AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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汝、機械を愛することなかれ

推進装置が淡く光り、ミサイルに最後の加速を与える。

 

天上から降り注ぐ豪雨のような数と密度で、しかしその豪雨は基地や宇宙船にしか降っていない。

 

対空砲による迎撃も、猛烈な勢いで回復し続ける位相障壁も、至近距離で十数の爆発が起きれば何の役にも立たない。

 

船体装甲をズタズタに引き裂かれ、宇宙船や基地を操縦してた人間が生きていけない環境へ放り出された。

 

『敵基地だけじゃなくて自称中立の基地も迎撃能力を喪失したよっ!?』

 

相棒が動揺している。

 

ミサイルは多様だ。

 

戦闘下手なAIでも戦えるようになるミサイルもあれば、PvPの経験があるだけの俺に大きな力を与えるミサイルもある。

 

そして、考えてみれば当たり前のことだが、才能と経験を兼ね備えたパイロットに無双可能な力を与える超高額ミサイルも存在した。

 

それが使われた結果が目の前の光景だ。

 

惑星の静止軌道上や両極に点在していた基地群が、今や救難信号を発信するだけの残骸と化している。

 

「腕が鈍ったな。昔なら悲鳴も上げさせなかったのによ」

 

「昔は突撃してたまに操縦室ごと撃墜されてただろ。記憶を捏造するな」

 

「補給部隊つきの作戦は楽でいいな!」

 

二隻の高速戦艦は武装輸送艦からミサイルの補給を受けている。

 

俺の指揮艦と、マザーボード型フリゲートの艦隊は補給中の彼らの護衛だ。

 

戦闘には直接参加していなかった巡洋艦から通信が届く。

 

「坊主と嬢ちゃんが星系外縁へ到着したぜ」

 

探索用ドローンも「地図」も使っていないのにセンサーの性能が高い。

 

三人組の中で戦闘以外を担当しているらしい。

 

『こっちでも確認したよ。マスター、どうしよう?』

 

相棒がこの星系の現在の「地図」を見せてくる。

 

最初に位相跳躍してきた星系外縁からこの惑星まで、一直線にあらゆる勢力の基地と小艦隊が破壊し尽くされている。

 

惑星表面の人間を確保すること以外を全て無視した作戦を実行した結果だ。

 

「一つ一つの勢力と降伏条件を交渉しようとしたら時間がかかりすぎる。すぐにこの星系を出ていくなら残した資産を査定して後で送金、出ていかないなら後は知らん」

 

「あいよ。地上の連中を無駄に刺激しないよう、てきとーに文面を整えて送りつけとくぜ」

 

送信相手と送信内容の予定がすぐに俺と相棒に届く。

 

俺に対する態度は雑だが仕事は本当に丁寧だ。

 

大量のそれを高速でチェックし終えた相棒が頷くと、最大戦力を失った星系の隅々にまで降伏勧告が送りつけられた。

 

  ☆

 

「順調ですね」

 

静止軌道上に惑星防衛のための基地を組み立てながら、ドローンが喜び八割困惑二割の態度で俺に話しかけてくる。

 

「ずっと順調の方がいいじゃないか」

 

せめて、まとまった領域を制圧して防衛戦力を用意するまでは順調であって欲しい。

 

「それはそうですが……」

 

ドローンは並行して多数のAIに指示を出しているのに、まだ余裕がありそうだ。

 

「どうして、これまでこの星系は群雄割拠状態だったのでしょうか」

 

「先輩方の戦いは金がかかりすぎる」

 

一度襲撃して略奪して終わりなら、裕福なパイロットなら可能だろう。

 

だが、あのミサイルを大量に使う戦い方で星系を防衛し続けるなら、三度くらい防衛に成功した時点で艦を維持する金もなくなるはずだ。

 

「今回みたいな大規模な戦闘なんてほとんどないさ」

 

単艦同士の戦いか、数隻同士の戦いが基本だ。

 

敵の質や数を探り、敵の数を少しずつ削り、守りの薄い拠点があれば破壊して貴重品だけ回収し、金満な戦いをする奴がいれば嫌がらせをしかけて金と武器弾薬を無駄遣いさせる。

 

そういうことを、俺が詳しく説明するまでもなくドローンは理解し、納得した。

 

「基本は変わらないんですね」

 

「組織維持の面倒さは常に拡大中だけどな」

 

俺は大きなため息をついた。

 

二十一世紀前半でも宇宙MMOのPvPでもリーダーをしたことはあるが部下の数は常に一桁だったんだ。

 

二桁後半の今は、結構キツイ。

 

「組織を整えますか? 無法星系なら国家を名乗っても問題ないようですが」

 

「どうするかねえ」

 

俺はドローンを観察する。

 

俺も全くの無能ではないが、こいつは面以上に頭の出来が良い。

 

十年後なら独立させるか乗っ取られるかしかない奴ではあるんだが、今はまだ子供でもあるんだよな。

 

「今後は収入も支出も大きくなる。報酬体系もこのままというわけにはいかないだろうな」

 

「六人で行動していたときには戻れませんからね」

 

相棒、俺、ドローン、カノン、ナニーの二人で合計六人か。

 

完成した基地を見下ろし、俺とドローンは同時に息を吐いていた。

 

  ☆

 

『マスター、お客さんだよ!』

 

相棒の口から出たのは予想外の言葉だった。

 

襲撃者や所属不明の偵察とかなら頻繁に来てるんだがな。

 

三人組は最初の星系に移動して、一人が当直につく形で防衛を担当している。

 

ドローンとカノンはフリゲート艦隊の半数を率いて、当初予定では二番目に侵攻するはずだった星系に侵攻中だ。

 

だからこの星系には、少数のフリゲートと武装輸送艦しかいない。

 

敵対勢力をおびき寄せるつもりで頭数を減らして、武装輸送艦にはミサイルを詰め込んで待ち受けていたんだ。

 

「所属は?」

 

『大地教信徒同盟って名乗ってるよ』

 

SFじみた世界で宗教?

 

俺の知っている宗教とはかなりノリが違いそうな気がする。

 

「どの程度の礼儀正しさか分かるか?」

 

『僕たちが進入禁止だって放送している場所は近づいてない。珍しいね』

 

星系内の航行を支援するという名目で、星系の外縁まで届く放送をしている。

 

これまでの侵入者は全て無視していたということから、無法星系の治安を察することができる。

 

「向こうが礼儀を守るならこっちも守る。相棒、鏡あるか?」

 

『僕がしてあげるよ。クシはこれだよね?』

 

相棒が身だしなみを整えてくれる時間は至福で、頭皮が少し痛かった。

 

  ☆

 

「まさか、古代の教えにも通じておられるとは」

 

カノンにちょっと劣る面の黒装束娘が盛り上がっている。

 

所作、教養、服装も俺よりは明らかに上で、素直に受け取れば若き幹部候補とかそんな感じだ。

 

人間のコピーを量産できる世界だから、若いのは見た目だけかもしれないがな。

 

「長い間伝えて来られた貴方がたと比べれば大したことはありませんよ」

 

相手の宗教的禁忌に触れないよう気をつけただけなんだが、俺の言動のどこに反応したのか分からない。

 

俺に対する機嫌取りのつもりで言ってるならそれはそれで構わないんだが、これが本音ならどう扱えばいいのやら。

 

俺が穏やかな対応を続けると、黒装束娘はこほんと咳払いをして改まった態度になる。

 

「私たち大地教信徒同盟は平和を望んでいます」

 

「俺たちも平和は大好きだ。最初は不戦条約からでいいか?」

 

「はい!」

 

比喩的な意味で目をきらきらとさせる彼女に髪が生えていないことに気づいたのは、そのときだった。

 

  ☆

 

黒装束娘が乗る船を誘導して最初の惑星まで戻った俺を迎えたのは、わざわざ三人集まった連中だった。

 

「後輩も男だな」

 

「メモリの嬢ちゃんには黙っておいてやる」

 

「惑星の守りはもう少し増やしてもいいんじゃないか?」

 

しかも通信ではなく本人が宇宙港へ来ている。

 

ワンオ氏の星系の惑星港に比べると小型で装飾も少ないが、戦艦よりも強固に守られ大量の酸素と水を蓄えた空間はなかなかの安心感があった。

 

「相棒の機嫌を損ねたくないんでそういう冗談はなしで頼む」

 

繰り返すようなら契約を切れる程度には俺の権力は強く、俺にとっての相棒の存在は大きい。

 

つまらん反応だ、とでも言いたげに鼻を鳴らされる。

 

他勢力の使者の前なんだから多少は礼儀正しくして欲しいんだがね。

 

「ガサツな場所ですまないな」

 

黒装束娘に声をかけると、彼女は慌てたというより感動と驚愕で動揺している感じだ。

 

「い、いえ。これほどの環境に住まわれているとは……」

 

高治安星系だと、ド田舎の中でも特に小さな宇宙港レベルなんだが。

 

「自腹を切って建てた宇宙港だから評価されると嬉しいね」

 

所属艦を係留可能な広いだけの空間と、一度にフリゲート数隻なら修理可能な修理施設と、長期居住するなら十人程度が限界の居住施設も宇宙港に接続されている。

 

「不戦条約ならこっちはいつでも締結可能だ。儀式的なものが必要なら、協力できる範囲で協力するぞ」

 

全ての勢力を敵にまわすのは非効率だし、適正規模を超えて侵略をするつもりもない。

 

不戦条約を結べる相手とは積極的に結んでいきたい。

 

『司令、おかえりなさい!』

 

『げぇっ、司令があっちの人間連れてきてる』

 

フリゲート乗りのAIが、きゅらきゅらと足音を立てながら挨拶や挨拶らしきものをしてくる。

 

その体は相棒よりかなり安価ではあるが、下半身が戦車っぽいので演算と記憶の能力はあまり変わらない。

 

体の体積が小さくなるほど高価なんだよな。

 

「っ」

 

黒装束娘が目を見開く。

 

「どうかしたか? 少し形は違うが、ここに来るまでにいろんなAIと会っただろう?」

 

俺が話しかけると黒装束娘が我を取り戻し、高速で振り返って殺意に満ちた視線を相棒に向ける。

 

この日も、この日以降も、不戦条約が結ばれることはなかった。

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