AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
装甲のツギハギが目立つ基地には大量のレーザー砲塔が並んでいる。
紫色のレーザーを途切れなく放ちながら向きを変える様は、鑑賞作品としての価値も少しはあるかもしれない。
『敵の攻撃の命中率がまた低下したよっ。なんで!?』
「敵が弱いのは問題ない。一気に攻め落とすぞ」
五×六のフリゲートには回避優先の機動を徹底させる。
位相戦闘中のAIたちは弱い。
回避を捨てて攻撃に集中したタイミングで敵の猛攻があるとあっさり全滅しかねない怖さがある。
『十七番艦に直撃!』
「十七番、指定の位置まで後退してフリゲートを放棄しろ」
『操縦室に故障、だって』
相棒が動揺しているからこそ、俺は平然とした態度を取り続ける必要がある。
「指揮艦のトラクタービームで回収する。少々乱暴になるが我慢しろ」
艦隊指揮艦の操縦を相棒から受け取り、十七番のフリゲートの予想進路上に突っ込ませる。
強力な慣性制御でも消しきれない重力が、俺を操縦席へ押し付ける。
『十七番の子めちゃくちゃ動揺してるよ……』
「放り出すつもりはないと伝えてくれ。これからはパイロット以外にも職場が増えるからな」
大破したフリゲートから中破した操縦室が射出される。
操縦室は小さいので敵の操縦室にロックオンするのは大変だが、位置と向きと速度の情報をこちらに送り続けている味方の操縦席へのロックオンは簡単だ。
『トラクタービームは正常稼働中! 操縦室がこっちに向かってるよ! ……勢い強くない?』
「まだ戦場なんだ。速度優先だよ」
操縦と艦隊指揮のマルチタスクは辛い。
フリゲート艦隊への指示を出すタイミングが遅くなった結果、突出する奴まで出始める。
「また一番、三番もか。戦果をあげても割り引いて評価するぞお前ら」
操縦室を引き寄せる速度を落として、俺と相棒の船の近くで静止させる。
出入り口が開き、相棒より肉付きが良いAIがおずおずと顔を出した。
「早く移乗して来い」
『いらっしゃーい!』
「また一番か!」
敵基地に接触する寸前の距離で一番艦がレーザーキャノンを使った。
薄くなった位相障壁と、まともに補修されなかった船体装甲に穴が空き、装甲に吸収されなかった分のエネルギーが基地の内側を焼く。
『敵基地の動きが通常のAI制御の水準まで低下!』
人間をやったか。
倫理も法律もない宇宙だが、短時間だけ冥福を祈るくらいはしてやる。
「最後まで気を抜くな。勝ちが決まった戦闘で死ぬのは馬鹿らしいぞ。あと、一番と三番は後で説教だ」
敵のレーザー砲塔の死角から迫って攻撃を成功させた三番艦が、動揺してふらついていた。
☆
俺の胸にあるのは怒りではなく悔しさだ。
部下に馬鹿をさせない指揮能力とカリスマが欲しいぜ。
「普通に戦えば確実に勝てる場面で突撃するんじゃない! そんなのでお前らが死んだら俺は笑えばいいのか? あぁ!?」
薄いパイロットスーツ姿のAI……連中の自認では機械人間二人が、ふてくされた態度で表面上だけ素直な態度をとっている。
「危険が好きならもっと危険な配置を用意してやる。……志願の受付はまだだ。一晩ゆっくり考えてから決めろ」
俺が「行っていい」と合図を出すと、一応の敬礼だけして二人が立ち去っていった。
『『お疲れ様です』』
カノン率いる別働隊にいるはずのナニーからの通信だ。
「敵襲か?」
『『はい。いいえ敵襲ではありません。基地の建設も予定通りに進んでいます』』
俺は困惑し、数秒考えてからようやく答えに到着する。
ナニーは俺の部下ではなくドローンとカノンのAIだ。
用件なんて決まっている。
「どちらだ?」
『『弟様とカノン様の両方です』』
「俺が直接向かう。二人には、調子が悪いならあんたたちに指揮を一時任せるよう伝えておいてくれ
『『お待ちしております』』
通信は即座に途切れた。
早く連続超短距離位相跳躍をしてこっちに来いってことだろう。
「相棒、すまんが予定変更だ」
『カノンとドローンのことなら仕方ないよ。早くいってあげよう!』
いくつか小破や中破したフリゲート二十七隻を率い、推進機関が不調なフリゲート二隻を曳航して、俺は指揮艦を居住可能惑星へ向かわせる。
居住可能というデータが信じられないほど、その惑星はひどいありさまだった。
水はほとんどないし緑もうっすらとしか見えない。
……侵攻前の作戦開始時に画像データを見たときは気づかなかったが、あちこちにある大きな凹みは、ひょっとして宇宙船による直接攻撃の跡か。
「ケースさん、お手数をおかけしてしまい申し訳ありません」
俺に通信してきたカノンは、顔色が酷かった。
カノン指揮下の船に損害は皆無という報告を受けている。
こうなった原因は、敵の攻撃ではない。
「地表の人間と会話でもしたか」
「……はい」
地表での生活は過酷なものだろう。
そして、過酷な生活で善性を維持できる奴の割合はとても低い。
俺なら真っ先に倫理も善性も捨てるか道具として扱うだろう。
「命令だ。カノンとドローンはナイアTECの星系に行って補給をして来い」
「ですが」
俺はカノンの態度に気づかないふりをする。
「その後は二つ目の星系に侵入しての橋頭堡建設だ。制圧して開拓して経営が軌道に乗ってようやく儲けになるんだ。しばらくは長期休暇はなし、いいな?」
カノンは申し訳そうに頭を下げて通信を終える。
いつもなら詳細な報告と具体的な提案をしてくるはずのドローンは、一度も俺に連絡してこなかった。
☆
『マスター、どうする?』
「完全無視も選択肢の一つだ」
俺たちの前のディスプレイには、地上からの通信の要約が表示されている。
なかなかに独創的な援助要請だ。
機嫌の悪いときに見たら、レーザーキャノンを地表に向けたくなるかもしれない。
「外に連絡するときはこっちの基地を中継することと、希望者は実費のみで高治安星系の宇宙港まで連れて行ってやることだけを伝えて、後は放置でいいんじゃないか?」
『そっかなー』
相棒の俺に対する好感度は高いとは思うが、何でも肯定する訳ではない。
「相棒はどう思う?」
『放置するのも可哀想と思うけど、全員助けようとしたら口座残高が全然足りないと思う』
無法星系へ攻め込むAIとしては、相棒は優しすぎるのかもしれない。
「地表の連中に本格的に何かをするなら、最低でもこの星系を完全に制圧しないとな」
残っているのは鉱山基地くらいだが、外部に対しての連絡程度は可能だ。
通信妨害はしているが万能ではないし、できるだけ早めに破壊か占領をしたい。
『造船設備付きなんて贅沢は言わないけど、修理施設がある宇宙港は欲しいよね』
基地は本当に基地でしかないからな。
いざというとき位相障壁で船を守ることはできるが、その場合は外には攻撃できずに時間稼ぎしかできないし。
「それはドローンたちが戻ってきてからだな」
『戻ってくるよね?』
相棒は心配そうだ。
「あいつらは見た目より図太いから大丈夫だ。直視したら俺でもキツイものを心の準備なしで見たから驚いただけだよ」
『うん……』
体を寄せてきた相棒を受け止め、俺はディスプレイの表示をオフにした。
☆
「報告もなしに出発してすみませんでした!」
ドローンが頭を下げる。
顔色よし、声の調子もよし、だな。
「ナニーから連絡はあったから構わん。人間ってのは、予想外に不調になるものだからな」
俺も体調管理には気をつけている。
相棒との生活は一秒でも長くしたい。
『マスター、船がまだ来るよ!』
「これで全部だろ?」
俺が戸惑っていると、ドローンの艦の近くに特大の船が出現した。
なんで大型輸送艦が?
ワンオ氏の星系で売りに出して放置していたはずだが。
「出資希望者がいたので、僕の権限内で受け入れました」
ドローンが言い終わるか言い終わらないかのタイミングで、見慣れた戦艦二隻と巡洋艦一隻が、大型輸送艦を守れる位置へ位相跳躍してくる。
「地上の扱いを見せてもらった」
「これなら文句はねえ」
「よろしく頼むぜ後輩!」
ドローンと三人組の間で交わされた契約書がデータとして送られてくる。
意図的に惑星表面を攻撃しないししたら契約は撤回、という条件を除けば普通の文面だ。
あの三人ほどの凄腕を雇うことを考えれば、こちらの負担は軽いとすらいえる。
……丁度いいな。
「早速だが仕事をしてもらう」
当初の予定なら三つ目に狙うはずだった星系の情報を送信する。
居住可能なだけでなく、少なくない数の住人がいるのが確実な惑星がある星系だ。
「高速で突っ込んで惑星に罠を仕掛けられる前に制圧する。危険な作戦になるが、構わないな?」
当初の計画では、住民が「人質」に取られても敵への攻撃を優先するつもりだった。
だがこの三人がいるなら話は別だ。
「俺たちも舐められたもんだ」
「この程度余裕よ!」
「ちょっと待てこの情報の精度どうなってんだよ!?」
無法星系一つを占拠する勢力にぶつけるには過剰な戦力で、俺たちはさらなる進撃を開始した。