AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
正式に建国してから、AIたちからの陳情の数が一気に増えた。
『ケース代表、予約が一週間待ちっす!』
『パイロットにも予約させてください! 差別ですよ差別!』
一番多いのが、新造艦である、対空砲とトラクタービームのみを搭載したフリゲートについてだ。
大地教信徒同盟を相手にした戦いでは、砲撃で無双するカノンの船を守り抜いたし、救難艇としても活動した。
今は、マザーボード型フリゲートに乗りたいAIの練習艦として大人気だ。
何故か正規艦隊所属のAIも乗りたがっているがな。
『命令を受けずに好きに動かせるのが気持ちいいらしいよ。僕は命令する側だけど、他の子の面倒を見ずに操縦できるのって気持ちいいもん!』
遊ぶための艦でもあるらしい。
相棒なんて毎日四時間は乗り回しているからな……。
「メモリさんは特権を濫用しないでください」
ドローンが、非難というほど強くはないが、雑談というには強い口調で通信を入れてきている。
俺が同乗していないときは、相棒を護衛するために第一艦隊から最低四隻は派遣しているからそりゃ文句も言いたくなるか。
「今週も既に十隻注文したぞ?」
「足りませんよ。もう大量生産してしまいましょう。余ったら主星系以外の防衛艦隊として配備するということで」
主星系とは、俺たちの本拠である宇宙港がある星系のことだ。
俺たちの勢力が及ぶのは合計で十星系だが、治安を確立して収益があるのはまだこの星系だけだ。
「主星系以外に配備するのはもったいなくないか?」
高コストで高性能なマザーボード型フリゲートがもとになった船だ。
パイロットが生き残る確率は高いが火力は低い。
「それは、そうですが……」
二十一世紀前半の古代基準では酷薄とすらいえるドローンだが、銀河中に人間が広がった時代の無法星系ではかなりの善人だ。
悩むのは仕方がないし古代基準で未成年なんだからまだ甘くても問題ない。
「無理のない軍拡を目指そうぜ。それはそれとして、俺もできるなら大量生産したいよな。できれば主星系で」
「ナイアTECはかなり割り引いてくれていますけど、数が数ですからね」
二人同時にうなる。
俺たちはパイロットとしてはかなりの上澄みなんだが、国家経営や国家規模の企業経営に関しては初心者でしかない。
『マスター、今日の分の採掘結果が届いたよっ』
俺は相棒から送られてきた報告書に目を通す。
「了解。評価はこれでいい。成績優秀者にはボーナスと褒め言葉を頼む」
『任せて!』
国家主席の妻なので、権威という面では十分だ。
「これの五割以上がナイアTECへの支払いに消えるんだもんな」
維持費が三割、AIや例の三人組への給料が一割。
残りが設備投資と俺たちの取り分だ。
俺は頭を抱えたくなった。
「とりあえず採掘艦隊を増やしましょう。戦闘艦の建造に手を出すのはまだ時期尚早です」
俺よりずっと若いドローンに宥められ、俺はなんとか気持ちを持ち直す。
「そうだな」
鉱業や商取引が盛んになれば、略奪というPvPを仕掛けてくるパイロットも現れる。
迎撃のための艦隊も常時用意しておく必要があり、これがまた金がかかる。
「探索ドローンに反応がありました。明日採掘予定の小惑星帯に、現在確認できているだけで三隻のフリゲートが隠れています」
見事な仕事をしたはずのドローンが、沈痛な表情になっている。
「わたくしが出ます」
嬉々とした表情のカノンが連絡してくるが、俺は即座に却下する。
カノンの首にかかった賞金は取り下げられていない。
単独や少数の護衛とともに向かえば、最悪の場合は凄腕による襲撃まであり得る。
「俺が出撃する」
『僕も行く!』
これがあるから宇宙港のオフィスではなく指揮艦で仕事をしている。
「PvPをされる側がどんな気持ちになるか、今頃になって分かってきたぜ」
『帰ってから、明日の採掘の予定、組み直しだよ……』
久々の戦闘なのに、俺も相棒も全くテンションが上がっていなかった。
☆
マザーボード型フリゲートの位相障壁が明滅するがもちこたえる。
大地教信徒同盟相手の戦争では、当たれば位相障壁が全壊して船体装甲まで被害が及んでいたので久々に見る光景だ。
「なんでこんな大物がっ」
見た目も性能も貧弱なフリゲートから、狼狽した通信が無差別に発信されている。
『罠、だよね?』
「罠、だと思うが……」
いつどこから実相アンカーやクラッキングが飛んで来ても対応出来る数と陣形で攻めているのに、どこからも反撃はない。
『こっちが大勢だから逃げたのかなあ』
今日の相棒は第一艦隊……俺の指揮艦とマザーボード型フリゲートからなる艦隊の指揮担当だ。
三×三の隊列を二つ作らせ、敵フリゲートに突撃させて衝突寸前の距離でレーザーキャノンで攻撃しようとする。
二隻いた敵は、撤退する判断が遅れて緑の閃光複数に襲われる。
「こいつらスクールを出ているのか?」
『たぶん? 忙しいマスターの時間を奪って嫌がらせするつもりだったり?』
破壊されたフリゲートから操縦室が射出される。
ここまでは順調だが、残念ながら操縦室をロックオンするのには時間がかかるし、第一艦隊には位相跳躍を妨害するための装備がない。
「お、覚えてろよっ!」
これが演技なら役者として大成できるかもしれない捨て台詞と残骸を残し、不法侵入者は別の星系へ去って行った。
☆
無法星系を支配する零細国とはいえ、代表の仕事は実に多い。
挨拶回りも仕事の一つだ。
「わたくしにとっては大変喜ばしい展開ですが」
ナイアCEOは上機嫌であると同時に、困惑もしているようだ。
「ケースさんが早々に潰れてしまうと、大変悲しまれる方が多いのですよ」
字面だけ見れば良識的なんだが……。
「列強の市民にとっては、無法星系の戦乱は良い娯楽ですし」
むかついたが顔に出ないよう我慢する。
ナイアCEOは、おそらく俺の思考と心情に気付いた上で発言している。
「何より、大変に期待している方も多いです。できれば期待に応えてあげてください」
ろくでもない性格なのは明らかでも、俺の頭では何を考えているか分からない存在だった。
☆
ナイアCEOとの面会で疲れ果てた俺は、ワンオ氏がいる高治安星系への航行を相棒に任せてぐったりしている。
『宇宙船パイロットになりたくてうちに来る子って、もとの職場で大活躍してた子ばかりだったりする?』
『『一番艦の方の前職は、おそらく列強中央の政策立案機関です』』
『傀儡化したときの仕事ぶりを見る限りでは、多分かな。なんで履歴を消してるんだろ』
相棒とナニーが、俺が知らなかった話をしている。
「……いや、ナニーが何でここに。ドローンと一緒に主星系に帰ったのじゃなかったのか?」
ナニーの価値観ではドローンとカノンが全ての上にある。
俺に対して何かするときも、全てドローンとカノンのためだ。
『『買い物を頼まれたのです』』
ナニーの態度は誇らしげだ。
ドローンもカノンも、自分の船の改装に金を使って余裕がないはずだが、高治安星系で何を買うつもりなんだか。
『いわゆる奴隷市場だよね』
『『ライセンスを更新できなかったパイロットの行き着く場所です。ケース契約国の苦境を打破できるチートの持ち主がいれば良いのですが』』
その発想は、なかった。
さらに疲れた俺は、相棒とナニーの会話を子守歌にして完全に熟睡するのだった。