滅びた世界のアフランシ   作:翔々

9 / 9
博物館の骨董品? 全然使えますよ!

 

 

 これはバグを試作する前、ナナイ・ミゲルがラスベガスに帰った後の出来事である。

 

「シミュレーション?」

『ああ。優生人類創造プロジェクトに関わるとして、モビルスーツ担当の研究者が遺していったものだ。今でこそフォーリナーの置き土産に悩まされているが、君達はモビルスーツに搭乗することを想定して調整されたのだから、本来はこちらを習熟する予定だったわけだな』

 

 12004とプル・オルタ、それに自動式の簡易重機によってトンネル内の崩落を片っ端から解体して回る中、ハーベスター・システムのひとつ上の階層にそれはあった。

 

 全長3メートルの赤色球体型。電力が供給されると空気の排出音とともに前面部が開き、リニア式さながらのコックピット・シートが出迎える。内部の造りは全天周囲であり、本物を完全再現。BGMやSEその他も連邦・ジオン・第三勢力まで選択可能という、凝り性ここに極まれりといった具合である。

 

「これを作った研究者は、よほどの趣味人だったらしいな」

『世界崩壊まで研究にかまける人種だぞ? 似た者同士だったさ、みんな』

「こっちにもあるよー! うわっ、真っ白!」

 

 ふたつの球体は互いに向き合う形でセッティングされている。どうやら研究者はマンツーマン、もしくは連携を前提として研究を進めたようで、それ以外の機材は見当たらなかった。あるいは予算が尽きたのかもしれない。

 

 ハロ・ボディからコードを伸ばして演算処理を済ませたプロフェッサーが、よし、と告げる。

 

『たったいま君達のデータを登録した。ふたりとも、こいつを操作してみないか?』

「ほう……!」

「いいの!? やるやるー!!」

 

 ぴょんぴょん跳ねるプル・オルタはいつもどおりだが、12004も内心ではウキウキと心が躍っていた。転生してから今日まで、ひたすら銃を握っての害虫駆除に走り回る日々を送っていた鬱憤がついに晴れるからだ。モビルスーツに乗らないのなら、何のためにシャアのクローンとして生まれたのか。

 

(見せてもらおうか、この世界のモビルスーツの性能とやらを!)

 

 ニュータイプ感覚を切っているにも関わらず、12004の全身からオーラじみた光が噴き出しているのを、プロフェッサーもプル・オルタも見ることはなかった。

 

 

 

 

 優生人類創造プロジェクトの産物であるふたりは、培養カプセル内の睡眠学習として機動兵器の操作等を刻み込まれている。起立、前進、後退、ステップといった基本動作から、ビームサーベルやマシンガンを駆使しての攻撃、メタスやガンダム系の変形シーケンスにいたるまで。文字通り、

 

『頭で考えるよりも先に身体が動くとは、こういうものか。生まれながらに……いや、生まれる以前からパイロットになるために特化された存在だ』

 

 シミュレーションとはいえ、ふたりがコックピットに座るのは今日が初めてである。すでにチュートリアルを終えて、実際の機体を選択する段階にまで進んでいる。新兵がマニュアル片手に四苦八苦するのに比べれば、あまりにもスムーズだった。

 

『プログラムに登録された機体は、実際のデータを参照して再現されている。とりあえずは一対一、マンツーマンでの模擬戦を想定してほしい。戦場は宇宙空間、スペースデブリにぶつかれば当然ダメージを受けるぞ』

「ゲームとは違うわけだな」

 

 機体セレクト画面をせわしなく動かしていたプル・オルタが、一体のモビルスーツを見た瞬間に叫んだ。

 

「あたし、この子にする!!」

 

 機動兵器でありながら、どことなく女性らしさを感じさせるデザイン。蝶の羽を思わせるフレキシブル・バインダーを四枚設置した姿は、中国故事にみられる羽化真人さながらの神秘性の現れか。

 

 キュベレイ・Mk-Ⅱ。機体カラーは桜である。

 

「私は……そうだな、これにしよう。初めてにはふさわしいだろうさ」

 

 一つ目の巨人、サイクロプスを思わせるモノアイ。右肩から上腕をカバーするシールドに、近接格闘を想定した左肩の突起スパイク。マシンガンとヒートホークを主軸として戦った、ルウムの赤い彗星。

 

 シャア専用ザクII。

 

『いいのか、12004? 機体性能には格段の差があるぞ』

「命がかかっているわけでもなし、存分に楽しませてもらうさ」

 

 もっとも、と続ける。

 

「ただで負けるつもりはないがな」

 

 

 

 

783:転生すれば名無し

ルウム戦役の骨董品 vs 第一次ネオ・ジオンの上澄み

ファイッ!

 

 

784:転生すれば名無し

およそ10年前と10年後のハイスペック同士や

ごめんなさい無理です

 

 

785:転生すれば名無し

データ引っ張ってきたで

 

シャア専用ザクII

全高  17.5m

本体重量 56.2t

ジェネレーター出力  976 kW

スラスター総推力 51,600 kg

装甲 超硬スチール合金

 

 

キュベレイ・Mk-Ⅱ

全高  18.4 m

本体重量 35.2 t

ジェネレーター出力 1,820 kw

スラスター総推力 61,600 kg

アポジモーター いっぱい

装甲  ガンダリウム合金

 

 

786:転生すれば名無し

えー、はい

 

どうしろと

 

 

787:転生すれば名無し

出力が倍近く違う……

それでいて20t以上も軽量化してるとか

宇宙世紀の科学技術はバケモンやわ

 

 

788:転生すれば名無し

装甲もダンチやぞ

ザクのマシンガンを弾くガンダムの装甲材質がルナチタニウム合金

で、アクシズ製モビルスーツはその発展系のガンダリウムγや

 

 

789:転生すれば名無し

普通にやったら勝ち目はゼロやが

イッチには何か策があるんか……?

 

 

790:12004

『では……始め!』

 

まずは距離を詰めるとしようか

 

 

791:転生すれば名無し

お互いにマップの端からスタートか

 

 

792:転生すれば名無し

こうしてみるとデブリだらけでまっすぐは飛べんのやな

運動性の差はほぼ無くなる

 

 

793:転生すれば名無し

おっ

 

 

794:転生すれば名無し

おおー、急加速からのデブリキック!

 

 

795:転生すれば名無し

詰める詰める詰める!

こりゃ速いわ! マジで三倍のスピード出てる!

 

 

796:転生すれば名無し

ブースター点火→カット→噴射剤でデブリ着地→再点火と同時にキックで加速

やってることはこの繰り返しやけど、速度がまるで落ちん

おまけに向きがぐるんぐるん変わっとる

 

 

797:転生すれば名無し

どっちかってーと跳弾加速?

あれを無重力空間で再現しとるようなもんか

 

 

798:転生すれば名無し

お互いが……見えた!

 

 

799:12004

「まずは挨拶といこうか!」

「きゃあ!」

 

 

800:転生すれば名無し

一発も撃たないままマシンガンを投擲!

 

 

801:転生すれば名無し

ろくにダメージ与えられんからな

一瞬でも視界を塞げれば御の字よ

 

 

802:12004

「続いてはこれだ!」

 

 

803:転生すれば名無し

ヒートホークの両手持ち、そこから脳天唐竹割り!

攻撃力の低さをツーハンドで補う形だが……

 

 

804:12004

「やられっぱなしじゃないよ!」

「むっ」

 

 

805:転生すれば名無し

Mk-Ⅱの三つ又ビームサーベルがザクⅡの右手首ごとヒートホークを切断!

 

 

806:転生すれば名無し

これで近接武器は無くなったな

 

 

807:12004

「こらー、待てー!」

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ、だ!」

 

 

808:転生すれば名無し

ここでイッチ、三倍のスピードで逃げる!

 

 

809:転生すれば名無し

プル・オルタが追いながら腕部ビームガンで撃つも

デブリが多すぎてまともに当たらんな

 

 

810:転生すれば名無し

いや、一発だけ右肩のシールドに命中!

当たったところがごっそりえぐれてる

 

 

811:転生すれば名無し

……さらに加速してねぇ?

 

 

812:転生すれば名無し

まさか、後ろからのビームの衝撃も推力に変えた?

そうなるようにわざと受けたんか!

 

 

813:転生すれば名無し

逃げながらそこまでやるか普通

 

……シャアならやるわな、多分

 

 

814:転生すれば名無し

『emergency! emergency!』

 

 

815:転生すれば名無し

『ミノフスキー粒子濃密地帯に突入します』

『レーダー、各種センサーの誤作動が予想されます』

『パイロットは十分に注意してください』

 

 

816:12004

ほう、これは……

 

 

817:転生すれば名無し

レーダーからプル・オルタのポイントが消えた

 

 

818:転生すれば名無し

うわ、追いかけてくる相手が視認できるのに反応がねぇ

マジで厄介だなミノ粉

 

 

819:転生すれば名無し

初手でこんなのバラ撒かれたら艦隊はマトにしかならんな

 

 

820:転生すれば名無し

「どこかなー?」

 

……気のせいか?

キュベレイ・Mk-Ⅱがぼんやり光ってるような

 

 

821:12004

ニュータイプ感覚を索敵に回しているのだろう

何といったかな……念能力でいう『円』が近い

 

 

822:転生すれば名無し

宇宙世紀でH×Hやってんじゃないよ!

 

 

823:転生すれば名無し

だって本編も人類の強制幼児退行とかやるし……

 

 

824:12004

インディアン・スプリングスで地中に潜んだ敵を察知しただろう?

あの感覚を薄く、かつ広範囲に引き延ばせばいいだけだ

 

 

825:転生すれば名無し

ね、簡単でしょ? みたいにいうのやめてもろて

 

 

826:転生すれば名無し

だからニュータイプとは分かり合えねぇんだ

 

 

827:12004

これにも対抗策はある

 

 

 

まず自分を無にします

 

 

828:転生すれば名無し

おい

 

おい

 

 

829:転生すれば名無し

当たり前のようにいわないで?(2回目)

 

 

830:転生すれば名無し

ブースターを噴かさないままデブリに掴まって遊覧飛行し始めた……

 

 

831:転生すれば名無し

うわぁ……なんていうか、うわぁ……

すげぇキモい動きしてる……

 

 

832:転生すれば名無し

さっきまでがバッタのジャンプとしたら、こっちはアメンボの水面移動や

負荷をかけてるはずのデブリがこれっぽっちも動いとらん

ロッククライミングを超高速でこなしてるみたいなキモさ

 

 

833:12004

重要なのはプル・オルタを意識しないこと

「その辺にいるんじゃないかな?」程度に留めておく

移動はスラスター加速ではなく、いかに初速を減衰させないかだ

 

 

834:転生すれば名無し

解説しながらヌルヌル近づいていってる……

 

 

835:転生すれば名無し

ワイ、アナザー宇宙世紀パイロット

こんなのの相手したくない

夢に出そう

 

 

836:転生すれば名無し

ぐにゃぐにゃ泳ぎながら、弧を描くように側面へと回っていく

 

 

837:転生すれば名無し

あれ……プル・オルタが動かんな?

じっと静止したままや

 

 

838:12004

ニュータイプ感応が優れている弊害だ

第六感に集中し過ぎて視覚がおざなりになってしまう

『意』を消した相手にはこうなる典型例だな

 

 

839:転生すれば名無し

武術家みたいなこと言いだしたぞこいつ

 

 

840:転生すれば名無し

お前はいつからアサシンになったんだ

 

 

841:転生すれば名無し

正面から左側面、さらに回って真横

ゆらゆらと進んで……左後方40°に到達した

 

 

842:転生すれば名無し

ザクIIからキュベレイ・Mk-Ⅱまで一直線

ここだけデブリひとつない、綺麗な道や

 

 

843:12004

さて、二つ目だ

閉じていた感覚を……全開にする!

 

「ッ!!!!!」

 

 

844:転生すれば名無し

シャアザクも赤いオーラに包まれて……おわっ!?

 

 

845:転生すれば名無し

包むなんてレベルやない

大爆発や

 

 

846:12004

ここに至ってもはや隠れる必要はない

デブリを足場に噴射剤を使い切り

プロペラントタンクの残量すべてを燃やし尽くす

 

 

「───いくぞ、プル・オルタ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 プル・オルタは油断などしていない。12004なら必ず死角を突いてくると確信していた。どうやって自分に見つからないで移動するのかは見当もつかないが、彼ならできると無邪気に信じていた。

 

 奇襲がくるとわかっているなら、ルートを押し付けてしまえ。あえてデブリのないエリアを後方に背負ってみせることで、死角を撒き餌にした釣り戦法が成立する。あとは襲撃のタイミングを捉えるだけでいい。

 

 数分間の静寂。

 

 全天周囲モニターが映す景色は、コックピットと機体を挟んでいるのが信じられないくらいに宇宙との壁が薄い。自分という肉体が広大な宇宙に放り出されているような錯覚すら覚える。

 

 そうではない。

 

 宇宙とは、星々よりも広大な海だ。何千億万という命が肉体という楔から解き放たれ、ゆりかごの中でたゆたっているに過ぎない。自分という命ひとつがそこに混ざろうと、どれほどの変化も起きやしないのだ。

 

 でも、ゼロヨンなら?

 

「──────き、たッ!?」

 

 ゾ、

 ゾッ

 

 背中から、火山が噴火したと錯覚するほどの膨大な熱量が叩きつけられる。振り返った時には、それは猛スピードで移動を開始していた。機体を、命さえも焼き尽くすような勢いで加速し続ける。

 

 赤い彗星。

 

「いって、ファンネ…………きゃあっ!?」

 

 プル・オルタの迎撃は最速だった。姉達にけして劣らない速度でフレキシブル・バインダーに内蔵されたファンネル群を展開させようとした瞬間、四枚の内二枚の羽が爆発を起こす。

 

 衝撃で前につんのめる機体を必死に制御しつつ、原因を探る。

 

(なんで!? まだ使ってないのに、暴発なんて────あ、れ?)

 

 模擬戦が始まってすぐ、最初の攻防。12004は一発も撃たないままにマシンガンを投擲した。そのまま直進することなく、手近なデブリを蹴ってキュベレイ・Mk-Ⅱの直上を取り、急噴射とともに脳天から股下へと両手でヒートホークを打ち下ろす。だが出力の差は覆せず、武装ごと右手首を切断される。

 

 なぜ左手首は無事だった?

 

(そっか、あの時……両手持ちと見せかけて、未使用の弾倉をバインダーにくっつけたんだ!)

 

 すべては布石。本命の突撃を成功させるために、武装ふたつと引き換えにファンネル半分を潰したのだ。

 

 だが、もう半分のファンネルは生きている。さらに距離を詰めつつあった12004に向けて全機を高速展開。相手との相対距離を無意識に計算し、四方からの射撃を出力する。着弾位置にさしかかる直前、

 

 シャア専用ザクⅡは、背中に装着されたままのバズーカを乱射した。

 

「うそ!?」

 

 スラスターも噴射剤も使い切ったと思わせてからの強引な射撃ブースト。想定外の推力エネルギーが加わったことで、ファンネルの位置取りは完全に外された。惜しみなく全弾射出されたバズーカを捨てた機体は速度限界値をとっくに振り切り、灼熱のオーラをまとって弾丸と化す。

 

 シャア専用ザクⅡがキュベレイ・Mk-Ⅱに唯一勝っている点があるとすれば、20tを上回る重量。それ自体を武器として、12004がプル・オルタに猛襲する。

 

 接触まで一秒を切る。もはや思考は追いつかない。どちらも考えてすらいない。12004は残された左肩のスパイクに全重量を預け、プル・オルタは───眼前に迫り来る、マグマのようなエネルギーの塊の中に、きらきらと光るものを見た。

 

「ああ──────すっごく、きれい」

 

 激突。

 

 

 

 

 

第一回シミュレーション結果

 

パイロット:12004 vs プル・オルタナティブ

機体:シャア専用ザクⅡ vs キュベレイ・Mk-Ⅱ

戦場:宇宙空間(デブリ暗礁宙域)

 

経過時間:7分21秒

 

機体損傷(シャア専用ザクⅡ)

 武装:全損

 パーツ:限界を超えた加速によるタックルで爆散

 パイロット:やや疲労

 

機体損傷(キュベレイ・Mk-Ⅱ)

 武装:ファンネル内蔵バインダー二枚大破

 パーツ:コックピットを除いて四肢が破砕

 パイロット:熟睡

 

勝敗:プル・オルタの勝利

賞品:12004手作りのチョコパフェ

 

 

 

 

☆人物・舞台説明

 

 

〇12004

「あんな特攻じみた真似は実戦でやらん」

 

 シミュレーションだからと張り切って遊んだ。機体性能で完全に負けているため勝ち筋は一つもなく、ならば全力で楽しむつもりで仕掛ける。実はプル・オルタが死角を誘ったのに途中まで気づかず、後の反省会で知らされて子供の成長を実感した。パフェは気持ち多めに。

 

 

〇プル・オルタ

「おいしー!」

 

 性能差で舐めプするつもりはいっさい無く、全力で倒しにいった。最後の激突時には腕部ビームサーベルを展開し、コックピットを貫通。12004の死亡判定をもぎ取るが、衝撃に両腕・両脚の関節が保たず破損。12004からは「土壇場でカウンターに動いた判断は満点。クリームを増量しよう」と褒められた。

 

 

〇プロフェッサー

『途中からSF特撮アクション映画を見ている気分だった。ニュータイプって謎』

 

 ふたりのバトルを観戦しつつシミュレーションの演算処理をしていた……が、12004による操作がどう見てもロボットの範疇を超えた生身の動きに達していたり、モビルスーツにできる動きじゃないだろとツッコんだり、しまいには二体とも謎のオーラ力に包まれて爆散したりと、データがデータにならない結果を見るハメになった。がんばってデータにした。

 

 

 

 

おしまい

 

 

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