AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
統一勢力が存在しない無法星系にも秩序は存在する。
強者と弱者の立場が少しずつ入れ替わりながら、中治安星系に比べると少ない旨みを巡って争いと対峙が繰り返される。
どの勢力も消耗するばかりで、一つの勢力が持つ艦の数は多くて十数隻で、戦艦を所有している勢力などどこにもいない。
「ケース契約国の艦隊を確認!」
「協力要請が拒否されましたっ!」
「畜生、どいつもこいつも自分のことしか考えてねえっ」
そんな星系で、怒りの通信が飛び交っていた。
十星系を制圧した時点で拡張を止めたケース契約国が、いきなり方針を変えて侵攻を開始した。
実際は侵攻ではなく、聖女を狙う侵攻艦隊の拠点になり得る全てをぶっ壊しに来ただけなんだがな。
百を超える緑の閃光が放たれた。
今この瞬間まで長い間勢力を維持し続けてきた略奪者たち……はるか古代の地球でなら地侍に相当する武装集団の本拠が、膨大なエネルギーにより位相障壁を剥がされ船体装甲を溶かされて全壊した。
『多数の操縦室を確認』
「隊列を維持しろ。時間が惜しい。このまま次の標的へ向かう」
第一艦隊は二つの集団に分かれて行動中だ。
一つは八×八の正方形に並んだ、少々無理な機動をしても隊列と戦闘力を維持できる古参兵たち。
もう一つは、指揮艦を中心にした球形の範囲に留まるのが精一杯の新兵たち。
『命令に変更なし』
『主観時間で五秒の遅れ』
『フリゲートは大破する前に脱出を推奨』
複数の命令を並行して行う相棒は、出会った頃のようなぎこちない言葉遣いになっている。
連続超短距離位相跳躍中のAIが、総勢百超えのフリゲート艦隊の指揮ができるというのは特筆すべき能力ではあるのだが、今の相棒にはこれが限界だ。
「お前がケースか!」
憤怒の表情の男が、無差別に怒りの通信を送っている。
「武装解除して降伏するなら命は助けてやる」
俺は、できるだけ邪悪そうな顔で返事をする。
「誰がてめぇなんかに!」
「そうか。じゃあ自分で頑張ってくれ」
八×八の部隊を普段より遅い速度で出発させる。
俺は、指揮艦の操縦をしながら、はぐれかけたフリゲートに直接命令を出したりもする。
『マスター』
『たすけて』
多数の艦の指揮で能力の限界に達した相棒が、ロボットじみた口調で助けを求めてくる。
「百一番以降の指揮は俺に回せ」
俺が担当する範囲が一気に増える。
今はまだいいが、戦闘になると少しキツイな。
「今回の襲撃は新兵に経験を積ませるのが優先だ。フリゲートは壊してもいいから戦死者も行方不明者もゼロにするぞ」
マザーボード型よりも実戦経験済みパイロットの方が貴重だ。
『うん!』
各艦から了解を意味する信号が送られてくる。
「今回活躍した奴には、巡洋艦や位相跳躍妨害艦に乗せてやる」
俺が言い終わる前に、先程より多い否定の信号が送られてきた。
『動きが鈍い巡洋艦や面倒くさい装備が載ってるフリゲートより、今の艦がいいんだって』
「それは巡洋艦を乗りこなせていないだけだろ」
『だからみんなフリゲートを選んでいるんだよ。マザーボード型は強いし扱い易いから大人気なんだよ!』
相棒は、思い入れのあるマザーボード型が評価されているので嬉しそうだ。
でもね相棒。
マザーボード型ってコストが高いし、特に修理費が高いから経営的につらいの。
俺は口から出そうになった泣き言を我慢する。
『そろそろ次の獲物だ。今度は一撃離脱で片付けるぞ』
フリゲートのパイロットが人間なら複数に分かれて基地からの攻撃を躱しやすくすることもできただろうが、高性能とはいえAIのパイロットでは隊列を維持して攻撃するのが限界だ。
小惑星基地から極太のレーザーが放たれる。
八×八の隊列に突き刺さり、三隻が位相障壁を消し飛ばされて船体装甲にもダメージを受ける。
だが距離がある。
基地に搭載可能な大型レーザーでも、主観時間で三秒程度までなら生命維持装置や跳躍機関には届かない。
「五番、六番、十三番は退避」
三隻のフリゲートが、動揺と技量未熟で乱れた操縦でもって後方へ退避する。
『攻撃開始まで主観時間で後二秒』
俺は残った六十一隻に、それまでとは異なる回避行動を取らせる。
三隻が抜けた八×八の正方形が、風に吹かれた布のように揺れながら敵基地からの迎撃を躱してレーザーキャノンの間合いに踏み込む。
「一番、攻撃のタイミングはお前に任せる」
『マスターのえこひいき?』
相棒の気配が不穏になった気がする。
「失敗も覚悟して任せていかないと後進が育たないだろ」
データやアプリをインストールしたら技術が身に付くという訳ではないらしい。
俺の知るAIたちが機械人間と自認しているのは、これも理由の一つかもな。
『え、もう発射した?』
俺ならもう少し引きつけてからレーザーキャノンを使うが、この距離なら一応効く。
レーザーが当たったところだけ位相障壁と船体装甲に穴が開く。
残った船体装甲が鈍く輝く。
『マスター、一番の子が反転して再攻撃したいって』
「却下だ。大規模艦隊の補給拠点になり得る場所を潰せば成功だ。それ以上の危険を冒す気はない」
敵基地との距離が急速に広がる。
追撃の艦隊はどこにもいない。
「攻撃されるばかりじゃ舐められるからな。俺たちに勝てないまでも打撃を与えるつもりなら、帰り道で襲ってくるはずだ」
ドローンを連れてきていないから、探索ドローンを使えない。
『敵襲!』
少し欠けた正方形の側面から、巡洋艦が二隻猛烈な速度で接近してきて大量のミサイルをばら撒いた。
「焦るなよ。マザーボード型は船体装甲がしっかりしている。場末のカス盗賊が用意できるミサイルでは墜ちる訳がない」
当たり所が悪ければ数発で撃墜されると思うが、士気が落ちることを口にする必要はない。
混乱したフリゲートの一部がレーザーキャノンで発砲。
速度とミサイル同時発射数にリソースを割いた結果装甲が薄くなった巡洋艦一隻を貫き、爆発四散させた。
俺は、指揮艦の周囲にいるフリゲートたちに密集隊形をとらせる。
接触事故を避けるためには速度を落とす必要がある使いづらい隊形だが、パイロットの腕が未熟でもなんとかなるというメリットがある。
「逃げられると思うなケース!!」
これまで襲った基地ではなく、まだ無事な小さな基地から様々な種類のフリゲートや駆逐艦が飛んでくる。
同じ基地の艦でも外見が違うのは、パイロット個人の能力が活かせるようにカスタマイズしているからだろう。
「逃げる気なんて最初からないさ。よーし新入りども。指定した範囲からは出るなよ」
これが初陣だとしても、緊張で思考能力が落ちていたとしても、直感的に分かる図形で指示を出す。
「別命あるまで好きに撃て!」
『うてー!!』
最初は途惑った新兵たちだが、数人がレーザーキャノンを明後日の方向に撃ってしまった後は、吹っ切れたように雑多な敵にばらばらの攻撃を浴びせる。
一対一なら絶対に勝てない人間パイロットも、乗っているのが新人AIパイロットとはいえマザーボード型フリゲート数隻に同時に襲われたら互角かそれ以下にしか戦えなくなる。
数倍の数の閃光を躱しきることができず、賊がじりじりと後退していく。
「敵の真後ろからは近付くな。新兵の誤射が飛んでくるぞ」
古参兵たちに、残った巡洋艦を追うのは諦めさせ、別方向から賊を襲わせる。
新兵を相手しながらでは回避は不十分になる。
ロックオンからレーザーキャノンによる一斉射撃までが驚くほどの速度で行われ、戦場から賊の艦が消えて賊の操縦室が一気に増えた。
「実相アンカー搭載艦があればな……」
なお、攻撃力と防御力はなくても非常に機敏な操縦室は、ひとつも破壊も捕獲もされずに逃げてしまったのだった。
☆
俺も若くはない。
侵略指揮というより訓練の引率だった航行を終えて宇宙港に戻った後、ベッドの上で気絶するように眠った。
「十時間以上寝てたか……」
時間の感覚も狂っている。
ベッドの上に畳んで置かれていたタオルで顔を拭いてから、俺は相棒と俺にだけ反応する自動扉を抜けた。
「んなっ」
とても眩しい。
『『おはようございますケース様。ただ今、聖女の皆様が実験を行っています』』
ナニーの声が響き、ゴーグルらしきものが手のひらに押しつけられる。
それは実際にゴーグルで、装着するといつも通りの光景が目に入ってくる。
「何の実験だ?」
『『邪なモノを妨げ、正しきモノに力を与える光、だそうです』』
「俺は邪悪か」
古代基準ならその通りとしか言えない。
「この光の効果と範囲は?」
『『正の効果は軽い鎮静、負の効果は軽い刺激、飛び抜けて偏っている場合は強い効果になるそうです。効果を弱め範囲を広げた場合、地表の大規模居住地を覆える見込みです』』
「少し特殊なだけの光か。……色々悪用できそうだな」
慰撫から詐欺的な儀式までやれることは多そうだ。
これなら芋なしでドローンの「利用計画」を実行できるだろう。
「そういえば、ドローンは?」
『『視力が一時的に低下し、肌も日焼けしてしまいました。現在、カノン様が看護と説教をされています』』
ナニーはいつも通りの態度だ。
日焼けはしていない俺より邪悪と判定されたドローンだが、命にも能力にも悪影響はないのかもしれない。
「家族水入らずの所に行くのも野暮か。ドローンの代わりに事務仕事でもするよ」
相棒の公演予定は全て記憶している。
次のステージが始まる前に、なんとしても仕事を片付けるつもりだった。