AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
ナイアCEOの美貌は暴力的とすらいえる。
スレた三人組が呆けた顔で見とれてしまっているほどだ。
「ご無沙汰しております」
俺は深く頭を下げて出迎える。
アポ無しの訪問でも丁寧に接するしかないほどの力の差がある。
しかもナイアCEOの持ち込んだ土産がデカすぎる。
「突然の訪問にもかかわらず、丁寧な出迎えをありがとうございます」
頭を下げるナイアCEOの背後には、船体装甲が薄い戦艦が係留されている。
重武装の兵士を船腹に詰め込んだステルス戦艦。
非合法な作戦に適した特殊艦だ。
この一隻だけで、俺たちの宇宙港は簡単に攻め落とされてしまうだろう。
「いえいえ。普段からお世話になっているナイアTECからの用件であれば、いつでも話を聞きますよ」
ナイアCEO個人とは関わりたくないがな。
彼女は妖しく微笑み、三人組が動揺し、俺の隣にいる相棒がむっとする。
なお、ドローンとカノンは新造フリゲート艦隊を受け取るためにナイアTECの星系にいる。
影響されれば性癖や人格が歪みかねない危険人物に、未成年の二人を会わせたくはなかったので丁度よかった。
「ありがとうございます。今回の戦争中、この船を存分に使っていただければ十分です」
「占領する予定はありません。素晴らしい船と乗員だとは思いますが、おそらく出番はないと思います」
俺たちとは無縁の宗教を固く信じている連中を統治しようとすれば、時間と金と労力がどれだけ必要になるか分からない。
「占領しないなら地表も宇宙港も焼き尽くすことになるかもしれませんよ」
ナイアCEOは、純粋に面白がる雰囲気で俺に微笑みかけてくる。
敵艦隊を全滅させても、敵が降伏しないならそのまま逃げ帰るか殺戮に手を染めるしかなくなる。
しかし重武装の兵士たちがいれば話は別だ。
敵本拠に乗り込んで敵首脳陣に降伏を強要したり、反体制派に物理的に接触して傀儡政権をでっちあげることだって可能かもしれない。
「後輩……」
三人組はまだナイアCEOの美貌に酔っ払っているようだが、多少理性が戻ってきているようだ。
見た目によらず倫理観が強いんだよな、こいつら。
俺は一度小さく息を吐き、方針の変更を告げる。
「可能なら占領することにします。兵士の方たちに大きな負担をかけてしまうことになりますが、構いませんね」
入港時に通告された情報が正しいなら非常に強いはずだが、相手をすることになるのは七つの星系に影響力を及ぼす勢力だ。
地表や基地内で待ち構えている兵力は、数桁多い可能性すらある。
「もちろんです。異教を討つのをこの上なく好まれる方は、とても多いのですよ」
ナイアCEOがどんな勢力と繋がりを持っているのか、俺は心底知りたくなかった。
☆
『結局連れて行くんだ……』
指揮艦の操縦室で相棒がいじけている。
今は、長距離の位相跳躍中だ。
ドローンの位相跳躍支援艦、俺たちの指揮艦、総勢五十隻のフリゲート、六隻の武装輸送艦、そして無料レンタル中のステルス戦艦という艦隊が、一丸となって大地教信徒同盟が支配する星系を目指している。
「引き換えの条件が魅力的すぎるんだよ」
できるだけステルス戦艦……というよりその中にいる兵士を使わずに済むようナイアCEO相手に交渉したんだが、相手は強硬だった。
悪趣味で血なまぐさい戦闘に兵士を参加させれば参加させるほど報酬も出すと言われたら、今回の戦争で損失を出すのが確定している俺たちは受け入れるしかない。
『絶対へんなことをするつもりだよ』
「アホみたいに強力な武器や防具を装備した大金持ちが兵士として参加しているとか、ろくでもない見世物にするとか、か?」
『マスターのそういうところ、嫌い』
「すまん」
俺も疲れているみたいだ。
思いついても、相棒に言うべき内容じゃなかったな。
「ケースさん、そろそろ到着します」
ドローンが通信してくる。
「姉さんがいないのは、ちょっと緊張しますね」
「俺たちが攻撃に成功しても本拠が落とされたら敗北だからな」
「あの三人組は惑星の人間優先なところがありますからね」
俺たちが制圧した三星系全てを守ろうとしているから、カノンと新造艦隊……乗っているのは新しく雇用したばかりのAIたちを宇宙港に貼り付ける必要があった。
「そろそろだな。万一のときは頼むぞ、次席指揮官」
「ケースさんが操縦室ごと撃墜される状況なら僕も撃墜されてますよ」
苦笑しあう俺たちを見た相棒が、何故かご機嫌斜めになっていた。
☆
長距離位相跳躍の終了と戦闘開始は同時だった。
位相跳躍を妨害する力が、長距離位相跳躍の目標地点も含む形で展開されていたのだ。
「フリゲート全艦、攻撃開始」
俺は、フリゲートの操縦を半ば乗っ取るような形で攻撃を実行する。
三桁はいる初期艦もどきには当てずに、後方に位置する武装がない駆逐艦を緑の閃光で串刺しにする。
駆逐艦とは思えないほど分厚い船体装甲も、距離で減衰したとはいえ二十を超えるレーザーには耐えられずに爆散。
初期船もどきとは違って、爆発から飛び出るように操縦室が射出されていた。
「全艦、位相戦闘開始!」
幸いなことに、俺が命令する前に全艦が連続超短距離位相跳躍に成功していた。
「今のはっ」
ドローンの位相跳躍支援艦は、猛加速して戦場を離脱中だ。
ドローンの艦が落とされたら帰れなくなるからその判断は完璧に正しい。
「特大の実相アンカーで、艦単位ではなく空間単位で位相跳躍を妨害してやがる。さすが無法星系、後先考えないな!」
ここまで強く大規模な実相アンカーだと、使用を止めた後も位相跳躍に対する悪影響が残ってしまう。
この悪影響は消えず、強い実相アンカーを使えばそのたびに悪化する。
高治安星系でも低治安星系でも厳禁で、犯行が露見すれば治安艦隊が最優先でぶっ殺しに来る。
「知っているならあらかじめ教えてください!」
「使ってくるならこっちに好都合なんだよ。まとめて処理できるからな」
フリゲートで五×五の艦隊を二つ作り、ドローンの方向へ後退しながら二方向から敵にレーザーを浴びせる。
距離が離れるほど威力が下がるとはいえ合計五十隻だ。
巡洋艦や特殊な装備を積んだフリゲートなど、価値のある標的をどんどん落としていける。
慌てて初期船もどきどもが追いかけてくるが、加速も速度も違い過ぎるため有効射程まで追いつくことができない。
『射程外なのにこっちに来ない船がいるよ!』
「督戦隊かもな。悪趣味な」
『とくせ……酷い! やっちゃってよマスター!』
「任しとけ!」
俺は後退方向を変更する。
大きく円を描きながら、初期船もどきを引き連れて、妙に凝った外見の巡洋艦数隻に対して狙いを定める。
「一撃離脱だ。至近距離から撃ち込んでやれ」
怯えたように回避しようとする巡洋艦に対し、下方と正面からレーザーキャノンで攻撃する。
短い時間だけ照射された強烈なレーザーが、紋様だか呪文だか分からないものが刻印された船体装甲を焼き切り艦中枢に致命傷を与える。
「このまま敵基地に向かう。遅れるなよ」
数だけは多い初期船もどきを置き去りにして、俺たちは一隻も失わずに敵の中枢目がけて突撃を開始した。