ふと思いついたストーリーを、カヨコで執筆してみました。
純愛です。
お目汚しになると思いますが、ぜひ一度目を通していただけますと幸いです。
ふと思いついたものを書き起こしてみました。
時系列はちょっと適当です。(便利屋が引っ越したタイミングとか)
初投稿で、今まで文章を書いたことはないので変な表現などがあると思います。
それでも良い方は、ぜひ一度お目通しお願いいたします。
今日はアラームより先に自然と目が覚めた。先生との逢瀬が楽しみだったからだろうか。
それとも、夢の中での出来事が原因だろうか。
便利屋の事務所が移転してから既に4ヶ月が経過していた。
今は変な依頼も無く大きな稼ぎはないが、順調に仕事に励んでいる。
「今日は先生が来てくれる日……」
そう独り言を呟く。
私は相変わらず日課の事務所の掃除をしていて、週に1回先生が手伝いに来てくれている。
事務所が移転した最初こそ断っていたのだが
「週に1回でいいから、私にも手伝わせてほしい」
と、なんやかんや先生に押し切られる形で今も続いている。
週に1回きりの、先生との2人だけの空間。2人だけの時間。
実は少し前から先生との時間を長く取りたいがために、先生が来てくれるようになってからこの日の事務所を開ける時間を普段より30分ほど早く伝えてしまっている。
少しずつ仕事が安定してきて、片づけるものが増えてきたと伝えている。
多分、先生は気づいていない。
「普段事務所を開ける時間、先生は知らないしね」
ほんの少しの罪悪感はあるものの、笑みはこぼれてしまう。
私だけの、特別。
事務所を開けてから10分ほどして、ベルが鳴る。
私が事務所を開けてから少しゆっくりできるように、いつも時間をずらして鳴らしてくる。
その小さな気遣いがとても心地よい。
「先生、いらっしゃい」
いつも通りに先生は返す。
「今日もよろしくね、カヨコ」
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雑談をしながら、事務所の片付けを進めていく。
その週にあったことや、新しいCDの話、アルがやらかしたこと。
せわしない日常の中で、ゆっくり流れていく時間。
「カヨコ、この資料はどこにしまえばいいかな?」
いつもの会話に過ぎないのに、この時は何故か先生の顔を見たくなった。
朝の小さな幸せを感じた夢のせいだろう。
「えっと、その資料は——————ッ」
資料を持つ先生の手を見て、私の言葉は止まった。
左手の薬指に、銀色に光る何かがあった。
———————指輪、だった。
左手のそれを認識した途端、先ほどまでの幸せが吹き飛び、頭の中が真っ白になった。
「…カヨコ?」
先生の問いかけに、ハッとする。
「…せ、先生。薬指に、そんな指輪、つ、付けてたっけ…?」
息に詰まりながら、何とか声を出す。
「あぁ、これ?これは——————」
先生は話しているのだが、真っ白になった私の頭には、まったく話が入ってこない。
感じたことのない引き締まるような胸の感覚。荒く、浅くなる呼吸。
途端、私の頬を涙が伝う。
「…!?カヨコ!?」
私の突然の涙に驚いたのか、先生は心配そうな声を上げる。
平静なんて、取り繕うことはできなかった。
ついこの間まで、誰とも交際していないと言っていた先生が。
「……いつ、結婚したの……?」
先週までは何も付けていなかった。
つまり、この1週間で先生は誰かと結婚した。
アビドス生徒会のだれかだろうか。
先生は顔もいい、仕事もできる。
モテ無い要素はないし、誰かに言い寄られていたり、隠れて交際をしていたとしても不思議ではない。
そもそも私は生徒の一人でしかない。
感謝の言葉はあるが、私から異性としての好意を伝えたこともない。
毎週顔を出してくれる。言葉にしなくても気持ちは伝わっている、相思相愛だと思っていた。
——————私が馬鹿だった。
「え、結婚?」
不思議そうな声の先生を遮る。
これを言ってはいけない。大切な、好きな人を困らせてはいけない。
わかっている。私は先生が大好きで、その大好きな先生には私とは別に大切な人がいる。
大切な人の幸せは祝わなければならない。わかっていても、止めることはできなかった。
「どうして、何の相談もなくだれかのものになっちゃったの…?」
これ以上はいけない。止まらなくてはならない。
それでも言葉は止まらない。
「私は先生のことが大好きなのに」
私の言葉を聞いた途端、先生の目は大きく開いた。
そして、私の目をまっすぐ見ている。
取り返しの付かないことを言ってしまった私は、思わず目をそらす。
先ほどまでの幸せだった空間は、時間は、終わってしまった。
既に足に力は入っておらず、床へ崩れ落ちる。
「…ごめん、先生。今日はもう終わりでいいから、一人にさせて…」
俯きながら発する私の言葉に力はなく、先生に届いたのかも分からない。
音は、聞こえない。
目の前も、涙で何も見えない。
泣く声すらも出すことができなかった。
ただただ、私の涙が床を濡らしているのだけはわかった。
「…カヨコ」
私の涙が床に落ちる音だけが響く中、先生の声が響くと同時に足音が近づいてくる。
次の瞬間、私は何か温かいものに包まれた。
「カヨコ」
耳元で先生の声がする。
先生が私を抱きしめたのだと理解した。
「だ、だめだよ先生。結婚してる人がいるのに他の女性を抱きしめちゃ」
抵抗をしてみるが、全く敵わない。
それどころか、抵抗しようとするほど、先生は強く抱きしめてくる。
「カヨコ」
再び、先生は私の名前を呼び、頭をなでてくる。
「少し落ち着くまでこうしていよう」
数分、私はそのままだった。
涙が止まり、呼吸も落ち着いたころ、先生は突然言う。
「私もカヨコのことが好きだよ」
先ほどとは別の意味で、頭の中が真っ白になった。
「…え?」
先生の言葉に、驚きを隠せない。
「で、でも先生、指輪してるし、左手の薬指って結婚した時に——————」
私の言葉は遮られる。
「勘違いだよ、カヨコ。私は結婚していないよ」
誤解?
左手の薬指に指輪をはめる意味はキヴォトスにだって通じている。
「この指輪は、アクセサリーショップので買ったものなんだ」
ふと疑問に思う。
「アクセサリーショップ…?」
男性である先生がアクセサリーショップに行った。
普段の先生を見ているが、アクセサリー類は一切つけていない。
「…実は、カヨコにアクセサリーをプレゼントしようとしようと、ね」
「デザインでひとめぼれしたんだけど、男性用サイズはこれ一つしかなくて」
「ほかの指でしっくりこなかったのと、薬指がサイズぴったりで付けていただけなんだ」
先生の言葉に、私は聞き返す。
「プレゼント、くれるの?なんで?」
先生ははっきり言った。私へのプレゼントだと。
「今日は、カヨコの誕生日だよね」
「…あっ」
忘れていた。今日は3月17日。私の誕生日。
「…今、私のつけている指輪と同じものをプレゼンしようとしてたんだ」
「そして、カヨコに伝えようとしていた言葉は、さっき伝えたよ」
先生は私を抱きしめるのをやめ、私の目をまっすぐ見る。
先生の唇がきゅっと締まり、目から緊張が伝わってくる。
…多分、私の想像している言葉なのだろう。
『カヨコ、私は貴方のことが好きです。私とお付き合いしてくれますか?』
わかっていたのに、先生の言葉で心臓が飛び出そうになった。
先ほどまでは、指先まで凍ってしまったかのように冷えていたのに。
今は心臓の鼓動は耳まで伝わり、指先は火が出るように熱い。
先ほどとは真逆の感情で、私の頬に再び涙が流れる。
「はいっ!!よろしくお願いします!」
今度は私から先生に飛びつく。
決して逃がさないように、強く強く抱きしめる。
事務所に便利屋の皆が集まる時間まで、私たちは抱き合っていた。
その後、便利屋の面々に交際することになったと報告したら
「今日は帰りなさい!社長命令!」
などと追い帰されてしまった。
ムツキもハルカも、ちょっと羨ましそうな、それでいて「お幸せに」なんて言いそうな顔で見送ってくれた。
「今日は私の家でゆっくりするかい?」
「えっ!?」
先生の…家…?
お付き合いして初日に、そういうこと…?
「…あっ、ち、違うからね!?」
先生は慌てて言葉をつなげてくる。
「私の家なら片付いているし、いきなりカヨコの家に行ってもだし!」
「わ、わかった、わかったから!」
耳まで赤くなってしまった。
私だって年ごろの女性だ。年相応の知識はある。
多分、そういうことは遠からずするだろう。
先生は、絶対に無理強いしてこない。
私の心が決まるまで、待っていてくれると思う。
「今すぐは無理だけど、決心するまで待っててね…?」
そう言うと、顔を赤らめながら先生は私の頭を撫でてくる。
「待ってるよ」
笑顔でそう答えてくれた。
「そういえば先生、なんで指輪付けてきたの?告白のプレゼントなら、渡すときに一緒につければよかったのに」
ふと疑問に思った。
プレゼントなら、先にわかるように付けているのはちょっと不思議だった。
「あ~…」
先生は恥ずかしそうにそっぽを向く。
少し貯めた後。
「実は試しに付けてみたら指から抜けなくなっちゃって…」
その答えに、私はくすっと笑ってしまう。
あの先生でも、そんなミスをするのだと。
「先生も、そういうところあるんだね。いつもしっかりしてるからびっくりした」
「おかげで、いろんな意味で忘れられない1日になったよ」
私の誤解から始まった告白。
「忘れてくれ」と言いたそうな先生の顔。
告白のプランを台無しにしてしまったのはちょっと申し訳ないけど、あまり感情を出さない私が、珍しく感情的になれたのはいいことだったのかもしれない。
先生。
これからも末永くよろしくね。
~Fin~