AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
「鉄国全体が大混乱です」
俺たちを宇宙港で出迎えたドローンは、頭痛をこらえるような顔をしていた。
「ここで話していい内容か?」
「今この宇宙港にいるのは国民だけです」
俺とドローンは並んで歩きだす。
付き従っているのはナニー傘下の陸戦隊AIと、何故か聖女が一人。
相棒は巡洋艦から下りる時間も惜しんで調査結果を送信している最中なので、ちょっとどころでなく寂しい。
「ナイアTECが逃げ支度を始めていました」
所有する弩級艦に最も高価な財産と人材を運び込んでいるらしい。
「耳が早いな」
「僕たちも本当の危機感を抱いたのはケースさんが情報を持ち帰ってからですからね」
ナイアTECには、他の列強と繋がりがあるのか、あるいは相棒と似たような情報手段があるのか。
甘く見ていたつもりはないが、俺たちが推測していたより強大な組織なのかもしれない。
「鉄国は?」
「様々な部署が派手に動いているので情報収集の絶好の機会です。良い点はそれくらいですね」
ドローンは、本当に頭痛に襲われているようだ。
「聖国を迎撃するついでに俺たちを助けてくれたりはしないかね」
「ケースさん、今は冗談を言って良い状況じゃないですよ」
「すまん」
俺は頭を軽く下げる。
ドローン、ちょっと余裕がない感じだな。
「新型位相跳躍機関の情報は、まだ鉄国には流れていないようです。代わりに「芋」は酷い騒ぎになっています」
ドローンの表情は、解決策があるときの顔だ。
「聖女さんたちに了解を得て、浄化済みの水と土ごと生産設備を売る用意をしています」
ドローンが目をやり軽くうなずくと、聖女がぽっと顔を赤らめた。
甲斐性も将来性も顔面の性能も高いのは分かるが、ドローンと付き合うのも付き合い続けるのも大変だと思うぞ……。
「いいのか?」
「聖女が全員帰還するまで時間稼ぎできれば十分ですから。輸出品の代替としては、マザーボード改型にも載せている亜光速質量弾兵器があります。それに、ケース契約国が聖国を撃退したらそれどころではなくなります」
俺はドローンの表情を観察する。
浮ついたところはなく、年齢不相応に覚悟が固まり、しかも余裕がある。
これなら任せて構わないか。
ドローンとその取り巻きとともに会議室に入り、俺はドローンに強烈に促されて上座に座った。
ドローンは、俺が不在の間に打った手と、今から打てる手が複数と、その手を打ったときの展開予想を立体映像とした表示させる。
前者はまだ理解できる量と内容だが、後者は膨大すぎて俺の頭では表面しか理解できない。
ポーカーフェイスを維持していたつもりだったが、俺の内心に気付いたドローンが分かり易く要約したものを改めて表示してくれた。
「聖国とやるしかないか?」
「聖国と鉄国を両方を敵にするか、聖国だけを相手にしてから他との関係を維持するか、ですね」
二つの列強が直接衝突するよう誘導するのはまずいらしい。
双方が本気になって、巻き込まれたケース契約国が物理的に吹き飛ばされる可能性大、らしい、たぶん。
「具体的には」
「これまで放置していた隣接星系を制圧後、そこに現れた聖国勢力に対して退去を要請。無視されるか拒否された時点で攻撃してこれを殲滅します」
「簡単に言ってくれる」
だがまあ、ドローンが全力で頭を酷使した結果、これしかないと判断したんだ。
何よりPvPでかたがつくってのが素晴らしい。
PvPは、俺の唯一の取り柄だからな。
「分かった。聖国は俺がなんとかする。……俺が負けたときの計画は立っているな?」
「ケースさん」
ドローンが苦しげに表情を歪める。
「勝つつもりで戦うのと、勝たないと破滅する戦いは別物だぜ」
俺はにやりと笑う。
文句は文字通り山ほどあったが、保険ってのがどれだけ有り難いか嫌というほど知っている。
保険が無駄になったな、と笑える展開が一番いいけどな。
「ケースさんのコピーに、今のケースさんほどのカリスマがあるとは限りません」
ドローンは絞り出すようにして言う。
「例の白ミミズも、もしコピー経験一回の僕や姉さんが認識できないとしたら、ケースさんが一度死んだ時点でケース契約国は対抗手段を失います。もし僕に見えたとしても、ケースさんほど明確には認識できないという予測が有力です」
ドローンは俺と会話しながらハカセたちと情報交換をしているようだ。
「だから、僕は」
心底つらそうな顔で最後まで言おうとするドローンに、俺はもういいと手をひらひらさせた。
「分かった。今の俺がくたばったら後は気にせず逃げろ。どこまで逃げるか、どいつと組んで再起するかはドローンが決めればいい。そこの聖女も含んだ五人組は連れて行ってやって欲しいが、無理は言わんよ」
ここまで散々仕事をして特大のストレスに晒されてきたんだ。
長く生きている俺が、多少は負担しないとな。
「ケースさん……」
「悪いがカノンは連れてくぞ」
「あ、はい。戦場に行くつもりの姉さんは僕が止めても無駄なので」
ドローンは一瞬遠い目をしてから、俺に対して情念の籠もった目を向ける。
「姉さんは無事に連れ帰ってくださいよ」
「おう。相棒とカノンと一緒に、無事に帰ってくるさ」
俺は、弩級艦を上回る巨大な敵を相手にどう戦うかを、うきうきしながら考えていた。
☆
『ケース契約国国営放送臨時ニュースです』
極めて優先度の高い設定で、主星系全体に対して放送が行われる。
『聖国が新たな星系を制圧しました。予想進路にケース契約国の主星系が含まれる確率は九割まで上昇しています』
宇宙港の一室で原稿を読んでいるアナウンサーは、いつも通りに淡々としている。
『臨時ニュースは事態の解決まで随時行われます。それでは通常の番組をお楽しみください』
最期まで放送を続けるつもりにしか、見えなかった。
☆
「先輩方は、白ミミズに止めを刺すタイミングか、白ミミズから逃げ出すタイミングでミサイルを使ってくれ」
「「「了解」」」
高級ミサイルを満載した武装輸送艦群を引き連れた遊撃艦隊から返答が届く。
できれば主星系の最後の守りとして配置したかったが、この戦いに負ければ全てが終わりだと本人たちからも言われて今の配置に変えた。
「カノンは白ミミズに対して長距離から攻撃しろ。カノンが白ミミズを認識できなかった場合、白ミミズの位置は俺が知らせる」
「承知しました。ただ、位置情報は最初から知らせていただけると有り難いです。わたくしを除けばコピー回数が二桁以上ですので」
カノンが乗っているのはマザーボード改型巡洋艦だ。
同型の艦が十二隻並んではいるが、カノンほどの安定感はない。
『大地教信徒同盟の元パイロットから選抜するなんて、思い切ったよね』
相棒が、俺にだけ届く通信で声を届けてくれる。
俺は表情と頷きで強く同意しながら、声だけで作戦説明を継続する。
「分かった。最後、俺を含む第一艦隊が白ミミズとそれ以外を迎撃する。白ミミズが護衛もなしに動いているってのは怪しい。護衛か別戦力もいるという前提で動くぞ」
俺が乗っているのは真新しい指揮艦だ。
本体の性能に変化はない。
以前の指揮艦ではレーザーキャノンへの情報支援に特化していた設定を、レーザーと位相障壁の支援に変更した程度だ。
「現時点から作戦を開始する。……行くぞ」
総勢五十隻にも満たない艦隊が、ケース契約国に隣接する星系へ侵攻を開始した。
『肉人間はここまで原始的になれるのか』
『ハカセがまた差別表現してるー』
位相跳躍支援艦を操縦しているハカセと、俺の指揮艦の近くでサーフボード型を操縦している相棒が雑談をしている。
「一番、遊ぶな! カノン、聖国とおっぱじめるまでは新兵器は使うなよ!」
この星系に侵攻したのは四十数隻で、その中のサーフボード型数隻が軽く撫でるだけで現地の有力勢力はことごとく壊滅した。
後に残ったのは混乱する酷い賊と、もっと混乱する普通の賊だけだ。
「人間追い詰められたら普段よりみっともなくなるもんだ」
『……うむ』
AIとも肉人間とも言わなかったことで、機械人間にも駄目な所があるというニュアンスが伝わったようだ。
「後輩」
俺よりパイロット歴が長い連中が、緊張を隠せていない。
「すまんがこの戦いだけは付き合ってくれ。可能な限りサポートはする」
「ああ。だが、最悪の場合は俺たちの精神はおかしくなる。そのときは操縦室ごとぶっ壊して構わん」
こいつらの強さを敵としても味方としても良く知っている俺は、困惑と焦りを感じた。
あの白ミミズはここまで恐れるような存在か?
ひょっとしたら、白ミミズよりもおぞましい何かが聖国にはいるのかもしれない。
『巨大質量の位相跳躍の反応を確認した。出現予想地点はこの星系の外縁。出現は主観時間で五分後の予測』
ハカセが淡々と情報を伝えてくる。
「了解。以後、ハカセは遊撃艦隊と行動を共にしてくれ」
勝利して凱旋する場合も、敗北して逃走する場合も、艦隊全体の長距離位相跳躍の速度を引き上げる位相跳躍支援艦は必須だ。
最も敵から遠い場所に配置し、確実に離脱できるようにする必要がある。
『承知した。いつもの舞台で物理的に再会できるよう、古代の神にでも祈っておくとしよう』
ハカセは下手な冗談を言って、通信を終了した。
☆
名目だけケース契約国の構成員にさせられた賊達が逃げていく。
位相跳躍支援艦なしでは白ミミズに追いつかれる速度しか出ていないが、それを気にする余裕は俺たちにもない。
『出現まで後五秒……今!』
空間が揺れた。
違法建築じみた外観の宇宙港がいくつも崩れ、大地震が確認できた惑星がいくつもある。
「相変わらずうねうねしてやがる」
俺は白ミミズの気持ち悪さを感じる余裕もない。
その位置と大きさを全艦に共有するための作業で精一杯だ。
「白、ミミ……? いえ、わたくしの目には、娯楽作品に登場するような巨大な怪獣に見えるのですが」
幸いなことに、カノンは白ミミズを認識できたようだ。
肉人間とは思えない速度で、亜光速の極小質量弾をぶち込むためのデータを僚艦に送りつけてくる。
「「「こっちは姿は見えねえ! だが位置は分かるぞ。ひでぇ気配がこんだけ離れてても肌と内臓に届きやがる。聖女の嬢ちゃんたちの芋のお陰だな!」」」
遊撃艦隊の三人は不敵な表情だ。
だが動揺は隠せず、顔にも酷い汗を滲ませている。
「相棒、誰何と退去要求だ。一斉にするぞ」
『うん!』
ここはケース契約国のものだ。
お前は何者だ。
とっとと立ち去りやがれ。
やる気か、あぁ?
という内容を外交用文書にそのまま載せても問題ない言葉に変換。
俺は肉声で、相棒は一般的なデータ形式で、ほぼ放送の形で白ミミズがいる場所へ送りつけた。
「主観時間で一分後まで回答がない場合は、言葉を解さぬ非文明人と判断して実力で排除する、以上だ」
普段の言葉遣いと全然違うので、俺はいつものPvPの数倍は疲労した。
『こっちも送信終了したよ。……反応、あると思う?』
「回れ右して帰ってくれれば最高なんだがな」
『だよねー』
お互い、いつでも戦闘を始められる状態に、自身と艦の状態をもっていく。
そして、一分が経過した。
「予定に変更なし」
「はい。攻撃を開始します」
カノンが応え、マザーボード改型が一斉に向きを変えた。
白ミミズを真正面に捉えた砲門から、極小の質量弾が一斉に発射される。
亜光速とはいえ、星系を半ばまで横切るような距離があるから普通ならたどり着くまで三十分はかかる。
だが今は位相戦闘中だ。
いつもとは少々異なる法則が働き、ほんのわずかな時間で白ミミズまで肉薄する。
「白ミミズが体を捻り始めた」
「わたくしには威嚇しているように見えます。……着弾します」
位相障壁と船体装甲で守られた巡洋艦でも一発で撃破されかねない極小質量弾が次々に命中する。
惑星サイズの巨体のあこちが波打ち、一部は表皮が割れて体液が飛散する。
「「「悲鳴?」」」
三人組がぞっと青い顔で、しかし闘志は維持したままつぶやく。
「俺は元気なミミズと路上で乾いて死んでるミミズしか知らないからな」
「ケースさん、本当に白ミミズに見えています?」
カノンの艦は、最初に攻撃した直後から移動を開始している。
同型艦たちは、カノンの動きを真似ようとはしているが判断も動きも鈍い。
『ケース代表の言葉と体の反応から仮称「白ミミズ」の位置を推測できるようにした』
「感謝しますハカセ」
カノンが部下に命令するときに、少しは楽になるはずだ。
『マスター、敵から反撃がこないね』
「油断するなよ」
カノンたちからの砲撃は続いている。
弾は小さくても速度が亜光速なのでダメージは極大だ。
そんな弾を、才能かいわゆるチートだかは分からないが、現実にアホみたいな命中率を誇るカノンが撃ったり撃たせたりするのだ。
惑星並の大きさの巨体が、わずかずつではあるが肉眼で分かる程度に小さくなっていく。
『今、変な反応が』
相棒が首をかしげた。
「ケースさん。敵艦です。駆逐艦サイズの艦……と思われるものが急速接近中。七隻です」
「第一艦隊で迎撃する」
「「「すまん後輩。俺たちにはうっすらとしか見えん」」」
「あんたらの腕ならうっすら見えるだけで十分だろ。白ミミズへの止めは頼むぜ」
俺は慰めではなく信頼を口にする。
「落ち着いていけ。アホみたいな数がいない限り絶対に勝てる」
俺は、第一艦隊の軌道を小刻みに修正しながら檄を飛ばす。
実際、俺のPvPの知識がある程度でも通用するなら、相手がどれだけ強くても一方的に負けることだけはない。
列強なら強力な設計や強力なパーツを使えるだろうが、位相戦闘中でも物理法則を完全無視はできないのだ。
「白い駆逐艦か。もっと生っぽい設計だと予想していたんだが、な!」
言葉にする時間も惜しんでレーザーでの攻撃を指示する。
サーフボード型巡洋艦の表面にレーザー用の「目」が開かれ、合計九隻による膨大な緑の線が白い駆逐艦に集中した。
【馬鹿な。何者だ!?】
「てめーらこそ何者だ!」
PvPの煽りモードに移行していた俺は、無意識に返事というか罵倒を返していた。
白い駆逐艦が、まるで素材が木で、ここが大気圏内であるかのように燃え上がる。
『敵艦からパイロットの脱出を確認……なにこれ、半透明な宇宙服? 笹型の長耳?』
その瞬間、俺が連想したのはエルフではなく、ある理性的な宇宙人だった。
彼らが登場する作品に登場するのはビーム兵器と跳躍する魚雷。
あれはまずい。
「総員全力回避ぃっ!」
何より俺が全力で躱す。
生き残りの白い駆逐艦が、同じく白い、魚雷にしか見えないものを一発ずつ発射する。
それは青い炎を後ろから吐きながら加速して、連続でも自ら考える力があるかのように回避中の艦を狙う。
『マスター!』
「メモリ!」
無理矢理エネルギーを高められたレーザーが、指揮艦に迫っていた魚雷一つを打ち落とす。
複数のトラクタービームが相棒の艦を捉え、魚雷に被弾直前だったサーフボード型をぎりぎりで指揮艦に引き寄せる。
爆音が発生した。
遠くまで飛んだ魚雷が、操縦技術で劣るマザーボード改型を巻き込み爆発したのだ。
操縦室の脱出は失敗……いや待て、操縦室どころか船の残骸すら残っていない。
何が起こった?
『位相障壁も船体装甲も一瞬で消滅してる』
相棒の目の光が恐怖と驚愕で瞬く。
『位相跳躍魚雷だとっ!? ケース代表、躱せ! 現行の位相障壁も船体装甲も位相跳躍魚雷には対応していない! 禁止兵器だぞこれはっ』
ハカセが動揺しながら必要な情報を渡してくれる。
俺は全てを知った上で、歓喜で爆笑した。
あんな反則級の魚雷を駆逐艦に何発も積めるか?
もし二発目があるならとっくに撃っている。
「今だ殺せ! 奴らはレーザーの射程内にいるぞ!」
敵艦から灰色のレーザーが伸びる。
しかしそれはサーフボード型巡洋艦の位相障壁を傷付けはしたが破壊できず、俺の指揮艦の船体装甲を大きく抉ったが艦の機能を止められない。
「無駄な抵抗をしてやがるぜ。撃てぇ!」
俺は血に餓えた猿のように叫ぶ。
かつてないほど詳細な諸元を送られた機械人間達が、回避を試みる白い駆逐艦を容赦なくレーザーで串刺しにする。
「てめーら偽エルフにも長寿と繁栄を祈ってやるよ。捕虜としての長寿と繁栄だがなぁ!」
聖国の侵略部隊が爆散する宇宙で、俺の高笑いが響いていた。