AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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舞台と芋とクーデター

相棒の足音だけが響いている。

 

細身の体で人間の限界をはるかに超えた速度を出し、複雑なステップで華やかに踊る。

 

伴奏も歓声もないのに舞台は熱に満ちている。

 

相棒が笑顔をこぼすたびに音にならない音がうねるようだ。

 

たん、とひときわ大きな足音が響く。

 

動きを停めた相棒を追うように、銀の髪がふわりと背中に落ちてくる。

 

俺は感涙しながら、全力で応援用団扇を振り回していた。

 

  ☆

 

「何をやってるんですか」

 

ドローンは、舞台の熱が去るまで待ってから、冷静な声で尋ねてきた。

 

舞台の相棒と客席最前列の俺だけでなく、客席や舞台袖にいる専用の体を持つAIたちが気まずそうに目をそらす。

 

「いいステージだろう」

 

自慢が五割、誤魔化すのが五割のつもりで言った俺に、ドローンはかつてなく冷たい目を向けてくる。

 

『お父さんの無駄遣いに呆れる息子っぽい? ドローンは僕の義理息子だった?』

 

体から立ち上る熱で頭上の空気が揺らめかせながら、相棒がおかしなことを言っている。

 

『『メモリ様。冷却用の飲み物です』』

 

『わーい!』

 

人間が飲めば食道と胃が凍りついて死にそうな液体入り水筒を受け取り、相棒は一気に飲み干した。

 

げっぷすら可愛らしいのは、さすが相棒だと思う。

 

「ケースさん。真面目な話です」

 

「俺も真面目に答えて……いやなんでもない」

 

本気の殺意を向けられかけたので、俺は慌てて誤魔化した。

 

「進行を中断させてすまん。俺たちには構わず続けてくれ」

 

『僕は客席にいるね!』

 

「くっ……」

 

相棒と一緒にいたい気持ちが顔と態度に出てしまうが、これ以上はドローンに見限られかねない。

 

後ろ髪を引かれる思いで、俺はその場に残った。

 

そんなやりとりを見ていたドローンは、それまでよりほんの少し大人びた態度で大きなため息をついた。

 

「ケースさんの個人資産ですから僕に止める資格はないですが、豪華すぎると思います」

 

舞台では、薄いパイロットスーツを来たAIが辛気臭い歌詞を陽気な声で歌っている。

 

相棒が「僕より巧い」という感じのショックを受けた表情になっている。

 

俺はドローンを促し、音が漏れにくい隅の席へ移動してから再び口を開く。

 

「俺と相棒のための散財というのは否定しない。だがAI連中のための福利厚生でもある」

 

小さなきゅらきゅら音とともに会場に入ってきて、席……というより駐車スペースに停まるAIもいる。

 

この場に集まるAIたちには、ネットワーク上ではなく現実で行われる踊りや歌には特別な意味を見いだしている。

 

「僕たちのような人間にとって都合の良すぎる展開のような気もします」

 

相変わらずドローンの思考の速度も深さも俺より上だ。

 

俺が気づいていないリスクも認識しているのだろう。

 

だが、この件については杞憂だと思う。

 

「もともと、相棒と気が合うAIしか採用してないからな」

 

俺の言葉を聞いたドローンが、軽く目を見開いた。

 

「そういうことですか」

 

俺が詳しく説明する前に理解して納得する。

 

「僕と同程度の頭脳を持っていて、僕よりケースさんに傾倒しそうな「日本人」が何人もいたのに、僕が選ばれたのは何故なのかと思っていたんです」

 

そういうのは別の星系へ行くか奴隷市場へ流れる前に買い取られたようですが、と独り言のようにドローンが言う。

 

「僕と姉さんが、ナニーのおまけだったんですね」

 

ドローンがまっすぐに俺を見る。

 

「そうだ」

 

俺は誤魔化さずに頷いた。

 

「相棒が最優先というのも事実だが、価値観が違いすぎる相手とつきあうのは怖いからな」

 

肉人間が好きなAIたちを選んで採用したのではない。

 

肉人間が発祥の文化を好むAIたちを採用してきただけだ。

 

まあ、それを俺が知ったのは最近というかステージが完成してからなんだが。

 

「安心したような、必要のない警戒だったと知って気が抜けたような……」

 

完全に力を抜いて座席に身を任せるドローンは、珍しく子供っぽく見えた。

 

「今のドローンとカノンの地位はドローンとカノンの努力の結果だ。……俺からの話はこんなところだが、ドローンは俺に何の話があったんだ?」

 

「今はステージに集中しましょう。結構面白いですよ」

 

ステージではAIのコンビが漫才をしていて、相棒は最前列の席から身を乗り出すほど楽しんでいた。

 

  ☆

 

相棒のために建造した舞台に、見栄えのするソファーが複数運び込まれる。

 

まるで会談の場所のようにも見えはするが、客席からの見栄えを優先した、舞台演劇用のセットに近い。

 

「ケースさんはAIを中心に国家運営を進めるつもりですか」

 

「相棒が最優先なのは今後も変わらないが、AIも人間も区別するつもりはないぞ。……相棒用に用意したあれこれが、AI連中の福利厚生にもなるのは否定できないが」

 

俺はドローンからの質問に回答してから、客席にいるAIや人間をちらりと見る。

 

ほとんどがAIで、人間はパイロット三人組と聖女五人組だけだ。

 

「これは何のイベントだ?」

 

「マイルドなクーデター、でしょうか」

 

ドローンは困り顔で言って、隣のソファーに座っているカノンを見た。

 

『マスターどうしようっ!?』

 

相棒が本気で焦るので、俺は宥めるのに全力になる。

 

本当にクーデターを起こすつもりなら、警備システムが相棒の支配下にあるここではしないはずだ。

 

「陳情の処理に時間がとられすぎています。評議会でも元老院でもいいですから、意見を吸い上げる仕組みを作ってください」

 

カノンも欲を持つ人間だ。

 

より良い生活、より大きい権力を目指すのは本能のようなものだ。

 

もっとも、穏やかなくせに戦いと勝利に餓えた表情を見れば、最大の目的が何か簡単に分かる。

 

「そうだそうだー!」

 

「配給ふやせー!」

 

「芋くれ芋!」

 

いい年した男たちと主人公兼ヒロインが務まりそうな聖女たちが、異なる言葉遣いで同じような要求を客席からしている。

 

『武力行使の場面?』

 

『『コストの計算をすべき場面だと思います。我々は弟様とカノン様の安全が確保されている限り、中立の立場を維持させて頂きます』』

 

ナニーも、忠実そうな雰囲気なのに好き勝手する面がある。

 

「分かった分かった。カノンの事務仕事の割合は減らして現場仕事を増やす」

 

「ありがとうございます。役職の要望をしても構わないでしょうか」

 

しっかり言質をとりにくるのは、さすがドローンの姉ってことか。

 

「第二艦隊を、フリゲートを中心とした正規艦隊として編成する。カノンは第二艦隊司令だ。異論がないなら今から編成作業に移れ」

 

「喜んで拝命いたします」

 

恭しく頭を下げるカノンだが、今回のマイルドクーデターの首謀者はこいつだ。

 

「他の奴も希望の役職や待遇があれば今この場所で言え。聞き流すか一部だけ受け入れてやる。直訴の機会はこれが最後だからな」

 

AIも肉人間も関係のない欲まみれの要求を、俺は聞くだけ聞いて、ほとんど却下していった。

 

  ☆

 

なけなしの資金と資材を全て芋増産に投じて、聖女五人組に残業を強いても芋の収穫量はわずかだった。

 

異様な値段で売れるようになり資金の余裕ができても、五人組が浄化する水と肥料には限りがあるので増産は困難だ。

 

具体的には、輸送艦でもない俺の指揮艦の船倉の半分も満たせない。

 

『第一艦隊の第二分艦隊から第五分艦隊が交戦中!』

 

俺の目の前には主星系限定の地図が表示され、あちこちから侵入してきた敵を迎撃中の分艦隊が表示されている。

 

敵はフリゲートが一隻か二隻。

 

対するこちらは、初期から戦ってきたAIたちが操るマザーボード型フリゲート八隻。

 

それでも、戦況は互角か、やや有利という程度だ。

 

『これだけ遠いと支援の効果も薄いよ』

 

「分かってはいるが、キツイな」

 

敵フリゲートを一隻大破に追い込むまでに、分艦隊の一隻か二隻は大破か操縦室での脱出を強いられる。

 

位相戦闘中に限ると、人間パイロットの強さはAIより上ってことだ。

 

ワンオ氏のシロやクロみたいな例外はいるが、おそらくとんでもない額の体を使っているからだと思う。

 

『来た!』

 

これまでのスクール卒業直後かそれ以下のパイロットは違う、明らかに戦いと連携に慣れた動きの艦が複数、指揮艦に向かって突っ込んで来る。

 

『レーザーキャノンの射程に入るまで主観時間で後二十秒!』

 

敵艦隊は戦艦を含むバランスの良い編成だ。

 

実相アンカーとクラッキングを効果的に使われたら、第一分艦隊八隻と指揮艦一隻しかいない第一艦隊は容易に蹴散らされてしまうだろう。

 

ただし、それは第一艦隊に限定した話だ。

 

「第二艦隊、攻撃を開始します」

 

カノンの巡洋艦が猛烈な勢いで射撃を開始する。

 

通常なら「当たる可能性がある」だけの質量弾が「十発に一発は当たる」弾幕を形成して敵艦隊を襲う。

 

おそらくカノンについての情報は持っていたのだろう。

 

対空砲で迎撃して被弾の数を減らすが、集中的に狙われた実相アンカー搭載艦が次々に大破やそれ以上に追い込まれる。

 

むろん敵からの反撃もある。

 

レーザーは減衰する距離でも、質量弾やミサイルは十分に届くし高価なミサイルはカノンの射撃並に当たる可能性はある。

 

「隊列そのままで対空射撃を開始しなさい」

 

救難艇としても活動するフリゲートが、第一艦隊を球形に囲む隊列のまま対空砲を撃ち始める。

 

連続超短距離位相跳躍中のAIらしく命中率は酷いものだ。

 

それでも距離が近くなれば二割程度は当たるようになり、同一目標に十隻以上で攻撃すればどれか一つは当たる。

 

質量弾やミサイルが次々に撃破されて無意味な方向へ飛ぶ小型デブリと化す。

 

『敵艦隊が減速を始めたよ。レーザーキャノンの射程に入るまで主観時間で後一分』

 

「来ませんね」

 

「指揮艦は重装甲だからな」

 

俺の指揮艦を狙うなら、近距離での命中率が十割近いカノンの射撃を浴びながらの戦闘になる。

 

賞金首のカノンを狙うなら、指揮艦の支援を濃密に受けた第一分艦隊の突撃とレーザーキャノンを浴びることになる。

 

敵艦隊の勝ち目はゼロではない。

 

しかし商売として襲うなら、俺たちは割にあわない獲物だ。

 

『敵艦隊が撤退を開始。主星系に侵入した他の敵も撤退……今ほとんど撃破されたみたい』

 

無防備に背中を見せたところを分艦隊の生き残りに襲われたか。

 

「撤退できるようになって一人前なんだがな」

 

俺は、第一分艦隊以外の分艦隊に、損傷艦と操縦室を護衛して宇宙港に戻るよう命令を出す。

 

後はナイアTECの艦隊と合流して芋入りコンテナを渡せば今回の交易は完了だ。

 

この調子で儲けていきたいと、俺は心の底から願っていた。

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