AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
『ねえマスター。なんで聖国と戦わないといけないの?』
「それはね相棒。最低限戦える準備をしておかないと、俺たちは認識すらされずに潰されるからだよ」
相棒からの素朴な疑問に答えながら、俺は第一艦隊の再編案を作っていく。
列強が俺たちに近づけている戦力の規模は不明だが、質も量もこれまでの敵とは桁違いなのは確実だ。
『戦うの?』
「戦わずにすむのが一番良いがな……」
俺たちは弩級艦……一隻で艦隊に匹敵するかそれ以上の戦力を持つ艦を一隻も持っていない。
攻め込んできた奴らの弩級艦を捕獲はしたが、修理するための予算も資材もなかったのだ。
『逃げてもいいと思う』
今、聖女たちを見捨てるなら聖国から逃げ延びることはできるかもしれない。
「そうだな」
それが相棒の望みなら俺は迷わず決断する。
だが、俺を気遣って相棒が我慢しているときは別だ。
「相棒の踊りを地表向けに放送したら人気が出るだろうな」
相棒の表情が停止し、目の光が動揺を隠せず明滅する。
「地表の人口は多いからな、熱烈なファンが増えてしまうかもな」
『に、逃げても、いいと、思う』
設定済みのテンプレ回答ではなく、リアルタイムで言葉を考えて口にしたのは、たいした根性だと思う。
「こりゃもう駄目だとなったら逃げるさ」
『あっ。ひょっとして勝ち目があったり!?』
相棒の笑みは輝くようだ。
「聖国はまだ聖女連中の実験は知らないはずだ。だから、聖国が俺たちに関心を持っているとしたら「芋」が理由のはずだ」
聖女たちが作る、コピーされた人間やその子孫に効く食料のことだ。
『そうなのかな?」
そうであって欲しい。
「戦いになるなら新型位相跳躍機関を使った罠をしかけてやる。マザーボード改型に搭載するのも良いな」
やるなら徹底的に、だ。
勝てば聖国に憎まれるだろうが、聖国を一部とはいえ撃破したという事実は、巨大な名声と立場を俺たちにもたらす、はずだ。
「というかだな。聖国が俺たちに近付いてるってのが最大の問題なんだ」
『うん。マスターの言うように、認識すらされずに潰されてしまうかも、だね』
近付けば近付くほど、聖女連中の実験がばれる確率も急上昇するだろうしな。
『だから第一艦隊の再編かー』
わざわざ物理的な目で確認した相棒が、にんまりする。
『ディーヴァは候補リストにいないんだ』
「AIにも向き不向きがあるからな。ディーヴァには今の職場で頑張ってもらう」
俺が私情を交えず言うと、相棒は満足そうに頷いていた。
☆
サーフボード型巡洋艦の「目」が一点を凝視する。
一つ一つは細い閃光は、船体装甲の一点に集中することで強い緑と大きな破壊を敵へともたらす。
「やるじゃねえか新入り!」
「同数でAIに負けたら失業だぜ」
「おら、ミサイルをくれてやるよっ」
仮想敵役を担当する凄腕三人組は相変わらず高速戦艦二隻と支援用巡洋艦の合計三隻編成だ。
お互いただのパイロットだった頃の非効率な装備ではなく、ケース契約国の遊撃艦隊として最良の装備で揃えている。
高速戦艦が大量に発射したミサイルは、ミサイル一つ一つをパイロットが操縦しているかのような動きでサーフボード型に迫る。
不自然なほど強烈な加速が始まった。
高性能な慣性制御装置でも確実に負担がかかる加速であるのに、サーフボード型は圧倒的な加速でもってミサイルを振り切る。
いや、二つか三つのミサイルは追いついて爆発しているのだが、強固な位相障壁は小型ミサイル数発程度では壊れない。
「その動き、後輩の真似か!」
「てめっ、まさか」
「メモリの嬢ちゃんじゃねーか!」
『手加減してたら当たらないよっ』
俺の操縦より動きは雑だが体が頑丈だから無理が効く。
圧倒的な加速力で大量のミサイルを翻弄し、一点に集中しても威力は高くないが狙いが正確なレーザーで執拗にミサイル発射口を攻撃する。
そして相棒は一人ではない。
相棒に比べれば明らかに劣るが、それでも機械人間としては上澄みといえるパイロットがサーフボード型巡洋艦で突撃を仕掛ける。
レーザーの威力は距離が短いほど強烈だ。
無謀ではあるが、これが唯一勝ち目がある戦い方だ。
くるんと二隻の戦艦が上下反転する。
サーフボード型巡洋艦のレーザーが、船体装甲のまだ無傷の場所へと狙いをずらされる。
「「「いい腕だったぜぇ」」」
三人組は、極限まで破壊力を下げたミサイルを周囲にばらまく。
その弾幕に突っ込むことになった一隻が撃破判定を下され動きを止める。
残った相棒も二隻の高速戦艦に追い詰められて、主観時間で一分間粘ったがそれが限界だった。
☆
「マジかー」
「ショックだ」
「俺たちも引退を考える時期か」
完勝したはずの三人が、勝利に必要だった時間の長さにショックを受けている。
『勝てると思ったのにー』
『次、勝ちます』
相棒と、相棒を除けば一番パイロットとしての腕が良いAIは、やる気に満ちている。
「なあ後輩。サーフボード型巡洋艦はAIに使わせるのか?」
一人が代表して質問してくる。
「あんた等には、とっておきのミサイルを使って本土決戦という役目がある。ドローンは国家運営のため主星系から動かせず、カノンを乗せるなら亜光速質量弾を使えるマザーボード改型だ。他に候補がいないんだよ」
三人とも難しい顔になる。
「宇宙船操縦技術は俺らパイロットの命綱ってだけじゃない。AIが俺たちを乗り越えるのは構わん。だが、そうなった時、俺たちはいつまで人間でいられるんだ?」
他の二人も頷いている。
「あんたらも俺も、人類全体のことを考える余裕なんてあるか?」
俺は、揶揄のつもりのない、普段は出さない種類の本音を言葉にする。
「肉人間は老化する。コピーすることで擬似的に若返りはできるようだが、あんたらを見る限りではコピーはコピーで危険らしい。だったら、高値がつくうちに売る方がマシだろ」
俺は、相棒が楽しく生きれるなら、俺と同種の人類を破滅に導いても、おそらく気にもしないはずだ。
親しい肉人間は、どいつもこいつもしぶとく生き延びて活躍できそうなのばかりだからな。
三人組は、じろりと俺をにらみつけた。
「「「表面は良識的でも腹の底はドス黒いな」」」
「表面は大事だぜ先輩方」
お互いに好意のない笑みを浮かべてにやりとする。
「好きにしろ」
「引退できるだけの金は稼いだしな」
「ケース契約国はかなりマシな方の国だ。長続きできるなら長続きした方が良い」
三人組は、それだけ言って持ち場へ戻っていった。
☆
『他のパイロットを紹介しなくて良かったの?』
相棒が少し途惑っている。
「あいつらを見せるのはショックがでかすぎるだろ。……そろそろだな」
以前はドローンが使っていた位相跳躍支援艦が、七隻のサーフボード型巡洋艦を引き連れて出現する。
『すまない。主観時間で二秒以上遅れてしまった』
通信越しのハカセは相変わらず白衣姿だ。
『『『『代表! これで合格ですよね!』』』』
複数の機械人間が一斉に話しかけてくる。
七隻に乗っている合計二十八人からの通信だ。
どいつも外見は若いか幼く、どこか相棒に似た雰囲気がある。
「ここに来るまでの航行はどうだった?」
機械人間のみで、目的地までの移動と戦闘訓練を行う予定だった。
ハカセは特にパイロットの才能はないが、体が高性能なので試験監督はなんとかこなせるはずだ。
『代表の故郷では「ドン引き」というのだったか? パイロットの適性を高めるために一度死ぬなど、控えめに言ってどうかしているのではないかね』
「ハカセ。俺の指揮下で死んだ連中を悪く言わないでくれ」
弩級艦を所有する敵相手の戦争で戦死し、その一部から再生された二十八人だ。
『それについては謝罪する』
ハカセは真摯に、俺と二十八人に対して頭を下げた。
『だがね。亡くなる前に二十八人が準備していたものを知れば、代表も見る目が変わるよ』
ハカセは沈痛な表情で、それは相棒もだった。
『否定できないかも』
相棒と二十八人の相性は良く、相棒とハカセの相性はぎりぎり悪くないという程度だ。
そんな相棒がハカセの側に立つということは、かなり問題がある行為なのかもしれない。
詳しい情報を求めて相棒に合図を送るが、相棒は心底申しわけなさそうに首を横にふるふると振った。
「……欲しい才能を手に入れられるのは、俺個人としては羨ましいがね」
俺の本音だ。
PvPでもトップ層と比べれば才能でも負けていたし、生業でももっと才能があればと思ったことなんて数え切れないほどある。
「話が横道に逸れたな」
俺は意識して威厳のありそうな声を出す。
ハカセは航行中のできごとをデータとして相棒と俺に送り、相棒はデータを評価したものを俺に送ってくれた。
「お前たちに、正式にサーフボード型巡洋艦を任せる。任務への精励を期待する」
二十八人分の気合いの入った敬礼は、なかなかに壮観だ。
『肉人間並のパイロットが二人に、四人がかりとはいえ凄腕パイロット限定の艦を操縦できる者が七隻分かね』
特に呼吸の必要のないハカセがため息の動作をする。
『育成ノウハウを目的に列強が襲ってきかねないね』
「そうなのか? 列強ならこっそりAI艦隊を整備していると思ってたんだが」
『僕もそう思ってた』
俺のような人間を量産するより、機械人間を量産なり改造する方が簡単に思える。
『代表たちのような凄腕パイロットは極少数しかいない。その技術をAIに学習させる者などまずいない』
「列強ほど規模がデカイなら、それでも相当な数になると思うがね」
『うーん、列強内部や列強同士の足の引っ張り合いがあるのかも。僕たちの国って、肉人間の人権保護以外は規制が緩いし』
そうか?
俺としてはかなりうるさく決まり事を決めたつもりなんだが。
『緩いどころか無いも同然だね! だから何世紀もやりたいことをやれなかったAIが亡命したり死亡を偽装したりして集まるんだよ!』
ハカセは、相棒と比べればド下手な踊りで、非常に強い喜びを表現している。
「話が長くなりそうだから後でな。相棒、準備はいいか」
『うん! 指揮艦一隻、位相跳躍支援艦一隻、サーフボード型巡洋艦九隻で無法星系を十個くらい突っ切って、聖国が制圧した直後の星系を偵察するんだよね』
相棒の「地図」をもとに作成された計画が、俺の手元にデータとして届く。
同じ操縦室に相棒がいないのは、慣れそうにないな。
「そうだ。目的は情報収集。ケース契約国ではない勢力のふりをして、聖国が何をしているか確認するだけの作戦だ」
本当に、それだけが目的だったんだ。
☆
『何が起きているか分からない!?』
ハカセが金切り声を上げている。
他の機械人間たちも動揺を隠せない。
ただ一人、相棒だけが、俺の表情を見て落ち着きを取り戻している。
「予定に変更なしだ。相棒、星系内にある惑星の状況は分かるか?」
『惑星なんてないよ! 「地図」には表示されてるけど、僕のセンサも艦のセンサも惑星の情報なし!』
「マジかよ」
俺は相棒を疑っているのではなく、相棒たちが頼りにならなくなっている状況を恐れ、そして奮起する。
困ったときに相棒の力になれなきゃ、マスターと呼ばれる資格はない。
「俺の目には、地表にあるはずの人間の痕跡だけが消えているように見える」
原始的な畑はあるが、家屋や人間だけが消え去ったようなありさまだ。
「他には……なんだありゃ」
俺の口から間抜けな声が漏れた。
漆黒の宇宙に、真っ白な、うねうねと動くなまめかしい肉の塊がある。
「白いミミズ?」
古代の田舎の畑で見たことがある。
色と、サイズを無視すればだが。
『ケース代表! 方向と距離を!』
先程までのハカセはただの混乱する人間で、今のハカセは研究しがいのあるものに気付いた研究者だ。
どちらもうるさいが今の方が威圧感がある。
『早く!』
「せかすな。俺の計算速度は古代の計算機よりずっと下なんだ」
いつもは距離や大きさなどを自動的に計算して表示してくれる艦載コンピューターが、惑星や、あの白ミミズについて認識すらできていない。
俺は、外部の映像だけを頼りに、本当に久々に自分自身で計算した。
「……って感じだ。小数点以下は無視してるから正確な数字じゃないがな」
ハカセが奇声をあげた。
『前大戦で鉄国を荒らし回ったのはこれか! 機械人間はもちろん、おそらくコピーを繰り返した肉人間も認識不能? あはっ、なんて滅茶苦茶で素敵なんだ!』
口に出せば面倒事を招き寄せる「機械人間」という言葉を口にしてしまっているハカセは、一瞬我に返って「やべっ」という顔をしたが、すぐに新たな研究対象への好奇心が恐怖を上回ったようだ。
『マスター、どうする?』
「この星系、「地図」では聖国風の名前に変わっているんだよな?」
『うん。あと、生存者の数、たぶん、ゼロだよ』
人類が活動しているなら確実にある反応が、センサで一切関知できないらしい。
「そうか」
俺が力づけるように相棒に頷くと、相棒は少し緊張が緩んだようだった。
俺は白ミミズを見る。
ほとんど虚空のはずの宇宙で、尖端から何かを吸い込み、末端から何かを吐き出すような動きをしている。
「これをぶっ殺せば解決するって話なら簡単でいいんだがな」
いずれにせよ、聖国ってのは気楽に惑星単位で虐殺する勢力ってのは確実だ。
戦うか、逃げるか、隠れるか。
どれを選んでも役立てるように、俺は、惑星サイズの白ミミズの情報を可能な限り収集するのだった。