AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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聖女を神輿に

「はい。新規建造した指揮艦には、艦隊司令のAIに乗って貰います」

 

大地教信徒同盟最高幹部でもあるドローンが、教義を全否定する提案をしている。

 

俺は理解が追いつかない。

 

「大地教信徒同盟のパイロットを乗せた新型戦艦をその下に配置します。自爆コードをAIに与えておけば、万一の際も安全だと思います」

 

指揮艦に乗りたがるAIはいるのか? そもそも艦隊司令が務まるAIなど存在するのか? そして、明確にAIの下と扱われた大地教信徒同盟は、激怒して反乱を起こさないだろうか? 俺の頭は疑問で埋め尽くされた。

 

「詳しく説明してくれるか」

 

俺は、普段あまり使わない、宇宙港にある私室にドローンを呼ぶ。

 

適度な散らかり具合と、壁に張った相棒のポスターが、なかなかに快適な空間を形成している。

 

ドアが開く。

 

ドローンは数秒間部屋の中を見た後、呆れた視線を俺に向けた。

 

「ケースさんは僕たちの代表なんですから、人を呼ぶかもしれない場所はもう少し気を使ってください」

 

どうやら不評のようだ。

 

ダンスを熱演する瞬間を見事に切り取った、良いポスターだと思うんだがな……。

 

ドローンは、運んできた携帯ディスプレイを俺に押し付けた。

 

それから、開きっぱなしだった文献に栞を挟むと、手際よく畳んで机の上に積み上げていく。

 

いや、結構多いな。

 

もう少しだけ整理整頓すべきだったかもしれん。

 

「ナニーに人払いさせます」

 

「分かった」

 

椅子を二つ引っ張ってきて向かい合う形で置く。

 

俺はドアを閉じて厳重に施錠してから、改めてドローンと向かい合った。

 

「ケースさんは、聖女たちを大地教信徒同盟に組み込むつもりでしたよね?」

 

「ああ。世襲になるかどうかはともかく、あの五人に特権的立場を与えて満足させられるなら、それが一番面倒が少ないと思っている」

 

「それ、調子に乗りますよ」

 

ドローンは、言葉を飾らず俺の計画の不備を指摘する。

 

「今はショックを受けてますけど、五人とも特に従順な性質ではないです。言葉は悪いですけど、完全に調教した後じゃないと暴走か独立してしまいますよ」

 

「ちょう……」

 

俺は絶句した。

 

ドローンに悪い見本を見せすぎたか。

 

カノンの本気のクーデターが秒読みになったかもしれん。

 

「露悪のつもりはありません。あの五人の価値はそれだけ高くて、大人しくさせるのが非常に難しいということです」

 

「そうなのか?」

 

「はい。ケースさんが直接話をする前、あいつらかなりケースさんを舐めてましたよ」

 

面の良いドローンが冷たい表情になると、迫力がすごいな。

 

「ドローンがそう言うってことは対策があるんだな」

 

「はい」

 

ドローンがちょっと得意げになる。

 

「祭り上げてしまいましょう」

 

ドローンが持ち込んだ、記憶装置付きのディスプレイに具体的な計画が表示される。

 

「聖女の奇跡には特別の価値がある。聖女に従うAIには価値がある。それらに従う信者にも少しの価値がある。……雑な理屈でも、あの芋を使えば思想を上書きするのは容易です」

 

皮肉っぽい表情で、相棒には劣るが美しい声で朗々と語る。

 

「つまり、聖女を神輿にして、その権威でAIを聖職者に仕立て上げ、信者を動かすと?」

 

俺の反応に、ドローンがにやりと笑う。

 

「もちろん、実権は僕らが握ったままです。聖女たちに名誉と安全で豊かな生活を保証するのは僕たち。聖女たちが作ったものを利用するのも僕たち。大地教信徒同盟の労働力を利用するのも僕たちです」

 

ふんすふんすと、ドローンの鼻息が荒くなっている。

 

そこまでうまくいくのか?

 

問いただしたい点はいくつもある。

 

ただ、普段は年齢不相応の重責を背負っているドローンが上機嫌になってるのに、冷水を浴びせてしまうのは良心が痛む。

 

「分かった。基本的にその案でいこう」

 

問題が多数あっても、今のままを続けてジリ貧になるよりは良いはずだ。

 

邪悪な計画でも、大地教信徒同盟の一般人の生活レベルが上がる計画ではあるしな。

 

「ありがとうございます!」

 

ドローンは頭を下げることなく、満面の笑みを浮かべて俺を見上げた。

 

  ☆

 

「今ケース契約国と長期契約を結ぶなら、評議会に一人一つの席をやる。待遇はこれな」

 

「「「「やります!」」」」

 

「ねえみんな、小さな字で書いてる契約書をぜんぶ読んでから決めようよ……」

 

聖女たちへの説得は、結果からみると簡単に終わった。

 

倫理も法もない無法宇宙で、かなり雑ではあるが倫理と法を維持しているケース契約国。

 

その組織の意思決定に直接影響を及ぼせる地位が報酬だ。

 

デメリットよりメリットの方がはるかに大きい。

 

「俺らも一人一つか」

 

「評議会、評議員ね。悪くない」

 

「俺らが三票になっていいのか?」

 

いつもの三人組が感想と意見を出してくる。

 

「相棒とナニーにも一人に議席一つずつだ」

 

『うん!』

 

『『お引き受けします』』

 

相棒は元気に、ナニーは相変わらず表面は忠実かつ礼儀正しい態度で返事をする。

 

「「「そういうことか」」」

 

三人組も、これなら今と力関係が変わらないと判断したようだ。

 

「後は俺、ドローン、カノンだ。最初期メンバーだから一人で二議席扱いだ」

 

これで初期メンバーとAI組が九議席。

 

聖女五人組と三人組を合わせても八議席。

 

拮抗はするが、決定的な場面で主導権は渡さない。

 

『僕の方がドローンとカノンより先だよ!』

 

相棒が挙手と同時に文句を言ってくる。

 

「相棒は俺がいるから三議席持っているのと同じだろ」

 

『……そういえばそうだった!』

 

相棒も納得してくれた。

 

ドローンとカノンは、艦隊司令や遊撃艦隊パイロットが会議中なので治安維持や通常業務に専念していてこの場にはいない。

 

「評議会設立に文句を言うなら今が本当に最後の機会だ。一分間だけ待つ」

 

「んなこと言っても、もう直訴禁止済みだろ」

 

「文句を言えるのは評議員だけか」

 

「これが権力の味!」

 

俺は、こいつら三人組は人生が楽しそうでいいなと思った。

 

「今からケース契約国は、代表の俺が、評議会に相談しながら方針を決める」

 

多数の気の抜けた拍手と、相棒の熱心な拍手がステージ上に設置された会議場に響いた。

 

  ☆

 

「それじゃさっそく仕事するぞ」

 

ドローン作の、大地教信徒同盟「利用計画」を大型ディスプレイに表示させる。

 

AI組を除いて、全員がドン引きした。

 

「邪悪!」

 

「「「「はやまったかも……」」」」

 

特に聖女五人組からの反発が強い。

 

「これよりマシな案があるなら是非出してくれ。現状維持なら大地教信徒同盟の七星系での炊き出しも維持できないぞ」

 

「「「それは困る」」」

 

地表に住む人間に甘い三人組が、地上居住者が多い大地教信徒同盟を気遣っている。

 

「でもひどすぎます!」

 

聖女の一人が代表して文句を言う。

 

「君ら聖女が、自分自身の取り分を連中の福祉に使うなら止めはせんよ」

 

聖女の芋がもたらす富は膨大だ。

 

しかし、今後確実に現れる賊から聖女を守り抜くための軍備にも膨大な富が必要だ。

 

つまり余裕はないのだ。

 

「だったら、せめて芋の支給を多く……」

 

「「「やめろ」」」

 

凄腕三人組が強い口調で止める。

 

自分たちが食べる芋の数が減ってしまうから、という意図は間違いなくあるが、それだけではこれほど切羽詰まった態度にはならない。

 

「驚かせてすまんな」

 

一人が代表して話を続ける。

 

聖女たちはびっくりしたまま固まり、一部は涙目になっている。

 

「あんたたちは……今不在の奴もそうだが、コピーが一回だけだから「あの感覚」のヤバさを実感できていない」

 

手元にある芋菓子を一つ手に取り、一欠片も逃さないように慎重に口にする。

 

食べ終わった後の安堵のため息は、これまでの三人組のイメージに合わないほど弱々しい。

 

「コピーされても普通は気づかないんだよ。俺たちも、あんたたちが作った芋の匂いを嗅いで初めて気づけた」

 

一緒にいる残り二人も、発言中の奴と同じように深刻な顔をしている。

 

「これ以外を食っても満たされない穴がな、ずっとそのままなんだ」

 

そのとき三人組の顔に浮かんだ表情をなんと表現すべきか、俺の語彙の中に適した表現は存在しなかった。

 

「だからよ。ずっと芋か、芋の代わりになる奴を提供し続ける自信がないなら、最初から与えないほうがいい。穴に気づいて最後まで穴を埋められないってのは、とんでもない絶望だ」

 

俺は相棒と視線を交わす。

 

俺も相棒も、ここまで深刻な感覚だとは思っていなかった。

 

『ねえ、その感覚って、芋を食べたら治る?』

 

相棒は、長所でも欠点でもある率直さで質問する。

 

「「「……分からん」」」

 

三人とも、長い時間をかけて考えた末、全く同じ結論を出す。

 

「欠けが少しは埋まったから楽になったのか、我慢するのに慣れただけか、まだ分からん。どちらにしても、もう芋がない生活には戻れん」

 

「そう、ですか」

 

芋について主張した聖女が、力なく自身の主張を取り下げる。

 

俺は、雰囲気が落ち着くのを待ってから口を開く。

 

「聖女には研究用の資金と資材を支給する。芋の生産と並行して、大地教信徒同盟の慰撫に役立つ研究も進めてくれ」

 

五人組は、少しの間ないしょ話をしてから、全員ばらばらに頷いた。

 

「相棒、文面の修正を開始してくれ」

 

『はーい! みんなやるよ!』

 

相棒の目の光が強くなる。

 

評議会の議席のないAIたちと協力して「利用計画」を今回の議論を反映させた形に修正しているのだ。

 

『できた!』

 

「ありがとう。協力した連中にも礼を伝えてくれ」

 

チョコレート型冷却水を差し出そうとすると、相棒が雛鳥のように口を開いたので、俺は専用の手袋を装着して冷却水を一つずつ食べさせていく。

 

ドローンとカノンは、この件については俺に委任している。

 

賛成十一、反対四、棄権二で、「利用計画」の実行が決定された。

 

  ☆

 

第一艦隊の一部、三十隻のマザーボード型フリゲートを率い、俺は指揮艦で傘下星系を巡回していた。

 

『襲ってこないね』

 

相棒は不満顔だ。

 

ケース契約国傘下の星系に不法侵入する船は、撃退しても撃破しても一向に減らない。

 

そして、俺の第一艦隊やカノンの第二艦隊が出撃中の星系には滅多に現れない。

 

「今は抑止できていると考えるべきだろう」

 

『芋の情報が広まるまで、あとどのくらいだと思う?』

 

「さて、な。できるだけ遅くなって欲しいが……」

 

既に戦艦の建造は始まっている。

 

賊の襲撃が先になるか、防衛戦力の完成が先になるか、この時点ではまだ何も分からなかった。

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