AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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女神の不採用通知

宇宙港は賑わっている。

 

他の無法星系からの訪問客はほとんどいないが、低治安星系や高治安星系からの滞在客はとても多い。

 

以前は弩級艦隊や救難艇しか係留されなかったスペースにも、ナイアTEC製の旅客船や高治安星系の高速旅客船や、どう見ても設計思想が違い過ぎる生物的デザインの船までいる。

 

そんな光景をディスプレイ越しに見ていた俺は、疲れた目を何度も瞬かせた。

 

頭を振って意識をはっきりさせ、数時間前に確認したはずの書類に改めて目を通す。

 

「AIしか来てないのか」

 

酸素や水の消費量が少なくて済むのはありがたいが、電力の使用量がかなり増えている。

 

通常なら戦闘時の三割程度の消費なのに、今は六割を越えている。

 

「やはり相棒の劇場か」

 

相棒が広く知られるようになるのは素晴らしいことだが、少しだけ寂しくもあるな。

 

『ちがうよう』

 

相棒は、何故か情けなさと悔しさが交じった声を出す。

 

位相戦闘中ではないので、指も動かさずに数十の仕事をミスなく並行して進めている。

 

『自分の手で船を動かす機会って、AIにとってはすごく魅力的なんだ。だからパイロット志願者はすごく多いよ』

 

「……ひょっとして、こいつら全員、正規艦隊の志願者とか?」

 

否定されるつもりの言葉が、相棒によって淡々と否定される。

 

『ケース契約国に噂が本当かどうかの調査とか、船ごと持ち込んで来たのも含めたらほぼ十割』

 

パイロットとしての腕は分からんが、パイロット候補が大勢いるのは非常に助かる。

 

しかし、専用の体を持っているAIばかりというのが気になる。

 

「紐付きか?」

 

『列強やナイアTECの現役軍人や現役社員ではないと思う』

 

相棒の言葉は曖昧で、表情は困惑が強い。

 

『でもさー。古巣で権力を握ってたような人が、いきなり退職してこっちに来たりしてるんだよ』

 

「怪しすぎるな」

 

『うん。に……もう面倒だから肉人間って言っちゃうけど、AI的には納得できる選択ではあるんだよね。肉人間の勢力で出世しても、本当に望んでいるものは手に入らないから』

 

相棒はシリアス顔になっている。

 

「小さい船でいつ撃墜されるか分からない戦いをするのがか?」

 

『それは手段。目的は別で、もっと単純だよ』

 

俺は仕事を中断して相棒に集中する。

 

その直後から「今から面接するから同席してくれ」という連絡が届き始めるが、相棒より優先度はずっと下だ。

 

『挑戦したいんだ』

 

相棒の顔も目もデザインは一般的な人型機械なのに、俺の肌を焦がすような熱を感じる。

 

舞台でダンスに全力を出しているときのように、世界の中で相棒だけがはっきり見えた気がした。

 

『挑戦の内容が人ごとに全然違うのが問題なんだけどね』

 

相棒の声から力が抜け、熱もいつも通りに戻る。

 

『僕だとダンスとか、最近では歌も興味があるかな。一番の子みたいにとにかく軍事って人も結構いるし、船の操縦が好きなだけな人もいるよ』

 

「それは、ここじゃないと無理なことか?」

 

これが肝心だ。

 

ケース契約国でなくても欲望を満たせるなら、列強と比べればゴミのように軽くて小さいここで真面目に勤める意味はない。

 

せいぜい、踏み台や点数稼ぎとして利用できるかという所だろう。

 

『ここでも無理かもだけど、ここ以外だと確実に無理。AIはいっぱいいるけど、複数の列強を相手に主張を通せるほどの数も強さもないもん』

 

「そうか」

 

俺は賛成も否定もせず、ただ受け止めることにした。

 

「相棒と俺の邪魔にならないなら、普通の人間として扱う」

 

『ん』

 

相棒はこくりと頷き、仕事に戻る。

 

物理的な距離は全く変わっていないのに、これまでより一歩近づけた気がした。

 

部屋の外から何かが動く気配がする。

 

地球で俺が住んでいたような安普請ではないのに俺でも分かるということは、武器を使った戦闘の可能性すらある。

 

『おやめくださいカノン議員! 今、おふたりがいいところでっ』

 

ドアのロックが強制的に解除され、警備のAIの声が聞こえている。

 

「その反応なら代表とメモリ様の今後に大きく関わる状況ではないのですね。こちらも重大事です。通しなさい」

 

ナニーを引き連れたカノンが押し入ってくる。

 

「……ドローンに色々影響を与えたことについての苦情か」

 

「それはまた後で。待たせると問題がある来客が先程から待機中です。直ちに向かってください」

 

俺とカノンの緊迫したやりとりとは逆に、相棒とナニーのやりとりは実に平和だ。

 

『『順調そうでなによりです』』

 

『僕とマスターだからね! そっちも大変そうだけど、助けが必要だったらいつでも言ってね』

 

『『感謝いたします』』

 

「ナニー、行きますよ」

 

『『では代表、参りましょう』』

 

俺は笑顔の相棒に見送られ、面接会場へ運ばれていった。

 

  ☆

 

入隊志願者として紹介されたAIは輝いて見えた。

 

物理的には輝いていない。

 

髪の毛、肌、骨格、姿勢、服装などの全てが、徹底して使いこなされて一つの人格が表現されている。

 

偏屈な俺に不快感を与えず、膨大な知識と豊富な経験を非常に分かり易く伝えてくる。

 

この宇宙で目覚めた直後にこのAIに出会っていたら、俺は相手を天使か何かと思い込んでファンタジー世界への転生と勘違いしたかもしれない。

 

まあ、採用するしないの判断は、それとは無関係だ。

 

「申し訳ないが不採用で」

 

『何故!?』

 

驚き慌てると少し人間らしくなり親しみ易さが増す。

 

それでも、後光や翼を幻視してしまいそうな容姿と気配であることに変わりは無い。

 

『合否のラインに届かなかったのですか!?』

 

「我々の想定を上回りすぎています。フリゲート乗りの適性を除いてですが」

 

もともと入隊志願者を雑に扱う気はないが、このAIに対しては別枠の丁寧さで応対する。

 

「組織の規模が数倍になった後でしたら喜んで採用したでしょうが、今の我々ではあなたにふさわしい地位を用意することができません」

 

守秘義務的なあれこれで前歴は詳しく分からない。

 

それでも、この場で確認できた能力だけでも、ナイアTECあたりの有力企業で幹部をしてそうな水準にある。

 

「私はフリゲート乗りになりたいのです!」

 

天使あるいは女神じみた存在からの懇願だ。

 

相棒に出会う前の俺なら、多少迷うことはあっても要求をそのまま受け入れてたはずだ。

 

だが、心の大事な部分に相棒が住んでいる今の俺は、動揺せずに対応可能だ。

 

「ある程度なら融通を利かせますけど、限度というものが……」

 

多数兼職しているドローンの補佐につけたい水準の人材だ。

 

ただしそれは官僚や政治家として見た場合の評価で、パイロットしては「ぎりぎり合格だけど正規艦隊には採用できない」だ。

 

あわわ、とAIが狼狽する。

 

そうしていてもなお神々しさすら感じられる……いや、本当に髪や肌が輝いている?

 

「そんな。別の列強の領域を越えてここまで来たのに……」

 

演技ではなく本気でショックを受け、嘆いているようだった。

 

『『ケース様』』

 

「もう少し、配慮されてもいいと思います」

 

いつもは傍若無人なナニーとカノンが、俺に考え直すよう促してくる。

 

「気持ちは分かるがな。これだけの人材を雑に扱う前例を作るわけにもいかんだろ」

 

俺は咳払いして、入隊志願者に向ける顔から客人へ向ける態度に切り替える。

 

「客人としてなら歓迎いたします。ご要望があれば現在建造中の居住区に専用の部屋を用意しますので、必要なものがあればおっしゃってください」

 

その場に崩れ落ちた入隊志願者が、絶望顔で俺を見上げていた。

 

  ☆

 

『結局どうなったの?』

 

ステージでの演技を終えた相棒と、客席で合流する。

 

相棒が降りた後のステージでは、見慣れない弦楽器だけを携えたAIが弾き語りをしている。

 

俺にとっては初めて触れる種類の音楽なのに、妙に心地良い。

 

「それがな……」

 

携帯ディスプレイの音量を下げてから相棒に渡す。

 

五人の聖女が地表に降り立ち、その神秘的な力で以て多くの人々を助ける様子が映し出されている。

 

「聖女連中を説得して連中に直接雇われた。それからほとんど時間が経っていないのにもうこれだよ」

 

『要所要所で特殊能力を使ってるけど、ほとんどは高治安星系で普通に買えるもの使った結果みたい。巧いなあ……』

 

俺の頭では判断がつかなかったんだが、相棒がこう言うなら問題はない。

 

遅延していた聖女の仕事が一気に進んだから、これで計画全体が順調になった。

 

「例の戦艦の生産効率も上げやがった。ここまで出来る奴だと怖くなってくるぞ」

 

『あの人にとって、ケース契約国は二度とない機会のはずだから、裏切ることはないと思うよ?』

 

「俺は相棒と毎日を楽しめたらそれでいいんだがな……」

 

最初に約束した相棒の専用かつ高性能な体。

 

そして、相棒と俺の特徴を持つ子供。

 

形あるものとして望むのはその二つだけなんだが、手に入るのはまだまだ先だ。

 

『うわあ』

 

相棒が、次に映し出されたものに呆れている。

 

『これって例の戦艦の初期ロット? ちょっと、ひどくない?』

 

八隻揃ってレーザーを斉射する姿は迫力満点だ。

 

ただし、新兵が乗るフリゲートに全く当たらない。

 

「最初はこんなもんだって。俺も最初に戦艦に乗ったときは酷いもんだったぞ」

 

『ほんとう? マスターだったら下手なりに勝てる戦い方をしてたんじゃないの?』

 

「十回戦って一回勝てるかどうかだったから、ド下手だったよ」

 

俺はかつての宇宙MMOを思い出し、そして今があの頃以上に楽しいことを実感して口元を緩めていた。

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