※それぞれの あれから。
「・・・よし、そんじゃ地球に帰ぇるか」
周りに集まった大勢をぐるりと見回して概ねの準備が整ったことを確認し、悟空は気を探り始めた。
大型の宇宙船が無い今、これほどの人数を地球まで移動させるには瞬間移動するしかない。
「・・・とはいってもピッコロまでこっちに来ちまってるんだよなあ・・・地球からかなり離れてっからココから探れるほどの大きさの気を持ってるヤツなんて他にいたっけか・・・?」
最悪界王様の星経由で行くしかねえか~、とぼやく悟空にベジータがふいに言い放つ。
「いるだろう。ウチの居候が」
「お?・・・あーアイツか!でもアイツも普段けっこう気抑えてっからな~・・・あとベジータ、おめえん家じゃなくてブルマん家な。また怒られっぞ」
「ふん」
折角教えてやったのに軽く刺されたベジータは不貞腐れたように顔を背け、笑う悟空は指摘された人物の気配を探り当てて声を上げた。
「あ、あった!よし、行けそうだ。みんなちゃんと掴まってろよ!」
ひとりでも接触が途切れているとその場に置いていかれてしまう。
ちゃんと全員繋がっていることを確認し、一瞬にして大人数が全く違う景色の元へと転移した。
着いた先は大きな庭園の中。
「あ?・・・なんだ貴様ら、間抜け面が雁首揃えやがって」
「よっしゃ、ちゃんと帰って来れたな!・・・おめえが残っててくれて助かったぞターレス!」
軽く手を挙げて声を掛ける悟空の視線の先には、その悟空と瓜二つの形状をした顔がある。
彼もかつては敵対していたサイヤ人だったが、今はカプセルコーポに身を置くベジータ曰く"居候"の一人だ。
戦闘服ではなく前を大きく開いた黒シャツに浅黒い肌を晒し、煙草をふかしているその姿はそれなりに年季が入ったものがある。
「勝手に人を座標マーカー扱いしてんじゃねえよ」
「いいじゃねえか別に。どうせまた仕事サボってたんだろ?」
年中働きもせずごく潰しやってる貴様が言えた口か、と軽口を返すターレスにへへへと特に気に障る様子もなく笑って悟空は後ろを振り返った。
突然知らない場所に連れて来られて目を白黒させているシャモ達と、一緒に帰ってきた仲間たちも見たところ特に問題はなさそうだ。
しかし視線を巡らせるさなか、ふとパラガスのほうへ目をやるとその傍らで座り込んで項垂れている長身の姿が目に付いた。
「ブロリー?どうした?」
悟空が近寄るも、反応する様子はない。
殆ど瞼は落ち、ただ舟を漕ぐように頭が微かに揺れていた。
「・・・・・・・ね、むい」
消え入りそうな声で小さくそう呟いたきり、ついに動かなくなってしまう。
ぐらりと傾いだ身体を支えたパラガスが覗き込んだときには、既にブロリーは意識を手放していた。
「すまんがこのまま寝かせてやりたい。・・・ここ最近は殆ど眠れていなかったようだ。色々と限界を抱えていたのだろう」
「そっか・・・張り詰めてたもんが切れちまったのかもな」
少し前までは考えられなかったほどに無防備な寝顔を晒しているのを見て、パラガスの言葉に悟空も頷き振り返る。
「ターレス、空き部屋あるか?あとこの二人と周りにいるちっこい奴らのこと、一度ブルマに相談しておきてえんだ」
「へいへい。着いてきな・・・というかそいつらサイヤ人か?まだ生き残りがいたとはな」
「おう、すげえ強ぇんだぞコイツ。ホントはもう一人とびきり強ぇ奴もいたんだけどよ~、・・・」
そう楽しそうに話す悟空の後ろで、パラガスに担ぎ上げながらもブロリーが起きる気配は全くない。
―――再び目覚めた時、その身に降りかかろうとしている災難をいまだ知りもせず。
今はただ、昏々と眠り続けていた。
一方、遠く離れた世界線でバンパへと無事戻れたもう一人のブロリーは。
チライやレモと連れ立って、かつて塒にしていた洞窟へと戻ってきていた。
辿り着いた先で、ブロリー達を出迎えたのはこれまた見知った姿だ。
「よう、ちゃんと目覚めたみてえだな」
「あ、悟空・・・と、ベジータ?」
ブロリーが口にした悟空という名前に呼ばれた当人含めて全員がキョトンとした顔をしたが、一瞬の間をおいて悟空が「おう」と笑って応えた。
・・・そういえば、"向こう"に行く前はまだ違う呼び方をしていたんだった。
本当に、ほんの数日離れていただけなのに随分と久しぶりな気がしてしまう。
しみじみとそう思ったブロリーをよそに、レモが悟空へと声を掛けた。
「すまんな色々と。"あとの二人"はどうした?」
「ああ、もう帰ぇったよ。ブロリーがちゃんと戻って来れたならもう充分だし、"時間"も切れちまってたからあんまり長居すんのも良く無さそうだったしな」
「そうか。あんたらにも面倒をかけた」
「気にすんな、元々はこっちが原因作ったようなもんなんだからよ」
二人の会話についていけていないブロリーはチライに向かって「他にも誰かいたのか?」と首を傾げる。
チライは少し疲れたように、しかしいつものような悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「ああ、こっちはこっちでアンタがいなくなって大騒ぎだったのさ。ちょっと凄いことになってたんだよ」
「・・・聞きたい」
「うん、話そう。いっぱい、ブロリーの話も聞かせてくれよ」
好奇心に目を輝かせるブロリーにチライも嬉しそうに頷いて、手を引きながらカプセルハウスへと帰っていく。
そこでまず何故ベジータまでもがここにいるのかという問いに答える形で実はゴジータが悟空とベジータの合体した姿だったということを初めて聞かされ、ブロリーは幾度となく驚きに目を白黒させることとなった。
―――話はブロリーが消えたあの日まで遡る。
ブロリーが吸い込まれた直後に消えてしまった黒点は、待とうが何をしようがその日のうちに再度出現することはなかった。
いつもは短時間で帰ってしまうゴジータもこの時ばかりはそうもいかず、時間切れで悟空とベジータの二人に分離したことに驚くチライとレモにフュージョンのことを明かしつつ事態の究明と解決に向けて奔走することになる。
最終的に頼ったのはドラゴンボールだ。
しかし神龍の力を以てしても、すんなりと問題解決・・・というわけにはいかなかった。
願いの力にも限度はあったからだ。
まず、消えたブロリーを直接呼び戻してほしいと頼んでみた。
・・・不可。
時間と空間を超えた別の世界線へ飛んでしまっており、直接の介入は神龍の力を超えるため出来ないのだという。
次に、あの黒い空間の穴を再び開いてほしいと頼んでみた。
・・・これも不可。
時空間への介入は、先程の願いと同じく直接神龍が操作できるものではないという。
ならばと、「どうすればあの黒点を再出現させることが出来るのか」という手段の提示を願ってみた。
これは通った。
あの黒点は時空の歪みであり、何らかの強大なエネルギーが発生したりぶつかり合ったりした際に稀に発生する現象なのだという。
過去には惑星の爆発などでも発生したことがあるらしい。
手段は判明した。
あとは、自分達でどうにかするしかないようだ。
しかし条件的に見て、今回発生したのはゴジータとブロリーの力が衝突したのが切っ掛けだったのであろうというのは間違いない。
とすると、ブロリーが消えてしまった今はゴジータと実力の匹敵する人物を代わりに誰か用意して同じような状態を再現する必要がある。
神々を除いてほぼ最強の立ち位置に君臨しているゴジータに釣り合う者など存在するのか?
思い当たるフシは無く、かといって眠りに入った直後であるビルス様や遠くにいるウィスさんにわざわざ協力を仰ぎにいくのもどうなのかという話になった辺りで悟空が妙案を出してきた。
「なあ、ちーっとばかし試してみたいことがあんだけど」
「・・・なんだ?誰か他に心当たりでもあるのか」
ドラゴンボールが再び空に散っていったのを見届け、カプセルコーポの外庭で対策を練っていた悟空とベジータ。
悟空は少し離れたところで見物していたブルマへおもむろに声を掛けた。
「ブルマ、おめえの力を借りてえんだ」
「・・・私?出来る事なら協力してあげてもいいけど、なにする気よ?」
「おめえさ、こっそり隠れてまたタイムマシン作ってんだろ」
ぎく、と派手にブルマの肩が跳ねたのを見てベジータが呆れたような表情を向ける。
「・・・本当か?お前・・・懲りもせずに・・・・・」
「な、何よぉ!別にいいじゃない!悪事に使おうってわけでもないんだから!」
「なぁなぁそれさ、ビルス様たちには内緒にしてやっからちょーっとだけオラたちに使わせてくんねえか?」
「んもう・・・本体はほとんど完成してるけど、今回は未来の私の知識抜きでやってるからそこまで出力は出せないわよ?エネルギーのチャージにも時間がかかるし」
「大丈夫だ。移動したいのは一日分の時間だけだかんな」
「まあ、それくらいなら大丈夫かしら・・・」
若干渋りつつも承諾したブルマにサンキューと礼を言い、悟空は訝しげなベジータへ再度向き直った。
「・・・一体何をする気だ?昨日に戻ってブロリーが消えるのを阻止するということか」
「違う違う。そんなことしても"こっち"のブロリーは消えたまま戻ってこねえだろ?」
そこまで言うと悟空は少し悪巧みでもするような、悪戯っぽい笑みを急に浮かべる。
そして言い放ったのは、ベジータには思いもよらない一言だった。
「なあベジータ。ゴジータとベジット、どっちが強ぇか試してみたいって思ったことねえか?」
「・・・は?何を言っている」
それを聞いてベジータは素っ頓狂な声を上げるが、無理もない。
ゴジータもベジットも、手段は違えどどちらも悟空とベジータが合体した姿である。
その二人が同じ場に揃うことなど、普通に考えればありえないことだ。
しかしそこまで考えて、先程までの会話の内容を思い出し点と点が繋がったベジータは表情を変えた。
「!お前まさか・・・・・、」
「そ、界王神様にポタラ借りてさ、オラたちは明日に行く!そこで二組になった片方がフュージョン、片方がポタラで合体して手合わせすんだ!しかも行くのは明日だからよ、戻ってきて明日になったらもう片方としてもう一回戦えんだぜ。どうだ!?」
「・・・成程な・・・盲点ではあったか」
ベジットであれば、ゴジータを相手取っても実力的に申し分ないのは明らかだ。
常識的に考えれば絶対に実現しないであろう対戦カード。
時空の歪みを開くという目的がメインになる以上は条件も限られるし"限界までとことん戦る"とまではいかないが、これでなんとかなる可能性は充分にあるだろう。
・・・それに何より、通常なら体験できそうもない幻の強者と強者の試合。
サイヤ人として興味を惹かれないわけがなかった。
「いいだろう。付き合ってやる」
「よっし決まり!!色々バレちまうとマズいからよ、ベジータも口裏合わせてくれよな!」
頷いたベジータへ喜色満面で飛び上がった悟空は早速ポタラ借りてくるー!と瞬間移動で姿を消す。
―――こうして、翌日惑星バンパにて幻の頂上決戦が人知れず開催されたのであった。
事の顛末を聞き終えたブロリーは目を丸くしてほああ、と変な声を上げている。
なんだか知らない間にすごいことが起こっていたらしいこともそうだし、ゴジータの半分が悟空だったこともそうだし、ゴジータ級の実力を持つ人物がもう一人いたらしいということもそうだし、タイムマシンなんていう聞いたこともない機械もそうだし。
情報が多い。
「・・・まあそんなこんなで、無事にアンタは戻って来れたってわけ」
「そうか・・・たくさん、迷惑かけたんだな」
「そこまで気にすることじゃねえさ。さっきも言ったけど元々はゴジータ・・・オラたちも手加減ミスっちまって起こったことだったし」
「ゴジータのことも、知らなかった。びっくりした」
「おう。まあ普通じゃねえ素性ではあるけど、会いたきゃいつでも呼び出せるからよ。ちゃんと手加減できるようになるためにも修行はまた続けていこうな」
悟空の言葉にうん、と頷いたブロリーは嬉しそうに茶菓子を頬張る。
そこでふと、"あっちの世界"のあの場でもしフュージョンが実現していたらどうなっていたんだろうと疑問を浮かべてみたりもした。
「・・・んで?ブロリーのほうは消えちまってから一体何があったのさ」
ちょうどチライからもそう訊かれて、ブロリーはここ数日の不思議な体験を思い出しながら口を開く。
・・・聞いてほしい。知らない、"もうひとりの自分"に出会ったこと。
カプセルハウスの中は和やかな雰囲気で会話に花が咲いたまま、まだしばらくの間は話が尽きることが無さそうだった。
(ホントニオシマイ)
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本編中に入れても良かったんだけど省いちゃってた部分を、やっぱり書いとこうかな~ということでオマケ扱いです。読んでも読まなくてもどっちでもいい感じで。
これでもう本当にあとは何もないので、「悪魔と獣。」はこれでおしまい。
続編もお付き合い下さる方はそちらでもどうぞよろしくです。
それと今回も活動報告で管巻きしてます。
内容そのものについてはあんまり触れてないんですが、ご興味ある方はどうぞどうぞ。
こっちも「悪魔と獣。」に関しての投稿はこれで最後かも。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=331995&uid=271404
さらに追記
異色ですがこの連載の続編やってます。ブロリー二人を異世界にぶち込んだクロスオーバーです。
こちらももしご興味あればどうぞ。
https://syosetu.org/novel/391755/