AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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第二章 建国と列強編
嵐の前の模擬戦


甲高い音を立てて質量弾が飛来する。

 

躱せないと判断した俺は、自艦の位相障壁にエネルギーを注ぎ込む。

 

普段乗っている指揮艦の船体装甲と比べれば厚みも頑丈さも足りないが、たった一発の質量弾に耐えることは十分に可能なはずだった。

 

『位相障壁消滅! 船体装甲にもダメージが入ってるっ』

 

久々にナビに専念中の相棒が、ステージの上では凜々しい顔を焦りで歪ませている。

 

「マジかよこの威力」

 

位相障壁が砕けた音が遅れて響く。

 

宇宙空間では音は鳴らないが、位相戦闘中のパイロットが見る宇宙には音も熱も振動もあるのだ。

 

「亜光速まで加速させた極小質量弾です。ケースさんでもこれは躱せないと思っていたのですが」

 

声と映像が俺の船に送りつけられ、相棒の手によってディスプレイに表示させられる。

 

見た目は十代後半の黒髪の日本人。

 

相棒一筋の俺ですら「綺麗だな」と感じる少女だが、中身は学と礼儀があるだけの戦闘狂だ。

 

「カノン! お前本気でクーデターを起こす気か!」

 

「嫌ですわケース代表。これは新型艦のトライアルの一環です。クーデターでも待遇改善要求でもありません」

 

俺の回避のクセを読み切っているかのように、俺の艦の向かう先にも進路を変更して向かうつもりだった場所にも高速の質量弾が向かっている。

 

『嘘っ。カノンが乗ってる船って僕たちの主星系で建造したばかりの巡洋艦だよね。この武器、列強並の技術水準だよっ』

 

「残念ながら列強の水準には及ばないそうです。発熱が激しく、オートキャノンとして使用すると排熱が追いつかずに短時間で砲身が融解してしまいます」

 

カノンの声が響くと同時に恐るべき砲撃が中断されるが、俺は安堵など感じず恐怖に近い危機感を覚えた。

 

「光速に近い弾しか撃てないとは言ってないよなぁ?」

 

宇宙MMOに近い操縦系に強引な機動を入力する。

 

サーフボードに似た形状の艦が爆発したかのように光って加速する。

 

再展開途中の位相障壁に、初撃と比べればずいぶん遅く威力もその分低い質量弾が二発……もう一つ被弾して三発当たって再度位相障壁が消滅した。

 

カノンの得意技の、一人時間攻撃だ。

 

「さすがケースさん!」

 

カノンは上機嫌だ。

 

上気した肌はみずみずしく色っぽいんだが、カノンの本性を知っている俺には肉食獣が牙を剥いているようにしか見えない。

 

『マスター?』

 

専用の体を持つAIであり、機械人間でもある相棒が肉でできた人間である俺とカノンの姿を交互に見る。

 

その瞳の光り方がどうにも不穏に見えるのは、ひょっとして嫉妬してくれているからだろうか。

 

「こっちに来てから直接会った肉人間はヤベーのばっかりだな本当にっ!」

 

進路を不規則に変更し、船体の向きも小刻みに変えて質量弾を回避する。

 

ロックオンが完了していたら躱せなどしない。

 

カノンは、まだロックオンが完了していないのに自分の腕だけで当ててきているのだ。

 

『えーっと……。今、ロックオン完了されたみたい』

 

「飛ばすぞ!」

 

位相障壁の再展開を諦めて自艦を限界まで加速させる。

 

カノンは俺の艦の性能はまだ知らないはずなのに、亜光速の極小質量弾がサーフボード型の船体を二度かすめていった。

 

「ケースさん。ひょっとして戦闘艦ではなく競技用の艦を使っているのですか?」

 

憂慮する表情は楚々とした美少女なのに、なんでこんなに禍々しく感じるのかね。

 

俺はほとんどはったりでしかない不敵な表情を浮かべてにやりと笑う。

 

「そっちも気合いを入れて作ったんだろうが、こっちの設計も気合いが入ってるんでね」

 

『マスターマスター! カノンが僕たちの国の国産新型巡洋艦で、こっちがナイアTECに外注した巡洋艦だから、国家元首のセリフとしてはちょっと情けないかも』

 

しょんぼりして言う相棒の言葉に、俺は反論できなかった。

 

「ふふ。相変わらず仲がよろしいのですね」

 

カノンは、まるで眩しいものを見る目で相棒と俺を見つめる。

 

なお、祝福するような態度で、相棒と俺がいる操縦室に最も近い装甲を狙ってきている。

 

「でも、反撃しないままでは私に勝てませんよ」

 

「反撃は一度で十分だ」

 

俺は加速を続ける。

 

辺境にある俺たちのケース契約国とは違い、ナイアTECは列強のすぐ側の星系を実効支配する巨大企業だ。

 

それが本気で作った巡洋艦は、大出力の推進器と跳躍機関で軽い船体にすさまじい加速を与える。

 

近付くのも距離をとるのも俺の自由だ。

 

『被ロックオン解除を確認! こわかった……』

 

相棒の銀の髪も、しんなりと力を失っているように見える。

 

カノンの射撃の腕は異能じみている。

 

チートといった方が今風……いや、どちらもこの時代を基準にすれば古代に流行った奴だな。

 

「すまんがもう一度怖いのをするぞ」

 

『これが模擬戦じゃないなら逃げてって主張するけどね! ほんとに模擬戦だよね?』

 

「カノンだからな……」

 

あの性格でよく二十一世紀前半で生活できていたなと思う。

 

猫を被るのはうまいんだろうが、それ以上に戦闘に対して貪欲すぎるんだ。

 

「念のために申し上げます。主観時間で三分間戦闘が途切れた場合は、船体装甲の残量を比較して勝敗が決まります」

 

カノンが穏やかに伝えてくる。

 

そんなつまらない選択を俺がするはずがないと分かっているのだろう。

 

淑やかなのは表情だけで、瞳は最大限オブラートに包んでも「人殺しの目」だ。

 

「二分程度もらうぞ」

 

「楽しみにしております」

 

カノンがにこやかに微笑む。

 

それきり、通信が途絶えた。

 

「しかしこの船、戦艦に近いサイズの指揮艦よりも出力が高いとはねえ」

 

加速を止めて慣性飛行に移行するだけで、一般的には時間がかかるはずの位相障壁再展開が素早く行われる。

 

しかも障壁に込められるエネルギーの量が多い。

 

『この艦にもどきどきするんだよね。船体装甲薄すぎない?』

 

相棒は少し不安そうだ。

 

この巡洋艦は、ケース契約国の主流である船体装甲による防御ではなく、エネルギーを使用して展開する位相障壁に防御を頼っている。

 

巡洋艦本体の装甲は非常に薄く、船体は大型駆逐艦程度しかない。

 

「整備が劣悪な状態なら絶対に乗りたくない艦ではあるな」

 

『うーん、位相障壁は強いとはいえ実質使い捨てだから、弱い相手と戦うなら有効?』

 

「速度を生かして弱い相手と戦う艦でもあるぞ。相手がフリゲートの小部隊でも、まともにPvPができる艦隊なら実相アンカーややクラッキングを使ってくるから、この艦だけで勝てる相手はほとんどいないけどな」

 

『夢がないなー。無双とかできない?』

 

「無双か。一度くらいしてみたいな」

 

最後の息抜きが終わった。

 

「突撃を開始する。相棒、対空射撃は任せた」

 

『うん!』

 

艦の推進機と跳躍機関がうなりをあげる。

 

加速特化型コルベット……フリゲートよりもさらに小さい艦を上回る加速でカノンの巡洋艦に急接近する。

 

『被ロックオン完了まで主観時間で後七秒!』

 

ロックオンがまだなのに、比較的低速で向かって来る弾幕の間から亜光速の極小質量弾が俺たちに向かって来る。

 

サーフボード型の装甲に無数の目が開く。

 

設計図では装甲に覆われたレーザー用レンズなんだが、実物はぎょろぎょろ動く目にしか見えない。

 

『全部無力化は無理っ』

 

「一部が欠ければ十分!」

 

サーフボードから無数の緑レーザーが放たれる。

 

レーザーで熱を与えても弾は融けるだけだ。

 

しかし、一度に大量に熱を与えられた弾は、融けるだけでなく一部が弾けて弾の進路を曲げることがある。

 

「大量にばらまいて確率論で当ててくる相手には無意味だが……」

 

それまでの、模擬戦だというのに実戦以上に感じられていた恐怖が薄れている。

 

異様に当ててくるカノンの弾幕が、文字通り光速で迎撃するレーザーにより狙いを狂わせていた。

 

「それでこそケースさんです」

 

カノンは心底嬉しそうだ。

 

命中確率はともかく威力は長距離でも変わらないカノンとは違い、こっちは近付けば近付くほど威力が上がるレーザーが主力武器だ。

 

どんどん不利になっているのに、カノンはますます機嫌を良くしていく。

 

「ところで」

 

「なんだ?」

 

俺は相棒からレーザーの制御の一部を受け取りカノンの艦を狙う。

 

俺が二番目に手に入れたフリゲートそっくりの、しかし巡洋艦サイズの真新しい船だ。

 

緑のレーザーの狙いを、オートキャノンの砲口付近に集中させる。

 

厚い船体装甲を短時間で焼き切るのは困難でも、ジャムの確率は現時点でも既に急上昇中のはずだ。

 

「模擬戦では乗員は同数という条件がありましたね」

 

「カノンのおつきAIはナニー……いや待てそういうことか!?」

 

嫌な予感を通り越した死の気配を感じた俺は、攻撃を即座に止めて回避行動をとる。

 

相棒による対空射撃は絶好調で、射撃頻度の落ちたオートキャノンの砲撃を高確率で迎撃する。

 

「姉さんがすみません……」

 

新たに通信に現れたのは、地毛が茶髪の少年だ。

 

カノンと並んで見劣りがしない顔には利発な印象が強く、しかし血の繋がりは感じられない。

 

「攻撃ドローンの代わりに演習用ドローンを使っています」

 

『ドローンのうらぎりものー!』

 

この場にいる四人が中心になって建国したのがケース契約国だ。

 

相棒と協力関係になった俺が、食い詰めていたカノンとドローンを雇って、露悪的SFMMOじみたこの宇宙で暴れ回った結果が今の立場……俺が代表で評議会の過半数を占めるのが俺たち四人だ。

 

まあ、色々面倒なのがいるがそれは今はいい。

 

「今日は列強から来た著名人の応対中だろう……」

 

複数のディスプレイの表示が目まぐるしく変化する。

 

俺の能力では目では追いきれず、しかしこの宇宙のこの宙域によく似た宇宙MMOでのPvPの経験が辛うじて砲撃を……カノンの艦とドローンが操作する演習用ドローンからの攻撃の回避を可能にする。

 

「難民申請でした」

 

「またか」

 

『地位と財産を得たAIが考える事ってだいたい同じなんだよね』

 

「俺の知ってる権力者なら名誉と健康と長寿だが」

 

俺が知っている機械人間たちは、戦闘艦パイロットの中でも特に危険な小型艦に乗りたがる変わり者ばかりだ。

 

『本当にやりたいことをしようとするんだよね。僕は偉くなる前にマスターと会ったからその気持ちは分からないけど』

 

「メモリさんはダンスですよね」

 

『僕の専用ボディを使ったダンス! 理想に近い体はもう手に入れちゃったけどね!』

 

「さすがの甲斐性ですね」

 

相棒……。

 

カノンの褒め言葉は本心かもしれないが、相棒の隙を引き出すためのセリフでもあるぞ。

 

だが俺は艦の操作で手一杯で、相棒に警戒を促すこともできない。

 

「姉さんが本当にすみません……」

 

ドローンが頭を下げる。

 

だがこいつはいつも姉優先だ。

 

勝っても俺たちの命を奪わない戦いなら、遠慮などするはずがない。

 

『みっ!?』

 

「王手、ですね」

 

質量弾の激突ともレーザー照射とも違う振動が俺たちの艦を襲う。

 

ドローンの性格から考えて、ペイント弾が着弾したのだろう。

 

これがミサイルなら船体装甲をぶちぬいて操縦室まで届いたはずだ。

 

ディスプレイには「船体装甲の五割を喪失と判定。模擬戦はあなたの敗北です」と表示されていた。

 

  ☆

 

『ケース契約国国営放送総合ニュースの時間になりました』

 

模擬戦の疲れでぐったりとした俺の耳に、付けっぱなしのテレビというか国営放送の音声が届く。

 

『司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』

 

『ハカセだ!』

 

いわゆる女子アナ風の機械人間が静かに、小柄な体に白衣を羽織った機械人間が騒々しく挨拶する。

 

アナウンサーはまだ分かるが、ハカセとは何だ?

 

『ハカセは昨日の学会で選出されました』

 

『最近帰化した者は知らないかもしれないから解説してやろう。古代の娯楽作品において、作中で最も知識と技術力に優れた者をハカセと呼ぶことが多かったという。それにあやかったハカセという名は、ここケース契約国における最高の科学者の称号なのだ!』

 

俺は、国家元首用の椅子に座ったまま、秘書っぽい態度で脇に控える相棒に視線を向けた。

 

『議論中に盛り上がって決まったらしいよ』

 

『真剣な議論の結果だとも! 扱いが雑じゃないかねメモリ議員!』

 

この番組って双方向なのか。

 

『僕は評議会議員でマスターの相棒だからハカセより偉いもん。……次の番組はみんな楽しみにしてるからニュースが途中でも強制終了だよ?』

 

『ハカセは黙ってください。本日行われたマザーボード改型巡洋艦とサーフボード型巡洋艦の模擬戦は、マザーボード改型の勝利になりました。この模擬戦は次期主力巡洋艦のトライアルの一環であり、この勝敗がトライアルの行方に大きな影響を与えると思われます』

 

『……』

 

『ハカセ、解説』

 

『うむ。既に戦闘ログ閲覧権を購入した者は分かっているだろうが、普通は当てられない射撃をロックオンなしで当てるカノン議員と、AIの補助がほとんどない連続超短距離位相跳躍中でも攻撃回避移動の全てを高水準でこなす代表のほぼ一騎打ちだった。AIが数的主力のケース契約国では正直参考にならん! 並のAIが乗っても性能を生かし切れず金の無駄だ』

 

俺の力戦が無駄だったとか言わないで欲しいんだが。

 

『しかし、良かったですよね』

 

『うむ! マザーボード型フリゲートの考えれば動く様な操縦性も素晴らしいが、マザーボード改型の大火力も、サーフボード型の全てに優れた代わりに操縦難易度が狂っているのも最高だ!』

 

『ハカセはどちらが採用されるとお思いで?』

 

『現在地上で研究されている新型位相跳躍機関次第だな。これが良い出来であればマザーボード改型の性能も上がるし、ナイアTECもより高度なパーツをこちらに売ってくるはずだ』

 

『なるほど。地表担当の議員方の活躍次第ですか』

 

疲れが酷くて眠気もない。

 

『マスター、ちょっと休む?』

 

「ああ。聖女たちがチートでどこまでやれそうか直接視察したい。俺は故郷に別れの手紙を送れたら十分以上だが、帰りたい奴もいるだろうからな」

 

新型位相跳躍機関が複数の列強の逆鱗であることを、この時点の俺たちは知らなかった。

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