AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
「「「こいつらが聖国の人間か」」」
発声も言葉遣いも少しずつ違うが、三人組は喜びと興奮と混乱が入り混じった表情はとても似ていた。
「正規市民なのか、戦闘艦用のパーツなのかは分からんがね」
【無礼なっ】
また変な声が聞こえた。
「今の聞こえたか?」
『すごく表情豊かだから考えは推測できるけど言葉は読み取れないよ。マスター、ほんとに聞こえてる?』
「聞こえてると思うんだがな」
宇宙戦争ができる世界なので、幻聴や催眠を強制する技術も存在するだろう。
相棒の意見の方が正しいかもしれない。
「とりあえず捕虜として扱う。俺たちは文明人だ。条約を結んでいない相手でも丁寧に扱えよ」
【中身のない人形に触れさせるなぁっ】
偽エルフは暴れようとして、機械人間たちに取り押さえられている。
『代表、偽エルフとは何だね』
「外見が似てるだけだ。気にしないでくれ」
知識量が多いはずのハカセでも知らないのか。
俺の生きていた時代が、ここから見れば古代というというのが改めて実感できた。
『マスターがショック受けてるけど気にしないで。こういう顔のときは重要なこと考えてないから』
『うむ』
「古代の名作が忘れ去られているのは由々しき事態だと思うぞ!」
俺の抗議はあっさり聞き流された。
「「「後輩」」」
「分かっている。惑星サイズの化け物の護衛が、駆逐艦七隻だけって展開はなかったか」
昆虫の群れめいた秩序をもって、俺が知覚できるだけでも五十隻以上の白い駆逐艦が俺たちに迫ってくる。
「カノン、後退しながら砲撃継続は可能か」
「わたくしでも数分で追いつかれます。他の者は一分以内です」
命じられればやるという気合が感じられる。
「よし。逃げるぞ」
白ミミズにダメージを与え、聖国の駆逐艦を撃破して捕虜も得たんだ。
これ以上は欲張りすぎだ。
「「「やるか?」」」
「あんたらの腕を疑うわけじゃないが、肉人間がパイロットをしている駆逐艦に当てられるか?」
三人組が舌打ちする。
位相戦闘ができない相手には絶大な命中率を誇るミサイル攻撃も、巡洋艦と比較しても小型で素早い駆逐艦相手に命中させるのは難しい。
こいつらの腕なら当てはするだろうが、効率は圧倒的に悪いはずだ。
「「「全部使って四十隻落とすことができたら運がいいと思ってくれ」」」
「了解。ミサイルは第二ラウンド用に温存しておいてくれ」
これなら主星系での決戦はなしですむかもしれない。
それが甘い考えだと、すぐに思い知らされることになる。
☆
「レーザーの操作は俺に回せ。後退しながら回避!」
俺も指揮艦を操縦しながら七隻のサーフボード型のレーザーを操作する。
これが辛い。
『外れたっ?』
駆逐艦より一回り小さな白いフリゲートが、パイロットの負担を考えない鋭角的進路変更で緑のレーザー群を回避する。
本来のレーザー担当AIに任せればいくつかは当たったんだろうが、サーフボード型に乗っている全員を回避と後退に専念させないと躱しきれない。
俺が支援しなくても回避と後退と攻撃をしてくれる相棒と一番が、今は本当にありがたい。
『不明艦接近!』
「フリゲート、白、三十以上!」
仕事が増えたことで俺の処理能力が完全に追いつかなくなった。
白い駆逐艦を追い越し、一回り小さなフリゲートたちが第一艦隊をレーザーの射程におさめる。
敵の灰色のレーザーが俺の指揮艦に次々に命中する。
一隻につきレーザー砲塔は一つしかなくその威力も低いが、クラッキング用の装備がない第一艦隊ではロックオンを外すことは不可能だ。
膨大な量のミサイルが後方からやって来る。
三人組が独断で発射したんだ。
巨大な白ミミズを破壊するためではなく、敵の追撃を邪魔することを最優先にした攻撃だ。
当たれば駆逐艦でも危ないミサイルが一定の間隔を開けて飛来する。
半端な腕ならどこかに引っかかって艦の一部を吹き飛ばされる。
だが、白いフリゲートはどれも冷静で、小回りと加速を活かしてミサイルとミサイルの間を通過していく。
宇宙という戦場は、有限のミサイルで塞ぐには広すぎるのだ。
ミサイルが爆発する。
三人組が勘で仕掛けていた時限爆発で、多数のフリゲートが爆発に巻き込まれてダメージを受ける。
『こちらでもフリゲートを確認した。損傷艦を除いて残り十九隻だ、代表』
「速度も負けているか」
いよいよ年貢の納め時かもしれん。
『マスター。僕、戦うから』
「……頼りにしてるぜ」
相棒は、逃げてはくれないか。
大勝利の直後の判断ミスで絶体絶命のピンチとは、この宇宙で目覚める前の俺みたいな失敗だ。
俺は気合を入れ直し、ずきずきと痛み始めた頭を無視して全てを同時に操る。
多数のサーフボード型から緑の細い線が黒い宇宙にばらまかれ、複数方向から直撃を浴びたフリゲートが位相跳躍機関と推進機に不調をきたして第一艦隊を追えなくなる。
それが約十隻。
残りのフリゲートが執拗に指揮艦を狙う。
一番が一隻を撃破する。
相棒が乗っているサーフボード型を俺の盾にしようとして、あっという間に位相障壁を破壊された。
ここまでか。
無意識に指揮艦を反転させ敵艦隊めがけて突っ込ませようとしたそのとき、しばらく聞いていなかった声が宇宙に轟いた。
「儂は勅任艦隊司令のワンオ下級部隊長である!」
ケース契約国の設計思想ともナイアTECの設計思想とも異なる、完全に無機質な巡洋艦が敵フリゲート艦隊に真横から突っ込んだ。
直後に展開されたのは、搭載されたミサイルとレーザー砲を使った全目標同時攻撃だ。
まるで別のルールで動いてるかのように、恐ろしく速くそして機敏なフリゲートを、ただの一撃で破壊し尽くした。
『その一の子分のシロだお!』『その一の子分、クロ!』
白い駆逐艦の群れも受難に襲われていた。
白いフリゲートよりもさらに速い高速フリゲートが、無謀としか思えない接触直前の距離まで接近しては一度のレーザーで駆逐艦に致命傷を与えて次の獲物に襲いかかる。
アホみたいに強い。
いや、強いのは事実だが、まるで聖国の戦力にメタを張ってるような艦を使っている。
艦隊司令とその直属なのに巡洋艦とフリゲートを使っているのは、聖国の艦隊が小回りの効く艦ばかりだからか?
『マスター! ぼうっとしないで!』
思考が横道にそれていたことに、相棒の叫びで気づく。
「あの三隻……今俺が指定した三隻には絶対に攻撃するな。武器を向けるのもなしだ」
鉄国の治安維持艦隊に属するワンオ氏と揉めたくないというのもあるが、命を助けてくれた相手に武器を向けるってのは、よっぽどの理由がない限り人として論外の行動だからな。
「若造! お前」
通信越しに映るワンオ氏の筋肉が隆起し、軍服がみしりと鳴る。
「民間パイロットが聖国艦の残骸のオークションをすると聞いて急行してみれば……何がどうなっている!」
何のことだ?
「ケースさん。独断ですが弟に聖国艦撃破と捕虜確保の連絡を入れたのはわたくしです。オークション情報を周辺星系に流し、鉄国にも情報が届くように仕向けてくれたようですね」
「……どうやら間接的に命を救われたようだな」
俺はカノンとの会話を切り上げ、ワンオ氏に対して頭を下げる。
一瞬も気を抜けない位相戦闘中なのでディスプレイから目を離せず深く頭は下げられないが、気持ちは最敬礼のつもりだ。
「ありがとうございます。お陰で、部下も俺も命が助かりました」
「感謝は受け取る。……説明しろ」
「はい。我々、ケース契約国の星系に所属不明の戦力が現れ、誰何しても返事がなく、退去を命令しても撤退しなかったため攻撃をしかけました。その結果が現状です」
『ここまで白々しいのは百年ぶりだお』『そこの駆逐艦、もらう!』
白い駆逐艦がレーザーで食いちぎられ、数隻まとめて爆発する。
「鉄国が直接関わるのは高治安星系のみだ。儂がここにいるのは儂の私事でしかない」
『クロ、卑怯だお!』『負け犬、遠吠え!』
ワンオ氏と他の二人の温度差が激しい。
もっとも、違うのは態度だけでやってることは変わらない。
近くの白い艦を殲滅したワンオ氏は、高速な位相跳躍魚雷を百発百中に近い腕前で迎撃している。
レーザー砲を対空砲として扱うのは俺もやってるが俺ではここまで当たらない。
ワンオ氏はカノン並に射撃が上手い、ということか。
「どうする?」
ワンオ氏は詳しくは言わず、白ミミズがある方向に視線を向ける。
よく見ると少し視線がずれている。
ワンオ氏は、気配は感じられても目視はできないのかもしれない。
「ミサイルはもう品切れです。亜光速質量弾兵器はありますが、完全に止めを刺せるかどうかは……」
「そうか。忌々しい怪物の狙い通りになるかもしれんな」
いかめしいワンオ氏の表情が嫌悪で歪む。
「あらあら。ワンオさんにそれほど警戒される怪物というものを、わたくしも見てみたいものです」
俺の体がびくりと震える。
鳥肌がたち、喉がからからだ。
「ふん」
ワンオ氏が振り返る。
はるか彼方、隣接星系よりは近い場所で、レーザー砲撃型弩級艦がこちらに向かって移動中だった。
「わたくしもオークションに参加させていただきます。ところで、あの場所にある「何か」は、ワンオさんのものでもケースさんのものでもありませんよね?」
ナイアCEOは極上の鈴の音のような笑い声とともに言う。
高治安星系ですら、撃ち落とした奴が撃ち落とした物の所有権を手に入れるのがこの無法宇宙の法だ。
この星系でも当然、勝った奴が総取りだ。
「戦えるか?」
「サーフボード型巡洋艦はナイアTECが建造しました。何が仕掛けられているか分かりません」
ハカセやドローンたちがあらゆる調査を行ったが、全員口を揃えて「ナイアTEC相手の戦争には使うな」と言っていたからな。
「ぬう……」
ワンオ氏の渋面が酷くなり、ナイアCEOが比喩的にも物理的にもつやつやした。
付近の白い艦隊をあらかた片付けた高速フリゲートが、ワンオ氏の汎用巡洋艦の両脇にぴたりとつける。
『あいつ意外と早いお』『親分、客!』
シロとクロはナイアCEOを無視している。
ナイアCEOの側も、ワンオ氏を嘲弄あるいはからかっているときとは異なり、シロとクロに対しては俺でも気づけるほど警戒心を抱いているように見えた。
「ケースさん、聞こえますか。僕です。ドローンです」
……幻聴か?
「聞こえてないのかな。ディーヴァ、急がせて」
『これ以上は無理です。既に戦艦の三割が脱落していますっ』
「たった三割じゃないか。女神様ごっこに本気になったのですか?」
ドローンが冷笑する。
『なんてことを』
今のディーヴァは、どこか作り物めいていた。
「本当にドローンか? 嘘だったら、俺は紳士でいられないぞ」
俺はどきどきしながら、通信越しにそう伝えた。
「ケースさん。よかった、無事だったんですね! 間に合ったぁ!」
『いまの、きかれてっ』
平然と喜んだドローンと、激しく動揺するディーヴァを、俺はどう評価すべきなんだろうか。
「大地教信徒同盟の戦力を引き抜けるだけ引き抜いてきました。そこにナイアTECと鉄国の治安維持艦隊がいますね? 到着まで主観時間で数分です。なんとか時間を稼いでください」
「ああ、なんとかやってみる」
なお、俺とドローンはお互いにしか通じない秘匿通信で会話している。
ただ、ワンオ氏以下三人とナイアCEOは、俺たちの会話が聞こえているみたいなんだよな。
「若造。後継者は人格も重視した方が良いと思うぞ」
『ああいうのには飼われたくないお』『性格、酷い』
酷い言われようだ。
「実力のある若いのにしては、かなりまともな部類だと思うんですが」
俺は、精一杯表現を穏やかにした抗議をする。
「若造のところは良識で売っているのだろう。二代目から大きく方向転換するつもりなら構わぬがな」
『いつも一緒にいるのと子供つくらないお?』『シロ、それ、違反』
三人組は好き勝手言っている。
ただ、俺やケース契約国に対して敵対的な気配はない。
俺は意識して息を吐き、気持ちを切り替える。
相棒との子供は違反でも作る。
しかし作るまでに何十年もかかりそうだから、ケース契約国の二代目はドローンになるだろう。
俺を無理やり延命しても、俺が耄碌して国を滅茶苦茶にしそうだしな。
「ケースさん、素晴らしい後継者をお持ちですね」
直前まで場を支配していたナイアCEOが、全力で媚を売ってくる。
ナイアTECの大火力弩級艦なら護衛が壊滅した白ミミズを簡単に殺せるかもしれない。
だが、ドローンが連れてきた、質はともかく数は大量の戦艦に攻撃されたら良くて相打ちだ。
『マスター、ナイアTECの艦隊、弩級艦以外は長距離移動に特化した艦ばっかりだよ』
「以前にドローンが言っていた、逃げ支度を始めていたという情報は正しかったみたいだな」
いい感じだ。
ワンオ氏は無茶を言う種類の人間ではないし、俺たちにはナイアTECが無理を通そうとしても阻止できる程度の戦力はある。
そして、聖国の艦隊の残骸やパイロットが宇宙空間に漂い、護衛を失った白ミミズが傷を負った体を弱々しくくねらせている。
「獲物をどう分配するか話し合いたいと思うのですが、いかがでしょう」
ワンオ氏が鼻を鳴らし、ナイアCEOが妖艶な笑みを浮かべる。
切り分けられるパイと化した聖国艦隊を背景に、邪悪な交渉が始まった。
次回、第二部最終話です。