それでは拙き文章ではありますが、しばしの間お楽しみ下さいませ。これより始まりまするのは筆者が望み、そして創作の世界で叶えようと思った、有り得ないけれども有って欲しかった、誰もがも笑顔で幸福である世界です。
という設定なのですが、これはFateの熱に当てられて勢いだけで書いたので、更新するかどうか……は、分かりません。すいません。
「うー、さぶっ……」
寒さに悴む手を口元に持って行き、吐息で一瞬の暖を取る。そしてその手をスラックスのポケットに入れ、学校までの道を急ぐ。あと10分でHRだ。急がなくては。そう思い、坂の上にある高校を目指し、足を速める。
「おっはよー、衛宮!」
自分の隣を女生徒が駆け抜ける。
「ああ、美綴か。おはよう。朝練は無いのか?」
「今日はね。昨日試合があったから今日は無いんだ」
「そうだったのか……あれ? 桜が今日も同じくらいの時間帯に俺ん家を出たけど、あれはどういうことなんだ?」
「さあ? 私に言われても分からないわよ。それより急がないと遅刻よ」
「おっと、そうだった」
美綴に促され、駆け足になる。HRまでには何とか自分の席に着けた。そしてチャイムが鳴る。
キーンコーンカーンコーン
本来ならばこのタイミングで担任教諭が入って来る筈なのだが、遅い。後ろに座った男子生徒が自分に話し掛けてくる。
「なぁ、やっぱりタイガーは遅いよな」
「ああ、確かにな。けど、佐渡、お前そんな事を言わない方が良いぜ」
「確かにな……おっと」
バタバタバタと足音を立てて廊下を女性が走ってくる。ドアが勢いよく開け放たれる。
「皆―、おっはー……」
ガスッ。
教室が静寂に包まれる。何故か。それはこのクラスを担当する女性教師、藤村大河が引き戸の縁を越えようとした時に足を引っかけ、教壇の床の角に頭をぶつけたのだ。教室は依然として物音ひとつ立たない。そこでやっと最後列に座る男子生徒が声を発した。
「最前列の奴、声かけてやれよ」
「うぇっ……!?」
「あ、あの、藤村先生……大丈夫ですか……?」
最前列に居た女子生徒が勇気をもって大河に声をかける。だが、返答は無い。再び静まり返る。そこで佐渡が声をかける。
「なぁ、皆……ここはいっちょアレを言ってみないか?」
その一言に今までの静まりが嘘のように教室が喧騒に包まれる。
「お前、気は正気か!?」
「自殺行為だぞ!」
「嫌! 私まだ死にたくない!」
「アレを言う位なら校内を裸で一周させられる方がまだマシだ!」
もはや気を失っている大河などそっちのけだ。一通り反対の声が上がった所で、佐渡が再び言った。
「お前ら、ここで藤村の生死を確認するのにこれ以上の物はあるのか……? ……俺は、やるぜ」
佐渡が前に躍り出る。その姿に皆は声も出なかった。さながら激戦地に向かう兵士の様であったからだ。息を吸う。吐く。その行為を何度か繰り返して、佐渡は意を決して言葉を吐き出した。
「タイガー、起きろー!!」
しかし、またもや返答は無い。それで事態の重さを察知したのか、さっき大河に声を掛けた女生徒も言う。
「ふ、藤村先生、起きないと、タイガー先生って言っちゃいますよぅ……」
しかし起きない。これを境にさっき反対していた彼らもわれ先にと声を張り上げる。
「タイガー、起きろよ!」
「タイガー、起きて!」
「戻って来て、タイガー先生!」
そしていつしか声は同じものになっていた。音頭を取るのは佐渡だ。手を叩く。
「はい、タ・イ・ガー! タ・イ・ガー! タ・イ・ガー!」
もはや大合唱であった。それを聞きつけたのか、もうHRが終わっていたのか隣のクラスの生徒も見物に来ていた。大合唱が始まって20秒後。大河の指がピクッと動いた。
「動いた!もう少しだ! いくぞ、それ、タ・イ・ガー!」
少しずつ動きが全身に回ってくる。最後は、一際大きな声だった。
「タイガー、カムバ――ック!!!!!」
次の瞬間。驚くべきことが起こった。
「あたしをタイガーって呼ぶな――ッッッ!!!!!」
倒れていたはずの大河が背後に凶暴そうな虎のオーラを見せて仁王立ちをしていた。初めて目にしたらまず怯み、泣き出してしまうだろう。しかしクラスの皆はもう分かっているのか、お互いに喜んでいた。「良かった! 良かった!」と言う声があちこちで聞こえる。そして大河は状況が呑み込めず、目をパチクリさせていた。
「あれ……? あたし、何をしていたの……?」
どうやら頭をぶつけたショックで記憶が無くなっているようだ。最初に声を掛けた女生徒が大河に話し掛ける。
「藤村先生、入って来た時にこけて、教壇の角に頭をぶつけて気絶しちゃったんです……」
「あら、そうだったの……? って、うわぁ! もうこんな時間!? ごめんね、皆、今日は特に連絡事項もないからこれで終わるわね! じゃ、また英語の授業の時にねー!」
そう言い残すと来た時と同じく、バタバタと忙しなく廊下を駆けて行った。
先程の合唱に参加せず、事態の推移を見守っていた衛宮士郎はそんな大河を見送った後、窓の外の青空に目をやった。
「平和だなー」
~END~
どうでしたでしょうか。ご感想などお待ちしています。