AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
ナイアTECの星系で待ち受けていたのは、ここにいるはずのない三隻だった。
「儂は勅任艦隊司令のワンオ下級部隊長である!」
『その一の子分のシロだお!』『その一の子分、クロ!』
相変わらずの挨拶だが、三隻の兵器は賊ではなく俺の指揮艦に向いている。
カノンが反撃しても、一隻落とす前に俺が操縦室ごと破壊されるだろう。
「カノン! ロックオンも攻撃もするなよ」
俺が殺されたときは、艦隊の指揮はカノンが引継ぎ、勢力の指揮はドローンが引き継ぐことになっている。
その後に俺のコピーとの権力闘争が待っているかもしれないが、今生きている俺はそこまでは責任を持てない。
『臨検だお』
『賄賂、絶対、駄目!』
ワンオ氏の背後で、白犬耳と黒犬耳がポーズを決めながら言っている。
「若造、いやケース」
ワンオ氏がじろりと……本人は普通に視線を向けているだけなのだろうが、肌が粟立つほどの威圧感がある。
「中央から調査命令が出ておる。自らに恥じる所がないなら素直に臨検を受け入れるがいい。……そうであれば儂も配慮ができる」
ワンオ氏には敵意がないように見えるが、それが演技か本音か俺には分からない。
相棒に目だけで聞いても「わかんない」と全身の動きと表情で反応されただけだ。
小さな足音が同時に響いた。
それが回線越しではなく直接俺の耳に届いたことに気付いたのは、聞こえてから十秒以上経過してからだ。
『酸素浄化システムはもっといいのを使えお』
『これより、臨検!』
ディスプレイの映像より少し小さく感じられる機械人間が二人、我が物顔で操縦室を歩いて、操縦席に勝手に座って積み荷の情報を取得していた。
『操縦室から操縦室への位相跳躍? うそ……』
相棒も驚愕しているが驚愕の程度では俺も負けていない。
「宇宙MMOが元ネタだと思ってたんだがな」
俺の知っている技術水準と違い過ぎる。
宇宙船パイロットは利用できないだけで、列強には普通に存在する技術なのか?
『高位次元から落ちてきたという自認かお?』
『それ、偉い奴、喧嘩売る』
船の持ち主である俺や相棒が許可を出していないのに、シロとクロは根こそぎ情報を吸い出してその場で全てを確認していた。
☆
「食事の許可が欲しいのですが」
俺は、俺の背後に隠れている相棒を庇いながら許可を求めた。
『気にせず食べるといいお』
返事をしたのはシロであり、クロの姿は操縦室にはない。
船倉を直接調べに向かったのだ。
『マスター』
「なるようにしかならん。今は気力と体力を温存しよう」
相棒と共に、操縦室の中にある小さなテーブルへ向かう。
いつも通りに向かい合う形で座ると、相棒はぐったりした様子でテーブルに頭をあずけて長い銀髪が床まで垂れる。
「床についてるぞ」
両方の手のひらを使って相棒の背中に戻してから、弁当箱程度の大きさの包みをテーブルの下から取り出す。
万一にも取り違えないように、片方には「マスターの♪」と相棒が、もう片方には「相棒専用お菓子型冷却水(饅頭型)」と俺が書き込んでいる。
『マジかお。そういう関係……』
こちらを見ていたシロが、何故か動揺していた。
「何事もなく終わればいいんだがな」
俺の食事は、一口サイズのパンが五個と、人工肉と人工野菜がたっぷりのスープだ。
スープは飛び散らないようにネットリしていて、味は雑だが腹にはたまる。
『だよねー。あ、今日のはもちもちしてる』
相棒のは娯楽用に加工された冷却水だ。
適度な硬さと粘り気を持つそれは、見た目と歯ごたえを楽しむことができるらしい。
俺も相棒も料理を作る時間があったら仕事や趣味に時間を使うタイプなので、お互いに食事を選びはするが作るのは生産工場だ。
『シロ! 今、仕事中、うるさい!』
黒犬耳の機械人間が操縦室に戻ってくる。
『あの二人、すごい密度の通信をしてる』
饅頭型冷却水を飲み込んだ相棒が、微かな声で語りかけてくる。
「盗聴はするなよ」
俺はスプーンを止めて注意する。
『聞こえちゃうのはどうしよう』
「相棒に聞かせて反応を見ているのかもな」
雑な味も、相棒と一緒に食べるだけで甘露だといつも思う。
『クロ、あれを確かめるお』
『了解』
クロが、船倉から運んで来た包みを真っ二つにする。
専用の器具が必要な程度に頑丈なはずなのに、切断面は異様なほどに綺麗だ。
「それは全部買い手がついてるんです。勘弁してくださいよ」
調理済みの芋の香りが漂ってくる。
もう少し塩と脂が効いていてもいいと思うんだが、それだと買い取り価格が下がるんだよな。
『ケースに特別な反応はないお』
『確認、完了』
『ということはオリジナルで確定かお』
シロとクロが妙なことを言っている間に、俺と相棒の食事は終わっていた。
☆
「聞いてもいいですか?」
「うむ。これだけ手間をとらせたのだ。答えられることは答えてやる」
シロとクロはあの後すぐに立ち去ったし、持ち去られたのも最小サイズの商品が一つだけだ。
被害は時間とストレスだけとはいえ、情報という見返りがあるなら遠慮無く貰う。
「このまま生産と販売を続けて問題はないでしょうか」
どうして臨検をしたのかより、ケース契約国の命綱である芋事業の存続の方がずっと重要だ。
「中央が突然方針を変えるなどよくあることだ」
ワンオ氏は一瞬だけ苦々しげな表情になる。
「そう、ですか」
予測はしていたが、つらい。
「他にはないか」
「そう、ですね。あの芋、なんであんなに人気なんでしょうか」
「お前が売っているのだろうが!」
「需要があるから作って売っているだけですよ」
「最近の若いのは……」
俺は見た目通りの年齢で若くはないが、ワンオ氏からすると俺もまだ若いのだろうか。
「無法星系とはいえ星系を統治しているのだ。この程度は教えてやる」
ワンオ氏は厳めしい態度で俺を見る。
「宇宙船パイロットが死ねばコピーが生産されるのは知っているな? コピーを繰り返せば繰り返すほど、何かが欠けていくのだ」
「何か、とは?」
「儂は知らん」
ワンオ氏は会話を断ち切るように断言する。
これ以上は言わないし、聞くなということだ。
「臨検はこれで終了する。ではな」
機械人間二人を従えて、ワンオ氏は高治安星系へ去って行った。
☆
「ようやく帰って来れたか」
懐かしい宇宙港を見た瞬間、俺はようやく疲れを自覚できた。
あの後、ナイアTECの艦隊と合流。
一つだけ欠けた積み荷を渡し、違約金を差し引かれたにもかかわらず巨額の代金を受け取ってから主星系への帰路についた。
色々ありすぎて、俺はそろそろ限界だ。
『マスター、元老院……評議会だったっけ。メンバーをどうするかの話し合いは今日するの?』
「それもあったか」
俺は大きな息を吐く。
指揮艦は自動的に宇宙港に格納されている最中で、今なら気を抜いても問題ない、はずだった。
「ケースさん、急ぎの報告です」
ドローンは申し訳なさそうな顔で、しかし「俺なら拒否をしない」と確信した態度で続ける。
「大地教信徒同盟の人間に調理した芋を少量与えたところ、僕や姉さんよりも激しい反応がありました」
「……コピー経験のない人間もか?」
「はい」
俺は考え込む。
大地教信徒同盟の連中の方が「欠けて」いるのか。
ドローンは既に予測を立てているようだが、表情を見る限りろくでもない予測になってしまっているようだ。
「大地教信徒同盟の人間の先祖は、コピーされた人間か?」
「信頼できる戸籍がないため断定はできませんが、最低でも二桁回はコピーされた先祖がいる可能性が高いです」
「……芋の価値がまた上がるな」
ドローンは返事をしない。
芋など枝葉末節だと、無言のまま主張している。
「聖女五人組の警備を厳重にしてくれ。引き留めるために待遇も上げる」
「警備は既に手配済みです。待遇については、国の代表であるケースさんが直接出向いてください」
「承知した」
待遇も大事だが、誠意を示すのも大事だ。
「姉さんには全く及ばないとはいえ、五人とも好ましい人格です」
ドローンは古代基準ではキツイ性格だが、無法星系基準ではとても甘い。
「ですが……」
「あの性格だと、ここから出て行ったらあっという間に食い物にされそうだな」
俺の言葉に、ドローンは無言で頷いた。
指揮艦の格納が終了しても、俺は思考を続けて次にとるべき行動を考える。
「五人組に気付いて襲ってくる勢力が現れる前に、戦艦を中心とした艦隊を編成する。建造も維持もアホほど金がかかるが、その程度はしないと守り切れん」
あいつらが作るのはただの嗜好品ではない。
この宇宙の主役である宇宙船パイロットにとって、非合法薬物よりも魅力的な何かだ。
「専門家のAIを集めます。ケースさんとメモリさんも会議に参加してください」
『分かった!』
自分も精神的に疲れているだろうに、相棒は元気にふるまい俺を勇気づけてくれる。
「これを乗り切れば一段階上の勢力に成り上がれる。やるぞ」
演技半分、本音半分の笑みを浮かべ、俺は相棒とともに会議の場所へ向かうのだった。