世界一の殺し屋だけど気づいたらマーベル時空だった。あとTSもしてた   作:ウォッチャー3

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第2話『NYの裏社会はルール無用』

 結論から言うと、僕はデイリー・ビューグルの記者として働くことになった。

 戸籍、住居、仕事。どれも仮だが容易に確保できたのは僥倖だろう。

 

「今日から同僚ですね! まあ、あたしの方が先輩ですけど」

「ジョイスはバイト、僕は正社員」

「え、縁故採用……」

 

 やかましいジョイスと共に、僕は初めての出社だ。

 戸籍に関しては役所を訪ねたが案の定、僕(の身体)は身元が不明。行方不明者データベースにも該当なし。

 とはいえここは異常現象ひしめくマーベル世界。珍しいことでもないらしい。比較的容易な手続きで、仮の市民権らしきものは確保できた。

 

「でも、クラリッサさんは学校通おうとは思わないんですか?」

「いや、別に……もしかしたら元々学生かもしれないし」

「その可能性はありますね」

 

 適当に誤魔化し、編集室への通路を進む。

 そして住居。こちらは可愛い娘に押し切られたJJJが、安い家賃と引き換えに住まわせてくれることになった。少し悩んだが、他に当てもないし、僕としてもジョイスから目が離すと危うい気がした。

 なんだか、すごく無鉄砲な娘だ。

 

「よし、着きました。ここが我らがオフィスです」

「どうも、はじめまして。今日からお世話になる、クラリッサ・ケインです」

 

 社員たちの好奇の視線を躱しつつ、無難に挨拶コマンドを連打する。

 アイサツは大事だ。古事記にもそう書いてある。

 

 まあ、経緯はお察し。

 最後に残った仕事の確保として、この点もJJJにお世話になることにしたわけだ。

 

 業務に自信はある。僕は元々世界一の殺し屋だったから、その前段階に行う調査タスクはかなり得意だ。記者として許されるアナログの取材から、非合法スレスレの危ない橋まで。

 JJJはこちらもやや不服そうだったが、記者がちょうど足りてないようで、最終的には許可してくれた。

 

 まあ僕は大体なんでもできるから、仕事そのものは記者でなくても良かったのだが。しかし、介抱と住居の恩を返すにはこれが一番手っ取り早そうだった。

 ヒーローに憧れる身として、恩を仇で返すのは避けたいところだ。

 

「……さて、僕のデスクはっと」

 

 だいたい挨拶を終え、オフィスを見回す。

 すると、新たに扉が開き、少年の姿。恐らく10代半ば。顔立ちは幼く見えるが、その瞳には知性と意志が見て取れる……気がする。

 彼は僕……の隣にいるジョイスを見つけると、小走りで駆け寄ってくる。そういえば彼女は誰かと待ち合わせてる、と言ってたような。

 

「ごめん、待たせたジョイス?」

「いや、大丈夫ですよピーター」

「えっ」

 

 僕は思わず素で驚きのリアクションを取ってしまった。

 ぽかーん、という雰囲気のアホ面から戻れない。

 

「ピーター、こちらは新人記者のクラリッサ・ケインさ……どうしました、クラリッサさん」

「い、いや……しかし君、ピーターと言うのか。ファミリーネームは?」

「ぼく? パーカーですけど。あなたは……えっあっ?」

「どうしました、ピーターまで」

 

 こちらの顔を直視した途端、僕に負けず劣らず、露骨に狼狽えるピーター・パーカー。

 彼はジョイスも通うミッドタウン高校に在籍するであろう男子学生。非凡な知性と強い善性を持つ、好青年。

 言わずと知れた、スパイダーマンの正体だ。

 

 デイリー・ビューグルのカメラマンとして自分の写真を売り込む時があるのは知ってるが、このバースではここまで頻繁に出入りするのか。

 気を付けないと。でも、嬉しい。

 こんな簡単に憧れの人と会えるのも嬉しいし。このリアクションからして、向こうが先日のショッカー事件での遭遇を覚えているっぽいのも嬉しい。

 

 空気を読まないジョイスは僕らの間に割って入り、顔をじろじろと見比べる。

 

「クラリッサさんとピーターは、お知り合いだったり? 生き別れの兄妹とか」

「いや、そういうわけじゃ……」

「知り合いではないね。それに断定はできないけど、ピーター“さん”と僕の顔は似ていないような」

「じゃあなんで二人ともびっくりしてるんですか?」

 

 ジョイスの問いに、僕とピーターは顔を見合わせる。

 

「なんだろう? 昔飼ってたペットの名前がピーターだったような……違うような」

「記憶の手がかりってコトですか? 何のペットでしたか?」

「えっと…………蜘蛛?」

「えっ」

 

 あからさまに狼狽を増すピーター。

 うん、僕が悪い。咄嗟に出てしまっただけとはいえ、これじゃあ彼の正体を知りつつ脅かしてるみたいじゃないか。

 そんなつもりはない。ただスパイダーマンへの感情を抜きにしても、前世でかなり縁があった(毒確保用に飼ってた)からつい、ね。

 

「……そう、蜘蛛をよく僕に見せびらかす猫だったような」

「そ、そっか……」

 

 すごくほっとした様子のピーター。分かりやすくて可愛い奴だ。

 MJと名乗っておけば、歴史の修正力で恋人ポジに収まれたかもしれない。いや、僕の性自認は今のところ、そこまで崩壊してはいないけれど。

 

「じゃ、ピーターの方はなんでびっくりしてたんですか?」

「…………ま、前に街で見かけて……」

「それだけです?」

「可愛い子だなって思ったから……」

「ゲンキンですねぇ。MJが泣きますよ」

「いや、付き合ってないしそこまでじゃないからね!?」

「MMMさんも……」

「あの人は大人で弁護士じゃん! もっと関係ないよ!」

 

 じとーっとした目でジョイスが詰り、ピーターが弁明する。微笑ましい友人どうしといった感じだ。見た感じ、歳の差もあまり無いのかもしれない。

 ジョイスも危なっかしいが、ピーターの運命は恐ろしく過酷だ。だから今、彼が楽しそうなのは、すごくいいことだ。束の間であっても、それは心の輝き、その源となる。

 

「まあまあジョイス、僕が可愛いのは事実だから」

「それは……そうなんですが……」

「ピーターさんにそう思われるのも、悪い気はしないしね」

「ダメですクラリッサさん! そんなことテキトーに言ったら勘違いされますよ!」

 

 必死に腕で×マークを表現するジョイス。

 この娘はどういう立場なんだよ。

 

「まあまあ、ピーターさんはそんな勘違いするような男じゃないよ」

「勘違いするつもりはないけど、そのぼくへの信頼は何……???」

 

 

 困惑が抜けないピーター。

 まあ今は言えないが、普通にファン目線だ。君は純粋だが、それだけじゃなく、他人の気持ちをすごく推し量れる人間だからね。

 

 その事実を、僕は知っている。

 

 

「……これ、もしかして」

 

 ジョイスとピーターが連れ立って取材に行くのを見送り、僕は自分のデスクへ向かう。そして初仕事として、PCを起動……する前に、なんだか違和感のある物体があった。

 それは、電源タップだ。机備え付けのコンセントを4又に拡張する、有りふれた製品。だが僕は当然設置してないし、他の社員のデスクを見ても、あまり配置されてる様子はない。

 

 なんだか、他の社員の目を避けて、空いたデスクに後から差し込んだように見える。

 これは、つまり。電源タップがあると便利だろう、というJJJの密かな優しさでもなければ……

 

「盗聴器、か?」

 

 小声で言って、タップを外す。次にそれをトイレの個室に持ち込み、誰もいない場所でよく確かめることにする。

 

 まず軽く叩く。うーん、あまり思ったより隙間がない感じだ。盗聴器は当然普通のタップより入っている部品が多いから、怪しい。確率アップ。

 次によく触る。かなり薄れているがシール跡がわずかに触覚でわかる。市販の安い盗聴器は対応回線を示すシールがペタペタ貼られた状態で売られがちだ。確率小アップ。

 最後にネジ穴チェック。開けないようにするためだろう、念入りに潰されている。確率大アップ。

 

 結論。たぶん恐らく、高確率でクロ。

 

 どこの誰が仕込んだか知らないが、まあ高確率で相撲取りのような()()()だろう。

 このぶんだと社用PCにも何か仕込まれてそうだから、動きづらいこと仕方ない。

 

「うーん……」

 

 僕は選択に悩んだ時、コイントスで決めている。表なら運がいいから大胆な手、裏なら運が悪いから慎重な手だ。

 コインを上に指で飛ばし、手の甲でキャッチ。

 ぴん、ひゅーっ、すとん。……表。

 

 というわけで、一度ギャンブルに出よう。ああ、賭け事は楽しいものだ。

 

 

「はじめまして、キングピン」

「…………」

 

 書類仕事をほどほどにこなし、昼休みの休憩時間。社屋から少し離れた、小洒落た喫茶店。やや客は少ないが、全く人の目がないわけでは当然ない、心地いい空気。

 そこには、スーツを着た相撲取りそのものの巨漢と、赤い髪の小柄な少女が向かい合っている光景があった。

 異様だね。少女の方が僕なんだけど。

 

 目の前の禿頭のクソデカおじさんはウィルソン・フィスクと言い、慈善活動の熱心さで知られる事業家である。そして同時に、NYにおいて裏社会の多くを支配する犯罪帝国を統べる大人物だ。

 今は警戒の意を隠すことなく、僕を睨みつけている。

 

「昼飯は食べた? ここはサンドイッチがすごく美味しいんだ。まあどっちにしろ飲み物くらいは頼みたまえ」

「……貴様、どこまで知っている?」

「その説明をするためにはまず好きな飲み物を注文する必要がある。少し長くなるぞ」

「ちっ」

 

 狂人を見る目で舌打ちしつつ、やや強引に店員を呼び止めブラックコーヒーをオーダーするキングピン。

 何気ない日常的な動作でも、キングピンがやってるといちいちシュールで面白い。

 

「何が面白い?」

「雰囲気……」

 

 彼に会うのは比較的簡単だった。

 まずは最初に見つけた盗聴器に向かってこう語りかける。

 

『ハロー、リスナーの君。キングピンって知ってる? 知ってるならそいつから僕のPCにメールしてくれ。知らないなら、君の知ってる中で一番偉い奴でいい。さもないと、めっちゃ騒ぐ。うわーっ監視されてるぞーって。まあそれだけだが、君たちは大目玉じゃない? どう?』

 

 まあうん、逆に脅迫するわけだ。

 別にキングピンの仕業と確信があったわけではないし、100%あれが盗聴器だったと知っていたわけでもないから、一種のギャンブルだったが。とはいえ、裏目は出なかった。

 

 次に、彼らを急かすように、キングピンについて社用PCを使ってパブサしまくる。

 検索履歴はこんな感じになっていた。

 

『キングピン 誰』

『キングピン 誰だっけ』

『キングピン 犯罪』

『キングピン 市長』

『キングピン ウィルソン・フィスク』

『キングピン ウィルソン・フィスク 関係』

『キングピン 誰』

 

 これも僕の推測に過ぎなかったが、PCには怪しい謎のソフトが隅っこにあったし、どうせこちらも監視していると思っていた。キングピンなら、やりそうなことだ。痛い腹を探った記者は、秘密裏に刺客が来て粛清されるのだろう。

 さておき同様に、コインは表が出た。つまり無事にメールが来た。しかも運よく末端のカスではなく、キングピン本人からだった。

 意外とここは、直轄チームみたいなのが探っているのかもしれない。

 

『お前は何者だ? 何が目的で、何を知っている?』

『僕は“ジョークマン”。あなたと敵対するつもりはないが、まず相互理解のために直接会って話したい』

『高望みだな』

『いや、この申し出はあなたのためでもある。()()()もしたいしね』

 

 こういったメールでのやりとりの末、彼は屈したわけだ。

 

 

「さて、どこまで知っているかと言ったね」

「ああ」

 

 熱いココアをちょびちょび飲みながら、僕は切り出した。

 キングピンはなかなかコーヒーが来なくて手持ち無沙汰らしい。

 

「実を言うと、君の帝国の現状についてはあまり知らないんだ。ブルズアイやエレクトラは今も元気かい? それともディフェンダーズに負けたり寝返ったり?」

「ノーコメントだ」

 

 彼らしい、自分からはすぐに踏み込まず、慎重に相手を探る構えだ。

 しかし、この会合が実現した時点で、とうに勝負はついている。

 

「本当にそれだけか?」

「さあね。でも君の家族には多分詳しいと思うよ。フィスク、君の奥さんとかね」

「……!」

 

 目を見開き、わなわなと震えるキングピン。

 それもそのはず。彼の妻、ヴァネッサは夫の裏の顔を知らない善人だ。しかし、それはキングピンが彼女を利用しているわけではない。むしろ誰よりも愛している。

 まあ、このバースで実際に“そう”なのかは、例によって確信がなかった。とはいえ、一蹴されたらされたで別のやりようがある。また一方で、通れば効果は絶大。彼は大きく僕への干渉を制限されるのは間違いない。

 つまり。とりあえず、で切る価値のあるカード(原作知識)だったわけだ。

 

 結果はと言えば。僕はこのゲームも、コインの目は表だったようだ。

 その証拠に、用心深い彼がこうしてノコノコと単身で姿を現している。効果は覿面で、ヴァネッサはやはりこのバースの彼にとってもアキレス腱。

 そのアキレス腱を、見ず知らずの女に突つかれている。暗黒街の帝王にとって、これほどの屈辱はない……かもしれない。知らんけど、そこの価値観は。

 

「奥さん……ヴァネッサはすごく善人みたいだね。表の顔でも情報が無かったから、内縁の妻ってヤツ? でも、彼女が君のやってること知ったら哀しむだろうなー」

「ふざけるな」

「ふざけなくても、状況は変わらないよ」

「貴様は何者だ」

「うーん……謎の仕事人“ジョークマン”ってことにしといてくれ。切り札(ジョーカー)ってガラじゃないしね、ここ(マーベル世界)じゃ」

「別にコードネームを聞いているのではない……!!」

 

 おっと、テキトー言いすぎた。すごく怒っている。

 額に血管がぴきぴきして、今にも暴れ出しそうだ。

 

「落ち着いてくれ、僕を仕事(ビズ)の話をしに来ただけだ。これまでの話は……あれだ、業界でよくあるやつ。互いに威圧と探り合いしながら落としどころ探る的な」

「……ビジネスだと?」

「ああ。別に脅迫しようってんじゃない。ただ、仕事が欲しい。僕はこれでも、フリーのこう……暗殺的な……そういう仕事が得意な人なんだ」

 

 キングピンの怒りの形相が、疑いの眼差しへ。次に、冷徹な頭脳を回す平静さが戻ってくる。

 流石はキングピン、話が通じるかどうかの判断が正確で早い。

 

「呑まなければ?」

「言わせないでくれ」

「……ふん、条件を言え」

「言わせてくれてありがとう。報酬自体は案件ごとに相談。ただ、デイリー・ビューグルの監視網は取っ払え。あと僕の同居人には手を出すな」

 

 あの監視は流石に放置できないし、調べれば秒で分かるであろう同居人もあらかじめ釘を刺しておく。

 弱みといえば弱みだが、こちらが持つカードの重さを思えば、大した問題ではない。

 わざわざ内縁の妻にしてる事実から見ても、このバースのヴァネッサは存在自体がトップシークレットなのだろう。

 

「……他には?」

「仕事はこっちで選ぶから、なるべく沢山候補を見繕って、前情報も出来るだけくれ。それだけだ」

「選ぶ?」

「別にいいだろ、なるべく選んで殺したいんだ」

 

 狂人を見る目に再び戻り、キングピンはしかし────頷いた。

 

 

 ……言い訳をするようだが、事実として、僕は別に突然ヴィランへ堕ちたわけじゃない。むしろ心は今でもヒーローへの憧憬一直線だ。

 

 ただ僕には考えがある。

 まずキングピンと言えど、司法をすり抜けて無辜の市民を始末するのはやや骨が折れるし、コスパを考えれば非常にレアケースだ。つまりそういった僕が避ける部類よりは、同じように悪どい“同業者”への対応依頼が、僕のような仕事人には限りなく多くなる。その上で、僕は依頼の前情報をたくさん読み込みつつ、その中で状況に応じて、仕事を選ぶ。

 この立場なら、仕事を選ぶだけで帝国の状況をわずかながらコントロールできるわけだ。

 

 もちろん、それだけでは、仕事人が増える影響に比べれば微々たるもの。

 だが、この選ばなかった依頼の情報をスパイダーマンやディフェンダーズ(キングピンと敵対するヒーローチームだ)にこっそり流したらどうだろうか?

 あるいは、選ばなかった依頼を、さらにこっそり妨害したら?

 

 そういう感じで、ユルく正義のスパイをやっていこう。

 そう思っています、はい。以上、弁明終わり。

 

 

 ちょびちょび飲んでいたココアが、ちょうど無くなった。

 この会合も、潮時だろう。

 

「話がついたってことでいいかな? そろそろ昼休みが終わるんだけど」

「ああ。……ところで、私のコーヒーがまだ来ないんだが」

「……あんたの顔怖いから、ウェイトレスがビビってるんじゃないか?」

「怖いか? 髭も肌も手入れしてるんだが」

「狙ってないのか……」

 

 

 呆れながら、僕は席を立ち、そそくさとオフィスへ戻る。

 PCを確認すると、目をつけていた怪しいソフトは消えていた。キングピン様々だ。でもそのうち殺そう。

 それにしても自分のぶんのお金、喫茶店に置き忘れた気がするけど、向こうは大金持ちだから……まあいいか。

 

 そんな晴れやかな気持ちで、僕は午後の仕事に向かった。




スパイダーバースのキングピン強すぎんだろ…
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