AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
『一番に被弾っ。通信途絶しましたっ』
操縦室のAIが悲鳴じみた報告をする。
敵に近付けば近付くほど敵の攻撃の命中率が上がるとはいえ、第一艦隊の被害は予想以上に酷い。
「一番艦の操縦室はトラクタービームで捕捉した」
期間としてはそれほど長くはないが、数多くの戦いを共に戦った奴が生死不明だ。
俺もショックは受けている。
それ以上の興奮と殺意が俺を突き動かしているだけだ。
「進め! ひるむな! レーザーキャノンの間合いに持ち込め!」
陣形の指示、複数のトラクタービームの操作、士気を維持するための扇動と、俺のやるべきことは数多い。
『狙い撃ちされてるっ』
相棒は涙目で指揮艦の操縦に全力だ。
今日はいつもより動きが鋭く、スクールを出た直後のパイロットを上回る操縦を見せている。
しかし相手は……少なくとも巡洋艦群のパイロットたちはかなりの腕の持ち主だ。
救難艇による迎撃が間に合わず、質量弾が指揮艦に降り注ぐ。
がつんがつんと指揮艦全体が揺れ、俺の腹が緊張で変な感覚になった。
『船体装甲が最大値の四割切ったよっ』
「まだ本体の機能は健在だ」
視界の隅のディスプレイに、複数のフリゲートが撃破された知らせが映る。
まずいな。
艦は最悪全滅でも構わんが、パイロットが死にすぎるとここで勝っても次の戦いで勝てなくなるぞ。
『修理費と新造費用のどっちが高いかな……』
「相場次第だろうな」
マルチタスクで限界の俺に「撃て」という直感がひらめく。
「全艦攻撃開始」
マザーボード型フリゲートがレーザーキャノンを全力稼働させる。
大型ディスプレイに表示されるのは、鮮やかな緑の閃光が巡洋艦群の一部にだけ突き刺さる光景だ。
位相戦闘中なので現実の光景ではなく、しかし非常に現実に近いはずの予想図だった。
『敵巡洋艦に異音が発生』
『別の敵巡洋艦に亀裂を確認。亀裂が拡大中ですっ』
「どういうことだ?」
俺は、指揮下の艦の把握と命令に忙しくてそれ以外について頭が回らない。
『わかんないよマスター! うおー、あたるかー!』
相棒は、明らかに処理能力が限界の様子で指揮艦の操縦に専念している。
操縦の腕は先程よりも上がっている気はするが、そろそろ船体装甲以外もやばい。
大型ディスプレイの四分の一が爆発に覆われた。
まさかまぐれ当たりで指揮艦がぶっ壊れたか、と思ったが指揮艦の揺れはさほどでもない。
『敵巡洋艦三隻が爆散しました』
「マジか」
巡洋艦ってのは、もう少し頑丈な艦種じゃなかったか?
『マスター! デブリ!』
「今回避させている。大破したフリゲートからパイロットを回収するから操縦室の場所を空けておけ!」
『これ以上狭くするの!?』
相棒に返事をしたいが、今は第一艦隊の面倒を見るのが優先だ。
回避を優先したため陣形を維持することもできず、指揮艦から一定の距離以上離れないようさせるだけで精一杯だ。
『後輩! 巻き込まれるぞ!』
指揮艦にいないはずの、しかし聞き慣れた声が俺の耳に届く。
わずかに遅れて、待機中だったディスプレイにミサイルの進路予想が表示される。
うん、巻き込まれたら指揮艦も沈む規模のミサイル製豪雨だ。
「やりすぎだ馬鹿野郎!」
「ここまでやらねえと弩級艦なんて落とせねぇんだよ! こっちはただの戦艦と武装輸送艦だぞ!」
俺たちは通信越しに怒鳴りあいながらそれぞれの仕事をする。
『うわっ』
『すごいミサイルの数』
拙いながらに俺の仕事を手伝っているAIたちが騒いでいる。
第一艦隊が撃破した三隻を除けばほぼ無傷だった敵巡洋艦群が、護衛すべき弩級艦ではなく自分たちを狙って加速してきたミサイルに襲われている。
他艦を狙うミサイルより自分に向かって飛んでくるミサイルの方が当て易いし実際に多くを撃墜してはいるが、三隻が失われた状態では迎撃しきれない。
「余裕のある奴はチャージ未完了でいいから敵巡洋艦を攻撃しろ!」
対空砲の邪魔をするためだ。
どれほど優れたパイロットでも対応すべき事柄が増えると一つ一つへの対処は甘くなる。
レーザーキャノンによる攻撃は当たり易くなり敵の船体装甲が鈍く光り、対空砲による迎撃を抜けたミサイルがいくつか敵巡洋艦の船体装甲に直撃した。
『敵巡洋艦から類似の異音を確認』
『まさか、一撃で船体装甲全壊で内部にダメージが?』
「まとめて報告しろ!」
『わーい、ちょっと避けやすくなった』
俺と相棒は相変わらず指揮と操縦で手一杯だ。
『代表、敵巡洋艦群が爆発すると思われます』
『これって、装甲を限界まで削って他艦への援護に全振りした艦!?』
四隻目の敵巡洋艦は船体中央が爆発して前と後ろが別々のパーツとして吹き飛んだ。
広い宇宙ではそうそう当たることはないが、万一当たれば指揮艦だって危ない。
まあ、小さなパーツでも当たり所によってはフリゲートが破壊されるんだけどな。
爆発は四隻目で終わりではない。
あちこちで爆破が起きて、俺も相棒も声すら出せないほどだ。
『きれい……』
『全力のレーザーキャノンでようやく三隻なのに』
ミサイル大好きAIが複数誕生してしまった気がする。
「敵巡洋艦の操縦室は放置しろ! 敵弩級艦を潰せば俺たちの勝ちだ!」
宇宙MMOでPvPをやっていたときも、俺の撃破リストに弩級艦は一隻も載っていない。
弩級艦を撃破するという初めての好機に、俺はわくわくとうきうきを抑えきれなくなっていた。
☆
「後輩、こっちの弾倉も倉庫もすっからかんだ」
「ケースさん。酷使したオートキャノンが故障しました」
ケース契約国の誇る二大戦力の両方が、これ以上の戦闘は不可能と報告してきた。
『そんなぁ』
相棒はショックを受けて操縦席で崩れ落ちている。
今すぐ慰めたい。
『代表、パイロットの回収に集中してください!』
機械人間の懇願が俺の耳に突き刺さる。
「救難艇は何をしている」
『生き残りの敵巡洋艦相手の対空射撃で精一杯ですよ! 連続超短距離位相跳躍に代表やカノン様やあの三人組並みに動けるAIなんてここにはいないんです!』
「そりゃそうか」
マルチタスクと疲労で、俺の思考能力は予想以上に落ちているのかもしれない。
相変わらず操縦は相棒に任せ、俺は無心で味方パイロットを回収していく。
『あ、どうも。こっちに詰めておきます』
指揮艦の倉庫に回収された操縦室から指揮艦の操縦室までやってきた一番艦のAIが、操縦中の獰猛さとは正反対の態度で操縦室のすみっこで三角座りをする。
既に十人以上そうしているので、隅といっても俺とほとんど密着する位置だ。
『ぐるるるる』
相棒が一番艦のAIに唸っている。
嫉妬は嬉しいけど今は仕事してくれないかな……。
「お前っ! こんなことをしてただですむとでも……」
弩級艦の美青年が、珍しく直接通信してくる。
こうして見ると顔の良さが惨めさを引き立たせる。
だがな。
弩級艦を一隻も持っていない勢力相手に、オンボロとは言え弩級艦に乗った馬鹿が攻めてくるなんて、出来過ぎだと思うんだよ。
『代表! 敵弩級艦の鹵獲を提案します!』
他のAIたちも、鹵獲案にはかなり乗り気のようだ。
「それはナシだ」
俺は珍しく、反論を許さない命令を口にする。
「救難艇にこっそり連絡しろ。即座に単身脱出できる準備を整えた上で、敵陸戦隊またはパイロットを救助していた場合はそれが安全かどうか確認しろ」
『マスター、それってどういうこと?』
俺が真面目な話をしていると最初に気付いたのは、嬉しいことに相棒だった。
「全部罠かもしれん」
言葉にすることで考えがまとまった。
「大勢力視点で価値があるのは芋の生産手段であってケース契約国じゃない。そいつらにとっては、ケース契約国を潰しても芋の生産手段が失われたら大損だ。だったら……」
『全員対人間戦闘準備! 手加減抜きだよ!』
相棒が俺の言葉をかき消すような音量で命令を出す。
指揮艦の操縦室にいるAIたちだけでなく、第一艦隊すべてのAIたちの顔から人間味が薄れて鋭利な刃物じみた威圧感が剥き出しになる。
それから発生したのは、艦内での大小の爆発と凄惨な殺し合いだ。
『マスター!』
「これ以上は何もできん」
俺は、これまでとは違ってにやにやとふてぶてしく笑う美青年を睨み付ける。
「降伏するなら生命と最低限の人権は保障してやる。ああ、俺たちが弩級艦に近付くなんて期待はするだけ無駄だぞ。降伏しないなら遠距離から延々攻撃をぶつけてやるだけだ」
第一艦隊が敵弩級艦に対して攻撃を開始する。
本来の射程のはるか遠くから、一度の攻撃では小さなダメージしか与えられなくても延々と繰り返す。
「お前程度の才能でよくやるものだ」
美青年は板に付いた傲慢さで笑ってから、鮮やかな手つきでレーザー銃を構え、自身の頭部を撃ち抜いた。
『ど、どうしようマスター』
「こういうときは勝ち鬨をあげればいい」
俺はにやりと笑う。
「裏にどんな事情があったとしても、ケース契約国が弩級艦一隻を含む侵略者を撃破したって事実は変わらない。馬鹿が襲ってこないよう派手に宣伝もしようぜ」
『……そうだね!』
俺は勝利よりも、相棒が楽しそうな顔に戻ったのが嬉しかった。