AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
百を超える戦艦が曼荼羅めいた立体を描く。
砲塔型のオートキャノンが質量弾を延々と吐き出し、多数の質量弾としてではなくほぼ一塊の質量として敵へと襲いかかる。
対するのは同数の重装甲戦艦だ。
密集戦闘隊形で並んだ彼等は、端に位置する戦艦から大量の質量弾を浴びることになっても一つ一つが壊れきるまでの時間がひどく長い。
いくつもの爆発が発生し、残りの重装甲戦艦の姿を雄々しく照らし出す。
反撃は戦艦用のレーザーキャノンであり、質量弾を吐き出し続ける戦艦たちの位相障壁に穴を開け船体装甲を溶かす。
二つの艦隊は、少しずつ数を減らしながらいつ終わるとも知れない戦いを続ける。
しかし両者の戦いは急激に遅くなり、飛び交っていた質量弾とレーザーもろとも停止してしまった。
「「「演習終了。お疲れさん」」」
ステージ上の立体映像を停止させたのは、新艦隊編成案評価員に任命された三人組だ。
「今回のは悪くないんじゃねーか?」
「てーか一隻あたりいくらかかるんだよ」
「おいちょっと待て! これどっちも高治安星系産の高価なパーツ使いまくってるじゃねーか!」
新艦隊編成案評価員という名のツッコミ役を任された三人組……最低でも五年はコピーを使わず戦い続けている凄腕宇宙船パイロットが、支給された芋菓子をちびちび齧りながら騒いでいる。
『次、僕ー!』
うきうきした相棒が、自信作の編成案を惑星港メインコンピューターに読み込ませようとする。
ただ、読み込み済みの編成案が十近く溜まっているので、相棒の案がシミュレーターに登場するのはまだまだ先だ。
「これだ、という案がありませんね」
最前列の客席に座ったドローンが、隣にいる俺に聞かせる音量でつぶやく。
「俺は最初の案で決まると思ってたんだがな」
「もとは武装輸送艦に乗っていたAIの案ですね。優れた個艦性能の割に各種コストが抑えられているのは素晴らしかったです」
ドローンは楽しげに、シミュレーターで全否定された案を語る。
「三人組からの評価は散々でしたが、善戦はしてましたよね?」
「シミュレーターでは位相戦闘をしていたが、操作していたのは位相戦闘だとまともに戦えないAIだったからな。位相戦闘中にあれだけ戦えるAIは十人もいない」
「最大で十隻というのは少ないですね。戦艦十隻というのは大戦力のはずなんですが」
「聖女連中の価値が高すぎて、戦艦数十隻で攻め込まれても不思議じゃないからな」
ステージでは次の演習が始まっている。
実際に戦艦を動かす訳ではない、宇宙港のメインコンピューターとAIの協力による仮想の演習だ。
今回の編成案はどちらも高速仕様の戦艦のようで、次々に陣形を変更しながら目まぐるしく位置を変更している。
「あっ」
「そこでぶつかるか? 馬鹿、そっちに動かしたら……」
体当たりを考慮した設計でもないのに衝突してしまい、双方甚大な被害を出して戦闘不能になった。
「そんなー!?」
クソ忙しいはずの聖女の一人が、財産を注ぎ込んだ馬券を外したかのように騒いでいる。
聖女も五人いれば、いろんな奴がいるな。
「ドローンやカノンも案を作ったのか?」
「姉さんは直接戦うのが好きなので作っていません」
今も第二艦隊を率いて、ケース契約国の十星系を警備中、というより侵入者や海賊を狩っている最中だ。
「ドローンは?」
「先程却下されたオートキャノン戦艦です。パーツも一般的なものに限定したつもりだったんですが……」
「物の値段は上下するからな。マザーボード型フリゲートが流行ったときも値動きが激しかった」
「長期間運用する予定の戦艦ですから、安定して使えるのが重要というのは理解しています」
ドローンは小さく咳払いする。
「そう言うケースさんはどんな案を出したんです」
稚拙な案ならからかってやろうという生意気な顔で、ドローンが俺を見た。
「俺は最初の案で決まると思ってた、と言っただろう? これなら俺の出番はないと思って何も出してないよ」
『僕の艦隊がー!?』
相棒渾身の設計の戦艦群が、真正面からの撃ち合いで負けて崩壊していく。
「ケースさん並に回避できるパイロットが前提の設計ですね」
『マスター!』
「勝敗は運も影響する。気にするな」
俺は、泣きついてきた相棒を宥める。
半泣きの相棒が俺の膝に座ってきて俺の骨がみしりと鳴るが、俺は根性で表情を変えなかった。
「……あれ?」
ドローンは、相棒の頭頂部と俺の顎との距離を見て困惑する。
うん。
相棒は足が長くて俺は足が長くないからね。
指摘しないでくれると嬉しい。
「んんっ。皆さんがここまで新規艦隊の編成に興味があるとは思いませんでした」
「案が採用されたら少額だが一隻ごとに金が手に入るからじゃないか? 大量に建造することになる艦だしな」
『それもあるけど命名権だよ命名権! みんなこの国をながーく続ける気だもん。この国を代表する最初の戦艦の設計者ってポジション、絶対に欲しいって!』
相棒が楽しそうで俺も楽しい。
『『遊撃艦隊の皆様。主星系外縁に所属不明艦が現れました。出撃をお願いいたします』』
「またか」
「今日も稼ぐぞ」
「似たような案なら審査なしで却下でいいと思うぜ」
三人は、聖女の芋への依存を一切感じさせない足取りで出撃していく。
この三人に辛うじてついていけるのは俺、カノン、ドローンだけだ。
国家元首や艦隊司令や重職多数兼務のドローンを一パイロットとして扱うこともできないので、三人だけで遊撃を担当することになっている。
「俺たちも行くか」
『聖女との契約更新だっけ。なんか落ち込んでいる聖女を一人回収していくねー』
大敗北したギャンブラーじみた顔の聖女を連れて、俺たちも次の仕事へ向かうのだった。
☆
「出て行きたいなら出て行っても構わない」
俺は脅しではなく、事実を口にした。
聖女たちは自分で稼いだ金で自身を回復させた。
奴隷市場から購入直後に「解凍」したときと比べ、できることは増えている。
力も資産もある上、金の卵よりも貴重なものを作る能力まで持っているんだ。
聖女たちが本気で出て行くつもりなら、生かしてこの場にとどめる手段はほとんどない。
「いいんですか?」
聖女の一人がおずおずと聞いてくる。
「ああ。君らほど特別な能力の持ち主に敵視されたくはないからな。高治安星系の宇宙港へ連れて行くくらいはするぞ」
露骨に安堵したのが、三人……いや二人か。
「ただ」
俺がそう言っただけで、全員が警戒した。
「出て行くつもりなら確認したいことがある」
この宇宙の治安の悪さとか、倫理観の薄さとか、例の芋を作れると知られたときに何に狙われ捕まればどう扱われるか、正しく認識できているかが問題だ。
『あれ見せるの?』
「見せない方が不誠実だろ」
『そう……かな?』
聖女たちに対して特に友好的ではない相棒が、聖女たちを気遣う態度で悩んでいる。
「いったい何を」
代表して一人が俺に話しかけてくる。
「あんたらの、チートか奇跡か超能力かは分からんが、それを最大限活用するつもりならどうするかって話だ」
『表現を穏やかにするね。三頭身なら大丈夫かな?』
聖女たちの手元のディスプレイに、最大限マイルドにした予想の光景が表示される。
三頭身のキャラクターが、芋を育てるための巨大な培養槽に「聖女」と書かれたパーツとして組み込まれ、涙を流しながら養分を吸い上げられている動画だ。
「ケース契約国が一番、二十一世紀前半の常識に近い。出て行く前に、出て行く先のことを調べるようにしてくれ」
動揺する五人から、返事はなかった。
☆
『マスター……』
「あの五人も俺から見たら子供みたいな年齢だ。あそこまで落ち込まれると、少しな」
相棒に心配をかけてしまった。
俺は気合いを入れ直し、作成中の編成案と戦艦設計図の修正を再開する。
ケース契約国の傘下に入る前の大地教信徒同盟でも建造可能な旧式戦艦をベースにする。
メイン武器はレーザー。
ただし半分はエネルギー転送装置に変更する。
船倉には船体装甲補修用の材料と、自艦の船体装甲を修理するための装置を詰め込む。
この装置を動かすには自艦では賄いきれないほどのエネルギーが必要だが、そのエネルギーは他艦から転送されてくるエネルギーで補う。
距離や戦闘の混乱で大きく減衰はするが減衰分は数で補う。
とにかく安く作れてしぶとい、守りのための戦艦だ。
『乗っててすっごくつまらなそう……』
この案は三人組からは絶賛された。
『『鈍重すぎます。皆、マザーボード型フリゲートのような、軽快な船に乗りたいのです』』
しかしAIたちからはとんでもなく不評で、パイロットの確保が理由で不採用になると俺自身は思っていた。
「大地教信徒同盟からパイロットを抜擢?」
「はい」
ドローンが予想外の提案を持ち込んだ結果、新艦隊編成は予想外の方向へ進むことになる。