AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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これが俺のPvP

PvPの知識と技術はこの宇宙でも通用する。

 

それはそれとして、俺はMMOではできなかった手段も使う。

 

「ロケットに点火開始」

 

『点火開始!』

 

今日の採掘対象だった小惑星群が、無理矢理とりつけられた推進器により加速を開始する。

 

暗い宇宙の中、推進器の光に照らされた小惑星の群れは、神話じみた迫力がある。

 

『ぜんぶ使ってよかったの?』

 

相棒は心配そうな顔で聞いてくる。

 

「この作戦、一度使えば確実に対策されるからな」

 

俺は遠ざかる小惑星の群れをちらりと見て、肩をすくめた。

 

単に推進器を取り付けただけでは位相跳躍できない。

 

宇宙MMOなら壊せるだけの背景に等しい存在だ。

 

「それじゃ着いていくぞ。小惑星はまだまだ加速するから速度には気を付けろ」

 

俺は指揮艦を前進させる。

 

位相戦闘中なのでいつでも追い抜けるが、そんなことはしない。

 

「軍紀がまともな正規軍なら無視するか小さな艦で牽制するだろうが……」

 

ナイアTECと同規模の組織が正規軍を送り込んできたのなら何をしても勝てない、という事実の言い換えだ。

 

『旧式というより骨董品の弩級艦を持ち出す軍って、なんだろうね?』

 

相棒は、通信は使わず肉声だけで伝えてきた。

 

「俺たちの敵なのは確実だ。勝てるかどうかも重要だが、どこまでやるつもりかってのも重要だ。いくら負けても諦める必要のない存在ってのも、有り得るからな」

 

ドローンに言ったときは「考えすぎですよ」とあしらわれたが、俺はPvPで散々そういう奴を見てきたんだよ。

 

『マスターの言うことだけど、考えすぎだったらいいなと思う』

 

「同感だ」

 

敵は弱く諦めが良い方がいい。

 

それなら俺もまともな降伏条件を突きつけることができるからな。

 

俺は、新兵もいる第一艦隊を、いつも以上に丁寧に誘導しながらそう言った。

 

『敵発砲!』

 

『敵の攻撃を確認しましたっ』

 

複数の報告が一気に押し寄せた。

 

敵弩級艦から、赤紫色のレーザーが恐ろしいほどの速さで伸びてくる。

 

光速のレーザーを人間でも認識できるようにするのだから、位相戦闘は本当に有用だ。

 

『マスター、小惑星が融けてるっ』

 

こっちのレーザーキャノンでは絶対に届かない距離なのに、小惑星に膨大な熱を与えて崩壊させていく。

 

「予定通りだ」

 

俺の口の端が釣り上がる。

 

「予想の中でもこっちに有利な予想が当たったな」

 

『軍紀が緩い武装集団だね。弩級艦を操縦できてるんだから腕だけはいいのかな?』

 

「カノンですら物理法則には縛られる。腕が良いだけじゃ勝てんさ」

 

俺は、第一艦隊の隊列を細かく変更する。

 

動揺して一部は逃げ出しそうになっているような、事情を知らない者が見ればとんでもなくみっともない動きだ。

 

「この星系を占拠する武装勢力に告ぐ!」

 

傲慢な声が響く。

 

弩級艦の膨大なエネルギーを利用した、星系全体への無差別通信だ。

 

「ただちに降伏して生産施設を引き渡せ。生産に関わった人間も全てだ!」

 

若く、傲慢で、機械人間じみた美しさの青年だ。

 

「面が良くても腐った根性だとこうなるのか。ナイアTECに売れるか?」

 

『僕の好きな娯楽じゃないけど、好きな人は好きだから高く売れるんだよね』

 

隊列の演技を激しくする。

 

モニターに映る美青年は、まるで虫けらを見るような目でこちらを見下している。

 

『攻撃しちゃだめ?』

 

相棒の目が攻撃的に輝いている。

 

「俺たちは駄目だ」

 

俺はできるだけ穏やかに、しかし今だけは相棒の言うことを聞けないことを伝える。

 

「よし。全力の命乞いをするぞ!」

 

俺は、浮き立つ気分を隠せずマイクを手に取る。

 

PvPのボイスチャットで何度も経験がある。

 

罠のつもりで食い破られたこともあるが、勝てそうな相手にする命乞いの演技は何度もしたくなるほど楽しいんだ。

 

しかしマイクは反応しない。

 

『マスターの今の顔を見られたら演技だとばれちゃうよ』

 

「……そんなに分かり易いか」

 

『あのクソ、今のなし。あの弩級艦パイロット、思考は高確率で馬鹿だけど脳の性能はマスターより上だよ』

 

「ふむ」

 

相棒が別の男を褒めるのは気分のいいことではないが、生死のかかった状況だからそういうのは後回しだ。

 

『かなり高度の改造を受けてる。……脳の一部を機械に置き換えているかも』

 

「技術水準を考えれば珍しくないんだろうが、法的に問題ないのか?」

 

『高治安星系だと特権階級でない限り無理かな。えっと、話を戻すね。マスターをモデルに演技した映像を向こうに送っていい?』

 

「任せた」

 

相棒の不利益に繋がらないなら、相棒の行動はほぼ無条件で受け入れるのが俺という人間だ。

 

『……やっぱり偽動画でもマスターの命乞いなんて見たくない!』

 

「おーい、指揮艦にいるAIなら誰でもいいから向こうに送りつけてくれ。確認のため俺にもな」

 

艦隊司令見習いのAIたちが、露骨に動揺した。

 

『メモリ様の意向に背くのはちょっと』

 

『せめてボーナス!』

 

「いいから早くしろ」

 

俺は強く命令する。

 

肩を落としたAIたちにより、恐怖に震える俺が土下座する動画が向こうにも俺のディスプレイにも送信された。

 

「降参します。だから命だけはっ」

 

「俺の声は他人にはこう聞こえるのか。おいおい、顔はもっとみっともなく、緊張で顔面が痙攣するくらいしてもいいじゃないか?」

 

『マスターはそんなことしないもん!』

 

相棒は憤慨している。

 

美青年が高笑いしている。

 

……こいつまだ無差別通信してるのか。

 

良い艦に乗っている奴はやることが派手だね。

 

『代表、そろそろと思われます』

 

艦隊司令見習いのAIが時刻を強調表示する。

 

敵弩級艦を護衛する巡洋艦群が弩級艦を守るように反転し、猛烈な勢いで対空砲だけでなくオートキャノンも打ち始める。

 

『カノン様の質量弾を確認しました、敵弩級艦に命中するまで主観時間で後五秒』

 

『敵の対空射撃は強烈です。質量弾の七割が撃墜されました』

 

どうやら順調のようだ。

 

第二艦隊と遊撃艦隊は通信せず、アクティブなセンサーも一切使わず、慣性で航行しながら敵弩級艦を待ち受けていた。

 

ドローンは単独で索敵ドローンをこれ見よがしに大量に動かし、第二艦隊と遊撃艦隊の位置をごまかしている。

 

俺の第一艦隊があれこれやって敵弩級艦に攻撃させることで敵弩級艦の位置を把握。

 

後は、第二艦隊と遊撃艦隊で、的としては非常に大きな敵弩級艦に対して全力攻撃だ。

 

『遊撃艦隊のミサイルを確認し……多いっ』

 

「武装輸送艦を一時的に艦隊に編入したのは、補給のためではなく砲台として使うためか」

 

武装輸送艦は脆いが、遠距離から撃って即座に逃げるなら問題ない。

 

『小惑星の進路を敵弩級艦に固定します』

 

『これが最後の進路変更になります』

 

『残存七です』

 

艦を第二艦隊に向けようとしていた敵弩級艦が、小惑星を意識してしまい回頭が遅くなる。

 

「素人め。位相戦闘中に小惑星が当たるかよ」

 

訓練中の戦艦を除く全てを投入した襲撃により、敵弩級艦への攻撃は成功した。

 

質量弾はほとんどが撃墜されてしまったが、わずかな数の質量弾と、最近の儲けを全て吹き飛ばすほど大量のミサイルが敵の巨体に突き刺さる。

 

『装甲が開いて対空砲が出てくるとかしないの? これが、旧式艦……』

 

相棒が衝撃を受けている。

 

俺も顔には出していないが同じ気持ちだ。

 

弩級艦が大きすぎてミサイルの爆発がとても小さく見える。

 

膨大な船体装甲があってもそれ以上に大量の爆発には耐えきれず、艦に大きな亀裂が生じて砂埃めいたものが亀裂から立ち上る。

 

『埃に見えるのは……陸戦隊!?』

 

『この動き、ひょっとして宇宙服を着ているだけの人間!?』

 

「倫理について考えるのは戦後にしろ」

 

俺は厳しく言う。

 

第二艦隊と遊撃艦隊の全力攻撃を防ぐため、敵の巡洋艦群は対空防御に専念。

 

敵弩級艦はロックオンが間に合わずにまだ攻撃できていない。

 

『マスター、勝った?』

 

「まだだ。弩級艦の頑丈さを甘く見るな」

 

ミサイルの値段も甘く見るなと言いたいが、それは勝ってからの話だ。

 

「第一艦隊はこのまま突撃する。戦力が全壊してもこっちには戦艦の山がまだある。前のめりで行くぞ!」

 

こちらの意図に気付いた敵巡洋艦群の一部から、カノンほどではないが正確な狙いの質量弾が飛んでくる。

 

最前列に展開していた救難艇が対空砲で応戦する。

 

二十隻がかりでも打ち落とせたのは半分程度だが、指揮艦の分厚い船体装甲はまだ耐えられる。

 

「お前っ! 土下座は偽りかっ!」

 

それまでの余裕を完全に消し去り屈辱に顔を歪める美青年に向かって、俺は笑顔で下品なジェスチャーを突きつけるのだった。

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