AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
俺が今率いている艦隊は、レーザーキャノン搭載フリゲートが数的主力だ。
レーザーキャノンも使えば使うほど消耗はするが、オートキャノンやミサイルとは違って補給が必要になる頻度はとても低い。
だが、今回武装輸送艦を連れてきたのは無駄かというと、むしろ逆だ。
『ロックオン情報を武装輸送艦と共有完了! でもズレはゼロじゃないよ? この距離だと躱されちゃうかも』
「標的が位相戦闘しないなら結構当たるさ」
『そっかなー。ほとんど普通のミサイルだよ?』
「それがいいんだよ」
俺は操縦も周囲に対する警戒も全て相棒に任せて、武装輸送艦のミサイル発射装置を遠隔操作している。
武装輸送艦内の操縦室から操縦したときと比べると狙いは甘く動きも鈍い。
ドローンが迎撃側にいるなら攻撃ドローンを片道前提で急行させて発射中のミサイルごと武装輸送艦を沈めていくだろうし、カノンなら回避行動をしていない武装輸送艦を射撃の的にして撃沈するだろう。
だが現実には攻撃ドローンは近づいて来ていないし、長距離からの攻撃はあるが当たるのは天文学的な確率だ。
「実相アンカーによる広域妨害に捕まった直後の戦闘でもそうだったが、大地教信徒同盟は普通の大規模PvPに慣れていない」
俺は慎重な手つきで、着弾のタイミングが同じになるよう調節しながらミサイルの発射を進めていく。
『でもマスター、直後の戦闘だと、冷静なふりしてたけどどきどきしてたよね』
「そりゃ、一番危険な場面だったからな」
フリゲートの十隻程度は撃破されることを覚悟していた。
被害が十隻より多ければ、そのまま逃げ帰る決断をしていたかもしれない。
だが結果は被害ゼロ。
俺は大地教信徒同盟の戦力を予想以下だと判断し、一気に攻め落とすことに決めた。
『うーん、いいのかなー』
相棒の体は納得した様子はなく、しかし相棒による指揮艦の操作は見事なものだ。
放置すれば武装輸送艦に当たったはずの質量弾を、少数の対空砲を使って丁寧に破壊している。
「失敗したら逃げるだけさ」
最後のミサイル発射を終える。
三人組のミサイル捌きとは比べ物にならない素人芸だ。
だがこれはこれで有効なんだ。
物量に任せた安価な弾幕は、敵に対応の的を絞らせない。
PvPの基本は、相手が嫌がることをすることだからな。
武装輸送艦六隻分のミサイルが、様々な進路と速度で敵拠点目がけて接近していく。
「ドローンは?」
『全力で逃走中』
「なら、敵全部が慌てて戻ってくるくらいに、派手に暴れないとな!」
ドローンとステルス戦艦を除く全艦に減速を指示する。
急速に接近していた敵拠点……重武装の宇宙港が近付く速度が急速に低下していく。
迎撃のレーザーやミサイルや質量弾はわずかだ。
津波のように襲ってくるミサイルへの迎撃に忙殺されている。
「命中率は悪くないが、操縦と指揮は見劣りするな」
五×五の艦隊二つを、入り乱れた敵の隊列にねじ込む。
通常なら自殺的行動だが、敵の攻撃がミサイル迎撃に向いている今ならかなり安全だ。
「第一艦隊の攻撃目標決定は一番に委任する」
『うわー、めちゃくちゃはしゃいでる』
相棒は呆れながら、戦場の状況を分かりやすく要約してディスプレイに表示してくれる。
「この宇宙港……」
ここまで近付いてようやく気づけたが、異様に装飾が多く、戦闘に無関係なパーツも取り付けられている。
寺院か神殿か?
『敵のミサイル迎撃効率低下!』
宇宙港から生えた大量の対空砲に、対空砲に数倍する数のミサイルが降り注ぐ。
これほどの至近距離になると対空砲の命中率も劇的に向上して、数多くのミサイルに打撃を与えて中途半端な距離での爆発を強いる。
極めて頑丈に作られた対空砲も船体装甲も、その爆発ではたいしたダメージは受けない。
『着弾するから破片に気を付けて!』
命中、爆発、ときに不発。
安価なミサイルはカタログ通りの性能は発揮できないが、圧倒的な数が少々の失敗を簡単に挽回する。
全体の量としての膨大だが、面積あたりでは特別厚くはない船体装甲があちこちで粉砕され、宇宙港の各機能にへのダメージが次々に発生する。
俺にはそれをゆっくり見ている暇はない。
二艦隊の進路と速度と向きをリアルタイムで変更し、敵艦からの砲撃や宇宙港から飛び散る破片が当たりづらい状況を少しでも維持しようとする。
『あっ、折れた』
装飾が特に多かったパーツが「ぽきん」と音がしそうな勢いで変形する。
折れた箇所は船体装甲も完全に剥げ、火花が散っている内部が見える。
『武装輸送艦がちょっと危ないかも!』
「気楽に脱出しろと伝えろ」
『トラクタービームは僕が!』
「任せた!」
極限のストレスがかかる状況で聞いても相棒の声は美しい。
本当に気楽に武装輸送艦を捨てて脱出したAI達が操縦室ごとトラクタービームで引き寄せられ、ある程度近付いた後は自力で操縦室から指揮艦へ跳び移る。
しばらくして、指揮艦本体から俺と相棒がいる操縦室に、きゅらきゅら、とたとたと騒がしい足音を立てて大勢のAIたちがやって来た。
『司令! 仕事ください!』
「第二艦隊へのサポートでもしてろ!」
『了解! おいそれ俺の仕事っ』
『早い者勝ちだってーの!』
正直期待していなかったんだが、脱出してきたAIたちの仕事は俺を満足させる水準だった。
位相戦闘中にこれだけ動けるってことは、体に相当金を注ぎ込んだな。
『三十六番と四十七番が被弾!』
「脱出は後二秒待て……よし!」
第二艦隊を下げ第一艦隊を敵宇宙港へ接近させる。
第一艦隊を迎撃するため、第二艦隊を狙っていた敵艦も宇宙港のレーザーも第一艦隊を狙うようになる。
「ステルス戦艦が仕掛けるのはそろそろか?」
『えっと……』
相棒が眉を寄せる。
『敵のミサイル迎撃効率が低下したときには敵宇宙港に侵入してたかも』
『メモリ姉さん、ステルス戦艦は見当たらないぜ』
下半身が戦車っぽいAIが尋ねると、相棒は「宇宙港に突き刺さった小型突入艇」を強調表示した。
マジかよ。
ゲーム内でできることに制限があるMMOとは違いここは現実だ。
そんな手段もあるとは知っていたが、本当にやる奴がいるとは思わなかった。
「たすけっ」
敵宇宙港から無差別に発進された通信が指揮艦にも届く。
逃げる男は、初期船もどきに乗っていたパイロットは違って、五体満足で肥えた体に見た目優先の衣装を着込んでいる。
それを追うのは返り血で赤黒く染まった、メイス装備の装甲宇宙服だ。
逃げる男を守るはずの兵士たちは広い通路にできた血の海に倒れ、かなり高性能のはずの自動迎撃装置が残骸と化してあちこちで煙を出している。
「ひっ」
頭蓋が中身ごと砕かれる音と、その衝撃で体が床に叩きつけられる音がほとんど同時に聞こえる。
装甲宇宙服は一瞬たりとも足を止めず、次の獲物を探しに行った。
☆
大地教信徒同盟は、開戦前の戦力の三割を失った。
隣接する勢力相手に隙を見せる訳にはいかないので使えない戦力はあるが、まだかなりの戦力を残していた。
「まさか予備の首脳部を用意していないとはな」
戦争する気ならその程度当たり前だ、と思っていたのは俺たちだけだったらしい。
ステルス戦艦……正確にはその中身の兵士たちは大地教信徒同盟首脳部を皆殺しにした後、敵の艦隊も基地も連携せずに動くようになり一部では同士討ちまで発生している。
「コピーも生産していないようです。他の星系で生産されている可能性はありますが、今から移動しても間に合わないでしょう」
ドローンは既に合流している。
相棒が小型突入艇に気付いた頃には、追撃中だった敵艦はドローン撃破を諦めて宇宙港へ向かったらしい。
「首脳陣が消えたせいで、身の安全は保証するって呼びかけているのに全然降伏しねえ」
「どうします? 基地や工場を全て破壊すれば二度と攻めて来ないと思いますよ」
「その展開は避けられるなら避けたい」
俺は無関係な他人の犠牲には鈍感だが、他人の犠牲を喜ぶ趣味は持っていない。
「同感です」
俺とドローンは、どちらも解決策を見つけられずにいた。
『マスター! 兵士の人から連絡が来てる』
「繋いでくれ」
ディスプレイに映ったのは、装甲宇宙服の兵士がこちらに敬礼する姿だった。
前に見た兵士とは体格が違うのでおそらく別人。
兵士の足下には、手足が拘束された黒装束の男女が数人転がされている。
なお、兵士は敬礼をしたまま全く動かない。
『残った敵兵の中で偉そうな人がいたから見つけた、らしいよ?』
「独特なスタイルだな」
俺が答礼し、手を下ろした後も兵士の姿勢は変わらない。
こいつ、何が言いたいんだ?
困惑する俺とは違って、ドローンは何かに気付いたようだ。
「その中に不戦条約を結びに来ていた人はいますか?」
相棒が一人を強調表示する。
「黒装束娘、生きてたのか」
「ケースさんのネーミングセンスは独特ですよね。……形だけだとしても外交交渉を任された人間なら使えると思います」
「傀儡政権か」
兵士が敬礼の手を下ろし、黒装束娘を俵担ぎにする。
どうやらこれが正解だったらしい。
「っ……聞いているのでしょうケース!」
黒装束娘が目を覚まして暴れ出す。
特に力を込めているようにも見えないのに、兵士はびくともしないし黒装束娘は兵士の腕から抜け出せない。
「空虚な人形遊びで生を浪費する不道徳者が! 人形に精を放っても何も生まれません。虚しくはないのですか!」
ドローンが息を飲む。
指揮艦の操縦室でおしゃべりしていたAIたちが無音になる。
俺は、人間やAIの反応に気づく前に、あまりに的外れな問いかけに噴き出してしまっていた。
「ん、んふっ」
慌てて口を押さえて大笑いしそうになるのを我慢する。
『ます、たあ?』
相棒の声が何故か無機質に響き、他のAIたちが救いを求めるような視線をドローンへ向けている。
「相棒、俺の顔と声が黒装束娘に届くようにしてくれ」
相棒からの返事はなく、送信が開始された旨だけがディスプレイの端に表示される。
「子供が欲しくなったら、相棒の許可を得た上で相棒と俺の特徴を持つ人間を製造するさ」
ここは二十一世紀前半の地球ではない。
その程度、できて当たり前だろう?
「そっちの信仰にケチを付ける気はないが、他人の私生活に口を挟んだら最悪殺し合いになるから注意した方がいいぞ」
黒装束娘が絶句したのは予想通りだが、兵士が動揺して黒装束娘を落としそうになるのは予想外だった。
『マスター、それ、その、プロポーズ、だったり?』
相棒の声に感情が戻る。
俺に駆け寄る足音がかつてなく軽く聞こえる。
「ケースさんは常時メモリさんにプロポーズしているようなものだと思います……」
ドローンのコメントを聞きながら、俺は抱きついたメモリを支えきれずに一緒に吹き飛んでいた。