……これは比喩というわけではなく、言葉通りの意味なんです」
念を押すと、光秋は3月のことを話し出す。
3月の半ば頃、大学進学の引っ越しのために夜行バスに乗り、気付いたら真っ白な空間にいたこと。
「……最初はあの世かと思いました」
そこで神モドキに出会ったこと。
「『神モドキ』っていうのは、僕が勝手に付けた名前なんですけど」
それにニコイチを渡され、この世界に行かさたこと。
「……あとは中尉たちも知ってると思いますが、運ばれた先の京都支部でNPを撃退して、その功績でESOに入れてもらって、今日までやってきたわけです……ここまでで、なにか言いたいことは?」
言うと光秋は、タッカーと純の顔を交互に見やる。
「いいや。ピュアは?」
「いえ、ボクも」
「……意外ですね。こんな荒唐無稽なこと聞いて、特に驚かないなんて」
存外平常心で応じる2人に、光秋は少し驚く。
「少し前なら、そうだったかもな……」
タッカーが応じる。
「だが、突然空が割れて、そこからマンガみたいな人型ロボットが出て来て、挙句の果てにほんの2時間くらい前にそんなのと一戦交えた後じゃ、お前のそのC級映画みたいな話も信じてしまうよ」
「確かに……でも、僕がデマカセを言っているとは思わないんですか?」
「そんな訳のわからないデマカセを言うくらいなら、もっとましなことを言うのが普通じゃないのか?」
「……それもそうですね」
「前置きが終わったんなら、早く本題に入ってくれないか」
「……そうですね。では」
タッカーに急かされ、光秋は続きを話し出す。
「まず、あの黒いのですが、さっき話した神モドキさんとは別の…………なんと言うのか?……超存在?……によって作られた、ある種の兵器です。次に、突然消えて何処に行っていたかというと……僕もなんて言っていいのか……暗い空間にいました」
「暗い空間?」
純が首を傾げる。
「えぇ。おそらくこう表現するのが一番かと思います。星明かり程度の明るさがあるだけの暗ぁい空と、荒野みたいな殺風景な大地がずーっと広がっているだけの空間に……確か、連れて行かれたんですよね?」
伊部を見ながら、光秋は確認する。
「うん。確かニコイチの後ろに黒い穴が空いて、黒い奴に押し込められたんだよね……で、気付いたら加藤くんが言った暗い空間にいた」
「……それで、そこで黒い奴と戦って、倒しました」
「どうやって?」
タッカーが問う。
「お前、こっちの世界の戦闘で武器使い果たしてただろう?暗い空間とやらに行く前まではカラテでやり合ってたが、殆ど互角だったじゃないか」
「最初の内はそうでした……いや、向こうが少し優勢だったかな。夢中だったんで、あんまり詳しく覚えてませんが。ただ、もう少しでやられそうになって、『ここまでか』って思った時に……」
そこまで言うと、綾の顔が脳裏を過る。
「……突然、『蜂の巣』の時の様な感覚を覚えたんです」
「「!」」
その言葉に、竹田と上杉が目を見開く。
「おい!それって……」
それまでそっぽを向いていた竹田が、光秋の方に顔を向けながら驚いた声を出す。
「大丈夫です。今回は暴走せず、ちゃんと制御できました。それだけはよく覚えてます」―……綾のおかげ……かな……?―
返しつつ、半ば確信的にそう思う。
「その『蜂の巣』の時の様な感覚って?」
純が問う。
「あぁ……」―そうだ、2人は知らないんだ―「ニコイチと一体化するって言えばいいんでしょうかね?自分の体と、操縦席の境界が曖昧になって、まるで自分の体の様にニコイチを動かせるようになるんです」
「……反射的に操縦できるようになる、てことか?」
タッカーが確認する。
「いえ、そんなんじゃなく、考えただけでその通りにニコイチが動いてくれるんです。普段も複雑な動作はそうやってしてるんですが、今話してるのはそんなもんじゃなく、自分の仮の体……“義体”として動かせるんです」
「「……」」
タッカーと純は、今一つ解りかねるといった顔をする。
「……まぁいいや。それで、その『義体』とやらの状態になって、アイツを倒したのか?カラテで?」
「はい」
タッカーの問いにすぐに応じる。
「その後、さっき話した神モドキさんの白い空間に呼ばれて、そこで黒い奴が何なのかとか、超存在のことを聞いて、こっちに戻ってきた、というか、戻ってこさされたんです。後は、すっかり疲れ果てて、ここで寝てました…………僕の話はこんなところでしょうか……」
話し終えると、光秋はタッカーと純、竹田、上杉、伊部の順に顔を見やる。
「……黒い奴までこっちに戻ってきたのは?」
竹田が問う。
「神モドキさんが僕らをこっちに送る時に一緒に送ったんです。『トロフィー』とか行ってました」
と、答え終わるやどこからか携帯電話の振動音が鳴り出す。
「?…………!」
音を辿って右側を見ると、光秋は頭側に置かれた丸椅子の上に自分の上着が畳まれて置かれているのを見る。音はそこから鳴っているようである。
―僕のか?……―
思いつつ、上着を取って掛け布団越しに膝の上に置き、左のポケットから振動している携帯電話を取り出す。
「すみません。ちょっと……」―こんな時に誰が?……まさか―
タッカーたちに断りを入れつつ、光秋はESOに入る少しに前、京都支部の支部長室でのことを思い出す。
画面を開くと予想通り「送信元不明」の表示があり、相手を半ば確信しつつ電話を左耳に当てる。
「……もしもし?」
(あぁ、オレだ)
確信通り、神モドキの声が響く。
「……神モドキさん」
「「「「!」」」」
光秋の呟きを聞き、タッカーたちに緊張が走る。
それを目の端で見つつ、光秋は電話を続ける。
「……なにか?」
(オレとしたことが、送り忘れた物があってな。今お前のそばに送る)
「送り忘れた物?…………!?」
呟く様に返すと、テントの外で数回雷鳴が鳴り、直後にドスン!という重いものが低い高さから落ちる音が響く。
「何だぁ!?」
竹田が驚きの声を上げながらテントの外に駆け出し、タッカーたちもそれに続く。
「!……」
1人残った光秋も、急いで上着を置いていた丸椅子の下にある制靴を取って履き、左手に掛かりっぱなしの携帯電話を持って外へ向かう。目が覚めてから始めてまともに体を動かすために、足取りはややふらついている。
若干頼りない足取りでテントから出ると、
「…………」
正面に多数の白いブロックが積み上げられ、それをタッカーたちが驚きの目で眺めている。
ブロック1つ1つは正六面体の形をしており、大きさはニコイチの掌に納まるくらい、それが5つずつ2段に積まれている。
―この白いのは……!―
光秋は白い空間で見た白い板のことを思い出し、電話を左耳に当てる。
「神モドキさん、これは……」
(さっき説明した、ニコイチの予備部品だよ)
―やっぱり……―
「……これ、何だって?」
思いつつ光秋は白いブロック群に目をやり、振り向いた竹田がブロック群を指しながら訊くいてくる。
「ニコイチの予備部品だそうです。そういばさっき言わなかったけど、白い空間でも似た様な物を見ました」
光秋は電話から少し顔を離して応じる。
と、
「ちょっと貸せ」
竹田の右隣に立っていたタッカーが振り返って光秋に近寄り、電話を奪う様に取って右耳に当てる。
「お前か?ジャップが話してた神様モドキってのは」
「……」
光秋も左耳を電話に近づける。
(お前は……あぁ。あいつの近くにいる奴の1人か)
「……俺はアレク・タッカーだ!覚えておけ!」
思い出した様に言う神モドキに怒鳴ると、タッカーは電話を光秋に返す。
「……もしもし?」
(たく。怒鳴らくてもいいじゃねぇか。なぁ?)
電話越しに光秋は、神モドキの不満そうな声を聞く。
「はぁ……それより……」
言いながら、ブロック群を見る。
「なんでこんな物を送ってきたってです?それもこんなに。しかも半年も経って」
(オレとは別の奴が、またお前にちょっかいを出した時のためにだよ。今まではそんなことはなかったが、一度あればまたあるかもしれないからな。それに、予備は数が多いに越したことはないだろう?)
「それは、まぁ……」―またあんなのが来るってのか?―
一瞬背筋に悪寒が走る。
(使い方はさっきやった通り、塊を傷に当てればいい。あとは必要な量が勝手に移動し、数秒で傷を塞ぐ。ただし破損箇所によっては、それだけじゃ直せない所もある。その場合は、またオレの所に呼ぶ。これだけ説明すれば充分だろう。じゃあな)
「!あっ……」
光秋の返事を待たずに、電話は一方的に切られる。
「……」
神モドキの少し勝手な態度に若干の不満を覚えつつ、光秋は携帯電話をズボンの左のポケットに仕舞うと、
―ところで……―
ブロック群を少し困った思いで見つめる。ちょっと上杉が一番右下のブロックを右手で触っているところである。
同時に、伊部が自分の許に近づいてくる。
「伊部二尉……これ、どうしましょう?」
「んー……」
ブロック群に困った顔を向ける光秋に、伊部は少し考える。
「とりあえず、カプセルに入れてみたら?ニコイチの主成分の塊なら入るでしょう」
「……それもそうか」
応じると速足でテントに戻り、ベッドの上の上着の内ポケットにカプセルが、他のポケットに小物たちが入っていることを確認してそれを羽織る。
と、
―……?『ニコイチの主成分の塊』?これは、神モドキさんが白い空間で言ったことだよな?その時、伊部二尉は綾だったよな……なんで二尉の口からこんな語彙が出たんだ?―
不思議に思いつつ、光秋は上着のボタンを締めながら速足で外に戻る。
伊部のそばに着くと、内ポケットからカプセルを出し、カプセルが「入」になっていることを確認すると、右手に持ったそれの先端を上段中央のブロックに向けてボタンを押す。
が、
「……?」
カプセルの先端から放たれた光線は狙ったブロックに当たるもののなにも起きず、少しして光線の放出も終わる。
「入らない?」
伊部が意外そうな顔をする。
「……たぶん、あの状態じゃ入らない、そもそもカプセルが認識しないのか、カプセルの容量がニコイチ一体で一杯なんでしょう」
カプセルとブロック群を見やりながら、光秋はとりあえず浮かんだ推測を言う。
―後でマニュアル見て確認しておこう……―
そう思いながら、カプセルを内ポケットに戻す。
「カプセルには仕舞えないのか……」
言いながら、ブロックから手を放した上杉が光秋と伊部の許に歩み寄ってくる。
「そうみたいです……」
光秋が応じる。
「じゃあとりあえず、大河原主任に来てもらうか。トラックと、あればだがクレーンか何かを持参で」
最後の方は渋い顔で言うと、上杉は右の親指で後ろのブロック群を指す。
「まさかと思ってサイコメトリ―してみたが、何の情報も伝わってこない。アレにもやっぱ、超能力は通じねぇみてぇだ」
「そうですか……」
短く応じると、光秋はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、大河原主任に電話をする。
少しして、大河原の心配した声が電話越しに響く。
(二曹!寝込んだと聞いたが……もう大丈夫なのか?)
「はい。お騒がせしました」
光秋は軽く頭を下げながら応じる。
「ところで主任。今お時間ありますか?」
(ん?黒い奴の片付けが終わったところだから、あることはあるが)
「すみませんがトラックと……」―あ、いや。積み込みはニコイチでやればいいか。ついでにマニュアルも見たいし―「を持って、病院用のテントの前に来てください。トラックはなるべくたくさん積めるやつで」
(?……いったいなにをするんだ?)
「神モドキさんからまた送り物が届いたんで、その搬送に」
(何?)
大河原は驚きの声を上げる。
(わかった。すぐに向かう。病院用テントの前だな)
「はい。お願いします」
(了解だ)
言うと大河原の方から電話は切られ、光秋は携帯電話を上着の左ポケットに仕舞う。
「クレーン頼まなかったけど、いいのか?」
電話の間に歩み寄っていた竹田が訊く。
「ニコイチで積み込みます。それに、マニュアルにアレの記述があるかも確かめたいし」
ブロック群を見やりながら応じると、光秋は内ポケットからカプセルを出し、「入」を「出」に切り替え、テント側に先端を向けてボタンを押し、左膝を着いたニコイチを出現させる。
カプセルを内ポケットに戻してリフトでコクピットに上がり、席に着いて認証を済ませると、左肘掛からマニュアルを取り出し、画面を開いてカプセルの項を見る。
「やっぱり容量はニコイチ1体分なんだ」
(どうした?)
外音スピーカー越しのタッカーの声に、光秋はハッチを開けて席を機外に出す。
「やっぱり、カプセルに仕舞えないようです。ニコイチ1体分しか入らないって……やっぱり、大河原主任を待った方がいいですね」
ニコイチの手前側に立つ竹田たちと、ブロックのそばにいるタッカーと純を見ながら応じると、マニュアルの画面を元に戻して左肘掛に戻し、
―……どうせなら、充電しとくか―
と、内ポケットのカプセルを右肘掛に納めて、そのまま待つことにする。
少しして、緑の大型トラックがブロック群の右側に停まる。
「二曹、待たせたな。コレか、送り物というのは」
右の運転席から降りた灰色のツナギを着た大河原が、ブロック群を見ながら通りのいい声で言う。
「ところで、なんでニコイチに乗っている?」
「コイツで積み込みます。ソレ超能力効かないみたいで」
「なんだと?」
ニコイチの上からの返事に聞き覚えのある声が応じるや、制服姿の藤原三佐が左の助手席から降り、ブロック群の前に駆け寄って両手をかざす。
「フンッ!…………」
少しして藤原は両手を下ろし、光秋に顔を向ける。
「確かに、ダメだ…………加藤、もういいのか?」
「はい。お騒がせしました。ところで、なぜ三佐もここに?」
「大河原主任がここに向かっている途中でばったり会ってな。お前の様子見に乗せてもらったんだ」
「俺は、よく考えたら積み込みの人員を連れてこなかったんで、ちょうどいいと三佐に頼んだんだが……」
話に加わりながら、大河原も藤原の左隣に立って光秋を見上げる。
「サイコキネシスが通じないなら、しょうがないか……では二曹、頼む」
「はい」
光秋が応じると、藤原と大河原はトラックのそばに寄り、タッカーたちも端に寄って道を開ける。
光秋はシートベルトを締めると、席を機外に出したままニコイチを立ち上がらせ、ブロック群のそばに歩み寄る。
ブロック群を上から見て、後ろにももう5つあることに気付く。
―5個が上下4組ずつだから、20個か……―
思いつつ、ブロックを左右の手に1つずつ持たせ、高い柵があるトラックの荷台に移していく。
荷台全体に敷き詰める様に置き、余ったブロックを運転席側のブロックの上に重ねると、
「終わりました」
と、トラックの助手席側に立って作業を見ていた大河原と藤原に呼び掛ける。
「ご苦労。とりあえず装備品置き場へ運ぼう。間に合えば、黒い奴と一緒に持って行ってくれくかもしれんしな」
そう言うと大河原は運転席側に寄ってドアを開け、藤原を見る。
「三佐は?」
「儂はけっこう。こいつらと歩いていきます」
「ん、それでは」
言うと大河原はトラックに乗り込み、Uターンして来た方へ戻る。
光秋はニコイチから降りてカプセルに収容し、それを内ポケットに戻すと藤原の許に歩み寄る。
「改めまして三佐、お騒がせしました」
軽く頭を下げながら言う。
「うむ。元気になってなによりだ……そうだ。それなら一緒に来てくれ。今回のことの報告を高官たちにしなければならん」
「はい」
応じると、光秋は振り返ってタッカーたちに一礼し、藤原の後を追って大河原が行った方へ歩き出す。歩きながら上着のポケットから時計と数珠を取り出して左手首に巻く。
「しかし、演習が実戦になるとはなぁ……」
「そうですね……」
藤原の呟に、光秋も呟く様に応じる。
「しかもその敵が、全く得体の知れんもの――正真正銘のアンノウンとは…………ことが済んだ後、つまりお前たちが帰ってきた後も、高官たちは上を下への大騒ぎだったぞ」
「それは……そういえば、あの黒い人型はどうしたんです?主任がちらっと、『一緒に持って行ってくれるかもしれない』と言ってましたが」
「アレかぁ……主任に聞いたところでは、合軍の基地に運んでサンプルとして調べるそうだ。もっとも、主任も詳細はわからないようだったがな」
「サンプル、ですか……」―当然か。ニコイチに次ぐ異世界の産物だもんな……もっともそれを言ったら、僕もそうなんだが…………―
そんなことを思いつつ、光秋は藤原の後を追い続ける。
しばらく藤原の後ろをついていくと、前方に大型のテントが見えてくる。
―あれ、今朝演習の説明を受けた……―
富野大佐がスクリーンを用いて作戦説明をしている時を思い出しながらそう思い、加えて藤原の足取りからそのテントに向かっていると察する。
と、
「三佐。加藤」
「……!」
右側から呼び掛けられて顔を向けると、制服姿に制帽を被った小田一尉が2人の許に歩み寄ってくる。
「小田一尉」
光秋が応じると、小田は光秋の左側に近付き、
「三佐、加藤も」
と、歩きながら持っていた2つの制帽を2人に渡す。
「うむ」
「ありがとうございます」
足を止めずに応じながら受け取ると、2人はすぐにそれを被る。
「もう大丈夫なのか?」
「はい。お騒がせしました」
小田の心配を含んだ問いに、光秋は頭を下げて返す。
少しして大型テントのそばまで来ると、藤原はその右隣に建つ小振りのテントへ向かい、小田と光秋もそれに続く。
―大きい方じゃないのか?……―
ふとそう思う。
布扉の前に着くと、
「失礼します」
藤原は右手で敬礼をして中に入る。小田も敬礼をして後に続き、光秋も2人に倣ってそれに続く。
テント内には制服に制帽を着けた富野大佐と、富野から「安彦」と呼ばれた細身の男が、出入り口の反対側に置かれた折り畳みの長テーブルに肘を着いて座っており、その前には2つのパイプイスが置かれている。出入り口から見て左側には小さめの机と椅子が、机の上にはノートとペン、小型の録音器が置いてある。
藤原は少し歩いて立ち止まり、小田がその左隣に、光秋が右隣に着く。
「藤原大吉三佐、加藤光秋二曹、参りました」
「記録係の小田仁一尉、参りました」
「ん。3人とも席に着いてくれ。早速始めたい」
「「「はい」」」
藤原と小田にテーブルの右側に座る富野が応じると、小田はノート等が置かれた机に、藤原は正面の左の椅子に座る。
―……『査問』っていうのを映画がなにかで見たが、それみたいだな―
思いながら光秋も右の椅子に座るが、同時に僅かながら再び緊張を覚える。
「地球合衆国陸軍中佐の
テーブルの左側に座る男が言う。
「加藤二曹」
「……はい」
少し緊張を含んだ声で応じる。
「まず、君の名前と所属、階級を述べてくれ」
「はい」―正式名でいった方がいいか?―「超能力者支援機構、京都支部実戦部隊一般、藤原隊所属、加藤光秋二曹です……」
言ってから、横目で小田が素早くノートにペンで記述をしているのを見る。
「ん。黒い人型兵器出現から、その撃破までの経緯を話してくれ」
「はい……まず、演習中に空に雷の塊の様なものを発見、直後にそこから黒い大きな穴が現れ、そこから黒い人型が現れるのを見ました。その後、実弾への換装のために装備品置き場へ戻り、換装準備が整うまで待機。換装後、人型と会敵、交戦に入りました……その後…………」―言っていいのか?―
暗い空間のことを思い出し、話すべきか悩んでしまう。
「どうした?続けたまえ」
急に口をつぐんだ光秋に、安彦は急かす様に言う。
「……少々、その……荒唐無稽な話になりますが?」
「構わん」
富野が言う。
「それを言ったら、我々はとっくに荒唐無稽な状況の中にいるんだ。気にせず見たまま聞いたままを話せ」
「はい……その後、再び現れた黒い穴に人型に押し入れられ、気付いた時には、暗い荒野の様な場所にいました……」
言ってから富野と安彦の顔を見、なにも言わないのを見て話を続けることにする。
「そこで再び人型と会敵、交戦に入りました。あ、その直前に、人型の胸の下の赤い部分に黒い雲の様なものが入り込むのを見ました」
「黒い雲?」
安彦が一瞬眉をひそめる。
「……交戦中、一度やられそうになりましたが、ニコ……UKD‐01が『蜂の巣』で見せた状態に変化、赤い部分に一撃を入れ、なんとか撃墜しました」
「『蜂の巣』の!?」
富野が明らかな驚きを含んだ声を上げる。
「その後、こちらに帰還したのか?」
「いえ、その前に……白い空間に呼ばれました」
安彦の問いに、光秋は言葉に困りながらも答える。
「白い空間?……」
安彦が首を傾げる。
と、
「君がこちらの世界に来る途中で寄ったという、白い人型がいる場所のことか?」
「はい」
「あぁ……わかった。続けてくれ」
富野の問いに応じると、安彦が小さく納得の声を上げで先を促す。
「はい。白い空間に呼ばれて、白い人型……に会いました」
一瞬「神モドキ」と言おうかと思ったが、結局言わないことにする。
「そこで黒い人型が、他の白い人型の様な存在によって作られた一種の兵器であることと、白い人型の様な存在が他にもいることを教えてもらいました……加えて、01の修理もしてくれました。その後、こちらの世界に帰還しました……報告は以上です」
「……なるほど」
安彦が呟く様に応じる。
と、
「『暗い荒野の様な場所』と言ったな。詳細を話してくれ」
富野が促す。
「はい。星明かり程度の明るさの空と、暗い荒れ地がどこまでも続く、殺風景な所でした……これ以上は説明のしようがありません。それで全てなんです」
「『蜂の巣』の時の様な状態になったと言ったが、また暴走したのか?」
富野が続けて訊く。
「いえ。01と一体化する様な感覚は同じでしたが、今回はある程度恣意的に動かせたと思います。周りの状況も把握できていたので」
「……そうか……」
富野は呟く様に返し、少し考える顔をする。
「白い空間にいた際、01を修理してもらったと言ったが、詳しく教えてくれ」
安彦が指示する。
「はい。自分でもその時気付いたのですが、演習場での交戦で、01の左腕に傷ができていたんです。それを直すために、白い人型曰く、『01の主成分の塊』の板をもらい、それを傷口に当てて塞ぎました」
「傷口に当てる……それだけか?」
「はい」
「……」
光秋の返答に、安彦は少し驚いた顔をする。
と、
「01の主成分の塊ですが、二曹が回復後、こちらに送られてきました」
「何!?」「!」
藤原の捕捉に安彦が声を上げ、富野が考え顔を中断する。
「01の起動実験班の大河原主任が装備品置き場へ搬送しました。間に合えば、黒い奴と一緒に運ばれるでしょう。間に合わずとも、後から送られると思いますが」
「……」
「……」
藤原が応じると、富野と安彦は黙ったまま互いを見やる。
と、
「……わかった。退出していい」
「はっ。加藤」
「……はい」
富野の指示で立ち上がった藤原の呼び掛けに応じると、光秋も後に続いて出口へ向かう。
と、
「あ、ちょっと待った」
「「?……」」
安彦に呼び止められ、藤原と光秋は振り返る。
「今回の一件だが、軍とESO、それらの関係者以外には漏らすな」
「……」
安彦の針の様な視線に黒い人型と対峙した時の様な悪寒を覚え、光秋は束の間返答ができなくなる。
「了解です」
「……!」
言いながら藤原が敬礼をし、光秋もそれに倣うと、2人はテントから出て来た道を戻る。少し遅れて小田も後から追い付く。
テントからかなり離れた辺りでいったん立ち止まると、ようやく緊張から解放された光秋は、無意識に力んでいた体を緩ませ、
「ふぅー…………」
と、安堵の息をつく。
「査問っていうのを聞いたことがありますが、あんな感じなんですかね?」
「大袈裟な。そんなに緊張したか?」
左後ろに立つ小田が微笑を浮かべて言う。
「まぁ、ことがことだ……」
右前に立つ藤原が、こちらも少し安堵した顔で言う。
「とりあえず、儂らの仕事は殆ど終わった。あとは荷物の片付けをして、帰るだけだ」
「……ですね」
藤原の言葉に、小田も安堵した顔で応じる。
と、
「……?」
遠くにジェット機の噴射音を聞いた光秋は、辺りを見回して小さな機影が左から右へと行き過ぎるのを見る。
「けっこうデカイな……輸送機か?」
光秋の視線を追った小田が、右手を日除けにして言う。
「黒い奴を回収に来た機じゃないか?そうなら、あの様子だとニコイチの部品の積み込みも間に合ったようだな」
藤原も2人の視線を追って言う。
「…………さて、片付けにいくぞ」
「はい」
「……はい」
視線を下ろした藤原に、小田と光秋も視線を下ろして応じ、前進を再開する。
「…………そうだ、帰ったらみんなで飯でも食いに行くか。いつもの店に。加藤と伊部の生還祝いに」
「いいですね。明日は休みだし、偶には」
歩きながら提案する藤原に、小田は賛成の声で応じる。
が、
「生還祝いって……そんな……」
光秋は少し困った顔をする。
「そう気張るな。あくまでも名目だ。それに、偶には息抜きも必要だぞ」
「そうですか?……それなら」―確かに、偶には飲み会っていうのも、な……―
小田に言われて困った顔を消すと、心なしか楽しみを覚える。
3人はしばらく歩いて竹田と伊部と合流すると、荷物の片付け作業に向かう。
道中、藤原が食事に行く話を伝え、
「マジっすか!やったー!久しぶりに飲むぞぉ!」
と、竹田が非常に喜ぶのを前に見つつ、光秋は左隣を歩く伊部に問う。
「タッカー中尉と純さんは?」
「あの後、飛行場に行くって。さっきたくさん飛行機が飛んでるのを見たから、基地に帰ったのかも」
と、
「おい、竹田」
「ちょっとくらいいいでしょー。上杉にもメールしとこ」
咎める視線を送る小田にかまわず、竹田は取り出した携帯電話を操作する。
「……私も、後でフミを誘おうかな」
それを見て伊部は呟く様に言い、光秋も、
―じゃあ僕も中尉を……―
と思ったものの、
―……いや、どうしようかな…………―
前を歩く竹田を見、誘うかどうか迷う。
午後3時。
テントの解体や装備品の撤収等を終えた光秋は、伊部と共にニコイチに乗り込み、足元にいる藤原、小田、竹田を見る。
「では、お先に」
「あぁ。一度支部に戻って自主解散しろ。6時にいつもの店に集合だ。伊部、教えてやれ」
「了解です」
「では」
藤原の指示に返すと、光秋は操縦席を機内へ下ろしてハッチを閉め、右ペダルを軽く踏んでニコイチを上昇させる。左パネルの地図で位置関係を確認すると、右操縦桿を倒して前進する。
左隣の伊部がカバンからビニールシートとクッションを出してそれに座るのを横目で見つつ、先程のことを確認する。
「横尾中尉への連絡は?」
「ニコイチに乗る少し前にした。すぐに返事がきて、純君とタッカー中尉も誘うって」
「そうですか」―迷うこともなかったな……―
と、
「……ごめん、なんか急に疲れちゃって……支部に着くまで寝かせてくれない?」
伊部が寝むそうに言う。
「いいですよ。ただ、横になれませんが……」
「大丈夫。わるいけど、着いたら起して」
「了解です」
「…………」
光秋が応じるや、伊部は操縦席の左肘掛に背を預け、両目を閉じる。
―……それじゃあ、なるべく揺れないようにしなきゃな―
寝入った伊部を横目で見ると、心なしか慎重な移動をするように努める。
しばらくして京都支部上空に着くと、光秋は本舎を前にして正門側にゆっくりと着地し、ニコイチの左膝を着かせる。
「…………着いたぁ?」
その際の微震で起きた伊部が、目をこすりながら欠伸混じりに訊いてくる。
「はい。揺れで起しちゃいましたか?」
シートベルトを外しながら光秋は応じる。
「うん……でも、起してって頼んだわけだし…………!」
言うと伊部は伸びをし、光秋はハッチを開けて操縦席を機外へ出し、ニコイチの右手をハッチの上に上げる。
シートとクッションを仕舞って左肩にカバンを提げた伊部が掌の上に移動すると、光秋はそれをゆっくりと下ろす。
伊部が掌から降りたのを確認すると、左耳の通信機を右肘掛に納め、カプセルを取り出して上着の内ポケットに入れると、操縦席の下に置いたカバンを右肩に斜め掛けし、リフトを出して地面へ下りる。
内ポケットから出したカプセルにニコイチを収容してソレを戻すと、光秋は左隣に立つ伊部を見る。
「じゃあ今日は、お疲れ様」
「お疲れ様です」
一礼した伊部に、光秋も一礼で応じる。
「とりあえず、いったん解散。一度帰宅して着替えなんかを済ませたら、5時半に正門前に集合。これでいい?」
「了解です」
「じゃあ、また後で」
「はい」
光秋が応じると、2人は正門をくぐり、光秋は左、伊部は右へ向かう。
いかがでしたか。
ブロックについては、よくある自己修復機能に対して僕なりに納得のいく設定を考えた結果です。今のところ軽く触れる程度ですが、コレの詳細も後に明らかにしていく予定です。
終盤にありましたように、次回は今までで一番肩の力を抜く回になるかもしれません。お楽しみに!