「…………少佐、やはり戦闘区域を突っ切るというのは無理があるのでは?探せばもっと危険の少ないコースも割り出せるはずです」
移動を開始して少し。モニター越しに一行の先頭を歩行するデ・パルマ少佐のゴーレムを見ながら、光秋は通信越しに声を掛ける。作戦開始が宣言された現在、今更とは重々思いながらも、やはり言わずにはいられない。
(まぁ、おま……の不安もわか……でもな……が)
雑音混じりの通信越しに、デ・パルマの返事が返ってくる。言葉こそ切れ切れで解り難かったものの、こちらをなだめようとしていることはなんとなく伝わってくる。
(この作戦の肝は、2つの勢りょ……が互……相手に手一杯で他に……せる余裕がないってことなんだよ。当然激戦区に行け……ほど、その傾向は強まっ……と考えてい……逆にそういう区域を避けて、うっか……まだ余裕のある後方なんかに鉢あわ……たら、それこそこの戦力だけでそいつらを相手取らなきゃ……なくなるだろう。それな……敢えて渦中の真っ只中に突っ……んで、目的地たる妨害装置まで一気に駆け……た方がいいって……だ)
「……なるほど」
途切れ途切れだがどうにか要点は伝わったデ・パルマの説明、それを聴いて光秋は、どこか負けを認める様な納得を覚える。
(もちろ……お前の危惧がわか……わけじゃない……この案にした……気紛れで俺た……襲ってくる奴も出てくるかも……ない……流れ弾に当たる可能……は常……るんだ。我ながら無茶な作戦だろ……俺と関だけならまずやらな……だろうさ。だが、ここにはお前さんが――
「?僕たちが……ですか……?」
不思議と今までで一番明瞭に聞こえたその言葉に、光秋はデ・パルマ機の背中をしばし凝視し、次いで桜。菫、北大路の顔を見回す。
(これだけデタラ……な顔ぶれが揃っ……んだ。多しょ……無茶……く戦でもいけるって!)
(結局無茶……あること……変わりありま……けどね。ときに少佐……そろ私用無線になりつ……ますよ。控えてください)
(へいへい)
そう付け加え、関大尉の注意に応じると、デ・パルマ機からの声は聞こえてこなくなる。
「
無言で歩き続けるデ・パルマ機の背中を見やった直後、光秋は改めて少女3人を見回す。その表情は、自分でもこんな時にと思いながらも、何故か柔らかに緩んでいる。
それを見て、桜が不機嫌そうに訊いてくる。
「何だよ?こんな時にニヤニヤして」
「悪い悪い。今デ・パルマ少佐が言ってたことが、さっき桜さんが言ってたことと同じ……というか、重なって聞こえて、なんか可笑しくてさっ」
言いながら、光秋は自分の脚を蹴りながら言ってきた桜の言葉を思い出す。
―『あぁいう時こそアタシを出せよ!全部一人でやろうとしてさっ』……御尤もっ。今は3人がいるし、寧ろこれからこうやって出る機会の方が増えるんだ。その分、できることも増えてくるはずだ…………なにより、どんなに置かれた状況が変わっても、僕のやりたいこと――藤岡主任に御膳立てしてもらってまでここに来た理由が変わることはない!―「……だったら、それを遂げる為に必要と思えることをするまでだ」
頼れる者がいる、独りではない。そう思えたことが気持ちを落ち着けてくれたのか、不意に再浮上してきた最初の動機に突き動かされて、光秋はデ・パルマと関に通信を繋ぐ。
「そういうことならばデ・パルマ少佐、僕から提案が」
(何だ?)
「突撃時の布陣ですが、ニコ――00を先頭に、その後ろに少佐と関大尉が続く形にすることを勧めます。ご存知の通り、00の防御力はそれこそデタラメな域ですので、先陣を切って敵の攻撃を防ぎつつ、道を拓くことに向いています。ただ、こちらは急いで出てきたために弾薬の数が不安です。そこは後ろについた少佐たちに援護してもらおうと考えているのですが…………」
言いながら、期待と不安の入り混じった目でデ・パルマ機を見やる。
(いい……ないか。確かにソイツの頑丈……デタラメの域……な。一気に駆け抜ける……向いて……しれない。俺らの負担も減りそうだしな。関……思う?)
(いい案……います。ただ、加藤く――二曹の負担が……)
「それについては御安心を。ホント、コイツ丈夫にできてますから。フォローさえしっかりしていただければ」
(…………なら、それ……行きま……)
「ありがとうございますっ」
デ・パルマの即決と、こちらへの気遣いをしてくれながらも首肯してくれた関に、光秋は通信越しとわかっていながら頭を下げる。
「その上でもう一つ提案ですが、こちらのサイコキノをお二人の方に付けたいと思います」
「!ちょっ、ちょっと待てよ!」
続けてそう告げた直後、桜が戸惑った顔を浮かべて迫ってくる。
「何でアタシだけあっちに――」
「……」
それを手をかざして制しながら、光秋はさらに続ける。
「先程も言ったように、00の防御力はデタラメ級です。が、ゴーレムはそういうわけにもいかない。少佐が先程言ったように流れ弾の危険が常にある以上、彼女は護衛役としてそちらに付けた方がいいと考えます」
(なるほどな……ならありがたく)
「ありがとうございます」
即答を返したデ・パルマに、光秋は再度頭を下げる。
「というわけだ。桜さん、悪いが頼む」
顔を上げながら言うと、桜は横目で睨みながら訊いてくる。
「それは命令?」
「……まぁ、主任――指揮官として言っている以上、命令ってことだろうな」
返答してみて、光秋は不相応な身の振り方に軽い自己嫌悪を抱く。
「ただ実際問題、このまま行くと少佐たちが危ういのも確かだ。だから、君の力を貸して欲しいってことでもあるが……あぁっ、我ながら煮え切らないなっ!」
補足しようとして上手く伝えられず、自分の表現力の低さについ苛立ってしまう。
一方、桜は、
「…………そういうことなら……まぁ聴いてあげなくもないよ」
と、どこか納得した様子で応じてくる。
「……悪いな」
「謝らなくていいっての。あんたを困らせることはしないって、前にも言ったことだし」
「?」
言われたことがすぐにわからず光秋が困っていると、桜は少し目を尖らせて言ってくる。
「ほら、菫とあんたの寮に行った時、そんな話したじゃん!」
「…………あーあー!そうだったな」
言われて、少女2人が自室に来た時のことを思い出す。
「もしかして、忘れてたんですか?」
「光秋さん…………」
そんな光秋の態度に、北大路は改めて軽蔑の目を向け、菫は若干呆れる。
「仕方がないだろう。あれからいろいろ、特に今バタバタしてて、突然言われてもさ…………」
言ってみて、反論のしようがない言い訳を言ってしまったと自覚した光秋は、少し恥ずかしくなる。
その時、通信から雑音混じりのデ・パルマの声が響く。
(さぁて、そろそろだぞ)
「!」
さっきまでとは違う、若干の緊張を含んだその声に、光秋は気を引き締め直す。
「「「……」」」
それを見た少女3人も、僅かに表情を強張らせる。
「じゃあ、柏崎さん、さっき言った通りに」
「了解」
応じると、桜は背負ったEJCの電源を入れる。
「電気の残量には充分注意してな。危なくなったら少佐か大尉、どっちかのゴーレムに入れてもらえ」
「わかったよ」
言いながら光秋はハッチを開け、そこから飛び立った桜はデ・パルマ機の許へ浮遊していく。
少し進むと一行は停止し、メガボディ3機はニコイチ、関機、デ・パルマ機の順に縦隊を組む。
(じゃあ、Eジャマーの確保頼んだぞ)
(了解。御武運を)
「…………」
デ・パルマと輸送車の乗員のやり取りを通信に聞きながら、光秋は移動している間にすっかり大きく、はっきり聞こえるようになった轟音に、改めて手が汗ばんでいるのを感じる。
―始まったら、とにかく妨害装置に辿り着くことを考える。自分から迫ってくる者、こちらの進路を妨害する者以外は徹底的に無視―
心中にそう言い聞かせていると、地図情報と連動したモニターの一点に赤い丸マークが表示され、向かうべき方向を示してくれる。
直後、デ・パルマの声が通信に響く。
(よし、カウント5で一気に駆け抜けるぞ…………5、4、3、2、1、ゴー!)
「!」
号令と同時に光秋はペダルを一杯に踏み、Nクラフトを噴かしたニコイチが地面から数センチ上を滑る様に駆ける。
背部推進器を全力で焚いたゴーレム2機もそれに続き、瞬く間に3機はNPとZCが乱戦を繰り広げる只中に躍り出る。
フラガラッハが乱射したマシンガンを肩に乗せたサイコキノに防いでもらったイピクレスが肩の砲身で応射し、手に手に自動小銃やロケットランチャーを持ってヘリに群がろうとしているサイコキノたちにフラガラッハの手首の機銃が放たれ、そんな中を外装に弾丸や何かの破片が当たる様な音を散発的に聞きながら、光秋はひたすらマーカーが示す先を目指す。
そんな時、こちらに気付いたイピクレスが進路上に立ちはだかり、両手保持したマシンガンを向けてくる。
―構ってる暇はないんでな!―
思いつつ、光秋は放たれる弾丸を左腕の盾で防ぎ、ついに大穴が空いて腕の装甲で直接受けることになっても構わず、速度を落とすことなくそのイピクレスへ――その先にある妨害装置へ直進する。
その猪突猛進な姿に恐れをなしたのか、イピクレスは衝突の直前に地面を蹴って横に避け、すれ違う一瞬に光秋は左腕を叩き付けて一行との距離を開けさせる。
直後、
(ぐっ!!)
「!柏崎さん!大丈夫か!?」
関機目掛けて放たれた戦車砲、その徹甲弾を右側面に躍り出た桜が渾身の念壁で弾くものの、外音スピーカー越しに聞こえた苦悶の声に光秋の意識が思わず後ろに向く。
が、
(構うな!進めぇ!!)
「!」
通信機から返ってきた桜の叱責に頬を引っ叩かれた様な衝撃を感じたのも一瞬、今の自分の役目を再認識した光秋は足を止めることなくマーカー目掛けて突き進む。
「ちょっと!桜ちゃんが――」
「大丈夫だ。関大尉がフォローしてくれてる!」―どの道、今僕が立ち止まるわけにはいかない。こんなふうになる可能性を知りつつ、桜さんにこの役目を命じた。どこまでわかっていたかは知らないが、桜さんはそれを引き受け、今の役目を果たしてくれてる。だったら僕も、それに応えないとっ―
北大路の抗議をやや強い語調で封じつつ、モニター端に表示された映像にマシンガンを応射する関機の後ろに回り込んだ桜を一瞬捉えた光秋は、胸の内にそう言い聞かせながらマーカーを見据える目を鋭くする。
一行の前を横切ろうとする戦車を跳び越え、物陰から放たれたロケット弾を半壊した盾で受け流し、離れた所からマシンガンを撃ってくるフラガラッハの頭部に進路上に落ちていたコンクリートと思しき瓦礫を投げ付けて転倒させる。
そんなことを間を置くことなく繰り返し、気付けば乱戦の勢いが大分落ち着いた2車線の一本道を進んでいた。
(どうやら激戦……抜けたようだな……となる……いよいよ本題だぞ)
「はいっ」
こちらの注意を喚起させるデ・パルマに応じつつ、光秋は道路の先に表示されたマーカーを凝視する。
少し進んだところでT字路に差し掛かり、同時にデ・パルマの指示が飛ぶ。
(よし、全機停まれ。こっからは別の作戦でいく)
言いながらニコイチと関機が停まり、桜がニコイチの右肩に着地したのを確認すると、デ・パルマはさらに続ける。
(地図……よれば、この建物の向こ……コンテナ置き場があって、妨害装置はそこに設置さ……いるようだ。ZCも守……固め……だろうから、正面から一気に攻めるのは得策じゃない。ということで、00を囮に使う)
「囮……ですか……」
雑音混じりの包み隠さない言い方に、何かしら考えがあるとは思いながらも、光秋はどうしても怪訝な顔をしてしまう。
(こいつを囮って、オッサン――)
「柏崎さん、やめろっ」
同じ感触を覚えたのか、目を三角にして通信越しに声を荒げる桜を制しつつ、光秋は先を促す。
(そんな顔す……って。コイツのデタ……級な防御……踏まえた上で言ってるんだよ。ついで……00はよくも悪くも目立つからな。囮には最適だ)
―言ってることは妥当なんだけどなぁ…………―
胸中ではデ・パルマの指摘を理解しながらも、表現の所為かどうにも釈然としないものを感じてしまう。
(で、地図……よれば、俺たちが今い……のT字路は左右それぞれが妨害装置の置かれたコンテ……き場……続いているらしい。一方から00を先行……ZCの注意を引き付け、反対側から進……俺たちが隙を突いて装置を破壊、とまぁ、シンプルな囮作戦が……思うんだが?)
(……戦力を考えたら、今はそれが最善かもしれませんね)
「……こちらも、異議ありません」
パネルに映る地図を確認してデ・パルマの意見を自分なりに理解すると、光秋も関に続いて首肯を返す。
(光秋っ!)
「今は仕事中だぞ。せめて『加藤二曹』と呼べ」
ニコイチの目を見据えて憤った顔を向ける桜を律しながらも、光秋はそっと声を掛ける。
「大丈夫だよ。僕の相棒は頑丈さに定評があるんだ。中にいる限り柿崎さんたちは……少なくとも死にゃしないよ。転んでケガはするかもだけど」
(……それもそうだけど……そうじゃなくて……)
「どの道、僕たちは装置を壊す為にここまで来た。その最も妥当な方法がこれだっていうなら、やってみせるまでさ。さ、もう行くぞ。柏崎さんも少佐たちの援護よろしくな」
(…………うん)
言い足りない不満を顔に浮かべながらもどうにか頷いてくれた桜。その許に光秋は左手を差し出し、桜が肩からそこに移ると、人が小鳥を放つ様にゴーレム2機の方へ後押しする。
「では、行きますっ」
(おう。しっかりアチラさんたちの注意を引き付けてくれよ)
(柏崎さん、だっけ?この子は僕がしっかり見てるから)
「よろしくお願いします」
デ・パルマと関に応じると、光秋はニコイチを数センチ浮かせて滑る様に右の道を進む。
「2人とも、適当なとこに掴まっててくれ。少し荒い操縦になるかもしれない」
「はいっ」
「……」
光秋の注意に菫は硬い声で応じ、北大路も心なしか緊張を浮かべながら背もたれを掴む。
ややあって左に曲がる道に差し掛かり、地図を見てそこがコンテナ置き場までの一本道だと確認すると、光秋は思わず生唾を飲む。
「いよいよ、だ…………行くぞ!掴まれ!」
「「!」」
叫ぶと同時に曲がり角に突入、菫と北大路が背もたれにしがみ付いたのを一見するやペダルを一杯に踏んでやや長い道路をひと息に駆け抜けると、いよいよ海辺に面した広いコンテナ置き場に出る。
本来なら広い敷地を埋める様に並んでいるはずのコンテナの数々は、今はそれらを運ぶためのクレーンやトレーラー諸共端に押し退けられ、そうして空いた広間のど真ん中に複数の大型コンテナに囲まれた妨害装置と思しき黒い直方体状の箱を捉える。
それにマーカーが重なって見えたのも束の間、背中から2本の砲身を伸ばしたイピクレス3機と、その上空に滞空したヘラクレス1機――計4つの視線がこちらに注がれる。
刹那、イピクレス3機が各々2門の砲身から砲弾を放ち、それを追い風にしたヘラクレスが背中から巨大な噴射光を輝かせて接近してくる。
「!」
既に半分以上欠落して左手周辺しか覆っていない盾を反射的に前に出しつつ、ニコイチを左右に振って砲撃をやり過ごした光秋は右手のキャノン砲の狙いを付けようとする。
が、距離を詰めるやヘラクレスは空手だった両手を両脇に伸ばし、そこに提げていた刃渡り3メートル程、メガボディサイズの短剣とでもいうべき物を抜き、加速の勢いを乗せた刃を振るってくる。
「剣って――!!」
これまで銃器くらいしか持つところを見ていなかったメガボディが接近戦向きの武器を使ってきた。その目の前の現実に驚愕する間もなく、光秋は振り下ろされた二刀を盾で――それを斬り裂いて露わになった左腕で受け止める。
「っ……!」
自身の左腕にも縦一の字に走る、弾丸を受け流した時とも異質な圧迫感を2カ所覚えたのも一瞬、少し引いた腕を突き出して剣を弾くや左蹴りをヘラクレスの腹部へ伸ばし、相手は上昇して距離をとる。
間を置かずキャノン砲の砲口を向けるものの、殺到したイピクレス3機のマシンガンに、既に露わとなった左腕を前に出して回避に集中する。
そこに再びヘラクレスが剣を振りながら迫り、脊髄反射で地面を蹴った光秋は右に跳んでそれをかわす。
―射撃で牽制、剣が本命か?ゴーレムだったら確かに危なかっただろうな―
留まることなく突き出される2本の切っ先を、右に左にと上体を引きながら後退することでやり過ごす傍ら、デ・パルマたちとはまた違った4機の連携に内心舌を巻く。
「だが、相手が悪かったな!」
通信障害で相手には聞こえないことを承知で叫ぶや、光秋は突き出しで一杯に伸ばされたヘラクレスの右腕を掴み、それを引いて相手の胴部を寄せながら右膝蹴りを叩き込む。
放たれた膝は生命の温かみを内包した胸部、そのすぐ下の上半身と下半身を繋ぐ細めの接合部を砕き、引き寄せた勢いのままに右腕も肩から引き千切られて胴部と左腕だけになったヘラクレスは、背部推進器3基を噴かしてニコイチから距離をとる。
―推進器を増設してたのか。道理で速いわけだ…………―
本体背部に設けられた1基と、その左右に付け加える様に設置されたやや小振りの2基の推進器を見て独り納得しつつ、左手に握られたままの剣に目を向ける。
―左腕の剣が気掛かりではあるが……あそこまでやられればおいそれと前に出てこないだろう。今の内にイピクレスとかいう方を!―
一抹の不安を覚えながらもそう断じると、光秋はヘラクレスの離脱援護の為にマシンガンを斉射するイピクレス3機を見据える。
が、その時、
「?コンテナを開けて……?」
援護射撃でイピクレスたちの後ろに回り込むや、半壊したヘラクレスは妨害装置周囲に置かれたコンテナの1つの上に滞空し、念力と思しき力でその上ブタを開ける。
そして、
「!?」
中から無傷のヘラクレスの右腕、両脚、腰部が引き上げられる様に現れ、それらが欠損部分を埋める様にコンテナの上のヘラクレスに接続され、瞬く間に完全な形のヘラクレスが1機完成する。
「手足を付け替えて復活って?あんなのアリですか!?」
「アリなんだろうっ?」
驚愕するニコイチ内一同を代表する様に叫んだ菫に投げやりに返しつつ、光秋はマシンガンの弾雨をかわしながら、新たな手足を得て迫るヘラクレスを注視する。
その時、先程引き抜いたヘラクレスの右腕、そこに握られたまま地面に落ちている剣を捉える。
―使えるか?―
咄嗟にそう思うや、ニコイチの腰を落として低姿勢で弾雨をやり過ごしつつ、数センチ上を滑る様に飛んで腕の許に駆け寄り、通りすがりざまに剣を左手に掴む。
直後に背後から迫るヘラクレスを感知するや、光秋は振り返りざまに左手の剣を振るい、叩き込まれたヘラクレスの剣とぶつかった両者の間に火花が散る。
(この野郎!俺の剣を返せぇっ!!)
「っ!」
自分の武器を使われたことが不愉快なのか、スピーカー越しにヘラクレスのパイロットの怒声が響くものの、それに応じる余裕がない光秋は左腕を伸ばして鍔迫り合った剣を押していく。
―行けるか?―
剣を介してニコイチの腕力に押されて曲がっていくヘラクレスの左腕を見て、今度は体重を掛けて一歩踏み込もうとする。
直後、
「!?」
ヘラクレスは急に後ろに下がり、突然抵抗を失ったニコイチの体勢が崩れる。
(バカか!今だ!やれぇ!!)
―御尤もっ―
ヘラクレスの罵声につい力勝負に気が向き過ぎていた自身を自覚したのも一瞬、光秋はNクラフトの出力を上げて迫りくる6発の砲弾を飛んで回避する。
そこに間を置かず念力で浮かんだヘラクレスが3基の推進器を焚いて迫り、両者は再度鍔迫り合う。
その時、自分が入って来たのと反対側の道路、その建物の陰からキャノン砲の砲身を伸ばしたゴーレムが目に入る。
―デ・パルマ少佐!―
理解するや光秋は妨害装置に目を向け、その周囲に佇んでいたイピクレス3機が少し離れた所で横並びになり、機会があれば砲撃をしようとこちらを注視しているのを確認する。
それはつまり、囮の役目を充分に果たしたということで、
―少佐!今ですっ!―
小さな達成感を抱きながら胸中に叫ぶや、それを聞いたかの様なタイミングでデ・パルマ機のキャノン砲が放たれ、撃ち出された徹甲弾は吸い込まれる様に妨害装置を貫いた。
(!?ジャマーが――!!)
「!」
大穴を空けた妨害装置にヘラクレスのパイロットが驚愕の声をスピーカーに漏らしたのも一瞬、光秋は左腕に力を込めて相手の剣を押しやり、そのまま丸ノコの様に一回転してがら空きになった頭部に右踵落としを叩き込む。
回転の勢いも乗ったその一撃はヘラクレスの頭部を砕き、胸部上部も若干凹ませてヘラクレスを地上に叩き落とす。
コンテナ置き場の只中に大の字になって倒れたきり動かなくなったのを確認するや、光秋はすぐにデ・パルマ機に通信を繋ぐ。
「少佐!聞こえますか?」
(おうっ。そっちも感度良好みたいだな)
「!」
雑音のない鮮明なデ・パルマの声に、作戦成功の実感を得た光秋は思わず口角を上げる。
直後、動きが滞っていたニコイチにイピクレスの砲撃が迫る。
「!!」
「まだ終わってないんですけど?」
「だったなっ!」
北大路の非難に応じつつ高度を上げてそれをかわすと、光秋は先程砲撃を加えてきた1機を注視し、キャノン砲の狙いを付けながら接近する。
相手はマシンガンを斉射して応戦し、それを縦横に動いて回避、一部は左腕で胴部を庇って受け流しつつ距離を詰める。
と、イピクレスのマシンガン斉射が出し抜けに止まり、慌てた様子で2門の砲口をこちらに合わせてくる。
―今っ!―
砲弾が放たれる直前、少し高度を下げてそれをやり過ごすや、充分に距離を詰めたと判断した光秋はキャノン砲のレーザーポインターを点け、イピクレスに重なったマーカー中央にそれを合わせる。
「!」
直後に放たれた徹甲弾はイピクレスの右脚を砕き、バランスを失った機体が仰向けに倒れ込む。
その時、
(加藤二曹!その剣!)
「!」
通信越しに関の声が響くや、光秋は反射的に左手の剣を関機の方に投げ、地面に突き刺さったそれをゴーレムが左手で抜くのを視界の端に見る。
が、それも束の間で、すぐにイピクレスに意識を戻すと、仰向けの機体の上に落ちる様に降下し、着地ついでに両肩を踏み砕き、左手で砲身2本を圧し折って胸部のコクピットにキャノン砲を向ける。
ややあってハッチが開くと、慌てた様子のパイロットが手を挙げて出てくる。
―この人も、若いな…………―
震えながらコチラを見上げる男性パイロット、その20歳になるかならないかという歳格好に、光秋は輸送車の3人を思い出し、不良グループ丸一つがZCに加わったということを改めて実感する。
その間にも、傍らの関機はもう1機のイピクレスをマシンガン斉射で牽制しつつ距離を詰めていく。
当然相手もマシンガンで応戦し、もう1機の方も肩の砲口を合わせてくるものの、マシンガンは肩に乗った桜が機体正面全体に張った念壁でことごとく弾かれ、砲撃を行おうとしていたイピクレスはデ・パルマ機のことを失念していたのか、物陰から放たれたキャノン砲に腰部を砕かれて上体が背中から地面に落ちる。
そんな両者のフォローを受けつつ関機は最後のイピクレスに肉迫し、左手の剣を振り下ろしてマシンガンを持った右腕を肩の付け根から切断し、間を置かず胸部コクピットにマシンガンの砲口を押し付ける。
「デ・パルマ少佐、コンテナの破壊を!中にコイツ等の予備部品が入ってます!」
ヘラクレスのことを思い出して通信とスピーカー双方に叫びつつ、光秋も手近なコンテナをキャノン砲で撃っていく。
警告を聞いてデ・パルマ機もキャノン砲を撃ってそれに加わり、関機の肩を足場にした桜も両腕を一杯に挙げて一気に振り下ろし、その動きに合わせる様に関機周囲のコンテナが見えないプレス機に掛けられた様に圧し潰される。
そうしてコンテナの9割方を潰し、ZCの4機も降伏、あるいは機体の著しい損傷による戦闘継続不可能を確認すると、光秋は意識の半分を足元のパイロットに割きながらも通信に達成感を含んだ声を乗せる。
「やりましたねっ……あ、そうだ。本隊への連絡は?」
(俺が通信が回復してすぐにやっておいた。激戦区の方が優先だろうが、少しすればこっちにも応援が来るだろう。輸送車の一部もここに向かってるらしい)
キャノン砲の弾倉を腰の後ろに提げた2つの内の1つと交換しながらデ・パルマが説明すると、光秋は念力で潰された多数のコンテナを見て先程のことを思い出す。
「そういえば、柏崎さんが普通に念力使えてましたね」
(そっちの方も、上手くやってくれたみたいだね)
コクピットからワイヤーを伝って降りてくるイピクレスのパイロットにマシンガンの砲口を合わせながら、関がEジャマーの確保に向かった一団を労う様に言う。
(ちょっと!アタシも頑張ったんだけど?関さんのゴーレム守ったし、コンテナだって殆どアタシが壊したのにぃっ!)
話題に挙がらなかったことが不服だったのか、関機からニコイチの方に飛んできた桜が膨れながら言う。
「悪い悪い。忘れてたわけじゃないよ。柏崎…………
(っ!…………べ、別に、それが特エスの仕事だからねぇ。よくわかったか!主任見習い)
すぐに光秋が応じると、何故か照れながら腰に両手を当てて胸を張ってくる。
その時、デ・パルマたちとは違う声が通信に響く。
(加藤二曹、聞こえるか?)
「藤岡主任?何か?」
本部を出発して以来の藤岡の声に、光秋は足元のパイロットと周囲に注意を割きながら返す。
(通信妨害の所為で連絡が遅れたが、頼まれていたレールガンと砲弾ひと通りを持ってきた。本土側の本隊に置いておいたので、必要なら取りに来てくれ。それと、俺も少し前に現場に着いた。今ヘリからお前のことを見ている)
「ヘリ?どの辺りです?」
(お前が今いる埋め立て地と本土の間、だいたい激戦区から少し離れた辺りだ)
「激戦区から少し離れた……あぁ」
言われた辺り、何本もの黒煙が昇る所から少し離れた空に一点の影を捉え、光秋の意思に反応したモニターが滞空するヘリの拡大映像を映し出す。
「了解しました……引き続き、騒動の鎮圧に当たります」
(ん。合格の為にも、せいぜい頑張れ)
言うや藤岡の方から通信は切れ、光秋もヘリを意識の外に置いて拡大映像を消すと、装備品の話をされたことを思い出してキャノン砲を見やる。
―そういえば、イピクレスに1発、コンテナ壊すのに4発……残り1発しかないんだったなぁ…………取りに行った方がいいか…………?―
補給に向かうか、ZCメンバーの監視を継続するか、逡巡の後、ゴーレム2機と桜の姿を見て判断を決める。
「デ・パルマ少佐、関大尉、柏崎さん、すみませんが、補給で一旦
(あぁ。お前の持ち弾ってそれだけだったなぁ……)
通信にそう告げると、デ・パルマ機がこちらのキャノン砲を一見しながら呟く。
(わかった。ここは俺たちが持つ。輸送車の奴等もそろそろ合流する頃だしな。折角だ、補給が済んだら本隊に指示仰いで、もっと面倒な所に回してもらえ)
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
実技試験という名目でここに来させてもらった都合上、もっと積極的な動きを見せなければならないかと思っていた矢先のデ・パルマの勧めに、光秋は一人頭を下げる。
「柏崎さんも、しばらく頼む。都合がついたら追って連絡する」
(アタシは居残りかよ……)
「悪いな。柏崎さんは百人力だから。EJCの電源は?まだ余裕あるか?」
(ま、まぁ、そこまで言うなら…………あと、今は電源切ってるから、いない間にEジャマー点けられても大丈夫だと思うよ)
「わかった。いざとなったら少佐たちに頼りな。じゃあ、後で」
桜に対する気掛かりを一応解決すると、光秋はペダルに足を掛ける。
瞬間、
「!」
背後から刺す様な悪寒が走り、脊髄反射で前に出した左腕をマシンガンの一連射が叩く。
すぐに攻撃が来た方を見上げると、右手にマシンガンを持ったヘラクレスが1機滞空していた。
(流石、総裁注目の白い犬ってか?やっぱ不意打ちは無理かぁ)
直後に若い男の声がスピーカーを介して響くものの、光秋の意識は相手の機体の方に向いていた。
―アレもヘラクレス……なのか……?―
思わずそう感じてしまう程に、上空のヘラクレスはこれまで見てきた物と大きく違っていた。
まず、両脚の膝から下が大きく膨らんでいて、足の裏から覗く大型ノズルが大出力推進器であることを物語っている。そして左腕も異様に太く、長さに至っては先端が足の先を越えてしまっている。その先端に設けられた3本の指――というよりも“爪”は見るからに装備を持ったりそれを使用したりすることには向かないものの、太く長く、緩く歪曲したそれは建物の解体工事などで使う破砕機の様な高握力と痛々しさを想起させる。胴部と右腕は流石に通常の型で、そこまで変わっていたらヘラクレスという認識すら持てなかっただろう。
そんな異形の敵機に慄いている間にも、相手は頭部を巡らし、下界を俯瞰する。
(つーかお前ら、なにやられてんだよ?こっちは1人も倒せてねぇし、装置は壊されるし……使えねぇ――)
おそらくはZC側のリーダー格なのだろう。部下たちの様子に心底呆れた声を流していると、後方からデ・パルマ機の徹甲弾が放たれる。
が、直後に激戦区の方から飛んできたヘラクレスが割って入り、範囲を絞った濃密な念壁で徹甲弾を弾いてしまう。
その光景を単眼で一見すると、爪付きのヘラクレスのパイロットは苛立った声を流す。
(おい、スナイパーさんよぉ、人が話してんの邪魔するもんじゃねぇぞ?……まぁいいや。ヤス、足元の兵隊連中頼む。俺は――)
「掴まれぇ!」
「「!?」」
爪付きが言い切る直前、光秋はニコイチの左腕を前に出しながら菫と北大路に叫ぶ。
(白い犬をやるっ!)
言うと同時に爪付きはマシンガンを斉射し、それを左腕で受け流しながら光秋は上昇する。
それに合わせる様に爪付きも脚部と背部の推進器を焚いて急激に距離を詰め、突き出した左腕、その先の3本爪が大きく開かれる。上から2本、下から1本伸びたソレは、巨大化した肉食獣の顎を思わせた。
「!!」
原始的な恐怖による悪寒が全身を走るのと同時に、光秋は宙を蹴る様に後ろに下がり、一瞬前までニコイチがいた辺りを3本の爪が
(ちっ!)
「おい!大丈夫か?」
スピーカーから漏れた爪付きの舌打ちを意識の端に聞きつつ、光秋は菫と北大路を見やる。
「だ、大丈夫ですっ」
「一応、ね……」
予想通り、突然の急発進に反応が遅れたらしい2人は、それぞれ背もたれを掴みながら頭を擦っていた。
「すまない。突然で――!」
謝罪もそこそこのところにさらにマシンガンの斉射が加えられ、光秋はニコイチを縦横に振ってそれを避け、気付けば海の上に出ていた。
―どうする?キャノン砲は残り1発、補給場所は遠い、デ・パルマ少佐たちの援護も期待できないときてる…………―
背中と両足の側面に増設された推進器による高い移動速度と、不規則で立体的な軌道、念壁による守り、両手でしっかり構えたマシンガンによる散発的な射撃、それらを備えたヘラクレスに翻弄されるデ・パルマたちのゴーレムを見やり、隙あらば再び迫ろうとしている爪付きの執拗さに光秋は焦りを募らせる。
その時、
(アタシの主任に何するかぁぁぁ!!)
叫びと同時に潰れたコンテナが爪付きに迫り、爪付きが距離をとってそれを避ける間に桜がニコイチの許に飛んでくる。
「柏崎さん!?少佐たちは?」
(今はそれよりこっちでしょうが!てか、何で一方的に追い詰められてんだよ!ソイツのパンチならあんな奴一撃だろう!?)
「理屈はそうだが……」
桜の指摘に応じながらも、光秋は上空からこちらを窺っている爪付き、その3本爪を恐れを含んだ目で注視する。
「あの爪、掴まれてもニコイチなら千切られることはないとは思うが、抜け出すのは難しいだろう。なにより、一度捕まったらどうなるか…………だから、迂闊に近付きたくないんだが…………」―だからと言って、弾がなぁ…………―
通信越しに理由を説明しながらも、射撃戦が満足にできる状態でもないことを再認識させられ、光秋の焦りはますます強まる。
と、それまで背もたれにしがみ付いていた菫が前に躍り出る。
「!柿崎さん!危ないから掴まって――」
「私に弾を取りに行かせてください!」
注意を遮って言われたことが一瞬解らず、光秋は困惑する。
「君が、弾を……?どうやって?」
「テレポートで本隊まで行って、そこからここに跳ばします」
「……確かに、それならすぐ補給できるだろうが……」
それを聞いて菫がテレポーターであることを失念していたことを内心恥じながら、一つの疑念を抱く。
―そうするとして、それには菫さんをニコイチから出す必要がある。爪付きと睨み合いを続けている今、迂闊にハッチを開けるのは…………―
逡巡につい動きが鈍くなり、それを見逃す相手ではなかった。
(なーにボサッとしてんだよっ!)
言いながら爪付きは左腕を真っ直ぐに伸ばし、前腕部の前後に1基ずつ設けられた推進器が火を噴いたかと思うや、上腕部の中程からケーブルの尾を引きながら噛み合わさった3本爪が飛んでくる。
「!!」
あっという間に距離を詰めるや3本爪は一杯に開き、咄嗟に高度を上げてそれをかわした光秋は背中に冷や汗を感じながら、3本爪がケーブルの巻き戻しによって再び左腕に接続されるのを見る。
―腕を飛ばすって、また思い切ったものを……これは、もう―
一連の光景に迷っている暇はないと悟ると、再度3本爪の狙いを付けようとしている爪付きの気配を察して縦横織り交ぜた複雑な軌道を描いてそれを防ぎつつ、急な動きでモニターに頭をぶつけて悶絶している菫に告げる。
「柿崎さん、さっき言ったこと、本隊までの弾取り――否、こっちが指示を出すから、それに応じた武器のテレポート頼む」
「!は、はいっ!」
痛みに歪めていた表情を一瞬で整えた菫のよく通る返事を聞くと、光秋は不規則飛行を続けながら未だ3本爪の狙いを付けようとしている爪付きの様子を窺いつつ、離れた所で潰れたコンテナを3つ周囲に浮かべて爪付きに投げ付ける機会を窺っている桜を見やり、通信を繋ぐ。
「柏崎さん、聞こえるか?」
(何っ?今狙い付けてて忙し――)
「これから柿崎さんを外に出す。テレポートでまずそっちに跳ばすから、その後本隊まで護衛しろ」
(…………えぇ!?)
予想外の指示に動揺した桜の声がスピーカーから返ってくるが、光秋は構うことなく続ける。
「柿崎さんもよく聴いてくれ。ニコイチから出てすぐ、柏崎さんと合流したら、まず藤岡主任が乗っていたヘリに跳べ。そこで装備品が置かれてる場所を確認してそこに跳び、着き次第連絡、あとは追って指示する。わかったか?」
「了解です!」
(……わかったよ)
菫の明瞭な返事と桜の渋々といった返答を聞いたその時、各部推進器を噴かして急接近してきた爪付きが左腕を突き出してくる。
「!」
勢いよく閉じる3本爪から紙一重のところで上昇して逃れると、全身を震わせる悪寒を振り払う様に光秋は爪付きの頭部目掛けて左蹴りを入れる。
が、相手も機体を左に傾けてギリギリのところでそれをやり過ごし、
(チッ!)
と舌打ちしながら距離をとっていく。
それを見て、光秋は反射的に通信機に叫んだ。
「柏崎さん、コンテナを投げろ!全部!」
(え?えぇ……?)
「早くっ!」
(あぁん、もうっ!!)
突然の指示の戸惑ったのも束の間、桜は周囲に浮かべていたコンテナ3つを投石の要領で投げ、突然の重量物襲来に爪付きは回避で精一杯になる。
その一瞬前、光秋はハッチを開け放っていた。
「行け!柿崎さん!」
「はいっ!」
光秋の叫びに応じると同時に菫はコクピットから消え、次の瞬間には桜の隣に現れ、並んで浮かぶところを見たと思った一瞬後には2人共その場から消えた。
―頼んだぞ―
すでに藤岡のヘリにいるであろう2人に祈りつつ、不安だったハッチを開いたニコイチや外に出た菫が狙われる事態が杞憂に終わったことに少し安心しながら、すぐにハッチを閉める。
直後、爪付きが正面に回り込んでくる。
「!」
その左腕の爪に先程桜が投げ付けたコンテナの1つが掴まれているのを見て、反射的に投げ返しを警戒した光秋は身構える。
が、爪付きは嬉しそうな声を響かせてくる。
(やってくれたな、白い犬。そんでもって、ありがとよっ!)
そう言うや、念力によるものか、コンテナの隙間から無傷のマシンガンの弾倉が引き出され、それと合わせてマシンガンに差し込まれていた弾倉が海に落ちる。
―しまった!―
(弾数が不味かったんでよっ!)
光秋が相手の意図を察すると同時に新しい弾倉は差し込まれ、早速襲ってきた弾丸を咄嗟に右に動いてかわす。
が、
(そこだっ!!)
「!!」
叫びを伴って爪付きはコンテナをニコイチの回避先に投げ付け、正面からの直撃を食らった光秋は束の間バランスを崩す。
そして、
(もらったぁ!!)
その隙を突いて爪付きは左腕を飛ばし、ニコイチの右脚を銜え込んだ爪がしっかりと噛み合わされる。
予想通りニコイチウムの外装が切られることはなかったものの、自身の右脚にも感じた圧迫感に、光秋は直感的に背後に手を伸ばす。
「北大路さん!掴まれっ!」
「!?」
戸惑う北大路に構わずその身を自身に抱き寄せ、左腕をシートベルト代わりにして固定した直後、爪付きは左腕をデタラメに振り回し、その先端に捕らえられたニコイチ、そのコクピットに収まる2人を四方八方から不規則に加わる加重が襲う。
「っ…………!」
「口を閉じて、舌を噛むな!」
自分がそうならないように手短に告げつつ、光秋は胸の中に抱えた北大路を繋ぎ止める左腕に一層力を込める。
同時に気を抜けばあらぬ方向に飛んでいきそうな右手を右操縦桿に留めながら、あらゆる方向から不規則に加わる大きな力に悶絶する。
―もっとも、ニコイチだからこんなふうに感じられるんだろうな。これが航空機とかゴーレムとか、とにかく“当たり前の機械”だったら、今頃気絶……潰れてたかな?っ!!―
こんな時にも妙に冷静な部分でそんなことを思いながらも、背もたれ側に向かって掛かる力、その際に迫ってくる北大路の重みにはやはり堪える。
そんな中、こちらを嘲笑う爪付きの声が耳に入る。
(ギャハハハハハハ!!流石の白い犬も綱に繋がれりゃただの犬ッコロってか!?ざまぁねぇなっ!!)
「……」
その一言と、胸の中の北大路の苦悶の表情、何よりも無性に耳障りに感じる甲高い笑い声に、力の働く方向とは無関係に光秋の頭に血が上る。
それを感知して、パネル操作を待たずに外音スピーカーが作動する。
「…………白い犬を――」
(あ?)
言いながら、光秋は左腕にさらに力を込め、北大路の体を自身に密着させる。
「――舐めんじゃねぇぇぇ!!」
腹の底から発せられた叫びはスピーカーを通じて周囲に轟き、叫びの力を表す様にNクラフトが高出力で作動する。
途端に見えない壁に当たった様にニコイチは宙の一点に留まり、左手で3本爪の手首を鷲掴みにする。
そのまま腕を引いて右脚を銜えたままの爪部分を引き千切ると、光秋は左腕を大きく掲げ、それに合わせて爪付き本体も上空に引っ張り上げられる。
(!?うぉ!!)
「繋いだくらいで、犬を制せると思うなっ!!」
胸の内から浮かんできた言葉を直感的に叫びながら、光秋は立場逆転に狼狽える爪付きを振り回し、知らぬ間に近くまで戻ってきていたコンテナ置き場、その中心に佇む妨害装置の残骸へ叩き付ける。
(舐めんなぁ!)
一方の爪付きも背部と脚部の推進器を全力で噴かし、念力も使って残骸に激突する寸前に自機を停止させる。
その間にも光秋はNクラフトを噴かして爪付きの懐に迫り、パイロットを収めた胸部へと開いた左手を伸ばす。
―確保っ!―
しかし、
(チキショォォォ!!)
ニコイチの指が触れる寸前、爪付きは悔しさを滲ませた声を上げて左腕を切り離し、念力で浮かべたそれを投げ付けてくる。
「!!」
思わぬ衝撃に光秋はバランスを崩し、手が
徐々に距離を離していく爪付きを見て、光秋はやっと腕の中の北大路に意識を向ける。
「大丈夫か北大路さん?どっか怪我とかしてないか!?」
「……別に、何とも――!」
左腕の力を緩めながらの問いに、北大路は変わらぬ険のある態度で答えようとするが、すぐに両手で口元を押さえ、すっかり青くなった顔を俯ける。
―無理もないか。安全なんて何処吹く風の絶叫マシンに突然乗せられた……いや、その何倍も酷い目に遭ったんだからな…………―
どうにか堪えている北大路の体調をそう察すると、光秋はせめてもとその背中に左手を伸ばす。もっとも、防弾ベストに覆われた背中を擦ることは叶わず、少し不満を覚える。
(テメェ、覚えてろよっ!俺の左腕は高けぇぞぉっ!!)
そう怒鳴りながら、通りすがりざまに放置されていたイピクレスの左腕を引き抜いて自機に付け替えた爪付きは、こちらも左脚と右腕がイピクレスのそれに置き換わっている――加えて右腕の肘から下が欠損した――ヘラクレスを伴って本土側へ一目散に飛んでいく。
―撤退したか…………―
小さくなっていく2機を眺めながらそう思うと、光秋は周囲を見やり、道中別れた輸送車が2台コンテナ置き場の隅に停まり、撃退してそのままだったイピクレスやヘラクレスの手足が自分たちが壊した部分以外も所々なくなっているのを見る。
―一部破損しても、近くの僚機の無事な部分を付け替えて即修復か…………ちょっと面倒かな……?―
明らかになったZCのメガボディの特徴に、思わず眉間に皺を寄せる。
と、
(光秋さん!準備できました!指示を!)
「あっ、柿崎さん…………」
耳の通信機から響いた菫の緊迫した声に、光秋は少し気まずくなる。
「そのー、だな……悪い。爪付きのヘラクレス、今撃退しちゃった…………」
脅威を除いたことはいいのだが、自分から行かせておいて相手の仕事を盗ってしまった形に、バツが悪そうにそう告げる。
(えっ?…………そう、なんですか……)
「うん…………」
案の定、菫からも気まずい声が返ってきて、光秋はどう応じていいか困る。
と、デ・パルマと関のゴーレムが歩み寄ってくる。
(どうした?ぼっさとして)
(まさか、どっか調子悪くなった?)
「あぁ、いえ。大丈夫です」
通信越しにデ・パルマと関に応じながら、光秋は2人のゴーレムを見る。
本体こそ微かな凹みや小さな傷がいくつか付いているくらいで目立った損傷はなさそうだが、左腕の盾は双方とも端部が著しく削れ、関機に至っては先端部に大きな割れ目が入り、先程拾った剣はすっかり刃こぼれしている。
「お二人こそ、大丈夫でしたか?少ししか見えませんでしたが、だいぶ苦戦していた様子でしたが?」
(まぁ、Eジャマーを点け直さなきゃ危なかったかもな。機体ごと浮遊して、90ミリ弾を真正面から防いで……ありゃかなりレベルの高いサイコキノだな)
(もしくは、あれがヘラクレスって機体の想定された使い方なのかもね……)
心配する光秋に、デ・パルマと関はそれぞれ冷静に応じながらも、その声には微かな畏怖が混ざっていた。
が、次の瞬間にはそれを押しやる様に、デ・パルマが活力のある声で告げる。
(さて、俺らも激戦区の鎮圧、手伝いに行くか)
「!そうですね。菫さん」
その一言に我が意を得るや、光秋は通信に呼び掛ける。
(はい?)
「今から激戦区の方に向かう。さっきまでいたコンテナ置き場にキャノン砲の弾倉、そうだな……徹甲弾を1つ送ってくれ」
(!わかりました!)
菫の方も役割を得られて嬉しいらしく、嬉々とした声が返ってくる。
が、すぐに戸惑った声が続く。
(…………あの、もしかしてそこ、Eジャマー効いてます?)
「え?あぁ、そういえばさっき……」
菫の質問に、光秋は先程デ・パルマが話していたことを思い出す。
「効いてると、やっぱり送れないか?」
(頑張ればできなくはないと思いますけど……やっぱり不安で…………)
「わかった。ちょっと待ってろ」
確認すると、光秋はデ・パルマ機を見やる。
「少佐、この辺のEジャマー、切ってもらってよろしいですか?」
(ん?あぁ、倒したメガボディに乗ってた連中も確保したしな……デ・パルマだ)
コンテナ置き場端の輸送車をゴーレムの単眼で一見しながら応じると、デ・パルマはEジャマーに付いているスタッフに指示を送り、Eジャマーを切らせる。
(切ったぞ)
「ありがとうございます。柿崎さん、切った。今度はどうだ?」
応じる代わりに、妨害装置の残骸の近くに弾倉が1つ現れる。
(送ることはできました。ちゃんと行きましたか?)
「あぁ。ありがとう」
菫に返しながら、光秋は送られてきた弾倉を左手で拾う。
―そういや、結局1発余ってるんだよなぁ……どうするか…………―
新しい弾倉と既に差し込まれている弾倉、2つを見比べながら逡巡していると、デ・パルマの声が掛かる。
(そういや、特エスの1人はテレポーターって言ってたか。悪いが、俺たちの弾も送ってくれないか。手持ち分が危うくてよ)
「わかりました。キャノン砲と、関大尉はマシンガンですよね?」
(あぁ。頼む)
デ・パルマに応じ、関に確認をとると、光秋は再び通信機に告げる。
「柿崎さん、悪いがキャノン砲とマシンガンの弾倉も、もう1つずつ――」
(僕は2つ)
「はい。訂正、キャノン砲の弾倉を1つ、マシンガンの弾倉を2つ送ってくれ。わかるか?」
(今確認しますっ)
関の頼みを加味しつつ告げ、菫の返事から少しして、また残骸のそばにキャノン砲の弾倉が1つ、そしてマシンガンの弾倉が2つ現れる。
(行きましたか?)
「来た。問題ない」
(助かったぜっ!テレポーターの嬢ちゃんにも伝えといてくれ)
「わかりました」
菫とデ・パルマ、それぞれに返すと、光秋は差し込まれた方の弾倉を見てふと思う。
「少佐。少佐の機体、まだ弾倉積めそうですか?」
(ん?あと1つくらいなら積めるが?)
「それなら、これも持って行ってください」
言いながら左手の弾倉を足元に置くと、光秋はキャノン砲から弾倉を抜いてデ・パルマ機に差し出す。
(持ってけって、それお前の分だろう?)
「あと1発だけなんですが、予備の弾倉を積んでおける所がなくて。いつもは脚に付けた荷台があるんですが。それなら、少佐が持って行ってください。僕はいざとなればまた送ってもらえますから」
(……まぁ、それなら)
少し考えた様子で応じると、デ・パルマ機は弾倉を受け取り、それを腰裏に提げる。
(ところで、脚のそれ、取らないのか?)
「あっ。ありがとうございます」
関の指摘に、キャノン砲を置いた光秋は両手を伸ばし、少し力んで右脚を銜え込んだままの3本爪を外して爪付きの左腕のそばに置く。
―ついでだ。こっちも―
そのまま外す機会がなかった左腕のボロボロになった盾も外すと、光秋は右手にキャノン砲を持ち直し、そこに新しい弾倉を差し込む。
―よしっ、準備完了。もうひと頑張り――!?―
心中に気合いを入れて激戦区へ向かおうとしたその時、自分たちの頭上、雲が少し出ているくらいの青空に数条の稲妻が走り、次の瞬間ガラスが割れる様な音を伴ってそこに赤い穴が空く。
「あれはっ!!」
目を見開いて驚愕の声を漏らした刹那、穴から黒い影が