AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
緑の閃光が敵船を貫いた。
位相障壁は破れたまま回復せず、閃光が消えても船体装甲に空いた穴は残ったままだ。
穴に残った熱が、傷口を生々しい赤に染めている。
もちろんこれは現実の光景ではない。
攻撃用レーザーは目視不可能だし、この「大破した宇宙船」は光速で数秒かかる距離にいて、眼の前のモニターに映っているのは予測画像でしかない。
『本船の位相障壁が回復しました』
『敵船Bからのロックオンが継続中です』
『レーザーキャノン冷却完了まで主観時間で後十五秒』
自動読み上げの報告が複数重なって聞こえる。
相棒の声だが相棒の意思はほとんどない。
位相戦闘中は、相棒の思考速度は大昔のAI程度に落ちてしまうからだ。
遠くから赤いレーザーが伸び、俺の船の位相障壁にぶつかり少しずつ破壊していく。
「はっ、遠距離のレーザーなんて見かけ倒しだって、パイロット養成スクールで習わなかったのかね!」
『撤退を推奨』
『敵増援が到着。以後、敵船Cと敵船Dと呼称します』
『敵船Aから操縦室が射出されました。敵船Aの所有権が本船のパイロットへ移行します』
「何度聞いてもイカレた法律だな」
俺は……ほんの数日前までは平凡以下の日本人で唯一の趣味がMMOのPvPだった男が、操縦桿を動かし艦の進路を変える。
慣性制御でも消しきれない重力が俺の胸を強く押すが、敵船CとDがばらまいたミサイルの予想進路上にとどまるよりはずっとマシだ。
「治安維持艦隊の到着まで後何秒だ」
『最短で、主観時間で六十一秒です。理由を説明しますか?』
「勝ってからゆっくり聞くよ」
主観時間という怪しい用語を使っているのには理由がある。
ハードSF好きには常識だろうが、真っ当な物理法則がある宇宙で、絵的に派手な宇宙戦闘なんてまずありえない。
俺が今巻き込まれているのは、敵味方両方が超短距離の位相跳躍を連続使用しながら行う戦闘だ。
超短距離の位相跳躍を連続使用すれば、エネルギーを滅茶苦茶節約しながら実質的に光の速度以上で戦闘可能になる。
もちろん欠点もある。
圧倒的な思考速度を持つSF時代のAIの性能が激減して、脳みそで考えるしかない人間パイロットが主役になるって欠点だ。
だから、ポンコツな人間でも分かる「主観時間」で戦うしかないわけだ。
『被弾率上昇中』
『位相障壁が消滅しました』
『船体装甲が最大値の六割まで減少しました』
「こいつらいいミサイル使ってやがる。もう俺の船を捕獲しても赤字確定だぞ」
距離による減衰がないミサイルがメイン武器の敵が相手なら、近づいた方が戦い易い。
敵のミサイル命中率は上がってしまうが、こっちのレーザーも当たり易くしかも強力になる。
『レーザーキャノン冷却完了』
「ロックオンが完了したら俺の命令を待たずに攻撃」
『攻撃しました』
画面だけでなく俺の船全体が揺れた。
モニターに、緑の閃光に貫かれて爆散する敵船Cが映る。
今俺の船にぶつかっているのは、敵船Cの破片なんだろう、多分。
「モニターへの反映が遅くないか?」
『AIへの投資を行ってください』
『船体装甲が最大値の四割まで減少しました』
『本艦の機能に軽微な損傷を確認』
『撤退を強く推奨』
「まだいける。治安維持艦隊到着までなら戦えるさ」
『即時の撤退を強く推奨!』
……今の音声には、相棒の強い意思と感情がこもっていた気がする。
「DをロックオンせずにBに集中。レーザーキャノンはロックオン完了次第発射。操縦は引き続きこっちでやる」
『敵船Bに対するロックオン完了まで主観時間で後十一秒』
『本船の位相障壁が復活します』
『レーザーキャノン冷却完了まで主観時間で後十七秒。冷却効率が低下中です』
「戦闘機動で俺の体にもスリップダメージ中、ってな。……新たな敵増援は?」
『星系内に動きはありません。宇宙港の外で迷彩状態の可能性はあります』
『敵船Bからの通信要求です。受け入れますか?』
俺は舌打ちする。
「拒否した場合のデメリットは?」
『治安維持艦隊による取り調べの際に、不利になることが予想されます』
初心者狩りに襲われた俺が、ほぼ初心者の集団を襲った奴とみなされる恐れがあるってことだ。
「繋いでくれ」
「お、おい。同じ日本人だろう? 話を……」
「敵は戦闘中に雑談を試みた。時間稼ぎと判断して攻撃を続行する」
実際、敵船Bから赤いレーザーが飛んできているしな。
『船体装甲が最大値の二割まで減少しました』
『本艦の第二船倉に破損を確認』
『レーザーキャノンを使用します』
今度は命中と同時にモニターへ反映された。
通信が途切れ、画面の中では燃え上がる宇宙船から脱出艇兼用の操縦室が逃げ出す。
これで敵は残り一隻だ。
『敵船Dからの通信要求です。受け入れますか?』
「敵船Dにロックオン。長距離位相跳躍を試みたら無警告で攻撃しろ。通信要求を受け入れる」
『敵船Dに対するロックオン完了まで後九秒。回線を接続します』
「俺は巻き込まれただけだ! あいつらが俺にやれって!」
「遺言はそれでいいのか?」
「人殺しだぞ!」
俺はため息をこらえる。
「この宙域では宇宙船のパイロットに人権なんてねーよ」
「お、俺は転生者だ! お前なんか俺のチートで……」
「お前さんに、俺を故郷まで連れていけるチート能力があるなら喜んで頭を下げるがね」
「ある!」
「相棒、真偽をチェックしてくれ」
『偽の確率が九割を超えています』
「だとよ。つーか、本人が死ぬ気じゃなければ、死ぬ前に脱出できるから人殺しにはならんよ」
『レーザーキャノンを使用します』
四度目の爆発は敵船全てを吹き飛ばす。
ぼろぼろの操縦室だけがかろうじて生き残り、宇宙空間を漂っていた。