白い犬   作:一条 秋

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57 事後のひと時

 ハッチを開けて操縦席を機外に出すと、光秋は鼻で大きく深呼吸する。

「…………」

肺を満たす冷たい空気が、長時間の戦闘で火照った体をいい具合に冷ましてくれる感覚を覚える。

「……黒球はいったい何がしたかったんだ?」

 多少冷めた頭でそんなことを考えつつ、胸から腹にかけて刃物で斬り付けられた様な傷を走らせ、腹に大穴を空けたDD-02を見やる。

 その周囲には、すでに数名の緑服や青服が集まっている。

 と、

「コイツ!アタシのサイコキネシスが効かなかった奴じゃん!」

「?」

聞き覚えのある叫び声に下を見やると、いつかの赤毛の少女が左右に他の少女を、後ろに入間主任を従えて興奮気味にニコイチを見上げている。

「あの時の子……確か、桜っていったか?」

 数日前の食堂での記憶を辿って名前を思い出そうとするや、

「そこの白いの!動かしてる奴!いるんだろう?下りてこいよ!」

「…………特エスなら、大丈夫か?」

半ば喧嘩腰で少女――桜は続け、表情こそよく見えないものの声から凄い剣幕であることを察した光秋は、機密に触れるか多少迷いながらも大人しく従った方がいいと判断し、ニコイチに左膝を着かせてリフトで地上に下りる。

 その間に、少女たち3人はニコイチの許に駆け寄り、その後を入間が落ち着いた足取りで付いていく。

 地上に着いてリフトから降りると、光秋は正面に並ぶ3人と向かい合うことになる。

「あ!あんた……この間のオッサン……」

「どうも……桜さん、でよかったか?」

真っ先に驚きの顔をする桜に、光秋は努めて冷静に応じる。

「馴れ馴れしく名前で呼ぶなよ!」

「え?この人がこの間話してたジュース買ってくれたおじさん?」

「なんか、パッとしない人だねぇ?」

「ハハ、そりゃどうも……」

 機嫌悪く応じる桜、少し驚いた顔をする右隣のメガネに黒い長髪の少女、品定めの視線を寄こす左隣の茶色く長い癖毛の少女、三者三様の反応を見ながら、光秋は苦笑いを返す。

 と、3人に追い付いた入間が、光秋とニコイチをそれぞれ見やり、落ち着いた声で問う。

「あなたが、白い犬?」

「え?白い犬って、京都のエース?こいつが?……エスパーだと思ってた」

入間の問いに桜は、あからさまに動揺を浮かべる。

―正確な情報ってのは案外伝わらないもんなんだな……―

 桜の態度にそんなことを感じつつ、光秋は改めて4人を見据える。

「そうです。紹介がまだでしたね。京都支部所属の加藤光秋です。そしてコレが我が相棒ニコイチ……またの名を、『白い犬』です」

右手の親指でニコイチを指し、少し格好付ける様な言い回しで自己紹介してみせる。

 その時、

「……あれ?」

急に脚から力が抜け、崩れる様に膝を着いてしまう。

「ちょっと!大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫。ちょっと疲れただけで…………」―さすがにそろそろ限界だったか…………決めたい時には決まらないもんだ―

 心配そうな顔をするメガネの少女に、光秋は右手を前に出しながら自嘲して応じる。

「……三枚目」

「……仰る通りで」―緊張の糸が切れたんだな…………でも、ようやく終わった!―

 癖毛の少女の呟きに苦笑いして返しつつ、光秋はやっと心からの安堵を覚える。

 と、

「ちょっと光秋くん!大丈夫?」

伊部が慌てて光秋の左隣に駆け寄り、左腕を首に回して立ち上がるのを手伝ってくれる。

「えぇ。なんとか……」

左腕から伝わる伊部の実感、そして鼻をくすぐる体臭に、光秋は多少疲れを見せながらも安心した笑みを浮かべて応じる。

 立ち上がる拍子に、伊部に警戒の顔を浮かべながら半歩程後ずさる桜の姿が目に入る。

―さっきのことでビビってるのか……?最高レベルの超能力者といっても、一皮剥けば歳相応の子供か……―

思いつつ光秋は、気が強く暴力的だとばかりだと思っていた彼女の意外な一面を見られたことへの得な気分と、特エス以外の彼女の顔を見られたことへの安心感を覚える。

 と、藤原三佐、小田一尉、竹田二尉が歩み寄ってくる。

「無理が祟ったようだな。先に基地に戻れ」

 言いながら、藤原は光秋の前に立つ。

「いや、でもまだ作戦が……」

「検挙した者たちは順次護送している。森の中に落ちた者たちの捜索はこれからだが、それはお前がいなくとも大丈夫だ。なにより、もう体が持たんだろう?」

「……はい」

 藤原の指摘に、光秋は渋々それを認める。事実、全身に鉛が付いた様に体が重く、一人で立てないことはないが足元がかなり怪しい有り様なのだ。

「心配するな。後は片付けみたいなもんだからな」

「それに、足腰立たない奴がいてもしょうがないだろう」

「……そうですね」

 小田の気遣いと竹田の単刀直入な指摘に、光秋は素直に応じる。

「少なくともニコイチは退げて欲しいところだが……飛ばせるか?」

「基地までなら問題ありません」

 若干判断に困りながら問う藤原に、光秋は伊部から腕を離して自力で立ちながら応じる。

「ウム。それと伊部、念のため加藤に付いていってくれ。加藤も、基地に着いたら念のため医者に診てもらえ。短い時間の間に続けて赤くなったのはこれが初めてだからな。用心に越したことはない」

「「了解」」

 伊部と同時に応じるや、光秋はリフトに歩み寄る。

「とりあえず竹田、終了宣言がされたら腹括っとけ」

「えっ!アレマジだったんすかっ!?」

「当り前だろう。上官を振り回すとどうなるか、体に教えてやる」

「えぇ!そんなのパワハラじゃないっすか!三佐!助けてくださいよ!」

「……まぁ、今回は竹田の無茶のおかげで加藤の負担が減ったのは事実だ」

「でしょ!」

「だが、指揮系統からの逸脱は問題だな……だから小田、ほどほどにな」

「了解です」

「三佐ぁ!」

―二尉……お大事に―

 コクピットに上がる間に後ろから聞こえてくる藤原たちの声に、光秋は苦笑いしながら心の中に言う。

 リフトを仕舞って操縦席に着き、ニコイチを起動させると、右手で伊部をコクピットへ上げる。

「二尉、大丈夫ですかね?」

「いつものことだから、あんまり気にしないで」

「はぁ……」

伊部が補助席に着きながら返すと、光秋は操縦席を機内へ降ろす。

 ハッチを閉めてふと足元を見ると、伊部が来て以来蚊帳の外にされていた桜たちが、好奇心と敵愾心を含んだ目でニコイチを見上げている。

―そんなにコイツが嫌いかねぇ?―

思いつつ、ニコイチを立ち上がらせようと光秋は前を向く。

 その時、

「!」

モニター正面――ニコイチの目の前に、黒いスーツを着た男が滞空しているのを見る。

―浮いてるってことはサイコキノ?何者だ!?―

動揺しながらも、光秋は男に観察の目を向ける。

 身長は自分と同じくらいだろうか。短く切り揃えられた黒髪は少々癖があるものの、整った顔立ちと合わさって美青年という印象を与えてくる。氷点下を下回る気温にも関わらず防寒具の類は一切着けておらず、そのくせ涼しい顔で宙に浮いている。

 と、男もモニター越しに光秋を見返してくる。

「!……」

睨んでいるわけでもないものの、途端に強烈な悪寒が、それこそ赤くなった02にも劣らない程のものが光秋を襲う。

 と、

―……笑った?―

(君は、面白い奴だね)

男は口元を少し上げると、本当に面白いものを見る様な目を向けて言う。

 直後、

物部(ものべ)!?……お前物部か!?)

「?」

外音スピーカーから藤原の動揺を含んだ声が響き、光秋はすぐに足元に目をやる。

 すぐに拡大映像が表示され、信じられないもの――さながら幽霊でも見る様な顔をした藤原が映し出される。

―三佐がこんなに動揺してる!?―

普段からは考えられない藤原の様子に、光秋は驚愕する。

 その間に、男は藤原の方に顔を向け、

(お久しぶりです、藤原さん。今は確か、三佐でしたね。お元気そうでなによりです)

と、言葉通り久しぶりに会った知り合いに向ける様な笑みを浮かべる。

(今日は彼……白い犬でしたっけ?その様子を見に来ただけなのでもう帰りますが、近いうちにまたお会いできるでしょう。その時は盛大な催しをするので楽しみにしていてください。では)

「!」

 言うや男はテレポートで消えてしまい、安堵した後の突然の事態に光秋は絶句してしまう。

―あの人、三佐を知っていた?三佐の知り合いなのか?それに、僕の様子を見にきたって……―「伊部さん、あの人いったい……」

「私も、知らない……三佐なら知ってるみたいだけど……」

 言いながら伊部は拡大映像の中の藤原を見、光秋もつられる様に視線を向ける。

―……三佐があんな顔するなんて……―

そこには未だ放心した様に男がいた辺りを凝視する藤原と、そんな藤原を見て顔を見合わせる小田と竹田が映っている。

「……」

 束の間迷った末に、光秋は通信機越しに呼び掛ける。

「あの、三佐……」

(!)

 それで気を取り直したのか、映像の中の藤原がハッとしてニコイチを見上げる。

「今の人――」

(気にするな!)

 遮る様に返すや、藤原は顔にあからさまな狼狽を浮かべる。

(それよりも早く基地に戻れ!そして休め!)

「は、はい!」

 ただならぬ様子でそう続けられ、光秋は慌てて応じるやニコイチを直立させ、

「では、お先に!」

外部スピーカー越しに言うや基地へ向かって飛び立つ。

―あの人、いったい何者なんだ?それに、何で三佐があんなに狼狽するんだ?―

 答えようがない問いを心の中で弄ばせながらも、真っ直ぐに基地を目指す。

 

 しばらく飛んで基地上空に着くと、光秋はモニター越しに下界を見下ろす。

「……これは、思った以上に騒がしいですね」

 建屋の合間を忙しく行き来する大勢の人や車両に、思わずそんな言葉が漏れる。

「まだ作戦が終了したわけじゃないからね。報告とか補給とかあるんだよ。邪魔にならない所に下りて」

「はい」

伊部の説明に応じると、一時帰還の時同様に装備品置き場にニコイチを着地させる。

 操縦席を機外へ出して補助席を抱えた伊部を下ろし、自身も席を立ってリフトへ向かう。

「……今回はまた派手にやったなぁ」

振り返った際に目に入った細かい傷が無数に付いたニコイチに思わず呟くと、光秋はリフトを出して地面へ下りる。

 光秋がリフトから降りると、

「加藤二曹!」

数人の部下を引き連れた大河原主任が歩み寄ってくる。

「これは……ニコイチがここまで傷付けられるとはな」

 おそらくこれまでで最大のニコイチの損傷に驚嘆しつつ、大河原は部下に指示を出して詳細を調べさせる。

「DD‐02とやり合ったそうだな?」

「はい。正直、生きてるのが不思議なくらいです」

 心配そうに問う大河原に、光秋は半ば冗談を言う様に返す。

「1週間の待ち惚けの末に災難だな。もっとも俺としては、新しいサンプルが手に入って儲けものだが」

「はは……」

 冗談に冗談で返す大河原に、光秋は疲れた笑みを漏らす。

「話は三佐から聞いている。とりあえず今は休んでくれ。調子が整ったら武器のレポートを頼む。伊部二尉も、補助席のレポートよろしくな」

「はい」

「では、また後で」

 伊部が応じたのを見ると、光秋は大河原に一礼し、2人は装備品諸々を返却して医療棟へ向かう。

「詳しいことは診てもらわないと判らないけど、気分としてはどう?」

「少し疲れた感じはありますけど、気持ち悪いとか頭痛が止まらないとかはありませんね。強いて言うなら、足元が少し頼りないかな?」

 左隣を歩く伊部の問いに、光秋は感じたままを答える。

「また肩貸そうか?」

「そこまでじゃありません。大丈夫ですよ……伊部さんこそ、疲れてませんか?」

「私なんてどうってことないよ。殆ど座ってたようなもんだし」

「それでも、補佐役充分に……いえ、十二分に果たしてくれましたよ」

「……ありがとう」

光秋の素直な気持ちに、伊部は少し困った笑みを浮かべて応じる。

 少し歩いて医療棟に着くと、2人はその正面玄関をくぐる。

―これは……予想以上に凄いな―

それが棟内に対する光秋の第一印象である。

 病室はすでに埋まっているのか、廊下やロビーにまで人が溢れ、視界に入る者は皆必ず腕や脚を包帯で覆っている。

「まるで野戦病院だね。思ったより負傷者が出てたんだ……」

「…………僕、ここに来てよかったんでしょうか?」―すっごい場違いな気がしますが……―

 伊部の呟きに、光秋は少なくとも怪我はしていない自分に肩身の狭さを覚えながら訊く。

「なに言ってるの!過労もほっとくと大変なんだから。それに三佐も言ってたけど、短時間に2回も赤くなったのは初めてなんだから、異常がないか調べてもらわないと」

「……そうですね」

軽く叱る様に言う伊部に納得すると、光秋は診察室へ向かう。

 幸いその周囲は空いているため、すんなりと部屋に入ることができた。

「おぉ、加藤。待ってたぜ」

「上杉さん!……」

 診察机に座る上杉に一瞬驚きながらも、光秋はコートと制帽を脱いで床に補助席を置いた伊部に渡し、丸椅子に腰を下ろす。

「他の負傷者の手当ては済んだの?」

「えぇ。ちょうどひと段落したところに三佐から連絡があって。それじゃあ……」

 後ろに控える様に立つ伊部の問いに応じると、上杉は右手を光秋の額に当てる。

「うーん……多少疲れが出てるみたいだけど、心配する程じゃないかな。寧ろ合同演習で赤くなった時よりもマシなくらいだぞ」

「……やっぱり、慣れてきてるんですかね?僕がニコイチに」

「おそらくな」

 呟く様に言う光秋に、上杉はカルテにペンを走らせながら応じる。

「オレも最初は心配したぜ。赤くなることはこれまで何度かあったけど、2回続けてなんてな。送られていた映像観た時はびっくりしたよ」

「映像?」

「現場の映像。仕事の合間に観たんだよ」

「あぁ……」

 書きながらの上杉の説明に、光秋は納得の声を漏らす。

「どっちにしろ、オレができることはないな。体調が優れないなら、水分摂って少し横になるといいさ。寄宿舎の部屋がまだ使えるかな?」

「それがいいかもね。じゃあ行こっか」

「はい。ありがとうございました」

 上杉の診断に伊部が応じ、光秋もそれに相槌を打って一礼すると、伊部から受け取った制帽とコートを羽織って寄宿舎へ向かう。

 

 医療棟を出て少し歩くと、光秋と伊部は寄宿舎の玄関をくぐる。

「ここは静かですね」

「まだ作戦中だからね。みんな外に出てるよ」

「……そうですね」

医療棟とは対照的に寂しいくらい静かな寄宿舎に漏らした感想に伊部が応じ、光秋も納得しながら返す。

 途中でトイレに寄らせてもらい、自動販売機で500ミリペットボトルの温かいお茶を買うと、2人は光秋に宛がわれている部屋に着く。

 布団を敷き、コートと上着、制帽をカバンの上に置くと、光秋はベッドに腰を下ろしてお茶を少し飲み、それも上着の上に置く。

「それじゃあ少し寝かせてもらいます。おやすみなさい」

「うん。おやすみ。ごゆっくり」

 応じると伊部は部屋を出、その背中を見送った光秋は靴を脱ぎ、メガネを枕元に置いて布団を被る。

―……あぁ、やっぱり疲れてたんだなぁ…………―

 ドッと沸いてきた疲労感にそんなことを思う間に、意識は徐々に遠退いていく。

 

 そんなに広くない机、その椅子に腰を下ろし、学ラン姿の光秋は辺りを見回す。

―これは高校……いや、中学の頃か……―

 同じ様な机が周りに並び、真正面に教卓、その後ろに黒板があるどこか見覚えのある教室に、漠然とそう判断する。

 周囲には同じ学ランを着た男子たち、あるいはセーラー服を着た女子たちが三々五々にまとまってたむろしており、それを光秋は呆然と眺めている。

―この頃、周りと上手く着き合えなかったんだよな……自分のことを『社会不適応者』って言ってたっけ―

この頃のことを思い出そうとしていると、そんなことが浮かんでくる。

 それは決して周りに冷たくされたり、イジメを受けていたというわけではない。寧ろ周囲は光秋の体のことで適度に気を遣い親切にしてくれた一方、そんなことに関係なく当たり前に接してくれた。

―今にして思えば、僕の方から勝手に壁を作ってた気がする。体――障害のことで他人と違うと思い込んで、それで勝手にストレス感じて……もっと上手くやれていたら…………―

 そこで情景は一変し、DD‐02との戦闘で見た坂本の思い出が浮かんでくる。

―独りになりたくなくて、人を集める……僕とは逆だな。でも……確かに独りは寂しいよなぁ―

 目の前を過ぎていく記憶に、教室で感じたことと合わさってそんな思いを抱く。

―独りは気楽な反面、どうしても寂しさを感じる。僕は気楽さから独り好きだったけど……それでも寂しい時は寂しかったからなぁ…………だから、独りにならないように行動するのは、人間としては寧ろ当たり前のことなのかもしれない―

 そこで再び情景は変わり、綾と過ごした夏の日々が浮かんでくる。

―…………思えば、この時がこっちに来て一番満ち足りていた時だったかもしれない。自分を必要としてくれる人……否、もうそういうことじゃなく、愛しい人と一緒に過ごせた、大事な時間だったから……でもこの時にしたって、もっと上手く向かい合っていれば…………―

 そこで情景は消え、周囲は深い闇に覆われていく。

 

―…………夢、か……―

 まだ覚め切らない頭でベッドに寝ている自分を認識すると、光秋は今までの情景をそう判断する。

―まとまりがあるんだか支離滅裂なんだかわからん夢だったなぁ……ま、夢だしな―

 そう思うと上体を起こし、少し伸びてメガネを掛ける。

「もっと上手くやれていたら、か……後悔先に立たず、言ってもしょうがないことなのにな……」

呟くと、上着の上のお茶を取って飲む。

 寝る前はとても温かかったそれも今はすっかり冷たくなっているが、寝起きで喉が渇いている身にはちょうどよく感じる。

「…………そういや、中学の友達の顔久々に見たな」

 一気に半分程飲んで口を離すや、夢ことを思い出してそんなことを言う。もっとも、こうしている間にも夢の記憶は薄れていき、誰が出てきたかまでは思い出せない。

 と、夢の記憶に触発されてか、今日までの忙しさの中で忘れていたことを思い出す。

―…………夜行バスに乗る前、同窓会したんだよな。結果として、あれがみんなと会った最後になったってことか…………―

思いながら、顔がどんどん俯いていく。

 が、

「……いや、何を弱気になってる!会いたければまた帰って会えばいい。それまでは何が何でも生き延びてやる!友達にも家族にも、綾にだって、また会うまでは死ねない!意地でも向こう側に帰ってもう一度会ってやる!」

溜まった弱気を吐き出す様に独り宣言すると、残りのお茶を飲み干す。

「……そういや今何時だ?さすがにもう作戦も終わってるし、三佐たち帰ってきたかな?」

 言いながら靴を履いてベッドから立ち上がり、カバンの上の上着を羽織ってポケットから腕時計を出す。

―11時20分か。どれくらい寝てたんだ?―

思いながら時計と数珠を左手首に巻き、上着のボタンを掛ける。

 コートを羽織って制帽を被ると、空のペットボトルを持って部屋を出る。

 途中のゴミ箱にペットボトルを捨て、トイレで用を足して廊下に出ると、

「光秋くん!?起きたの?」

「伊部さん?」

ドアの前で通り過ぎようとしていた伊部と鉢会わせ、お互いに驚いた顔をする。

「ちょうど起しに行こうと思ってたとこ。三佐がみんなでお昼にしようって」

「わかりました」

 応じると、光秋は伊部を追って食堂へ向かう。

「みんなもう戻ってるんですか?」

「うん。食堂のそばで待ってる。タッカー中尉や上杉君もいるよ。大丈夫だとは言っておいたけど、みんな少し心配してたな」

「タッカー中尉も?」

伊部の言った思いがけない名前に、光秋は意外な顔をする。

 少し歩いて寄宿舎を出ると、2人は食堂のある建屋へ向かう。

 と、

「?……光秋くん、あれ」

「なんです?」

突然歩を止めた伊部の視線を追って、光秋は近くの建屋の影を見る。

 視線の先では、2人の人影が向かい合って話している。

「……古谷大尉と入間主任?」

「やっぱり、2人だよね?」

 予想外な組み合わせに、光秋は半信半疑で呟き、伊部も自信ない様子で返す。

「楽しそうに話してるみたいですけど、大尉と主任は知り合いなんですかね?」

「さぁ?会話までは聞こえないし、私もあの2人のことは知らないしね」

 そんなことを話す間に、古谷と入間は近くの建屋に消えてしまう。

「……私たちも行こっか」

「そうですね」

 人を待たせていることを思い出した伊部に光秋も応じると、2人は移動を再開する。

―古谷大尉と入間主任か……面白い組み合わせだけど、どんな関係なんだろう?―

 2人が話している光景を思い出しながら、光秋は好奇心から考えてみる。

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