白い犬   作:一条 秋

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 今回はプロローグであること、また本サイトの機能に慣れるための試しも兼ねているため、とても短い文章となります。
 では、どうぞ!


旅立ち編
プロローグ 旅立ち


2010年3月13日土曜日午後11時。

 

 薄ら雪の降る高速道路のバス停に、加藤(かとう)光秋(こうしゅう)はいる。身長177センチ少々、短めの黒髪で少し痩せ型。顔の中心で五分五分に分けた髪型をし、茶色の目に厚めのレンズが入ったメガネを掛けている。薄朱地にチェック模様のワイシャツと深緑色のズボンを着、茶色のコートを羽織り、灰色地の厚い靴を履いている。背中には黒いリュックを背負い、右肩には斜め掛けに深灰色のカバンを提げている。

 その傍らには母がいる。長い黒髪を後ろで一本に束ね、中肉中背といった顔付である。服装は光秋と比べて軽装で、オレンジ色の薄いコート一枚、荷物も持っていない。

 大学進学を機に、光秋は新潟から京都へ引っ越すことになり、母は今回、その見送りに来ているのである。

 そうこうしている内に、目的のバスが来る。二人の前で停車して扉が開くと、制帽に背広姿の乗務員がグリップボードを手に降りて来る。光秋は乗務員に近づき、バスのチケットを見せるのと同時に、

「これ下にお願いします」

と、背負っていたリュックを差し出す。乗務員は、

「はい」

と応じてそれを受け取り、急ぎ足でバスの荷物置き場へ向かう。少しして急ぎ足で戻って来ると、光秋に判別用の番号が書かれた札を渡す。

 受け取った光秋は振り返って母を見、

「それじゃあ」

「うん、じゃあね」

と言葉を交わし、バスに乗り込み、車体左側の前から三番目の席に座り、シートベルトを締める。

 それから少しして扉が閉まり、バスが動き出す。

 光秋は座席の上に置いてあるブランケットを広げて脚に掛け、靴を脱ぎ、背もたれを一杯に倒して寝る姿勢に入る。

―いよいよだ……―

大学生活や初めての独り暮らしに期待しながらも、まずは着いた後に備えて寝ようと努める。

 

 一時間程経った頃。

 新生活への期待から来る興奮やバスの振動でなかなか寝付けなかった光秋だが、ようやくうとうとしてくる。

 が、そう感じた次の瞬間、バスに激震が走る。

「!……」

車体が激しく揺れると同時に、光秋のやっときた眠気も完全に吹き飛ぶ。

―どうした?事故か?―

と思った刹那、視界一杯に光が広がって…………

 

「…………!」

気が付くと光秋は、真っ白な空間に一人になっている。霧に包まれているわけではなく、さながら純白の白紙の上に放り込まれたといった感じである。

 そんな中に光秋は、浮いている。少なくとも、足や尻が地面に着いている感覚がない。一方で上下の感覚はあり、さっきまで座っていたにも関わらず、靴を履いて直立している。

―これは……夢?……いや、起きている時の質量を感じる。少なくとも夢じゃなさそうだ。とするとここは…………あの世か?―

そう思いだすと、自然と微笑みだす。

「皮肉だねぇ。そんなもの否定してる奴に限って、案外行けるのかなぁ?」

 ―残念ながら、否、安心しろ、かな?ここはそんな所じゃない―

と、何処からか声がする。

「!……」

誰もいないと思い込んでいた光秋は面食らい、若干の恐怖を覚える。

「誰だ!何処にいる!」

声の限りに叫ぶと、

―お前の後ろ―

「!…………」

 急いで振り返った光秋は、それを見てしばらく言葉を失う。

 数十秒程間を置いて言葉を取り戻した光秋は、

「……何だ……あなたは?」

と、最初の疑問を口にする。

 そこにいるのは人間ではない。形こそ人型だが、人間との共通点といえばそれくらいである。周囲以上に純白な体に衣類の類は見られず、光秋同様直立姿勢をとっている。顔は完全にのっぺらぼうで、口すらない。にもかかわらず、何処からか言葉は届くのである。

 それは答え出す。

―オレはお前らが『神』と呼ぶ者、に()()()()()()()だ―

―『極めて近い』?……―「神そのものじゃないんで?」

―あぁ、まだそこまでは達していない―

―神に近い存在……いや、それより今は―「じゃあ、ここは何処なんで?」

―ここは……そうだなぁ。お前たちが知っている概念で言えば…………!―

少し腕を組んで考えてから、不意に「神に近い者」はポンと手を打つ。

―異世界だな!―

「異世界?」

―あぁ。厳密に言えば世界、否、『宇宙と宇宙の狭間』、『中間地点』とでも言うべき……か?―

「そうだとしたらここは、『無』と言われる所では?なのに僕は生きていると言う。少なくとも、空気と、あと自分の体とあなたが見えるってことは、光もあるってことでは?これはどういうことなんで?」

―……なるほど。事前調査の結果通り、賢い方だな―

―『調査』?―

―お前の知識からすれば、尤もな質問だ。答えは、創ったんだよ―

「創った?」

―そう、お前を生かすためにな―

「…………」

―さて、質問がもうなければ、そろそろ本題に入らせてもらう―

「本題?」

―あぁ、これを見ろ―

そう言って、「神に近い者」は右腕を上げる。

 上げ終わると同時に、突然それの背後に巨大な人型の物体が出現する。

「!?……」

 現れた物体は、ビルの三階分かそれ以上の大きさを誇り、全体的に細身で角張った輪郭をしている。胸部が突き出る形となっており、腰回りは防具の様な板で覆われ、四肢は丸みを帯びている。色は周囲同様純白で、金属質であるが、関節や腰の辺りは黒いカバーで覆われており、足底は赤く塗られている。

 何より特徴的なのは頭部である。おそらく人の顔を模したのであろう、上側に等間隔に配置された緑のレンズは目を、下側の横に走る線は口を、最下部の直方体型の突起は顎を想起させる。顎と目の周りも赤色であるが、こちらは少し透き通った色合いである。それらを覆う様にヘルメット型の頭頂をし、さらにその上には、四角形の薄い角状の突起が生えている。

「…………」

あまりの展開に、再び光秋は言葉を失ってしまう。が、今回は先程より少し早く回復する。「驚き」に対する免疫が付いてきたのだろうか。

「これは?……」

―まず最終調整を行う―

「?……うわぁ!」

光秋の問いを聞き流す様に「神に近い者」がそう言うと、突然体が引っ張られる様に上昇し、十秒と経たずに物体の足元から胸の高さへ移動する。そして物体目掛けてゆっくりと前進し、それに合わせる様に物体の胸部上部が前にスライドし、開いた跡から座席がせり上がる。布の質感を持つ茶色いシートを中心に、肘掛の先端にフック状の棒を生やし、脇には右に二枚、左に一枚シートに脚を伸ばしたパネルが配置され、上部には頭を挟む様に左右に一本ずつ半円状に反り返った棒が生えている。左回りに回って椅子に着かされると、肩と腰の脇からそれぞれシートベルトが独りでに伸び、光秋の体を固定する。

「ちょ、ちょっと!」

―大丈夫だ、害はない―

続いて座席が床ごと降下し、それに合わせて先程の胸部上部―ハッチが閉まりだす。

 座席が停止し、ハッチも閉まり切ると、光秋の周囲は一面の闇に覆われる。

―何を!?……―

「神に近い者」に会った時以上の恐怖に襲われ、思わず生唾を飲む。

 と、唐突にグゥーンという音がしたかと思うと、今度は真正面から強い光が照射される。

「!?……」

目が慣れて見てみると、光の正体は先程まで左右にあったパネルの一枚である。薄明かりの中、左右にも一枚ずつ見えることから、右側にあったやつである。

―さっきのはこれの移動音か―

画面を見ると、上部に漢字で横書きに「生体登録」とある。

―『生体登録』?―

―始めるぞ―

「!?」

「神に近い者」の声が聞こえたかと思うと、今度は両腕が引っ張られ、フック状の棒―操縦桿を掴ませられる。試しに放そうとするが、

―動かない?―

―大丈夫だ、じっとしていろ―

続いて半円状の棒が頭を固定し、光秋は完全に身動きが取れなくなる。

―……!?……どうするつもりだ?―

と、棒からピッという電子音が聞こえたかと思うと、上から青い輪状の光が降りてきて光秋の体を精査する。同時に操縦桿からも同様の光が発し、手首側から指先へと精査していく。

―……何をして―

―失礼―

「え?……!?」

メガネが勝手に額に上がると、中央パネルの上部中心から赤い光が放たれ、光秋の目を精査していく。

「!?……」

眩しさに目をつぶろうとするが、精査が終わるまで瞼は動かない。

 それが終わると頭の固定が外れ、手を押さえていた力もなくなる。

「!……」

急いでメガネを戻してパネルを見ると、先程の表示の下に「脳波」「静脈」「指紋」「網膜」と加えられている。

 光秋がそれを確認してすぐに、加えられた表示を塗り潰す様に大きく「登録完了」の文字が表示され、パネルの明かりが消える。

 再び真っ暗になったかと思うと、どこからかググググッという音と微かな振動が起こり出し、それから一呼吸置いて周囲が明るくなる。

「!?……」

目が慣れて見てみると、床以外の視界一杯に、物体に入れられる前に光秋がいた白い空間が広がっている。そして真正面には、「神に近い存在」が立っている。

―これでこいつは、お前の言うことしか聞かなくなった。お前だけの“力”だ―

「“力”?……」

―さて、準備も済んだことだし、そろそろ行ってもらうか―

「行くって、何処に?」

―だから、異世界だよ―

「『異世界』って……?」

―さっきも言ったように、ここはあくまで中間点。目的地に行ってもらう。そのためにそいつをくれてやったんだからな―

「……行って、何をしろと?」

―それは今言う必要はない。お前が思った通りに行動しろ―

「そんな!」

―これ以上時間を無駄にするのも癪だ。早く行け―

 そう言うと、座席の両側のスペースに物体が現れた時と同様に突然光秋のカバンとリュックが現れる。リュックに至っては判別用のタグ付きである。そして「神に近い存在」が右手を前にかざすと、物体はゆっくりと後退を始める。

 光秋は、急いで最後の疑問をぶつける。

「最後にこれだけ……その……なんで“力”っていうのが、ロボットなんです?」

―それか?それはな……―

そこで「神に近い者」は手を組み、胸を張って答える。

―ロボット兵器は(おとこ)のロマンだ!―

「…………へぇ?」

光秋は最初なにを言われたのか解からなかったが、数秒程してようやく頭が追いつく。

「…………えぇぇぇぇぇ!?」

―じゃあ元気でな。健闘を祈る―

「神に近い者」はそう言い、手を振って見送る。

「大丈夫なのか!?そんな理由で!?」

光秋が叫ぶ間にも「神に近い者」はどんどん小さくなり、光秋は物体と共に、白い空間の深淵へと向かって行く。

 




 いかがだったでしょうか?
 これはあくまでプロローグであり、これからも定期的に更新していこうと思います。
 感想などお持ちしております。ただ、お手柔らかにお願いします。
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