【完結】祥子が自分だけの世界に逃げ込むお話 作:紫陽花の季節に会いましょう
初めて祥子の世界へと入った燈が目にしたのは、祥子の絶望をこれでもかと表した世界だった。
森中にかけられた縄とそれに括られた首吊り人形たち。道中咲いている花は綺麗に咲き誇っていたが、燈はアレらが毒花であることを知っている。幾つかの木々には祥子を模したぬいぐるみにナイフが突き立てられて血を流しており、メルヘンチックでありながら無惨な世界と化していた。
一度入ったことがあるにゃむ・立希・海鈴ですらこの変化に息を呑むほどで、初めて入る者は思わず逃げ出したくなる衝動に襲われる。
だが、少女達は退かなかった。
「行こう」
燈は動揺をおくびにも出さず湖へ直進する。モーティスもまたそんな燈を追いかけるように進んでいった。
「んーっと、別に冷たいとか息ができないとかはないから安心して」
モーティスを先頭にして一同湖に潜る。立希と海鈴はようやく合点がいったと顔を見合わせる。どうやっても祥子がみつからないわけだ。流石に湖の奥にいるとは想像も出来なかった。
湖は言われた通り冷たくはなく、寧ろどこか温かい。包み込んでくれるような温かさ。どこまでも穏やかでどこまでも透明。これが祥子と睦の世界なのだと思うと、納得と同時に寂しさすら感じる。
やがて見えた光に向かって上昇する。そうして辿り着いた光の先、そこはかつて燈が訪れたお姫様の部屋を彷彿とさせる荘厳な雰囲気の空間だった。
「さき、ちゃん……………」
視線の先。
大きな棺の隣に座り込む1人の女の子がいる。先ほど会ったばかりのその顔は先程より幼くて、儚くて、今にも消えてしまいそうで、けれど、だからこそ其処に居るのが人間の豊川祥子なのだと分かる。
「祥子ちゃん」
モーティスが呼びかける。
その声に反応してゆっくりとこちらに視線を向ける祥子。一同を視認し一瞬瞳を大きく開いたが、直ぐに表情を戻した。
「モーティス。貴方本当にわたくしへの嫌がらせがお好きね」
「そーだよ。大嫌いな祥子ちゃんに嫌がらせするのが大好きなの。ここで過ごしてる時は全く嫌がらせ出来なかったから、今とーっても満足」
「それで。何をしに戻ってきたのです? 恐らくもうすぐだとは思っていたので呼びに行こうかと思案していた頃なのですが」
「私死ぬつもりないから。勿論祥子ちゃんも。土に還っても空に還っても、結局祥子ちゃんに嫌がらせ出来ないし」
不敵に笑うモーティスと、諦念が滲み出た微笑みを浮かべる祥子。2人は2人だけの世界で会話しているようだったけれど、燈はそんな2人の世界に入っていく。
「祥ちゃん。帰ろう?」
「…………ともり」
祥子の表情が僅かに曇る。迷いと揺らぎを携えて、心はまだどこか宙を彷徨っているように見えた。
「帰ろう」
「帰りませんわよ」
なんの感情をも載せず、祥子は独り言を呟くようにして言う。
棺の中を撫でる。その中に居るのが"睦"だと気付き、燈は僅かに顔を強張らせた。祥子は睦と心中しようとしている。モーティスから聞かされた話を反芻し、燈は祥子へと踏み込んでいく。
「祥ちゃん」
「帰らないと言ってるでしょう?」
「どうして」
「睦のいない世界に意味などありません。モーティス、貴方はいいのですか? 睦をここに置き去りにしたまま貴方は現実に戻ろうとしている。それが何を意味するのか分かっているのですか?」
祥子はモーティスへ静かに問いかける。
モーティスは答えない。
答えるのは……燈だ。
「祥ちゃん!!!」
燈らしからぬ大声に、祥子を含めたこの場の全員がびくりと反応する。ライブの時だってこんな風に怒声を荒げたりなんてしない。いつだって燈の歌は叫びで、パンクロックで、詩で……だからこんな怒りに身を任せた叫びは誰も知らない。
必死の形相で燈は言う。
「今、話してるのは私! 私を見て、私の目を見て!」
「とも、り……?」
「祥ちゃん、死ぬつもりなの? 私に死ぬのは駄目って言ったのは祥ちゃんなのに」
燈は苦しそうに、痛そうに、泣きそうに声を絞り出す。あの日確かに自分は死ぬつもりなんてなかった。けれど自分の心はあのまま祥子に出会わなければ緩やかに死に向かっていて、だからあの時燈の命を救ったのは、確かに豊川祥子だった。祥子は自分にとって命の恩人で、あの瞬間に燈は息を吹き返したのだ。
祥子は凄い人だ。太陽のような女の子だ。その事実はCRYCHICが解散してからも変わっていなくて、実際彼女は燈が想像も出来ないほど遠くの世界へと、自分自身の力で道を切り開いていった。
ーーだから、そんな祥子が祥子を殺そうとしている事実が許せなかった。
「死ぬ……というと語弊があります。人間のわたくしは還るんですのよ。いなくなるけど、いなかったことになるわけではありません」
「そんなの同じ、だよ。祥ちゃんは死んじゃ駄目。死ぬのは、駄目。死んだら、終わりなんだよ」
「………………そう。死んだら終わり。だから早く終わらせたいの」
祥子の目が鋭く光る。ここ最近はずっと鳴りを顰めていた人間らしい感情が見え隠れし始めていた。
「向こうのわたくしはよくやってるでしょう? 自分で言うのもなんですが才能はある方です。これからもAve_Mujicaの世界を作り続け、多くのファンを虜にしていくことでしょう」
祥子はにゃむ、初音、海鈴に視線を向けた。
「わたくしが居なくてもAve_Mujicaは存続できます。寧ろわたくしが居ない方が上手く回る可能性すらある。貴方達にとって都合の良い神様はきっと貴方達の飛躍を後押しするでしょう」
続いてそよ、立希に視線を向けた。
「わたくしがCRYCHICを壊した。わたくしは貴方達を傷つけた。2度と消えない罪です。それこそ死んで詫びるほどの。向こうのわたくしなら幾らでもこき使ってください。それで貴方たちに報いることが出来るとは思いませんが、溜飲は幾らか下がるかもしれません」
そして再び燈に視線を戻す。
「わたくしが睦を壊した。これは決して許されない大罪。だからわたくしは睦のそばを離れない。わたくしの半身が死にゆくというのなら、わたくしもまた死ぬべきです。天国に行けるとは思っていませんが、天国の門への送り迎えくらいはさせて欲しいところですね」
少し投げやり気味に祥子は俯いた。
言い過ぎてしまったかもしれない。燈は祥子のことを思ってくれた。それは嬉しい。とても嬉しい。だからこそ、ここでしっかりとお別れをしなくてはならない。
そう思って立ち上がり再び前を向いて、
ーー燈の顔が目の前にあった。
首が絞まる。燈に襟を掴まれているのだと気付いて、その事実に頭が真っ白になる。
燈は誰がどう見ても怒っていた。
表情変化の乏しい燈が、誰が見ても分かるほどの怒りを向けているというのは異常事態だ。穏やかな瞳は鋭い切れ目となり、いつもぼーっとしているあの雰囲気は霧散した。
「祥ちゃんは……祥ちゃんのことなんにもわかってない」
「………とも、り」
「祥ちゃんを必要としてる人のことを、なにもわかってない。私の大切な祥ちゃんのことを傷つける人は、祥ちゃんでも許さない」
燈の怒りが伝わってくる。
この異常な光景に、祥子もまたその理不尽さを呪いたくなった。どうせ消えるのだ。最後に色々ぶちまけたところで地獄行きは変わらない。
棘が刺さって傷だらけの少女はそんな燈を睨み返した。
「知ったような口を聞くのですね。わたくしはわたくしを信じない。燈が必要だと宣う豊川祥子はとうの昔に死んでいる。皆が必要としているのは完璧で非の打ち所がない、人間らしさを微塵も出さない神様! それだけですわ!」
「そんなこと、絶対にあり得ない! 祥ちゃんは人間。人間の祥ちゃんだから、私は祥ちゃんを好きになった!」
「人間のわたくしなんて要らない! 存在するだけで大切な人たちを壊して殺してしまうこんな呪われた人形、必要としてるなんてどうかしてます!」
「どうかしてるのは祥ちゃんだよ! どうして壊した事実ばかり見て、救った事実を見ようとしないの!? 私は祥ちゃんに救われた。きっと、みんなもそう。まだ何も手遅れなんかじゃない!」
「手遅れです! 睦は戻ってこない! わたくしは自らの犯した罪の大きさを自覚しながら生きていけるほど、強い人間なんかじゃない!」
全て吐き出して切った祥子は酸素を吸い込みきれず、脱力するかのようにして座り込んだ。燈の手からするりと抜け落ちて、目からは大粒の涙を溢して。
「わたくしには、わたくしを愛してくれるお母様はいない。わたくしの大好きだったお父様もいない。わたくしを信じてくれた半身もいなければ、運命だと信じて疑わなかったCRYCHICももうない。ただ大切なものだけがなくなって、罪の大きさが十字架となって積み上がっていく。
もう傷つきたくない。
もう傷付けたくない。
もう生きたくない。
消えて楽になりたい。
死んでしまいたい。
……そう願うのは傲慢ですか?
それはわたくしの罪でしょうか?
生きることは諦めることで、この手から大切なものは全てこぼれ落ちていってしまって、自分自身のことも大嫌いになって、それでもわたくしはまだ生き続けなくてはならないのですか?」
祥子はもう燈の顔を見ることができなかった。自分もこんな風に生きたかった。こうして誰かを信じて誰かのために怒れるような生き方をしたかった。
静まり返る空間。
燈が座り込む音がした。
祥子の手を取る。温かい手。冷え切った祥子の手に温もりが伝わり、もう片方の手は祥子の涙を拭う。
先ほどとは打って変わって、燈はいつもの穏やかな微笑を浮かべていた。
「私は……祥ちゃんが好き。祥ちゃんの温かくて、柔らかくて、誰かを思い遣れる心が好き。星のような黄金色の優しい瞳が好き。青空みたいに穏やかな気持ちになれる髪が好き。隣にいると落ち着く匂いが好き。お日様のような笑顔が好き。傷付いているのに、それを見せようとしない強がりなところが好き。硝子の様に繊細な声が好き。ピアノを弾いて楽しそうにしてるところが好き。陽だまりのようで、でも少しだけ陰がある雰囲気が好き。違う世界を見てるようで、同じ世界を見ようとしてくれるところが好き」
言葉を選ぶようにゆっくりとゆっくりと紡ぐ姿は……あの頃の燈そのものだった。ひとつひとつ、祥子についた傷に絆創膏を貼っていく。
出血が止まるように、涙も止まっていく。
「祥ちゃんが好き。祥ちゃんが祥ちゃんのこと嫌いでも、私は、祥ちゃんが好き。ここにいるみんなも、きっと」
燈の目線がチラリと後ろに向く。真っ先に飛び出したのは初音だった。
「私も好き! ううん、私が1番大好き。さきちゃんが居なかったら私は今こうしてここに居ない。私はさきちゃんに救われて……さきちゃんが居たから生きている。燈ちゃんにとっては太陽みたいな人で、私にとってはお月様のような人。神様なんかじゃない、人間のさきちゃんの好きなところを私もいっぱい言える。さきちゃんがそうしてくれたように、私もさきちゃんの罪を背負うよ」
「はつ、ね………」
「だからお願い…………自分を、殺さないで。私はさきちゃんのこと愛してる。さきちゃんから沢山のものを与えてもらったから、私にもそれを返させて」
燈とは反対の手を取り、反対の涙を拭う。
続けてそよと立希が踏み込む。
「言いたいことは燈ちゃんが全部言ってくれたから、私からは1つ。祥ちゃんは……CRYCHICのことどう思ってる?」
「……わたくしの、一生の宝物。もう戻ってはこない、けれど確かにそこに在った……たった1つだけの輝き、ですわ」
血を吐きそうなほど苦しそうにそう答える祥子を見て、そよはようやく憑き物が落ちた気分だった。
「じゃあ、私達は同じだよ。同じ傷を抱えて生きてる。この傷跡が私たちと祥ちゃんを繋ぐ証。私が祥ちゃんを今も必要としている証で、祥ちゃんのこと大好きな証」
「そ、よ……」
「私は、お前から逃げた。お前と向き合って傷つくことから逃げた。私にとっても大きな傷跡で罪の証。だから私さ、手遅れだって思ってないんだ。この傷跡こそがCRYCHICで、これから私達はまた新しい関係を築けるだろうから。……私もさ、お前のこと結構好きだよ、祥子」
「たき……」
そよと立希も穏やかな表情だった。穏やかで、どこまでも優しい。
「私はよくわかんないけどさ。祥子ちゃんの"これから"になりたいな。私祥子ちゃんと居ても壊れてないし。だから呪いなんて言わないで」
「……まだ、わからないですわよ。私のような厄病神、関わらない方が」
「厄病神は憑いてない。なんか温かいのが居る」
楽奈が指差す。
背後には何も見えない。
愛音は「怖い話やめてよ〜」とか言いながらしゃがみ込んでその場のみんなと同様に祥子へ目線を合わせた。
「だいじょうぶ! 私が祥子ちゃんを人間にしてあげるから。レッツエンジョイ羽丘ライフ!」
「……………愛音、さん」
「愛音って呼んで。学校にいる時くらいはさ、神様やめちゃお? ね?」
不思議な子だ。みるみるうちに毒気を抜かれていく。祥子は自分の心が落ち着きを取り戻していることを実感する。
「では次は私ですね。私は正直怒ってますよ。よくも舐めたことをとも思っています」
「いや海鈴おまえ空気を……」
場の雰囲気をぶち壊しそうな海鈴を嗜める立希だったが、海鈴は止まりそうになかった。
「神様の豊川さんが居れば充分だと思われていたことが心外です。私が一生を預けたのは人間の豊川さんです。契約は履行していただかなくては」
「……神のわたくしでは駄目だと?」
「駄目です。豊川さんが私を信頼し、私はその信頼を行動で返す。何か勘違いしているようですが、私は貴方のことを好ましく思ったから人生を預けたんです。出来れば三角さんや若葉さん、高松さんくらいの関係性を築きたいとすら思ってます」
「それは……えっと、どうなんでしょう……」
何故か燈と初音の手の力が強くなり、思わず呻いてしまう祥子。そんな様子がどうにもおかしくて、海鈴はふっと笑う。
「それもこれも生きてこそです。今の運命共同体はCRYCHICではなく我々Ave_Mujica。なればこそ、私は豊川さんの抱える傷を一緒に背負いますよ。貴方の傷も罪も十字架も一緒に背負って生きましょう。その過程で時々私の罪も背負ってください」
「……海鈴、貴方なんだか変わりました?」
「求めるばかりでは信頼は得られないとようやく気づきました。実践の場を一緒に守っていきましょう、"祥子さん"」
「……おかしな方」
祥子の表情が柔らかくなる。海鈴は変わった。それも良い方に。それは、今の祥子が作ったAve_Mujicaのお陰だ。今の祥子も充分に人を救うことができる。そう教えられたようで、祥子は少しだけ苦しみから解放された気分になった。
そしてにゃむ。言いたいことは山ほどあった。
「神様のサキコは気持ち悪過ぎる。一回外から見てみ? あれに任せられると思ったアンタの気がしれないわ」
「完璧な神様だと思うのですが」
「はいまずその認識改めて。完璧な存在に人が付いていくと思ったら大間違い。アタシは、アンタの足掻いて踠いて抗っていこうとしてるハングリー精神というか、叛逆性みたいなとこが結構好き。アタシとバチボコやり合ってたアンタが好き。あの生意気な表情を屈服させてやりたくなる。化け物にやられ過ぎてて今鬱憤溜まってるから今ならアンタのこと愛してあげられかもねー」
「……わたくし、やっぱり貴方のそういうところ少しだけ嫌いかもしれません」
「そーそ。それでいいの。アタシに都合のいい神様なんかやらなくていい。嫌なものは嫌、良いものは良い。そういう人間らしいリーダーのアンタについて行くから。アタシの一生は結構高価なんだから、ちゃんと責任持って磨きあげてよね、サキコ」
祥子の額に人差し指を押し付けたのち、その髪を掬い上げてキスをする。突然の行動に動揺して仰反る祥子を見て、にゃむは悪戯っぽい笑みのまま後ろへと戻って行く。久しぶりにとても良い気分だった。
「はい最後、モーティス」
「はぁ……。にゃむちゃんって本当に素直じゃないよね。内心祥子ちゃん好き好き大好きって感じなのにあの態度。好きな子に悪戯したくなる衝動って小学生までにしといた方がいいよ?」
「ちょっと? ブーメラン投げられてるんだけど?」
「ブーメランじゃないもん! ……っと。祥子ちゃんこれで分かった? 祥子ちゃんは昔からそうだったけど、自分への好意に鈍感すぎ。自分のことが分かってないから人の好意に気付けずに誰かを傷つけるし、自分勝手に傷付いてそれでもっと周りの人を傷つける。すごく迷惑」
ここぞとばかりに言いたい放題である。今の祥子ならちゃんと傷付いてくれそうだから今のうちだ。
モーティスの思惑通り祥子には今の言葉が刺さったようで、少しだけしょぼんとしていた。燈や初音の視線が痛いが、間違ったことを言ったつもりはない。
「あと人の話は最後まで聞く。これやらないと人間関係ぐっちゃぐちゃになるから。私、睦ちゃんを置いてくなんて一言も言ってない」
「…………え?」
「まぁ最初はあの湖のとこに連れてけばいいかなとか思ってたんだけどさ。うん、気が変わった。今起こそう」
モーティスは初音が握っていた方の祥子の腕を持ち上げ、無理やり祥子を引っ張り上げる。初音が何やら情けない声をあげていたが気にしない。その体を押し出し、棺の前へと立たせた。
「はい、睦ちゃん起こして」
「……はい? モーティス、何を言ってるんですの? 起こせないからこそわたくしはこうして」
「それは今までの弱々祥子ちゃんね。今は違う。本当はこのお話ってもっと単純で、もっとおとぎ話で、喜劇で、祥子ちゃんが"王子様"やってればここまで拗れることはなかったんだよね」
やれやれとばかりにため息を吐く。
最初からモーティスはこれだけを期待していた。そうすれば危うく祥子に絆されそうになったり、祥子の体になぞ入ったり、こうしてみんなを引き連れてキューピットごっこに興じずとも済んだというのに。
「睦ちゃんを起こせるのは祥子ちゃんだけだよ。祥子ちゃんは良くも悪くも運命を引き寄せるだけの力がある。1の目ばかり出してきた祥子ちゃんだけどさ……なんだかんだ最後はちゃんと決めてよ」
「……モーティス」
「なーに?」
「愛していますわ」
「ーーーーーッ!!! さいってい! 最悪! 睦ちゃんにだけそういうこと囁いてればいいのに! 私に言ったって何の意味もないんだから! 嫌い嫌い嫌い大っ嫌い!!!」
くすくすと笑う祥子と真っ赤になって喚き散らすモーティス。2人の関係はなんだか不思議で、少し羨ましい。祥子を知る人間は皆そう思う。
棺の前で膝を折る。
覗き込むとそこには真っ白な肌の白雪姫が眠っている。祈るように胸の前で手を組み、すやすやと眠っている。
「睦」
呼びかける。
目を覚ます気配はない。それでも祥子は睦を呼ぶ。
「待たせてしまってごめんなさい、睦。貴方はずっと待っていたのに。……貴方のこと、ちゃんとわかったんですのよ。ここに来て、貴方の一部となって、貴方とずっと一緒にいて。
わたくしは……まだ自分が生きていていいかどうか、分かっていません。貴方をこんな風にしてしまったわたくしがこんな事を言うのは傲慢だと思います。
けれど、いえ、だからこそ……。
私と生きて、睦」
口付けを落とす。
祥子が見てきた睦の記憶、祥子が持つ睦への様々な感情、祥子が受け取った睦からの思いを全て睦へ吹き込む。記憶は想いになり、想いは形となり、形は生命となる。
「………………………いいよ、祥」