軍貫に乗る水兵が壊獣との交戦を書いた日記。
なお世界観も何もかも妄想の模様。ノリで書いたので難しいことはナシで。
アンチ・ヘイトは念のため

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第1話

 █月█日 天候:曇天

 今日でしゃりの軍貫に乗り込み巡回任務を開始してから3日が経過した。

 巡回範囲である██海域はいわゆる荒海に分類される海域だが、今朝は波一つ立たず、風もなかった。不気味にまでにやけに静かだったのを覚えている。

 その静けさにつられてか、俺たち水兵は皆無言を貫いていた。

 それは静けさゆえの不気味さから来る緊張と、何か来るだろうという野生の勘からの無言だったのだろう。

 

 少しの不気味さを覚えながらも、巡回任務を平常時通りこなしていたさなかにその勘は的中することとなる。

 十一時三十二分、艦橋から急報。

 

「西方三百浬先、未確認物体浮上」

 

 とのことだった。ソナー反応がなく、レーダーにも反応しない。司令官が双眼鏡を除いて硬直した。西方角に三百里先には別任務中のしらうおの軍貫がいたのだ、司令官がしらうおの軍貫向けに緊急連絡を行うが時すでに遅し。

 

 "それ"は、しらうおの軍貫をひっくり返して海面を突き出すようにして現れた。黒く、禍々しい影。軍貫より遥かな巨大な、それはまるで海の裂け目から這い出たようだった。海面から姿を現して見えたのは、背中には巨大な甲羅から左右に大きく突起しているヒレと思わしき部位、甲羅に覆われているのはドラゴンのような体で、目と思わしき緑の光がふたつ、こちらを見下ろしていた。

 

「...壊獣だ」

 

 誰かが小さく、だが確かにそう呟いた。EDO-FRONTが持つ古代の交戦記録に記されている、その強大で敗北した苦い過去を持つ"それ"の名を。司令官は即座に大本営に連絡を行い、周辺海域に存在する軍貫ごとの帰投命令と同時に港周辺地域の避難命令が迅速に下された。

 

 幸い壊獣は移動速度が遅く、周辺海域の軍貫も接触せず帰投が完了。俺たちが港へ戻るころ、すでに沿岸部から壊獣の姿が水平線の端にほんの微かにだが見えるほどに迫ってきていた。魚群は逃げ、海鳥は騒ぎ立て、港には到着したときには民間人の姿は見えなかった。大本営から迎え撃てとの命令が来たそうで、言われずともと言わんばかりに俺たちは緊急で臨戦態勢を整える。整備と同時進行で燃料補給を開始し、時を同じくして我々以外のしゃりの軍貫が2艦港で出港準備を開始した。他にも最新型のうにの軍貫が出港準備完了し、いくらの軍貫としゃりの軍貫の強化型と評される赤しゃりの軍貫が3艦ずつ集結し何時でも出港できるよう準備を行いながら待機している。憎くも壊獣に沈没されてしまったしらうおの軍貫も2艦出港準備に入った。どうやら今回の交戦には、大本営から出し惜しみなしのフルスペックでの対応が認められたらしい。それほどまでに、状況は緊迫しているということだ。

 

「目標、港湾正面三〇〇〇、速度一。間もなく視認距離に入ります!」

「今回の迎撃対象の名称は《海亀壊獣ガメシエル》!」

 

 艦橋から怒号のような報告が響く。EDO-FRONTに保管されている記録によれば、それはかつて南洋諸島に封印されていた海神の殻とも称されるものだった。神話の残滓、災厄の具現。甲羅の中に無数の術式のような刻印。全身からは目視できるレベルのエネルギーフィールドが発せられている。

 

「バリアだ。砲撃を通さない結界が張られている.」

 

 司令官が双眼鏡越しにそう言う。俺たちは一斉に舌打ちをした。そもそもが強大で砲撃で打ち抜いて倒すことさえ難しいというのに、加えてバリアを持つなどふざけているとしか思えないからだ。それでも、俺たちは立ち止まらない。整備班が叫ぶように報告を飛ばしてくる。

 

「うにの軍貫、しゃりの軍貫の連結準備完了! いくら、赤しゃり、しらうおの軍貫出撃準備完了!」

 

 その報告を合図に両司令官は指令を行う。

 

「「うにの軍貫、しゃりの軍貫のエクシーズ連結開始!」」

 

 軍貫がうなる。2艦の連結が進み、ひとつの"弩級軍貫"として形を成していく。

 

「「うにの軍貫としゃりの軍貫をオーバーレイ! 2体の軍貫でオーバーレイ・プレイディングを構築! エクシーズ連結! 現れよ、超弩級軍貫ーうに型二番艦!」」

 

 

 超弩級軍貫──うに型二番艦が海上にその巨体を現した瞬間、空気が変わった。

 港湾全域に響く振動。水面が裂け、波紋が押し寄せる。

 うにの黒鋼の外殻としゃりの内部機構が融合し、甲板上に巻のりで包まれたの砲台が自動配置されていく。

 

「計測値異常なし! 全火器システム、起動完了! エネルギー充填率、60%、70%.! 順調に上昇しています!」

 

 艦橋に歓声にも似た声が響く。

 俺は射撃管制室で目を見開いた。前例のない連結構成、艦全体がまるで生きているかのようにうなっていた。

 

 そして──

 

「うに型二番艦より伝令! 全軍貫、迎撃開始!」

 

 全艦が一斉に動き出した。

 水平線の向こう、海霧を割って現れる巨大な影。

 その輪郭が、ついに──肉眼で確認できる距離にまで迫っていた。

 

「来るぞ!」

 

 海亀壊獣ガメシエルの甲羅の文様が光り、胸部の刻印からバリアの波紋が展開する。バリア強度は、従来の壊獣の記録を大きく上回る値。しかし、俺たちには切り札がある── うに型二番艦のみ持つ特別な兵装の能力、それは相手の特殊能力を無効にできる能力だ。

 

「いくら、しらうお隊、支援砲撃開始! しゃり・赤しゃり隊、連結展開による波動集中射!」

 

 赤しゃり型が左右より射出され、うに型の装甲へと着弾、即座に変換・再配置されてゆく。波動収束装置が開き、中央部に集束されるエネルギーはまばゆいまでの金色に輝いていた。

 

「波動蓄積率、90……92……97%! 撃てます!」

 

 司令官の指示はなかった。

 全員がその瞬間を、感じ取っていた。

 

「──撃てぇ!!」

 

 結界を打ち破りその身体ごと破壊せんとする閃光が海を裂いた。波動砲が、大砲の咆哮と共に発射される。それは確かに、ガメシエルの胸部中央、結界の震源に命中した。轟音。爆光。世界が揺れたかのような衝撃。

 

 だが、次の瞬間──

 

「バリア、まだ……抜けきれていません!!」

 

 通信士が叫んだ。ガメシエルは怯んだ。確かに攻撃は与えられた。しかし、崩れていない。結界がひび割れてその衝撃を受けただけ──まるで、こちらの限界を試しているようだった。

 

「くそ……! 足りねぇのかよ……!」

 

 そう誰もが思い、絶望が艦内を走り、同時にまたさらにそれを上回る絶望が起こった。皆が絶対的信頼を置いている超弩級軍貫-うに型二番艦が自身の攻撃によってダメージを受けてしまい、まともに攻撃できなくなってしまったのだ。

 その時、背後から重く低い、だが確かな通信が入った。

 

「こちら…しらうおの軍貫。二番艦、及び三番艦、エクシーズ連結を行い特攻体勢に入る。火線を空け」

 

 一瞬、全員が息を呑んだ。当然だ。沈められたはずのしらうお──その残存艦が、命を賭して突貫を申し出たのだ。それに追随する形で通信が入る。

 

「しらうおの軍貫の司令官に告ぐ。我々赤しゃりの軍貫がエクシーズ連結の対象となろう。しゃりといくらの軍貫の司令官方、よろしいか?」

 

 しゃりといくらの司令官が言う。

 

「了解。全艦、回避展開。しらうお、赤しゃり突入路確保!」

 

 しらうおの軍貫と赤しゃりの軍貫の両司令官が叫ぶ。

 

「「しらうおの軍貫と赤しゃりの軍貫をオーバーレイ! 2体の軍貫でオーバーレイ・プレイディングを構築! エクシーズ連結! 現れよ、空母軍貫ーしらうお型特務艦!」」

 

 2艦のしらうお型特務艦が現れた。その艦影は他の軍貫と明らかに異なっていた。白銀に輝く艦体。

 

「空母軍貫、最終攻撃準備完了。標的、ガメシエル──結界震源座標、固定。弾頭──“薦推奨軍貫圧縮弾”3発、装填済み!」

 

 通信が終わると同時、艦内が一瞬だけ静寂に包まれた。

 

「……出るぞ」

 

 しらうお型の司令官が呟き、その声を合図に全艦が動いた。

 

「発射-ッ!」

 

「直撃確認!!」

「結界、崩壊──!!」

 

 その報告と同時に、俺の目に映ったのは、甲羅の文様がひとつひとつ音を立てるようにして崩壊していく光景だった。

 まるで呪いが解けるように、バリアの残滓が霧のように風に溶けていく。

 だが──

 

「ガメシエル、沈まず……まだ動いています!」

 

 信じられなかった。結界が破られてなお、そいつは再び体勢を立て直していた。背中のヒレが大きく広がり、甲羅の接合部が開き始める。そこから放たれたのは、光。否、対艦用の熱線砲だ。

 

「やばい……!! 来るぞ!!」

 

 ガメシエルが俺たちの軍貫、そして港湾部に向けて熱線が放たれる──その瞬間、しらうお型特務艦といくらの軍貫が沈んでゆき、再び水面下から壊獣が現れた。

 

「「ギャオォォォォオオッ!」」

 

 2頭の壊獣からの咆哮が聞こえる。人間のような形をした黒光りした体に頭に羽が生えている壊獣、マグマを身に纏い胴体から両翼を生やした壊獣。まさか、思ってもいなかった異常事態だった。

 目の前のガメシエル一体ですら限界に近い総力戦を強いられているというのに、水面下からさらに二体──新たな壊獣が姿を現したのだ。

 あまりの事態に、艦内の空気が止まった。

 音も、声も、時間さえも一瞬凍りついた気がした。

 もう俺が乗っているうに型二番艦は攻撃の反動で動けず、しらうおと赤しゃりはしらうお型特務艦になったもののガメシエルを倒せず、いくらの軍貫は壊獣に沈没させられてしまった。

 

 もうできる手はすべて打った。

 ……そう、思った、そのときだった。

 

「──起動信号、確認。最終防衛システム《天霆號アーゼウス》、封印解除手続きに入ります」

 

 艦橋内に、聞いたことのないシステム音声が響き渡る。

 その瞬間、港湾部奥──軍貫処 「海せん」格納庫の封印扉が、重々しい音を立てて開いた。

 

「……天霆號アーゼウス……? あれは、まさか……!」

 

 誰かが呻いた。それはEDO-FRONTが未だ稼働させたことのない、伝説の"最終兵器"。

 人智が初めて軍貫という戦力を構築した際、制御不能ゆえに封印された最初で最後の試作兵器。港湾格納庫から発進したそれは、これまで見たどの軍貫とも異なる姿だった。黄金と銀の装甲に包まれた巨体。両肩には雷撃のような装置を備え、全身からは空気を振動させるほどの圧倒的エネルギーが放出されている。かつて軍貫開発計画の最深部で構想され、強大すぎる力ゆえに歴史の闇に封印された最終兵器。いかなる軍貫とも融合せず、独立した存在として設計された“破界機械”。

 

 その姿が格納庫から現れた瞬間、敵である壊獣たちすら一瞬、動きを止めた。

 

「エネルギー反応、計測不能! いや、機器が壊れてるわけじゃない……桁が違うんだ!」

 

「最終防衛兵器、《天霆號アーゼウス》──起動完了。全武装、展開準備……完了」

 

 艦橋のスクリーンに、アーゼウスの視点映像が映し出される。目の前のガメシエル、そして新たに出現した二体の壊獣へと視線を向ける。

 

 そして、静かに、だが確実に、両手の砲門が開く。

 

「裁きの雷光、展開──」

 

 空が裂けた。

 

 雲の向こうから降り注いだのは、まさしく“神雷”。アーゼウスの背中から立ち昇った光の柱が、空に亀裂を生み出し、無数の雷撃が壊獣たちに向かって降り注ぐ。

 

「壊獣三体、全機能低下! 動力遮断! 結界再展開不能!」

 

 艦内がどよめいた。

 

 それは勝利の歓声ではない。あまりにも現実離れした力の前に、ただ声を漏らすしかなかったのだ。天霆號アーゼウスは、静かに腕を下ろした後、空へと消えていった。壊獣たちは、燃え尽きた星屑のように、海の闇へと崩れ落ちていった。

 

 静寂。

 

 風が吹いた。誰もがそれを、神の使いが残した余韻だと錯覚した。

 俺たちはただ、沈黙して海に倒れ伏していた。

 


 

 ██月██日 天候:快晴

 

 一夜が明けた。港には穏やかな朝が訪れていた。海は昨日と同じ海だとは思えないほど静かだった。ただ、昨日の戦いの跡がそれを否定するように、あちこちに黒焦げた瓦礫と折れたマスト、そして沈没しかけた軍貫の残骸が漂っていた。

 

 俺は岸壁に立ち、うに型二番艦の焼けた装甲を見つめていた。まるで眠っているように静かだった。多くの仲間が帰らなかった。しらうおの軍貫、いくらの軍貫、赤しゃりの軍貫の全て……それでも、俺たちは壊獣に勝った。

 

 勝った、のだろう。いや、勝たせてもらったのだ。《天霆號アーゼウス》という神話のような力に。

 

 あれが再び動くことは、恐らくもうない。そういう風に造られているらしい。最終兵器は、最終であるがゆえに二度とは現れない。封印が解かれるのは、本当に“最後”だけだ。きっとこれは、そういう類の“終わり”だったのだ。

 軍貫はまた再び作れても、仲間は帰ってこない。そう思うと、悔やんでも悔やみきれない。

 港には再び人が戻ってきていた。避難していた民間人が、恐る恐る海を見つめながら港へと歩いてくる。その中には、泣きながら船を見上げる子供の姿もあった。きっと誰か、大切な人があの戦いで命を賭けたのだろう。

 

 俺は帽子を脱ぎ、黙って海に頭を下げた。

 

 そして、もう一度、軍貫の艦橋へ向かって歩き出した。

 

 俺たちの任務は終わっていない。

 

 海がある限り、壊獣は再び現れるかもしれない。

 

 だがそれでも──俺たちは、また立ち向かうだろう。

 

 了。


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