メイフィールド   作:コンテナ店子@コミケ出ます

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第26話「薫子が、来る」

「早く行くぞ! 急げ!」

 

 いきなりこっちに走ってきた兵頭彩芽がこっちの腕を掴むと一緒に立ち上がらされて。こっちが完全に立つのよりも、先にもう向こうは一気に走り出してて。それのせいで背中しか見れない状態のままこっちは何度も素っ頓狂な声を出し続ける羽目になってた。

 

 だけど、その間も相手はただまっすぐ瓦礫の山を下りてくだけで。僕も小走りみたいな小さな足取りを素早く動かすことでそれを追うことに。その間もこっちの声を止められずにいた。

 

 僕らの足が進むに合わせて山の上に乗っかってた物たちが滑り落ちて行くのが重い物から軽いものまであるのを感じながら相手の様子だけを見ながら進む。だけど、向こうは今もこっちに後頭部や背中だけを見せるだけだった。

 

 何度も何度もこっちが声をかけ続けてる間、ストライカーさんと兵頭彩芽らが戦ってた場所から離れれば離れるほど建物がだんだんと壊れてる様子が少なくなってく。

 でも、そこでも子供の頭を自分の胸の所に当てるようにして抱きかかえてる女性の姿だったり。地面へ頭を擦り付ける体勢で両腕を後頭部に持って行ってる人とか。

 左右のどっちにも立ち往生してる人たちが幾度もストライカーさんの名前を呼び続けてるのが聞こえる。

 

 ただ、僕があっちこっち視線を向けてる間も、兵頭彩芽はまっすぐに道筋に従って視線を向けてるだけで。瓦礫や人が邪魔になってる時だけその視線や進行方向を変える。ただ、逆に細かい物は蹴飛ばしたり開いてる方の手でどけたりするだけにしてる時もあった。

 

 こっちから見えてる相手の首筋の所には脂汗が浮き出てるだけじゃなくて、水滴が服の中に落ちてく感じでどこかに消えてくみたいになってるのも見える。それが見えなくなったのはいきなりこっちの方を振り返った時だった。

 

 ただ、兵頭彩芽はこっちに振り向いて両方の手を肩に置いたタイミングでもしばらくは息が上がってるみたいで顔を下に向けたまま何度も息を繰り返してる。それから顔を持ち上げた後も、目線を左右に動かしてるみたいで。

 顔を細かく震わせながらいて。唇を何度も舐めるように動かしながら、視線を斜め下に向けてる。

 さらに、どこかで今も穴の人が暴れてるみたいでまた1つ建物を倒壊させてる音がこっちのも聞こえて来てて。そっちを一瞬だけ僕も見るけど、兵頭彩芽はしばらくそっちを向いたまま顔の向きも変えられないでいた。

 

 こっちの方から小さく「大丈夫?」とだけ聞くと、向こうは「悪い」とだけ言ってからおでこに溜まった汗をぬぐうために手を動かしてて。続けて自分のおでこに手を当てながら口を強く紡いでる。それからも目線を横に向けたまま何度も呼吸を繰り返してた。

 

「薫子が、来る」

 

 その言葉が言い終わった後、僕も兵頭彩芽もその場で固まって動けなくなってた。まだ向こうは僕らがいる場所からすると遠くも遠く。ほんとに小さくて顔のパーツも服装の形や色ですらもほとんど見えないほど。でも、どっちもそっちから視線を逸らせることはなくて。

 

 辺りからは今も穴の人が起こしてる騒ぎのせいで聞こえてるストライカーさんの名前を呼び続ける声や建物が壊れ続ける音が今もしてるけど、でも、それがあっても僕らがその場で立ってるだけの時間がどれだけあったのかわからない。

 

 こっちから兵頭彩芽に対して「逃げなきゃ」とだけ呟くと振り返って今度は僕の方が相手を引っ張る感じで走り出すけど、でも勢いで顔を下に下げたところで相手とこっちの手がぴんと伸びたところで振り返る。

 

 兵頭彩芽は僕のいる方を見てるように見えて、そうにも思えるけど全然違う方を見てるようにも感じる。こっちはその顔をずっと視線を向けてるのに向こうはそれに気づいてるのかいないのか全く分からないくらい動かないまま。気づけば僕も体を動かせないままそっちの顔だけを見つめ続ける。

 

 でも、その間も辺りから聞こえる音だったり砂ぼこりが起きたりするのは一切変わらなくて。たまに風が吹き飛んできて僕らの体に砂がかかるのだけを感じる。だけど、それでもどっちも目を大きく開けてるのを一切変えることは出来なかった。




読了ありがとうございます。
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