人の運命なんて大概適当だ。
昨日まで代わり映えがなくもそこそこ楽しめる程度の毎日が続くと疑わなかったのに…。
背中は視線の針で筵状態である。それも女子の。
ここはIS学園。世界に476機存在する現行最強の兵器であるIS〈インフィニット・ストラトス〉のパイロットを養成する学校である。
ISは女性にしか扱えない。つまりはここにいる生徒は全員女子。
そんな中に男一人である。敵地のど真ん中、見方が一人もいない。そんな錯覚さえ覚える。
しかし、そんなの奥目も出さず、ポーカーフェイスで軽く目を閉じている僕。内心アップアップであるが。
教室の変な重い空気を認識の外に外し、視界を閉じ、待つこと数分。
先生が来るまでの間、この学園に来るきかっけになった出来事を思い出していた。
二月下旬、寒さも引いて温かみがましてきた時期に、僕の本命とする高校受験があった。
藍越学園。卒業後の進学、就職率が今のご時世でも割高で、授業料もかからずに済むことからこの学園を受験したのだがそれがそもそものことの始まりだった。
受験会場が異様に広く他の学校も受験会場につかってることもあって迷ってしまったのだ。
時間にも多少余裕があったこともあって彷徨いていたのだが、ふと空いている扉を開けて覗き込んだのだ。
明かりのついていない暗い部屋だった。そこには扉の隙間からの僅かな光で艶やかな光沢を放つグレートーンの『機体』が鎮座していた。
IS-打鉄。純日本製の第二世代型で量産機ということもあってまとまった性能で現行普及している種類の一つだ。
ISというのは基本四肢の末端が大型化したユニットで構成されている。そのなかでも小型である打鉄であるが、それが扱いやすさ、取り回しの良さとして親しまれている。
現実、創作問わずロボット好きな僕はついつい中に入ってしまった。
間近で見ると、尚の事機体のスリットやメンテナンス用のマーキングが目を引き思わず頬擦りしたくなる衝動に駆られる。
が、流石に触れるのはまずい、ので。
撫でる程度にとどめた。
ISのことは好きでも、情報誌やネットでの情報をみる程度しかなく、女性にしか扱えないということもあって男が関われる領域ではないとよく言われている。実際はそうではなく開発側は普通に男性のスタッフもいるのだが今の女尊男卑の世の中じゃ『女が扱える』『女しか扱えない』というところにしか視点が行っていないようで(というかそういう風にメディアに誘導されている節があるが…)男が関わること自体があまり快く思われていないようであった。そんな悪意の見え隠れするようなところに踏み込むのは勘弁だったので、どんなに好きでもより現実的な進路に進むことにしたのだ。
それなのに、皮肉なものだ。ISから遠のく道を選択したはずなのに、結果的にISに触れられることができるほど近くにいるのだから。
しかし、それでも、打鉄は動かない。
動いてくれない。
当然といえば当然。
当たり前だ。分かりきった事実に落胆しながらも、愛でるように撫でる。
ISは操縦者に合わせて進化する。そのロジックは明確に解明されていないが、その柔軟性から思考能力があるのではないか、と言われている。たった一人の天才が作り出した複製不可能なほど超高度な技術。だからというわけではない。そう思いたいわけでもない。答えてくれなくてもいい。伝わらなくてもいい。ただ僕は想いたいだけ。だからそれ精一杯表現できるように優しく撫でる。
両肩部のシールドユニットが無骨でありながら鎧らしい形状に技術と和が融合してより武者鎧のイメージを与えてくる。
腕部を撫でる。
足部を撫でる。
背面のスカートアーマーを撫でる。
愛情を注ぐように撫で、冷ややかな装甲の金属感を満喫しているときだった。
唐突に扉が開け放たれ、スーツを纏ったキツイ顔立ちの女性が金切り声を上げながら近づいてきたのだ。
やれ男がなんでここにいる。やれ警察に突き出す。だの叫ぶばかりでこちらのことは一切聞いてくれなかった。
弁解しようにも触りたくっていたのが事実で世界に数百機しかない貴重なものとなれば管理のための監視カメラぐらいあるだろうから嘘を付いてもすぐバレるだろう。もっともそんな浅ましいことするつもりもないが。
取り敢えずなだめようとしたところで近づくな汚らわしい、と思いっきり引っぱたかれてしまったのだった。
殆どノーモーションで繰り出された一撃に反応できず倒れて背後のハンガーユニットに後頭部をぶつけそうになった。その時だった。固定用の多重ロックを装甲が破損することも気に留めないといったふうに打鉄が起動し引きちぎったのだ。自由になった右腕部は僕の体を受け止めてくれていた。
打鉄の方をみるがもちろん誰も乗っていない。操縦者もなしに駆動している。
ヒステリックな叫びは止み、女性は唖然としていた。それはそうだ。並外れた性能の兵器といっても結局は機械なのだ。扱われるだけの道具が勝手に動いたらそうなる。だが、それはあくまで常識の範疇の話である。想いというのは何に対しても平等に向けるべきだというのが僕の信条だ。人であろうが動物であろうが機械であろうがそれは変わらない。
ゆっくりと僕を起こしてくれる打鉄。
僕を受け止めてくれた右腕の挙動からは優しさが伝わってきた。
剥げた塗装に抉れたジョイント、痛々しく削れた装甲に触れて、申し訳なさと自分の想いに答えてくれた嬉しさから何を言ったらいいか分からず、愛しみを込めた笑顔と「ありがとう」とだけ言葉だけ口にした。
そこまで回想していたところで意識が表に引き戻される。
誰かが僕を呼んでいたからだ。
「はい?」
比較的冷静を装って返事をし、目を開ける。
目の前にはグランドなキャニオンがあった。
「だ、大丈夫? 驚かせてごめんね。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね自己紹介、『あ』から始まって今『お』なんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな?」
視線をすぐに少し上げる。メガネの奥の瞳に不安な色を浮かべて申し訳なさそうに何度も頭を下げている女性。教卓に立っていた。黒板にあたる多目的ディスプレイに表示されている副担任『山田真耶』の文字。それらを視認して、謝り続けている山田先生に「わかりました」とだけ言って立ち上がり。後ろを向く。
最前列ということもあり、教室全体が見渡せる。
さっきから背中に刺さっていた視線だがその種類は様々だ。面白がるようなからかう様かもの、興味津々なもの、苛立ちを込めたもの、明らかに(*´Д`)ハァハァ言っていて怪しいもの。
最後のは置いといて、取り敢えず自己紹介をする。
「織斑一夏です。よろしく」
気が向いたら続き書くかもです。
たぶん、、