ヤクザの事務所でお嬢って呼ばれるのは……たぶん、組長の娘のことだよね?
もしかして、娘さんと恋仲なのか。
「……そういうリスクありきでヤクザになったんでは。そこを踏み倒そうはわりと都合がよすぎなんではないかと。元々善良な市民足蹴にして稼ぐ業界なわけですし」
「そう言われたらそうなんですけど、日比野さん思考がヤクザ寄りなんじゃ……」
ただ、好きな女の人のためにカタギになりたい、というのは割合真っ当な望みだと俺は感じる。
が、誠司さんには違ったらしい。立ち上がってこちらに歩み寄ったかと思えば、思い切り腕を振り上げる。
和也さんの頬に拳が叩き込まれ、耐えきれなかった彼はその場に崩れ落ちた。
「和也よぉ……俺に迷惑をかける程度ならまだ許せた。だってのに、“親”の娘に手ぇ出しただぁ?」
「がっ、はっ。あ、あに、き」
「シャバいのはテメエの勝手だがオイタが過ぎんじゃねえか? あぁ?」
ヤバい、コメディカルが一瞬で消え去った。
俺的には社長令嬢と恋仲になりましたくらいの軽さで考えてたんだけど、そういうレベルじゃなさそう。
わりに金城の叔父貴さんは「ヒューっ」と楽しそうに口笛を吹きながら、スマホをポチポチやっていた。
「ま、待ってください若頭さん。まずは、まずはお話を」
「邪魔してくれんなや。カタギにゃ馴染まんだろうが、俺らの世界じゃ親は絶対。白かろうが親が黒と言えば黒だ。だってのに、親の宝である娘を孕ませた。エンコ詰めるじゃすまされねぇぞ和也ぁ!?」
「ぐはぁ!?」
床に転がる和也さんの腹をつま先でけり上げる
冷静に考えたらなんで俺が必死に止めてんのか分からないけど、暴力を見過ごすわけにもいかない。
「おい、レンコン持ってこい」
誠司さんが周囲の若い衆に指示を出す。
レンコン? なんで……と思っていたら、持ってこられたのはレンコンじゃなくリボルバー式の拳銃だった。
あっ、レンコンってそういうこと? 形が似てるからってこと?
「和也ぁ。てめえのやらかしだ。ケジメをつけろや」
拳銃を無理矢理握らされ、銃口をこめかみに当てられた。
自ら引き金を引いて死ねと言うことなのだろう。
和也さんはがくがくと震えている。
その光景が、程度の差こそあれど、ブラック勤めだった自分と重なった。
上の命令は絶対でノルマをこなさなきゃならない。朝出残業当たり前、働かされてるのに洗脳され切っていて、上司の叱責に感謝すらしていた。
親が絶対のヤクザは、本質的にブラック企業と似ているのだろう。
ならそこで苦しんでいるのを助けるのは退職代行サービス『アカンネン』の主任たる俺の仕事だ。
「和也さん! 引いちゃダメだ。上司の命令でそのまま自殺するなんて、あっちゃいけない……! たとえ極道がそういう業界でも、慣習があんたの命ほど重い訳ないだろう!?」
「ひ、ひびの、さん?」
「たぶん俺の発言の方が間違ってる。他人様に迷惑をかけるヤクザもんなら、命なんて一般人より軽くて当然なんだと思う。それでも、頼られたからにはあんたは顧客で俺はその退職を全力で応援するんだよ!」
だから、俺は誠司さんに向き直る。
「若頭さん、どうか穏便に。100%、田崎和也さんが悪いのは分かっています。俺の方が筋が通ってません。ですが、どうにか妥協点を探れないでしょうか!? お願いします!」
「調子乗ってんじゃねえぞ!? お嬢に手ぇ出しといて許されるなんてあっていいワケねえだろうがぁ!」
ああ、俺にも怒りが向いた。
だけどおかげで和也さんへの意識は削がれている。
「ま、まず、当事者がいないのに処罰を決めるのが問題で」
「なんだぁ? つまりは、“和也が組長の大切な娘に手ぇ出しました。ケジメ付けずに組抜けしたいと言ってます”。とご報告たてまつればいいってか? だいたいよぉ、俺からしたらカタギさんに頼って面倒ごとを擦り付けようとした時点でアウトなんだよぉ!」
「あれ? かばおうとしたけど和也さんのやらかしけっこうひどい……?」
どうしよう、死ぬほどのことじゃないとは思うけど、和也さんのヤクザもんとしての在り方に問題があるのは事実というか。
「ひ、日比野さん迷わないでくださいっ!? 俺はただお嬢への愛を貫きたくて」
「愛は無法の免罪符じゃねえんだよダボハゼがぁ!?」
ここに至ってはどう考えても誠司のアニキが正論過ぎる。
なんか庇った俺がアホみたいな気が……いや、それでも人が死ぬのを見過ごすのはダメだ。
「だけど死ねと言うのは!? せめて組員での袋叩きに……!」
「なんで退職代行の人まで暴力に染まってんスか!?」
ぐちゃぐちゃになってきた状況を、金城の叔父貴さんがなだめようと割って入る。
さすがに組長の弟分。冷静な態度は崩れていない。
「まぁまぁまぁまぁ。和也がアレなのは事実だが、誠司も勝彦くんもいったん深呼吸だぁ」
そして、彼はちらりと事務所の扉を横目で見た。
それからしばらく何もなかったが、いきなり扉が開く。
やってきたのは、肩口までで黒髪を整えた、落ち着いた印象の、大学生くらいの女性だった。
「待ってください、誠司さん!」
「お、お嬢……!?」
あれが、組長さんの娘か。
きれいだけど、あんまり暴力とは縁のなさそうな、マジメな感じの女の子だ。
「違うんです、和也さんは悪くないんです!」
「ですがっ!」
「私が…私が頼んだんです……! 立場を笠に着て、ムリヤリ!」
「っ!?」
つまり、手を出したのは和也さんでなく彼女の方だった?
どういう状況か今一つ理解できないでいると、金城の叔父貴にガシッと肩を抱かれた。
ヤバいっす。叔父貴すごい筋肉です。腕めっちゃ太いです。
「か、金城の叔父貴、さん?」
「あー、悪いね。ちょいとこの三文芝居に付き合ってくれや、アカンネン組」
「あのー、ウチは組事務所では……」
「まぁまぁまぁまぁまぁ」
とりあえず言われた通り、見に徹する。
まだ立ち上がれない和也さんを背に庇うお嬢。誠司さんは苦悶の表情をしている。
「お嬢が……」
「はい。私は、お父さんがヤクザの組長なのが嫌で」
「ですが高塚のオヤジは粉も電話もやっちゃあいません。建設業と貸元、風呂屋が主なシノギだし、カスリだって常識的な範囲だ」
金城の叔父貴が「ヤバいオクスリもオレオレ詐欺もやらず、フロント企業の方で稼ぎと賭場と風俗店の経営が収入源。みかじめ料だって健全な料金だから、違法行為はほとんどやってませんよーってこった」と説明してくれた。
ありがとうございます。ほとんどってことは、やってはいるんですね。
「だとしても、多くの人に迷惑をかけることです。和也さんが悩んでいた私の話を聞いてくれて。私の方から……。そうしたら、組を抜けて普通の暮らしをしようって」
「誠司のアニキ、すんません! だけど俺はお嬢が普通の暮らしを願うってんなら、足洗ってカタギとして生きたい! お嬢のこと、幸せにしてやりたいんです」
二人の迫真の訴え。
しかし誠司さんは腕を組んで考え込み、目を見開いたかと思えば怒声をぶつける。
「カタギの代行サービスいれにゃ組抜けすら言い出せねえ男のどこに女を幸せにできる度量があるってんだぁ!? 舐めてんのか、あぁ!?」
それはそう。
「和也ぁ。一度極道に身を墜としたんならバレることもあるし、そのツケは必ず付きまとう。そん時、向き合うことを逃げたお前はどうやって踏ん張るつもりだ。都合が悪くなったらまた逃げんのか! それで要らねえ苦労を背負うのはお嬢だろうが!」
誠司のアニキ……最初っから最後までド正論しか吐いてない……!
そうだよ、お嬢さんを幸せにする覚悟は示さないといけないよ。
退職代行お願いしたらダメなポイントだよ。
「お嬢も冷静になってくだせえ。オヤジは、本当にお嬢のことを大事に思っていやす。ハンパな輩について行っちゃぁお嬢が不幸になるんじゃねえですか」
「そんな言い方……。私が、ついていくんじゃないです。和也さんが!」
「組から逃げ出すそいつはぁ、切羽詰まったらまた逃げます!」
「でも!」
誠司さんはすごく苦い顔をしている。
逆にお嬢さんもすごく悲しそうだ。
若頭ってことは結構組員歴長いんだろうし、まだ小さな頃のお嬢さんを知ってるかもしれない。
それはそれとして。
「俺は何を見せられてるんでしょうかね……」
「あーんしんしろ。俺も同じこと思ってらぁな」
今の俺にとって肩を抱いてくれてる金城の叔父貴が一番の癒しです。
「俺はお嬢のことを小さな頃から知ってます。恐れ多い話ですが、兄貴分にも似た気持ちを抱いてます。好いた男と結ばれんのがダメだって言ってるんじゃねえ。こんなシャバ僧にゃ任せられねえと言ってるんだ」
「誠司さんには、感謝しています。私の事、最大限気遣ってくれているのも分かってます。だけど私は、この町を離れて、彼と普通の暮らしがしたいだけなんです!」
「そこでっ! 反論がお嬢の口から出ること自体がおかしいって言ってんです! 惚れた女に歌わせるだけ歌わせといてテメエはだんまりか! いつまでも逃げてんじゃねえよ和也ぁ!?」
和也さんはぷるぷる震えてる。
これはお兄さん的には妹を任せられないってのも分かる。
ただ、退職代行サービスとして、ひとこと言わせてもらえたい。
「逃げちゃ駄目が、そもそもおかしいですよ、誠司のアニキ」
当たり前のようにアニキと言っちゃったけど私は一般人です。
「あぁ!?」
「逃げたっていいんです。下手にぶつかって心すり減らすんなら、代行サービスに頼ったっていい。肉が食いたいからって猪と喧嘩するバカいないでしょう? 自分ができないことを代わりにやってもらう、手間の軽減と時間をお金で買う。だいたいのサービスってそういうもんです」
別に和也さん庇ってるわけじゃない。
代行サービスを使う人が皆ダメな人みたいな言い方が気に入らなかっただけだ。
「個人的には、誠司さんの言うことも間違ってないと思います。楽を覚えたら楽に流れる人の方が多いです。逃げることに慣れて、仕事が続かない。何度も何度も退職代行を使うって顧客もいないわけじゃないです」
「それでも逃げてもいいと?」
「はい。ただ、逃げた先で起こることを受け入れる覚悟は必要かと。和也さんは……あっ、どうしよう。覚悟なさそう。擁護したのに覚悟なさそう!」
まだ床に這いつくばってるし。
ばっちり決めるはずが和也さんスゴイ頼りない。
「だ、だとしても。それを叱咤するのは、誠司さんじゃなくてお嬢さんなんですよ。もしもうまくいかなかったら、ケツを引っ叩いて、必死こいて頑張れやって言うのは。二人で逃げたんなら、二人で責を負って生きてかなきゃならないんですよ」
「そう、そうです。私も一緒に働きます。もしも、和也さんが定職に就けないのなら、ちゃんと私が言います。仕事が続かずヒモになったり浮気するようなら即離れます。でも、可能な限り二人で努力して貧しくても普通に生きていきたいんです」
あっ、意外とお嬢さんがドライ。
貧しいながらに暖かい家庭なら耐えるけど、筋の通らないことは認めない。わりと極道ものの気質を継いでるわこれ。
「おい。関係ないカタギが、共に逃げてやろうっていう女がここまでいってんだぞ。てめえは蹲ったまんまか?」
ドスの利いた、挑発めいた物言いにのっそりと和也さんが立ち上がる。
まだ痛みは残っているだろう。それでもまっすぐに誠司さんの目を見た。
「アニキ、情けないところばっかみせてすんません! それでも、俺ぁお嬢さんと生きていきてえ。話を……まず組長に話を持ってかなきゃいけなかった!」
「そうだ。そこをはき違えてんじゃねえよタコがっ! スジを通すべきは俺でも組でもなく、親だろうが!」
「はいっ、俺改めて組長に挨拶に行きます。ぶん殴られても、それこそ、もっとえぐいことになっても。避けちゃいけなかった!」
そりゃね、退職代行はあってもパパ上への挨拶代行は当事務所にはございません。
「疑われることしちまったが。お嬢の幸せ願ってんのだけは、本気なんです!」
そこでようやく誠司さんの肩の力が少し抜けた。
ヤクザの親分ではなく、娘を育ててきた親を通り越してのアレコレは不義理。
結局誠司さんの一番の怒りのポイントはそこなんだろう。本当に、立場としては一貫してお嬢さんの兄ちゃんだった。
場が落ち着いたのを見計らって、金城の叔父貴さんが出張ってきた
「おっしゃ、話はまとまったかぁ? ま、正義の兄さんは和也とお嬢のやらかし、把握してんぜ。俺がナシつけてやんよ。和也は建設会社に所属してっから、退職の手続きはしなきゃいけねえんだが。そっちの話し合いは、勝彦くんに任せても構わねえか?」
「はい。どっちかというと、私の本業はそちらなんで」
「じゃあ頼むわ。いくぞぉ、和也。お嬢も、付いてきてくだせえや」
強引に取りまとめ、金城の叔父貴は事務所を後にする。
残された面々はちょっと戸惑っている。
しばらくして、誠司のアニキが大きく溜息を吐いた。
「おう、悪かったな。身内のゴタゴタに付き合わせちまって」
「あ、いえ、まあ、ご依頼ですし」
「……お前和也のせいで危ねえめに遭ってんだが?」
「そこは別に許してないっす。和也ほんま腹立つ」
お互いに顔を合わせてにへらと笑う。
恐さはだいぶ薄れていた。
「お嬢を攫ってくのは気に食わねえが、あとはオヤジに任せらぁ。ところでよ、今の会社が行き詰まったらウチはどうだ? あんたなら中々面白いことになると思うぜ」
「い、今のところ転職は、考えてないので。は、はは、ははは……。おっと、退職の手続き、進めさせていただこうかと」
「ああ、会社の方に話は通しておくさ」
ちょっと嫌な顔の覚えられ方をしたが、ひとまず依頼は成功ということでいいのだろう。
※ ※ ※
全部が終わってから一か月後、俺は金城の叔父貴さんに呼び出された。
焼き鳥屋で酒でも飲みながら、今回の顛末を教えてやる、ということらしい。
「は? 和也さんの子供じゃない?」
で、焼き鳥食べながら教えられた衝撃の事実。
あんなに大騒ぎしたのに、お嬢さんのお腹の子供は和也さんの子供ではなかったらしい。
「おぉ、そうらしいぜ」
「え、じゃあ、誰の」
「あー、それが分かんねえ。まあ大学の飲み会で一晩の過ちをしちまったようでよ。そんで一発必中ってことらしい。が、それを公にするのもまずいだろぉ? だからよ、和也はてめえの不手際で出来たガキで、組抜けして面倒見るって形で体裁を整えようとしたらしい。ま、正義の兄さんは知ってたがな」
組長さんにはバレていたが、和也さんなりにお嬢さんの評判を守ろうとしていた、ということか。
へたくそではあったと思うけど。
「ああ、ガキらの話、誠司のヤツ知らねえから内緒でな。“情けねえテメエ”を押し出すことが、和也のスジだったって話だ。まあ惚れてたのも事実で、お嬢の方もそんな和也に絆された。相思相愛っていう点は間違いねえがな。……あ、大将、ビール大追加とせせり塩につくねタレ。ねぎま、たれで二本ね」
「俺、長芋チーズベーコンとモモの塩で」
「モモはともかくチーズベーコンは焼き鳥屋で食うもんじゃねえだろ」
「いいじゃないスか、好きなんですよ」
話を整理すると、こんな感じ。
お嬢さんは大学でワンナイトして子供ができてしまった。
困っているところを和也さんが「組抜けしましょう、俺が父親になります」。それに心動かされ、二人は恋人同士に。
で、誠司さんに組抜けの話を持っていく。
事情を知らない誠司さんは、妹分を孕ませた不届きものに大激怒。
……が、裏の事情まで既に組長は把握していた、と。
「じゃあ組長さんは」
「和也を破門にしたよ。破門なら、指詰めなくてもいいしなぁ。むしろ感謝してたぜ。バカな娘だがよろしく頼むって」
醜聞を上手い具合に収めて泥を被ってくれたのだ。
お父さんからすれば和也さんの行動は有難かっただろう。
「俺からすればお嬢さんの方がいい具合に逃げたように思えるんですよね」
「代わりに今後は父親に頼れず一人で生きていく。やらかしはテメエで拭っていかにゃならねえ。なんだかんだ組に守られてきたお嬢にゃ、しんどい人生だ。和也はそれを助けるんだろうが、惚れた弱みってのは分かんねぇなぁ」
「実は、あんだけ誠司さんが怒ってたの、お嬢さんに……って想像しちゃったんすけど」
「おいおい勝彦くん。そこまで踏み込むのは下世話ってなもんだ」
「そりゃそうです。失礼しました」
「ま、失礼はお互い様。お前さんのおかげで、退職手続きはスムーズに済んだ。それに、堅気の目がありゃあ古臭い極道の誠司は、無茶しねえだろうしよ」
……ん? それって。
「もしかして、アカンネンを紹介したのって、金城の叔父貴さんですか?」
「おうよ。和也は演技関係なく情けねえ奴だし、誠司の抑え役にな。いやぁ、本音言えばくだんねぇ茶番が少しでも面白くなりゃってだけだがよぉ」
つまり金城の叔父貴の暇つぶしに呼ばれただけだったらしい。
退職の手続きをつつがなく、という意図はあったんだろうけど。
「ま、上手いことやってくれたぜ。今日はそのお礼ってわけだな。奢りだから好きに食え」
「はあ、いただきますけど。すっごい怖かったす……」
「そう言うなや」
がははと笑いながらビールを煽る金城の叔父貴。
退職代行サービスは、わりと瀬戸際のご依頼主が多いので、時々妙なドラマにぶち当たることがある。
これもそういうケースなのだ。ちょっとしたもやもやは、ビールで流し込むことにしよう。
「そういや件の大学生って?」
「あん? カタギさんは色々知りたがっちゃいけねぇよ?」
……よし、俺は何も知らない。
今の質問もしなかったということでお願いします。
「いやあ、さすが日比野主任。先方、大満足だったみたいだよぉ」
翌日、俺は所長からお褒めの言葉をいただいた。
和也さんはさっそく就職を決めて、お礼の手紙を事務所に送ってきたらしい。
町を離れ、お嬢さんと一緒に二人慎ましく暮らしているのだとか。
それならよかった、怖い思いをしたかいがあるというモノだ。
「少し大変でしたけど、それならよかったことです」
当たり障りのない返答をすると、所長は遠慮がちに話を切り出す。
「それでだね、またちょっと面倒な案件があるんだけど」
「は、はあ」
「それが五人組で活動してるグループなんだけど、五人それぞれに色が割り当てられてて? その一人、ブラックさんがグループを抜けたいって依頼でね。外国人かな、ブラックさん」
アイドルだよね?
たぶんアイドルであって戦隊ヒーローじゃないし、ブラックというのも日本のアイドル文化に憧れて来日しただけだよね?
「お願いできるかなぁ」
瞬時の葛藤はあったけど、所長の案件は大抵が断れないもので。
「はい。おまかせ、ください」
退職代行サービス『アカンネン』は今日も営業中。
頼るのが逃げだとか、恥ずかしいとか思わず是非一度気軽にお電話ください。
WEB上でのご相談も受け付けております。
あなたが心をすり減らす前に嫌な会社に見切りをつける。
わたくしどもは、そのお手伝いをさせていただいております。