AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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ようこそ、俺たちの国へ

「AIの葬儀ってバラエティに富みすぎじゃないか?」

 

『それはマスターが故人の意向を尊重しすぎてるからだよ』

 

俺と相棒は、船体装甲がぼろぼろの指揮艦に乗って移動中だ。

 

「そりゃそうだが、自分の指揮下での戦死者を雑に扱うと、士気低下というデメリットがな……」

 

確か次は、恒星に向かって遺体を撃ち込むタイプの宇宙葬か。

 

『だからって遺言以上に豪華にする必要ないよ!』

 

相棒が抗議してくる。

 

今日の相棒の衣装は、いつもより儀礼的な印象が強い軍服だ。

 

俺も、いつもの機能優先で見た目は後回しのパイロットスーツではなく、装飾が多い儀礼用のものを着ている。

 

「死んだ奴は特別扱いってのが、俺が以前いたところの価値観なんだ。すまないが付き合ってくれ」

 

『なんだよそれ』

 

相棒の表情が固まり、目の光が冷たくなる。

 

『特別扱いは僕だけでいい』

 

そこにあったのが嫉妬か殺意かそれ以外か考えるより早く、俺は条件反射じみた速度で本音を口にしていた。

 

「相棒は特別扱いを越えた特別扱いだから、言葉を飾らないとお義理で戦死者の葬儀をしてるってことになるんだよ」

 

葬式会場で本音を言ったら、その日のうちにクーデターが起きても驚かないぞ。

 

『んー……』

 

相棒の不機嫌さは消えたようで、しかしまだ納得してはいないようだ。

 

これはもしや、おねだり!?

 

「機械人間の新造には時間がかかりそうだから、研究の資金を使った残りで相棒の像でも建てるか? 戦艦サイズくらいの」

 

『僕が動かしてダンスできるやつ?』

 

「いいね!」

 

俺、わくわくしてきたぞ。

 

「いちゃいちゃしているところに申しわけないんですが」

 

聞き慣れた声が、比喩的な意味で冷水をぶっかけてきた。

 

俺たちの本拠である宇宙港にいるドローンからの、遠距離通信だ。

 

ドローンは、いい年して熱々な両親に向けるような目を向けてきている。

 

『ドローン? 今いいところなんだからっ』

 

何故か相棒は、何故かまんざらでもない態度だ。

 

「いちゃつくのも無駄遣いも限度があります」

 

『いいじゃん戦艦くらい! 子供を作るの、すっごい後になりそうなんだよ!』

 

まあね。

 

無法星系を十個武力制圧しただけのケース契約国が、相棒のような機械人間を新造できる技術と生産力を獲得するまで何十年かかるか考えるとね。

 

なお、ディーヴァなどの政治ができるAIたちにこのことを話したときは「百年未満でそこまで発展させるつもりだなんて凄まじい野心家ですね」と呆れられてしまった。

 

「戦艦サイズの稼働人形なんて、戦艦一隻の価格で済むわけがないでしょう!」

 

ドローンの圧倒的正論に、相棒も俺も反論できなくなる。

 

「なあドローン。ひょっとして盗み聞きしてたのか?」

 

冗談のつもりで言ったらすごい目でにらまれた。

 

「議員は全員、緊急時にプライバシーを制限されるんです。決めたときにケースさんもメモリさんもいたでしょう」

 

『僕は覚えてたよ! ひょっとして緊急事態?』

 

「またいつもの小競り合いです」

 

ドローンが小さくため息をつき、表情と雰囲気が政治家としてのそれに変わる。

 

「弩級艦なしで弩級艦を倒したことで、ケース契約国の武力は証明されたのですが」

 

小賢しい小勢力はケース契約国を恐れて侵攻を諦めた。

 

もっとも、大勢力にとっては「奪う価値のある物を持つ獲物」であり、目端の利く宇宙船パイロットにとっては「僻地の資源衛星で無断採掘しても反撃できないほど疲弊した相手」だ。

 

『第一艦隊が動けなくなって襲って来た連中、ドローンとカノンが倒したもんね!』

 

相手を褒めるときは裏心なしというのは相棒の美点だと思う。

 

「ナイアTECからの武器弾薬緊急輸送は高くつきましたけどね」

 

あの企業、偽物を売りつけることはないが、むしれる場面ではむしってくるからな……。

 

『芋の情報がばれたのはナイアTECのせいなのに酷いよね』

 

「否定はしないが、どれだけ防諜に気を配っても確実にばれた気がするぞ」

 

俺にとっては古代の田舎で食べた採れたて芋未満でしかないが、コピーを繰り返したパイロットやその子孫にとってはファンタジーじみた効果のある美味らしいからな。

 

『じー』

 

相棒は擬音を口にしている。

 

『マスターって、最初っからナイアCEOのこと、すごく意識してるよね』

 

「メモリさん、心配しすぎですよ」

 

ドローンの顔が政治家の顔から年相応のものに戻る。

 

「僕の血縁上の父親じゃないんですから、メモリさん以外に……いや、でもケースさんも年齢は同じくらいで……でも……」

 

唐突に雰囲気が怪しくなった気がする。

 

『だいじょうぶだよね? マスター』

 

「大丈夫ですよね、ケースさん」

 

血の繋がりもなく、人種どころか体を構成するものが根本的に違う二人が、親子か姉弟かと思うくらいに同じ雰囲気と表情をしていた。

 

「いやあの」

 

ちょっとこれは予想外だったな。

 

そりゃ、ナイアCEOがとんでもない美形で、美しく設計された機械人間より完璧な外見なのは事実だが……。

 

「考えるだけで恐怖で鳥肌がたつ奴に好意なんて持てないし欲情なんてもっとあり得ないんだが」

 

鳥肌だけでは終わらず、俺の体が無意識にぶるりと震えた。

 

  ☆

 

そんな緊迫したやりとりをした数時間後。

 

過密スケジュールでもう一つ葬式を終えた俺は「小競り合い」の現場に来ていた。

 

『まだ終わってないの?』

 

相棒の声は俺の至近距離から聞こえた。

 

俺と相棒の身長差はそれほどないんだが、座高が全然違うので相棒が座っても俺の顎と相棒の頭がぶつかったりはしない。

 

「あの、メモリさん?」

 

しかし人前でこの体勢は恥ずかしくないかい?

 

『へたくそー、もっとあてろー!』

 

相棒は大きなディスプレイに表示された戦場の光景に夢中だ。

 

防衛側は、ケース契約国の下部組織である大地教信徒同盟の艦隊だ。

 

旧式設計の新造戦艦十二隻を三×四の長方形に並べ、複雑な機動はせずに細い緑色のレーザーを同一方向へ向けている。

 

攻撃側は、三隻のフリゲートで構成されたマザーボード型フリゲートだ。

 

このフリゲートは本当に人気で、正規の設計図と建造施設を持っているナイアTECがボロ儲けしているはずだ。

 

「敵側は当ててるし動けているな」

 

『回避はちょっと落ちるけど操縦技術はマスターに近いよ』

 

仲直りの後にテンションが高かった俺たちだが、生業に関係する事柄には真剣になる。

 

「あのあのっ、代表もメモリ議員も、助けに来てくれたんじゃないんですかぁっ」

 

声は大人に近いのに甘えが消えきっていない、聖女の一人が泣き言を言ってくる。

 

彼女がいるのは十二隻の戦艦の中ではなく、その十二隻を指揮する指揮艦だ。

 

聖女の専用艦として建造されたので、艦としての性能は指揮艦のまま、威厳と美しさを兼ね備えた目立つ外見になっている。

 

……同一性能でお値段五割増しだった。

 

『議員同士は対等だから、勝手に助けて後で怒られたらめんどくさいし』

 

「助けて、くださいっ!」

 

全力で頭を下げても惨めにならず真剣さだけが伝わってくるのは、才能といえるかもしれない。

 

「正式な要請であるなら、俺とメモリ議員が指揮を引き継ぐ準備がある」

 

俺はできる限り威厳のある表情を作って、相棒のこともケース契約国内の正式な呼称で呼ぶ。

 

「しかし今のままで勝てるように見える」

 

俺は視線を、聖女からその背後で仕事中の機械人間たちへ向けた。

 

「えっ」

 

聖女が振り返る。

 

地上にいるときは護衛兼アシスタントとして働くAIたちは、十人がかりで手分けをすることで相棒に少し劣る程度のパイロットとして仕事をしていた。

 

『マザーボード型フリゲートが突撃! レーザーキャノンだ!』

 

「やめてぇっ」

 

同一箇所へのレーザー照射には失敗したが同一の戦艦への照射に成功した三隻が急いで離脱。

 

船体装甲の大部分を失った戦艦から、小さくも激しい火花が散っているのが見えた。

 

見世物として楽しんでいる相棒と、配下の死傷を恐れる聖女を比べれば、相棒が残虐に見えるかもしれないが実際は少し違う。

 

『おーい! はやくエネルギーを転送して船体装甲修理装置を起動させなきゃ!』

 

アホみたいに守りが堅い戦艦が、あの程度で沈むわけがないんだよ。

 

相棒の言葉に気付き、聖女の指揮艦のAIたちが慌てて指示を出す。

 

残る十一隻の戦艦からエネルギーを受け取った半壊戦艦が、膨大なエネルギーと引き換えに自動修理装置を起動する。

 

残った船体装甲が波打ち、船倉から供給される資材を吸収して船体全体を新たな装甲で覆う。

 

『ちょっとグロい?』

 

「技術の暴走感があって俺は好きだぜ」

 

距離をとったマザーボード型フリゲートにレーザーが集中するがダメージは少ない。

 

他艦へのエネルギー供給装置の分レーザーの数が少ないし、何より距離のせいでレーザーが減衰しているのだ。

 

「そんな……」

 

聖女はショックを受けている。

 

戦艦十二隻でフリゲート三隻に圧倒されているのだ。

 

そりゃ泣きたくもなるだろう。

 

「これで終わりか」

 

もっとも、本当に泣きたいのは襲撃者の側だろう。

 

地上にへばりつくようにして生きる低技術勢力を襲うつもりで来たら戦艦十二隻で迎撃されて、一隻を大破させてもすぐに回復されてしまったのだ。

 

これ以上戦っても勝てないかもしれないし、勝っても大損だ。

 

マザーボード型フリゲート三隻は、進路を鋭角的に曲げて星系の外へと逃走する。

 

「追撃、で、いいんだよね」

 

聖女は追撃させようとするがうまくいかないが、これはうまくいかない方が良い。

 

俺が最優先で守るのが相棒であるように、大地教信徒同盟が最優先で守るのは大多数の居住空間である地表だ。

 

彼等にとって、撃破も撃退も同じ、勝利であった。

 

『これならだいじょうぶそう?』

 

「同数以下のPvP艦隊には勝てるようになって欲しいがな。一応戦艦なんだし」

 

追撃しようとして陣形を崩す戦艦たちを見て、相棒と俺は同時に肩をすくめていた。

 

  ☆

 

「今日の予定は……あと何だっけ?」

 

総勢二十八人の葬式をしたんだ。

 

普段から体力トレーニングをしているとはいえ、そろそろキツイ。

 

『残っているのは新人の挨拶だよ!』

 

ケース契約国の国籍を得た人間に対する儀式だ。

 

「そうか。何人だ」

 

疲労で鈍った思考に活を入れる。

 

列強とは比較にならないほど零細な国家の国民になるためやってきた機械人間たちだ。

 

代表である俺が礼儀を尽くさないとな。

 

『AIが二十八人だよ!』

 

「いつも通りAIばかりか。……数も同じか」

 

俺らしくなく感傷にひたってしまった。

 

「場所は? ステージか」

 

『マスター愛用の操縦室がいいんだって。素敵な趣味だと思う』

 

相棒がうんうんと頷く。

 

「そうか?」

 

俺は操縦室を見渡す。

 

時間の余裕があるときは掃除しているから綺麗なものだが、戦闘中の衝撃で物が吹き飛んで当たったり、微かな歪みが蓄積して変な模様ができたりと、そろそろ操縦室ごと新品に変える時期だ。

 

『入ってもらっていい?』

 

「ああ」

 

俺も相棒も地位が地位だから義務として外見に気を配っている。

 

念のため相棒を見て俺も鏡で見て……相棒は最高だな!

 

『失礼します!』

 

二十八人の声が一斉に響くと壮観だ。

 

「ん?」

 

壮観なんだが聞き覚えがある声ばかりであることに気付き、俺はケース契約国代表ではなくただのPvP好きとして間抜けな声をもらす。

 

『初めまして! これからお世話になります!』

 

順々に挨拶してくるが、俺が見送った二十八人とほとんど同じ……違うところをあえて探すなら、少し若く見えるくらいか?

 

「相棒、あの二十八人の関係者なのか?」

 

ケース契約国建国直後とは違い、入国審査も採用試験も俺の手を離れている。

 

位相戦闘中を除けば俺の能力はたいしたことがないから、機械人間である相棒や、肉人間としては飛び抜けて優秀なドローンが最終判断以外の大部分を決めているんだ。

 

『関係者というか、本人というか……』

 

相棒はなんとも表現し辛い困惑顔だ。

 

『メモリ様! 最重要パーツしか引き継げなかった機械人間を同一人物扱いするのはすごく失礼だと思います!』

 

『それって一部の列強の狭い地域の慣習じゃんか。マスターは部下の文化を尊重する方針だからうるさく言うつもりはないけどさあ』

 

相棒の目の光は、呆れとほんの少しの敵意。

 

『新しい専用ボディのデザインをマスター好みのにするのって、あざとくない?』

 

一部の機械人間が目を逸らし、さらに一部は小さな音量で口笛を吹いて誤魔化そうとして、代表者らしき一人は開き直った。

 

全員それぞれ髪型は変えてあるが髪は緑系統だし細身だし、顔立ちも相棒の親戚と言われたら信じてしまう程度に近い。

 

『パイロットに向いたボディだとこうなるんです!』

 

『ほんとう? それだけ?』

 

猜疑心に満ちた相棒も美しいなあ。

 

「相棒と相性が良さそうで安心した。初めましてかお帰りかは分からんが歓迎する。ようこそ、俺たちの国へ」

 

宇宙MMOでできたことはすべてできて、宇宙MMOでできなかったこともできてしまうこの宇宙で、俺は相棒とともに生きていく。




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