AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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ばれた

「レベルアップしました!」

 

聖女が淡い光を帯びている。

 

俺は少し目を細める程度で済むが、少し日焼けしたドローンが素早く濃いサングラスをかけていた。

 

評議会に出席している聖女は一人だけだ。

 

他の四人は芋の生産や地表での活動で忙しくしていて、唯一出席した聖女もすぐにでも仕事に戻りたそうだ。

 

「以上で報告を終わります。……じゃなくて後はディーヴァさんに任せます。お願いディーヴァさん!」

 

聖女は、颯爽という表現を使うにはばたばたしながらステージ上の議会から立ち去る。

 

以前の会議より痩せてはいるが、明らかに活き活きしていた。

 

『先日から聖女さま方にお仕えしてるディーヴァと申します。聖女さま方からディーヴァの名を頂きました』

 

客人のはずの機械人間が恭しく礼をする。

 

俺は手元のディスプレイをちらりと見る。

 

聖女の議席五つ分の権力がディーヴァに預けられているという正式な文書が表示されていた。

 

「客って話じゃなかったか?」

 

「聖女の嬢ちゃんたちが芋に注力できるようになるなら問題ないだろ」

 

「しかしすげーAIだな。どうやって雇ったんだ」

 

パイロット三人組はディーヴァを受け入れているようだ。

 

ドローンは何か言いたげにしているが口にはせず、カノンは戦闘とドローン以外には関心が薄く、ナニーは相変わらず何を考えているのか分からない態度で警護中だ。

 

『そのなまえっ』

 

ただ一人、相棒がひどくショックを受けている。

 

『僕に対する挑戦だよ!』

 

最近は歌の練習を増やしていた。

 

歌姫を意味するディーヴァという名前に刺激されてしまったのかもしれない。

 

『メモリ様、私の名は「女神」の方のディーヴァですっ。聖女さま方はそうおっしゃっていましたっ』

 

その気になれば国家元首を意のままに操れるメモリの言動に、翼も後光もないのに天使や神っぽい雰囲気のディーヴァが慌てる。

 

「相棒、名前についての議論は後で議題にしよう」

 

『えっ』

 

俺が相棒を止めることを期待していたディーヴァが、見捨てられた表情でふらりとよろめく。

 

「ナイアTECからの定時連絡だ」

 

会議の空気が引き締まる。

 

「芋の増産要請は相変わらず。無償での増産支援も提案された」

 

ディーヴァに発言を促す。

 

「支援を頂いてもこれ以上の増産は難しいです」

 

聖女が直接報告していたときとは異なり、ディスプレイには地表と大地教信徒同盟の詳細情報が表示されている。

 

相棒とナニーには、普通の人間では読むのに何日もかかる大きなデータが送られているはずだ。

 

『監視衛星の情報と齟齬はないけど、どうしてこうなってるの?』

 

相棒が混乱している。

 

「ナニー」

 

『『申し訳ありません。我々もメモリ様と同意見です』』

 

カノンに問われたナニーが謝罪する。

 

『銀河規模で見れば類例が多数存在する状況でした。聖女の名にふさわしい方が五人おられたのは僥倖です』

 

ディーヴァは、謙遜というより事実を指摘する態度だ。

 

「あなたが関わる前と後を比べたら、あなたの影響が特大としか判断できないぞ」

 

『私は手助けしただけです。聖女さま方だけでも、時間はかかったかもしれませんが同等以上にうまくされていたはずです』

 

俺のディスプレイの表示が更新される。

 

第一艦隊への異動願いだ。

 

一応、聖女五人組の同意の電子署名も添えられてはいるが、本当にしぶしぶというのが分かる筆跡だった。

 

「これはデモンストレーションか? 権力を握る野心を持っていないことを示すためとか、そういう感じの」

 

俺は、揶揄や非難にならないよう細心の注意を払った。

 

『違います! 私はっ』

 

「他の議員の部下について言及するのは避けたいですけども、これほどの仕事を易々とされる方をフリゲートに乗せるのはどうかと思います」

 

「姉さんと同意見です」

 

カノンとドローンは、明確に反対意見を口にする。

 

俺と姉弟で派閥を形成していることも既に知っているのだろう。

 

ディーヴァの顔から表情が消える。

 

『……ここでも、なんですか』

 

ディーヴァの体から軋む音が聞こえる。

 

『いっぱいいっぱいがんばって、よくできたねっていわれて、でもいつもわたしがしたくないことばっかり! もう、やだぁ』

 

涙は一滴も流れていないのに、号泣しているようにしか見えなかった。

 

『くっ……でもディーヴァって名前だし……』

 

相棒が何故か葛藤する。

 

「「「お、おう。後輩、なんとかしろよ」」」

 

機械人間の中でも飛び抜けた美人の泣き顔に動揺したパイロット三人組が、俺に対して強く要求してくる。

 

なお、俺、カノン、ドローンの冷血三人組は、平然とした顔でどうすべきか小声で話し合っていた。

 

「どうしてもフリゲートに乗りたいのであれば、せめて一兵卒としての参加は遠慮してください」

 

俺は、評議員の部下に対する態度ではなく、賓客に対する態度で話しかける。

 

「のせてくれるの?」

 

虚ろな表情で見つめられると、命だけでなく色々なものが危険にさらされた気がした。

 

「シロやクロ……治安維持艦隊のAIが操縦しているような高性能艦であれば、私達も許容できます」

 

『ありがとうございます!』

 

輝くような笑顔には、強い光なのに眩しく感じない後光が伴っている。

 

「いいのですか?」

 

消極的反対だったカノンが小声で話してくる。

 

「精鋭を高性能艦に乗せて投入するしかない場面は必ずやって来る。……まあ、そのときには艦隊司令か参謀も兼ねてもらうことになると思うがな」

 

俺はただのPvPゲーマー、ドローンとカノンは才能はあるが年齢と経験が浅く、パイロット三人組も聖女五人組も得意分野は圧倒的だがそれ以外は普通だ。

 

軍人も高位になればなるほど、政治的判断するかどうかはともかく政治判断可能な能力が必須になるらしいし、官僚も政治家もできるディーヴァの希望を無視して出奔されるという展開だけは避けたい。

 

「じゃあ次の議題にいくぞー」

 

芋で稼いで、稼いだ金で用意した資材と人材を大地教信徒同盟に投じて、低い技術でも建造可能な戦艦を量産させパイロットを差し出させる。

 

この時点では間違いなく、順調だった。

 

  ☆

 

俺の指揮艦もかなり改造された。

 

頑丈さを活かして高性能戦艦として使われることもある艦だが、俺の指揮艦は使用を開始してから今まで攻撃兵器を全く搭載していないので、兵器を搭載するための空間に様々な装備を詰め込んでしまった。

 

それはそれとして、操縦室のサイズは変わらない。

 

様々な艦にそのまま搭載可能というのは巨大なメリットなんだが、初期船にも搭載可能な操縦室は大きくないのだ。

 

『せまい……』

 

相棒だけでなく、ナイアTECに発注済みの新規指揮艦に乗る予定のAIたちも操縦室に乗り込んでいる。

 

下半身も人間型だから多少はマシとはいえ、肉人間ならトイレも食事も自分の席ですますしかない程度には空間が足りない。

 

「新人司令をいきなり実戦に放り込む訳にはいかんからな」

 

位相戦闘中は実力を発揮できないAIたちも、自分が乗る予定の同型艦を操縦する人間を間近で見ると一気に成長することがある。

 

裏切りが日常の人間パイロットが、操縦のノウハウを他人に見せることなどまずない。

 

俺は国のトップなので、相棒と俺と国が生き延びるために、ある程度公開するしかない。

 

『マスターの操縦を記録するだけじゃ駄目だよ。自分の体で見て感じたこと全部を記憶するくらいしないと駄目!』

 

先輩風を吹かせている相棒も可愛い。

 

『マスター、じゃなくて代表! おっきいのが見えます!』

 

真面目に見学していたAIが、突然拒否して大声で報告した。

 

まだナイアTECの星系には到着してないんだが、何のことだ?

 

『フリゲート……違う。大きさが戦艦よりずっと上』

 

「弩級艦か?」

 

強烈に嫌な予感がする。

 

「進路を変更する。退却の際は主星系以外を経由する。航路計算を頼む」

 

『はいっ』

 

『それ僕の仕事っ!」』

 

「相棒は戦闘に備えて待機だ。クソっ、近付いてきやがった」

 

いわゆる星系の「外」はほとんど何もない場所だ。

 

遠く離れても、隠れる場所がないから見つけ易いし見つかり易い。

 

『代表、ナイアTECから通信……広域への無差別通信、文章のみです』

 

『ばれた、以上です』

 

俺の口から乾いた笑いが漏れた。

 

その数秒後、所属不明艦のサイズが間違っていないことが知らされた。

 

「最初に出てくるのが弩級艦かよ」

 

俺の記憶に当てはまる弩級艦はない。

 

俺のMMOの知識が通用しない種類の艦だろうか。

 

『旧式の砲艦です。周辺に巡洋艦多数。護衛艦隊と思われます』

 

「逃げるぞ」

 

言い終える前に方向転換と加速を始めている。

 

周囲のマザーボード型フリゲートは主観時間で数秒後れたが、もともと指揮艦より速いので、しばらくすると追いついてくる。

 

『まだ戦艦の数、揃ってないよ』

 

「弩級艦級の空母ならマズかったが、砲艦ならやりようはある』

 

安堵で集中が乱れそうになるのを、責任感で耐える。

 

「派手な戦いになるぞ」

 

旧式砲艦の速度は遅く、しかし俺たちを諦めるつもりは皆無のようだった。

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