タイトルの通りです。

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人にはない力をもつだけの少女が、望まぬ形で破壊行為を強要されるだけの短編

 深夜、私が独房から連れ出されたのは、駅前のとあるビルの屋上だった。

 

 ビルの中は電気がつけられているのに誰もおらず、背の高い黒服の女の人に連れられている間、警備員にすら遭遇しなかった。

 

 多分このビルは、すっかりあの人たちの手に落ちてしまったのだろう。

 

 どうせ効果はないだろうと思いながら、背の高い彼女に異能を行使してみても、やはり彼女は『消え』なかった。

 

 私はお母さんとそれに関係するものを消せないから、やっぱりこの人もお母さんの髪の毛とか、遺灰とかを食べたのかな。

 

 嫌になるな。ほんと。

 

 私を連れた彼女が、階段を上がり屋上へ続く扉に手をかけると、鍵は掛かっていなかったのか、そのまま嫌な音を立てながら扉は開いた。

 

 その扉の向こうにも、黒い服を着た男の人がいた。

 

 「遅かったね。もう準備は済ませているよ。あとはきみが異能を行使するだけさ」

 

 彼はやけに響く低い声で街を見下ろしながら、そう言った。

 

 白髪の髪や声質から考えると、歳は60を優に超えているように思われる。

 

 やはりこの人も『消え』なかった。

 

 屋上には鈍色の杭が無数に、等間隔に生えている。杭はその内側が緑に光っていて、その光が漏れて屋上をほのかに照らしている。

 

 異能の出力を上げるためのもので、遠くの目標を狙うときに補助として使われたことがある。

 

 だが、入手難度も高い上、設置も難しくて、そんなおいそれと使える代物ではない。

 

 それをこの数。一体どれだけ遠い目標を狙うのか。

 

 疑問を抱きながら、処刑台へと上がる罪人の気持ちで歩を進め、二人の挟まれる形になる。

 

 「どこを狙えばいいですか」

 

 震えた声でそう問う。

 

 本当は『どこを』でなく、『だれを』と問うべきなのは分かっている。

 でも、人を殺していることを認めたくないのか、ついこの言葉が出てしまう。

 

 本当に浅ましくて、みっともなくて、気持ちが悪い。

 そこまで考えて、握り込んでいた掌から血が流れていることに気付いた。

 

 「指向性を持たせる必要などない。ただ最大出力さえ出せばそれで十分だ」

 

 私を連れている間、ずっと黙っていた背の高い女の人が、低い声でぶっきらぼうにそう言う。

 顔を俯かせている私では到底表情を伺うことはできそうにない。

 だが、表情よりも重要なのはその言葉だ。

 

 「私、そんなことできません」

 

 「できないことはない。そのはずだよ」

 

 左に立つ歳をとった彼が、肩を竦めながらそう言う。杭の光がその顔に翳りをもたらしていて、浮かべる表情は穏やかなのにやけに恐ろしく感じられる。

 

 可能か不可能かの問題なら、確かに可能だろう。

 だけど、そんなことしてしまったら、どうなる。

 杭の補助がない状態でも、この市は消し飛ぶだろう。

 

 ならこれだけの杭がある今なら。

 

 きっとこの県がなくなるだけなら軽い方だろう。

 

 だから、できない。気持ちとして。

 

 いままでさんざんころしてきたくせに。まだわたしはいいひとになりたいのか。

 

 「したくないです」

 

 「駄目だ」

 

 「......いやです」

 

 「駄目だ」

 

 背の高い彼女がそう否定を続ける。

 

 「いやです」

 

 お腹に強い衝撃が走る。

 

 殴られた。痛い。

 

 まだ顔は見てないけどきっと怒っているのかな。

 

 「......いや......です。」

 

 口から唾液を漏らしながらそう言う。

 

 気がつくと屋上の上を体が跳ねていて、そのまま杭にぶつかる。

 

 どうやら顔を蹴られたらしい。右頬が鋭く痛む。

 

 痛くて、だんごむしみたいに丸まってしまう。

 

 こつこつという、わざと大きくしているであろう足音が近づいてくる。

 

 傍らに彼女が立ったのを気配で感じる。

 

 痛む顔を上げて言う。

 

 「......いゃ......です」

 

 こんどはおなかをけられたらしい。

 

 「......い...ゃ」

 

 かおを、かたを、おなかをなぐられる。

 

 けっこうくるしくて、なみだがでる。

 

 でも、これでいい。きょぜつして、ちからさえつかわなければ、だいじょうぶ。

 

 さすがに、こんかいのは、いっせんをこえてるから。

 だから、ぜったいに、ちからはつかわない。

 

 じゃあ、いままであのひとたちをころしてきたことはゆるされるはんいのことだったとでもいうのか。

 

 私達のやりとりを横目で見ていた彼が、口を挟む。

 

 「待ちなさい」

  

 そう言うと彼女は殴るのをやっとやめた。

 

 そして、私が落ち着くのを待ってあるものを取り出した。

  

 「これがなにか。君にはわかるだろう?」

 

 取り出されたのは、お母さんの形見の品。わたしの家族のなかで、唯一わたしのことを考えていてくれたお母さんの大切なもの。

 

 降って湧いた莫大な祖父の遺産を、一銭でも多く手に入れようと、ずっと言い争っていた父とか、その父を轢き殺した叔父さんとかには似ても似つかない、大切な人が遺していった、無くしてはいけないもの。

 

 つまり、父とお母さんの結婚指輪。

 

 お母さんが縄で首を吊って死んだその時も持っていた、お母さんにとってきっとずっと大切な物。

 

 それはきっとわたしよりも。

 

 それを、なんであなたが。

 

 どうしてあなたが持ってるの。

 

 「何か言いたげだね。『どうしてお前が母の指輪を持っているか』と言ったあたりかな」

 

 彼は何が面白いのか、微笑みながらそう言葉を続ける。そして、これを手に入れるのには苦労したんだよと心底疲れたように愚痴をこぼして、短く息を吐いて言葉を続ける。

 

 「これは君が強情になってしまったときの保険だよ。この様子だとやっぱり効果はあったようだね」

 

 言われて、顔が強張っているのに気づく。

 

 彼は屋上の際まで近づいて、指輪を握りしめた手を街へとかざす。

 

 「それで、君はどうするのかな?」

 

 答えられなくて、黙っていると、彼はとたんにカウントダウンを始めた。

 

 「ごー、よーん」

 

 場にふさわしくない間延びした声が響く。

 

 数字が少なくなるにつれ、指輪を握る指の本数が少なくなっていく。

 

 焦燥感に混乱していると、もう指は2本だけになった。

 

 「......ます。」

 

 「んー?よく聞こえないねェ」

 

 「やります!」

 

 言ってしまった。指輪はもはや親指のみで保持されていて、ぎりぎりだった。

 

 「なら、これは君に渡さないとね」

 

 やはり可笑しそうに顔を歪めて彼は、私に指輪を渡しに来る。

 

 顎を液体が流れているのを感じる。近づく彼を見ながらそれがなんなのかふと考えてみようとして、その行為の無意味さを悟って、やめた。

 

 血でも涙でも唾液でも、どうせ、結局は全て同じなんだから。

 

 

 


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