AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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芋は金なり

敵フリゲートがクラッキングを仕掛けてくる。

 

それが効果を発揮する前に緑の閃光を打ち込み操縦室以外を爆散させたが、クラッキングを仕掛けてくる敵は一つ二つではない。

 

「前に出てくるからだぜ、元首さんよぉっ!」

 

せせら笑う声が酷く耳障りだ。

 

『ロックオンが外れるまで主観時間で後二秒』

 

「仕切り直す」

 

俺が攻撃を中断して前方への加速を開始する。

 

体当たりを嫌った敵フリゲートが大きく回避して、俺の巡洋艦を通過させた後に追撃に移る。

 

『ロックオンが外れたよ。ロックオン開始。ロックオン完了まで主観時間で後五秒』

 

手癖による回避に直感のアレンジを加えて俺も回避を継続する。

 

一度クラッキングの射程外に出たことで敵からのロックオンが外れ、加速した敵とのロックオン合戦が始まる。

 

『被ロックオン完了まで後三秒。こちらのロックオン完了まで後一秒、完了っ!』

 

巡洋艦を敵に向ける。

 

既にチャージを終えていたレーザーキャノンが仕事を果たす。

 

ディスプレイ越しには緑の閃光に見えるエネルギーが、薄い位相障壁を破壊し船体装甲を溶かして機能を失わせ中身を高温で茹でる。

 

慌てて飛び出した操縦室を追いかけるようなタイミングで、大きな爆発が発生した。

 

『現時点の船体装甲は最大値の六十四パーセント! 位相障壁は再起動待ち!』

 

「すみません遅れました」

 

ドローンの声が届く。

 

ディスプレイ越しの視界に実相アンカードローンが二つ現れ、敵の火力担当フリゲートを一隻ずつ足止めする。

 

『敵増援が六隻……ううん一艦隊接近中!』

 

「ドローン! 撤退!」

 

「はい!」

 

緑の閃光が連続で放たれ二隻の敵フリゲートをそれぞれ大破と中破させる。

 

中途半端なチャージで連射すれば、巡洋艦用レーザーキャノンでも威力はこの程度だ。

 

役割を終えたアンカードローンは、ドローンの巡洋艦に帰還はせずに最寄りの基地へ向かい位相跳躍する。

 

俺とドローンは、それぞれの巡洋艦の操縦に専念して敵の追跡を振り切るのだった。

 

  ☆

 

「管理職が管理をせずに現場に出っぱなしってのは、かなり末期だな」

 

「国民の前で言わないでくださいね」

 

『僕も国民だよ!』

 

「ケースさんにねだれば全て通るメモリさんは、普通の国民ではないですよ」

 

俺、相棒、ドローンの三人は、巡洋艦で宇宙港に戻ってからそのまま操縦室から出ることなく事務仕事中だ。

 

「またこの艦に乗ることになるとはなあ」

 

「少数で動くなら指揮艦より巡洋艦の方が役に立ちますからね」

 

『二人とも現実逃避は止めようよ。儲けを増やすか経費を削らないと』

 

相棒がシリアス顔で発言するしかないくらいに、経営的にピンチだ。

 

主星系での採掘量は増やしたが、PvPという名の海賊行為を働く侵入者も増えてしまって防衛のための経費も増大。

 

少しでも安くすませるために、俺が以前使っていた巡洋艦を引っ張り出すことまでしている。

 

「ケースさん」

 

ドローンが俺の発言を促してくる。

 

「一番簡単なのは大地教信徒同盟の切り捨てだ。最低限の支援でも相手が七星系だと負担がキツイ」

 

「反対はしませんけど、その場合のケース契約国の信用はかなりまずいことになりますよ」

 

「そうなんだよなあ……」

 

無法星系だから手段に制限はないが、悪辣な手段を使えばそれ相応の結果と評判が発生する。

 

『ねえねえ。自称聖女さんたちはどうしてるの?』

 

相棒の目が、笑っているはずなのに笑っているように感じられない。

 

「最終的には大地教信徒同盟の星系に放り込むつもりで、主星系近辺の惑星で環境浄化をさせている」

 

生身で快適に過ごせる星にできるなら儲ける手段はいくらでもあるんだが……。

 

「効果はありますが、利益に繋がるほどの効果は、現時点ではないようです」

 

ドローンは少し落ち込んでいる。

 

奴隷市場から買い取った金の大部分はドローンの財布からだ。

 

慈善の要素もあるとはいえ、全く役に立たないままでは落ち込みもするだろう。

 

「中世や近世の国に転移か転生したなら、活躍できそうな能力なんですけどね」

 

「ドローンはその手の話に詳しいのか? 俺は基本的にSF派でな」

 

「姉さんがそういう話も好きでして」

 

陳情や施設や艦隊の維持のための事務処理を続けながら、ドローンとの会話が弾む。

 

『国家規模で活躍できるの?』

 

相棒は「頭が良いドローンでも勘違いするのかな?」という顔をしている。

 

「今の国家は最小でも大陸規模ですが、当時の国家はとても小規模なんです。……しかしあの五人、このままだと生活費も払えそうにないです」

 

ドローンは聖女五人組についての報告を閲覧しているようだ。

 

ドローンも俺も買い取り費用は請求していないし、衣食住も安く提供している。

 

それでも駄目か。

 

『ねえ、一度会いに行っていい?』

 

今の相棒の機嫌は悪くなさそうだ。

 

「からかいにでも行くのか?」

 

『違うよ。僕の知らないダンスとか歌とか知っていたら、教えてもらおうかなって』

 

俺とドローンの、入力用キーボードを打つ指が止まった。

 

「売れるか?」

 

「ダンスの振付や歌や曲のデータは売買されています。質次第ですね」

 

追い詰められた俺とドローンは、遊びに行くつもりの相棒について行くのだった。

 

  ☆

 

「今週はこれでご勘弁を……」

 

へへー、という感じで頭を下げる聖女五人組。

 

髪は黒から淡い茶色まで様々。

 

顔はドローンやカノンには劣るが、愛嬌と親しみやすさでは二人よりかなり上だ。

 

なお、相棒は殿堂入り済みなので比較の対象にはならない。

 

「芋?」

 

「芋なんですか?」

 

俺とドローンは、小さくてシワが多い野菜を前に戸惑っている。

 

『そんなことより知ってるダンスとか教えて!』

 

「「「「「はい奥様!」」」」」

 

五人組が全力で相棒に媚を売っている。

 

悪意は全く感じない。

 

こういう性格だからパイロットライセンス更新料を稼げなかったのかもな。

 

「俺は田舎に住んでいたこともあるからな」

 

土にまみれた農作物なんて、この宇宙で目覚めてから初めて見た気がする。

 

二十一世紀前半だと売り物にならず、生産者が家庭で消費するような芋だ。

 

俺は芋を手にとって鼻に近づける。

 

清潔なだけではない土の臭いと、芋の微かな匂いが鼻腔を刺激する。

 

「どこの芋だ?」

 

基地では屋根の下にある野菜工場で生産され、惑星上では育ちやすさの代わりに味を無視した品種が屋外で育てられているはずだ。

 

五人組の代表が相棒に断ってから俺に向き直る。

 

「野菜工場から譲ってもらった種に、浄化した水と肥料を与えました。……五人がかりでです」

 

一人で基地全体に影響があるという話だった気がするんだが、俺の聞き間違いか?

 

「高速で育つ品種です。本来ならもっと大きく育つはずですが」

 

ドローンは困惑している。

 

聖女というのは呪詛の専門家だったりするのか?

 

「初めてのことなら失敗もあるだろう。支払いは待ってもいいが最大でも一ヶ月だ」

 

「ありがとうございます!」

 

聖女代表が勢いよく頭を下げる。

 

相棒を優先するのは良い判断だ。

 

相棒を雑に扱った馬鹿を容赦する気はないからな。

 

「これはもらうぞ」

 

俺は人差し指と親指で芋をつまむ。

 

新鮮ではある、のだろう。

 

「とれたてか」

 

持参した水筒から水を垂らして芋を洗う。

 

高治安星系基準の飲用水なので、野菜工場の水とは違って触れても安全だ。

 

「火を使うぞ」

 

ついでに塩も使う。

 

高治安星系基準の食用塩を振りかけてから、携帯火器を最低出力にして芋に向ける。

 

熱せられた芋から、ふわりと食欲を刺激する香りが漂った。

 

ある意味自然な音が聞こえた。

 

元気に腹がなる音が、六つだ。

 

「ドローン。食べるか?」

 

俺は聖女五人の腹の音は聞かなかったことにして、皮がついたまま湯気を上げる芋を小皿に入れて渡す。

 

「いえ、その」

 

俺が差し出した芋を前に、ドローンがごくりと喉を鳴らす。

 

「……おかしいですね。普段の僕なら、まず毒物の混入を疑って成分分析を優先するはずなのに」

 

悔しそうに呟くドローンの腹が、くぅ、と可愛らしい音を立てた。

 

「そこの五人、試食はしたか?」

 

「安全は確かめました」

 

「味を確かめるほど量がなくて……」

 

「「「じゅるり」」」

 

半数以上が食欲に意識を支配されているようだ。

 

相棒は、五人組から教わったばかりの踊りを自分の身体で実演している。

 

……早く仕事を終わらせて相棒のダンス鑑賞に集中したい。

 

「これは、ドローンのだ」

 

聖女五人が絶望顔になる。

 

「今から命令を出すから聞き逃すなよ。これまでの命令は全て取り消す。この基地の野菜工場の使用許可を出すから、今回の芋と同等かそれ以上の芋を生産して納めるように。……つまみ食いは常識の範囲にしろ。以上だ」

 

単独で物語の主役を張れそうな聖女が五人、食欲で瞳を輝かせていた。

 

  ☆

 

「後輩、お前っ」

 

「なんてものを食わせやがった!」

 

「芋を売ってくれよ……」

 

凄腕三人組が宇宙港に乗り込んできて騒いでいる。

 

「アホみたいな高値にしたのに食ったのか」

 

あの後、食欲に突き動かされた五人は芋の新規生産を成功させた。

 

相変わらず見た目は良くないし小さくもあるが、何故かとても美味しいらしい。

 

……俺も美味しいとは思うが、あんな値段で売れるほどとは思えない。

 

俺と他の人間との違いはコピーを使ったことがあるかどうかだから、原因はそれか?

 

「「「後輩!」」」

 

「ケース契約国の貴重な輸出品だ。欲しいなら正規のルートで買え」

 

ナニーに頼んで三人組を追い払ってもらう。

 

この調子で稼ぐことができれば、聖女五人組への給料を大幅に上げても、ケース契約国の財政は一気に改善する。

 

「拠点だけ確保している状況から、星系という領域を確保している状況にもっていくことができればいいんだが」

 

俺は、相棒に貢ぐための専用ステージと軍拡のどちらを優先すべきか、真剣に悩んでいた。

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