左肩に01と描かれたゴーレム――デ・パルマ機に駆け寄った光秋は、屈んでいる膝の近くに立ち止まり、デ・パルマ少佐に促されて垂れ下がったワイヤーをおっかなびっくりに掴む。
「このスイッチで上昇な。ハッチまで上がると自動で止まる。あとこれ被ってけ。通信機が内蔵されてる」
「はい」
言われるままに渡されたヘルメットを被り、持ち手に設けられたスイッチを押してワイヤーを上っていく。
「関、ちょっとお前のゴーレム借りるぞ」
下でデ・パルマがそう言う間にワイヤーを上り切ると、光秋は慎重にハッチに足を掛け、転がり込む様にコクピットに入る。
「外から予想はしてたけど、ニコイチに比べてやっぱり狭いな。もっとも、向こうの方が豪華な造りなんだろうが……」
座席に腰を下ろし、それで一杯になってしまう空間しかないコクピットに独り感想を溢していると、ゴーレム・タンクに乗り始めた頃の小田一尉が似たようなことを言っていたのを思い出す。
―あの時の一尉も、こんなふうに感じてたのかな?なまじニコイチの方に先に乗っちゃうとなぁ…………―
思いながらニコイチの内装を思い浮かべると、光秋はゴーレムのコクピットを見回してみる。
普通の椅子ならば肘掛けに相当する部分には、左右共に大小色とりどりのスイッチが鈴なりに設けられ、その先には操縦桿と思しきレバーが1本ずつ――いずれも先端前部に装備品の引き金らしきスイッチが1つずつ付いている――と、カーナビ程の大きさの小型モニターが1つずつ備えられている。ハッチ手前には左に1つ、右に2つ――計3つのペダルが、左右と真上の壁には大画面のモニターが埋め込まれ、よく見ればハッチ上部には外側に向かって開いているモニターがもう1つある。
今は動力が落ちている所為かどれも灯っておらず、ハッチが開け放たれているためあまり感じないものの、この状態でハッチを閉じてコクピットを密閉した場合、とても窮屈に感じるかもしれない。
―広さといい、この座る感じといい…………感覚的に一番近いのは、トイレの個室かね?ちょうど1人用だし―
目の前の光景と、記憶の中にあるものを照らし合わせてそうまとめると、ハッチの穴からもう1機のゴーレムが顔を覗かせ、同時にヘルメット内のスピーカーからデ・パルマの声が響く。
(どうだ?合軍初のメガボディは?)
「00に比べたらですが、やっぱり狭い印象がありますね……それこそトイレの個室みたい……あっ!」
口が滑ったと思った時にはもう遅く、光秋は恐る恐るデ・パルマのゴーレムを見る。
その視線に気付いたのか、正面のゴーレムは胸の高さを合わせ、ハッチを開いて姿を現したデ・パルマが直接声を掛けてくる。
「トイレの個室、ねぇ……?」
「いえ、別に変な意味は!ただ広さといい、狭い場所に一人で座ってる感じといい、一番近いのがそれだったので…………」
慌てて弁明していると、デ・パルマは不意に口角を上げてくる。
「怒ってるわけじゃないさ。言われてみればそうかもなと思ってな」
「はぁ…………」
様子を観る限り本心らしい。投げ掛けられた感想を確かめる様にコクピット内を見回すデ・パルマに、光秋は相槌と共に安堵の息を漏らす。
「ま、それはともかくとして……まずは起動だな。左の白くてデカいスイッチ押してみろ」
「白くてデカい……あ、これですか?」
デ・パルマの指示に従って辺りを探し、左のレバーの近くにそれらしいスイッチを見付けると、ほんの僅かだが汗ばんだ指でそれを押してみる。
すぐに何処からともなく微かな振動が伝わり、両側と真上、左右の肘掛けに備えられた大小のモニターが灯り、それまでハッチから入ってくる外の光だけが頼りだったコクピット内を一気に照らしていく。
「…………」
数秒前までと比べてずっと見通しがよくなったコクピットに唖然としながら、光秋はより明確になった細部を改めて見回す。
膝掛け周り以外にも所々大小のスイッチが備えられ、3つの大画面モニターにはゴーレムの頭部から捉えたらしい周囲の映像が映し出されている。
肘掛けの小型モニターの内、左にはゴーレムの概要図を中心に機体の状態――現在は全て異常がないようだ――、装備品の情報――右手にマシンガンを持ち、両腰部にナイフを1本ずつ内蔵していることを図で表している――、電力と燃料の残量が表示されている。右には自機を中心としたレーダー映像が映し出され、正面すぐ近くにもう1機のゴーレムと思しき光点が表示されている。
2度目の観察もひと通り済むと、頃合いを見計らったかの様にデ・パルマの声が掛かる。
「よし、起動したな。じゃあ次は立たせてみるか。右側に赤いツマミがあるだろう。それを上に上げろ。あ、シートベルトはちゃんと締めてな」
「はい」
言われて光秋は、両腰部と両肩部から伸ばしたベルト4本を締めて体を座席に固定する。
「赤いツマミ……これですか」
軽く引っ張って締まり具合を確認すると右側に顔を向け、鈴なりになっているスイッチの内、赤いツマミ型のものを見付けると、下になっているそれを上に上げてみる。
すぐに曲がっていたゴーレムの両脚が真っ直ぐに伸び、連動してモニターとハッチから見える視界が数メートル高くなる。
―この高さ、ニコイチではさんざん見慣れているが……慣れない機体からだとちょっと怖いな―
約10メートルの視点から見る景色に若干震えていると、立ち上がって再びコクピットの高さを合わせてきたデ・パルマを正面に捉える。
「おいおい?立っただけでビビッてんのか?」
高さに対する怯えが顔に出ていたらしい。少し呆れた様に言ってくるデ・パルマに、光秋は強がってもしかたないと素直に応じる。
「もともと高い所苦手なもので……それと、初めて乗る機体ですからね。どうしても緊張して……」
「ま、わからなくはないが……まぁいいさ。立ち上がったんなら、次は軽く歩かせてみよう」
「はいっ!」
ようやくそれらしい操作ができることに、光秋は高さへの怯えを緩和させながら少し高揚した声で応じる。
「と、その前に……」
「?――!?」
急に言葉を区切ったデ・パルマに首を傾げていると、不意に正面のゴーレムが右手で自機を押してきて、突然のことに光秋は驚愕し、傾いたコクピットに全身を粟立たせる。
押されたゴーレムはよろめきながらもすぐに体勢を立て直し、コクピットが水平に戻ったことに安堵したのも束の間、光秋は悲鳴混じりの怒声を投げ掛ける。
「な、何ですか突然っ!!」
「この通り、ゴーレムにはオートバランサー――つまり自分の平衡を自動で保たせる機能が付いている。多少のことじゃ簡単には転ばないから、気楽に行けよ」
「……そういうことは事前に一言言ってからやってください。気楽にと言うなら尚のこと!」
今したことを平然と説明するデ・パルマに、未だ動悸が治まらない光秋は非難の目を向ける。
「そうか?そりゃ失礼」
「…………」
それに対してからかう様に微笑を浮かべるデ・パルマに、今度は呆れながら脱力する。
「加藤くーん!諦めろっ!それがデ・パルマ流の教え方だからー!」
「……わかりましたー!」
一連の様子になにかを察したのか、下から呼び掛けてくる関大尉に、どこか納得しつつあった光秋は口元に両手を添えて叫び返す。
「それで、歩かせるにはどうすれば?」
デ・パルマの顔を見て動悸も治まり、関とのやり取りで気を取り直すと、光秋は改めて問い掛ける。
「よし、まず左のレバーを見てみろ」
「左……」
言われて改めて左のレバーに目を向けた光秋は、その根元に一直線の溝が走り、その横に手前からS、1、2、3と書かれているのを見る。
「それは変速機だ。機体の移動速度の調整に使う。今はちゃんとSに――
「えー……はい、合ってます」
今までに比べて若干慎重な声で訊いてくるデ・パルマに、光秋も緊張感を改めつつ、左レバーに目を凝らして応じる。
「じゃあ、それを1に入れて」
「はい」
言われるまま、さっきより汗ばんだ手でレバーをSから1段進めて1に合わせる。
「合わせました」
「よし。これで最低速度で移動できるようになった。あとは右のレバーを進みたい方向に倒せばそっちに歩く……が、ここじゃ00に近過ぎるな……ちょっと、右に曲がってみろ。ゆっくりでいい」
「はい」
「関たちは離れてくれてるから大丈夫だが、念の為足元の確認は忘れずにな」
「はいっ」
デ・パルマの指示と念押しに硬い声で応じると、光秋は右のモニターで足元周囲を走査し、障害物がないことを確認すると右レバーを右にゆっくりと倒す。
「!…………」
レバーが倒れるのに合わせてゴーレムはゆっくりと向きを変え、ニコイチでの歩行と比べるとやや大きな振動を感じながら移り変わっていく景色に――そうなるように操作しているのが自分だという事実に、光秋は静かな、それでいて大きな感動を覚える。
(よし、そんなもんだ。ストップ!)
「はいっ」
真横を向いたあたりでヘルメットのスピーカーから響いたデ・パルマの指示に応じながら、光秋は右レバーを中央に戻し、それに合わせてゴーレムは平衡を保った上で動きを止める。
(その向きなら結構動けるだろう。今教えた通りに、少し好きに歩かせてみろ)
「はいっ……ところで、乗ってからずっとハッチ閉めてないんですが、大丈夫なんですか?」
ヘルメットのスピーカー越しに言ってくるデ・パルマに、光秋は左モニターに顔を向け、そこに映るデ・パルマのゴーレムを見ながら問う。
(ただ歩かせるだけなら別に問題ないが……そうだな……折角だし、完全に閉めてやってみるか。さっき起動させる時に押したデカいスイッチあるだろう。その横のひと回り小さいやつだ)
「横の……これか」
少し考えた上で出されたデ・パルマの指示に、光秋は言われた箇所を探って見付けたスイッチを押す。
それまで上側に上がっていた正面モニターがハッチの穴を塞ぎ、足場となっていた下側の装甲板が閉まったらしい音を響かせると、正面モニターに映像が映し出され、いよいよ視界全てがモニター越しとなる。
「閉まりました。モニターもちゃんと点いてます……じゃあ、少し歩いてきます」
(おう。さっきも実演したが、簡単に転ぶもんじゃなし。いざという時は自動でバランスとってくれるから、気楽に行けよ)
「はいっ」
自身気楽そうな声で告げるデ・パルマに応じると、光秋は左レバーが1に合っているのを再確認し、右レバーをゆっくりと前に倒す。
それに合わせる様にゴーレムはゆっくりと前進し、モニターを流れる景色と下から伝わってくる振動に、光秋は先程以上の感動を覚える。
―…………凄いっ!動かしてる。これ、僕が動かしてるんだよな……!?―
もちろん、冷静な部分では同じことをニコイチでさんざんやっていること、さらにはより激しい動作をすでに何度もしていることは自覚している。が、ゴーレムの操縦はそれともまた違うものであり、やはり昂揚せずにはいられない。
左右への進路変更や後退などを織り交ぜた歩行を続けることしばし、再びヘルメットから聞こえてきたデ・パルマの声に、光秋はゴーレムの足を止めて聴き入る。
(だいぶ手慣れてきたみたいだな)
「なんとか」
(じゃあ次のステップだが、足元にペダルがあるだろう、3つ)
「はいっ」
応じながら、光秋はハッチ前のペダルを見る。
(左レバーをSに、右レバーを中央に合わせた状態で左のペダルを踏んでみろ)
「……何が起こるんです?」
(踏んでからのお楽しみだ)
「そういうのいいですからっ」
突然の突っ張りに全身が粟立ったことを思い出しながら、企みの声が混ざるデ・パルマに抗議の声を上げる。
(いいから踏んでみろって。別に爆発するわけじゃなし……あ、でも、ゆっくりとな。そんな深く踏まんでいいから)
「…………わかりました」
話してくれる気が全くなさそうな返事に諦めの声で応じると、光秋は指示通り左レバーをSに合わせ、右レバーが中央に合っているのを確認し、左足を左ペダルに置く。
―ゆっくりと、深く踏まず……―
デ・パルマの注意を心中に復唱しつつ、ゆっくりとペダルを踏み込む。
「!!」
それに合わせて唐突にモニターの景色が下に流れ、束の間の浮遊感を感じたかと思うと、次の瞬間には歩行の時よりやや強い振動がコクピットを揺らす。
「今のってまさか…………跳びました?」
(その通り!)
数メートル上下した景色と独特の浮遊感から感じたことを告げると、デ・パルマのイタズラが成功した様な笑みを含んだ声が返ってくる。
(左のペダルは跳躍の為のものだ。今みたいにSに合わせた場合は脚の力だけで、1から先は背中の推進器の噴射を加えて跳ぶ。細かい調整はペダルの踏み具合だな)
「なるほど……」
説明するデ・パルマに、光秋は納得の声を返す。
(ちなみに、右のペダルを踏みながら右レバーを行きたい方に倒すと、推進器の噴射を利用した高速移動ができる)
「…………なるほど」
補足するデ・パルマに応じつつ、光秋は周囲を見回し、程よい広さと障害物のない方向へゴーレムを向ける。
「少し試させてください」
(いいぞ。ただし、
「わかりましたっ」
釘を刺す様にやや強い語調で言ってくるデ・パルマに緊張を新たにすると、光秋はモニター越しに再度障害物がないことを確認し、左レバーを1に合わせて右レバーをゆっくりと前に倒す。
「さて、どんなもんか……」
とぼとぼと歩き出したゴーレムに揺られながら、不安と好奇心が入り混じった声を漏らすと、右足で右ペダルを慎重に踏み込んでいく。
ややあって推進器のものと思しき轟音が後ろから響いたかと思うと、モニターの景色が風の様に後ろへ過ぎていく。
「!!」
同時に前から来る強大な力に体を座席に押し付けられ、戸惑った光秋は反射的に一番右のペダル――ブレーキを深く踏み込む。
少ししてゴーレムの加速は止まり、座席への押し付けから解放されると、光秋は未だ激しく鼓動する心臓に手を当ててそれを治めようとする。
―速く動く時に強い力が加わるって聞いたことはあるが、こういうことか…………―「ニコイチではそういうのからも守られてたからなぁ…………」
加速度に関する聞きかじりの知識を思い出し、思わぬところでそれを体験したのだと理解する一方、連想的にニコイチの操縦者保護機能の凄さを思い知る。
(どうだ?ゴーレムのスピードは)
「強力ですね。1以上に上げるなと言った理由がわかります。それこそ下手すれば敵にやられる前に、ゴーレムのパワーにやられそうだ」
ヘルメット越しに訊いてくるデ・パルマに、ようやく落ち着いてきた光秋は今感じたままを述べる。
と、スピーカーから細々した音が聞こえたかと思うと、今度は福山の声が響く。
(二曹、ひと通りの基本操作を終えたなら、そろそろ戻ってきてくれ。流石にそろそろ切り上げないとこの後の予定に影響が出る)
「わかりました……ただ、最後に一回、推進器付きの跳躍をやらせてください。それで戻ります」
(了解した)
福山の返事を聞くと、光秋は左レバーを1に合わせ、左ペダルに足を置く。
―1でもかなりの力だったからな。注意しないと……―
高速移動のことを思い出して身構えると、ペダルを踏んでいく。
「っ…………!」
推進器の轟音が轟く中、先程感じた力が今度は上から押し寄せるものの、2回目とあってか今度は戸惑うことはなく、しかし高速で過ぎていく景色にはどうしても圧倒されてしまう。
ある程度まで跳ぶとゴーレムは速度を上げながら降下し、自動で器用にバランスをとりながら着地する。もっとも、コクピットは脚力だけで跳んだ時より少し強い振動に襲われる。
「……これがゴーレム――合衆国初、人類が作り出した人型機械……か…………」
今の跳躍をはじめ、乗り込んでからの一連の動作を振り返り、それらをニコイチのものと照らし合わせながら呟くと、光秋はゴーレムを跪いているニコイチ、そこで待つデ・パルマたちの許へ歩かせる。
少しして一同の許に着くと、先程の記憶を頼りにコクピット右側の赤いツマミを下げてゴーレムに膝を着かせ、左のスイッチを押してハッチを開ける。左のひと際大きなスイッチを押してゴーレムを停止させると、ワイヤーを伝って地面に降り、自分の脚でデ・パルマに歩み寄る。
「御指導ありがとうございました!ちょっと腑に落ちない部分もあったけど……それでも勉強になりましたっ」
ヘルメットを返しながら告げると、光秋は深く頭を下げる。
「まぁ、教えたのは移動方法だけだけどな。折角だから模擬戦の一つもやらせてみたいとも思ったが……流石に今は余裕ないしな」
「はぁ…………」
ヘルメットを受け取りながら名残惜しそうに告げるデ・パルマに、それまで動かすことだけで頭が一杯だった光秋は、両レバー先端のスイッチや小型モニターに映っていたマシンガンの絵を思い出し、連鎖的に先日の模擬戦の様子――縦横無尽に駆け回る2機のゴーレムの姿――を思い出す。
「言われてみれば…………それこそデ・パルマ少佐と関大尉は、あのコクピットで先日の様な戦闘向きの動きをしてたんですよね?」
「まぁな。ただ動かすのと違って、細かな動作をさせるためにいろいろ手間掛かっててな。その辺の改善点の洗い出しも俺らの仕事なわけだが」
「…………頭が下がります」
デ・パルマの言葉に鈴なりのスイッチ類を思い浮かべ、そのようなコクピットであれだけの動きをやってみせた――あまつさえ基本性能や操作性では上を行くニコイチに撃墜判定を出させたスフィンクスの2人組に、光秋は感銘を畏怖が混ざった表情を浮かべて再度頭を下げる。
と、福山が間に入ってくる。
「頭を下げるくらいなら、二曹も僕等の仕事に協力してほしいな。本部に帰還後、レールガンと合わせて今の体験のレポートも出してくれ。できれば00との相違点を明確にして」
「……わかりました」
それで次にすべきことが決まると、光秋はニコイチへ歩み寄り、コクピットに上がって起動させると右手で菫を乗せて帰る準備を整える。
―今の動作一つ取っても、ニコイチならこんな簡単に、こんな滑らかにできるんだよなぁ……―
普段何気なくやっているその動作も、ゴーレムを動かした後だからだろうか、今はとても画期的なことに感じる。
「今日はありがとうございました。では、お先に失礼します」
コクピットから足元の3人にそう呼び掛け、左隣の菫が体を安定させたのを確認すると、光秋は操縦席を機内に降ろし、ゆっくりと上昇して本部へ向かう。
「すまなかったな菫さん。僕のワガママで待たせちゃって」
「いいえ。ニコイチ以外を動かしてる光秋さんも新鮮というか……その…………かっこよかったです!」
「……嬉しいこと言ってくれるな……もっとも、けっこうおっかなびっくりだんたんだがねぇ……」
心なしか強張った面持ちで言ってくる菫に、光秋はゴーレム操作中の自身の様子を思い出しながら苦笑を漏らす。
一方、それは普段の自分を振り返るきっかけともなった。
―僕の意思を動きに直接反映させるニコイチ、それによってずっと簡易になっている操作性……ゴーレムに乗った後だからこそ、その凄さ、ありがた味を認識させられる―
今でもその機能によって滞りなく移動、それも飛行が行えている自分を意識すると、タッカー中尉と初めて会った時の模擬戦で負けそうになったこと、先日のデ・パルマと関との模擬戦で負けた記憶が脳裏を過る。
―改めていい条件で戦わせてもらってたことを思い知らされる……と同時に、そんないい条件を――凄い機能を誇るニコイチを活かせるかは、最後は僕次第なんだよな…………―
そのように理解すると、知らぬ間に操縦桿を握る手に力が籠る。
「……あの、光秋さん……どうかしましたか?」
顔の方にも力が入っていたらしい。菫が心配そうに訊いてくる。
「ん?いや、別に。ゴーレムに乗ることで、ニコイチの凄さやありがたさってものを実感してたんだよ。で、そんなものに乗せて仕事させてもらってる以上、もっと頑張らなきゃなって」
意識して顔の強張りを緩めつつ、光秋は今考えていたことを述べる。
「もっとも今は、帰ってからの報告書作りを頑張らなきゃだけど……」
苦笑いを浮かべながらそう続けると、光秋は遥か前方の東京本部へ意識を向ける。
―……報告書、か…………―
その一言に微かな“引っ掛かり”を感じたものの、それを言葉にするだけの思考は働かなかった。