AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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準列強への道

「生きたまま解体か」

 

俺は、弩級艦の極太レーザーに焼き切られていく白ミミズを眺めながら、そんな言葉を口にしていた。

 

腹が「ぐう」と鳴いた。

 

緊張がとけて食欲が復活したか?

 

『ます、たあ? あれ、たべたいの?』

 

相棒が激しく動揺している。

 

「食欲は刺激されるが安全かどうか分からない。長生きしたいし止めておくよ」

 

戦場の主役は、俺たち第一艦隊から、火力のナイアTECと監視役のワンオ氏とドローンの艦隊に移っている。

 

暇になった俺たち、というよりハカセや研究職のAIたちが、俺の反応から「AIには見えていないもの」を見るための機械を大急ぎで作り上げて今試運転中だ。

 

『あれだよ? 肉人間には刺激が強すぎるんじゃないかな?』

 

「色は変だが肉だしなぁ。古代でも苦手な奴は本当に苦手だったが、俺は牧場見学すると食欲がわくタイプだったし」

 

善悪、強弱という意味ではなく、俺がそういう属性を持っているだけだ。

 

『うん……』

 

「食生活については後で話し合おう」

 

あくまで伝聞ではあるが、結婚当時は仲が良かった夫婦が冷め切ったり侮蔑しあったりする仲になることもあるらしい。

 

俺は俺にとっての最高の相棒と環境を守るため、人間関係の維持に手は抜かない。

 

『ん。そうだね。そろそろ補給と簡易でいいから整備しておきたいよ』

 

相棒の目の光が、仕事に真剣なときの色と強さになる。

 

「ケースさん、今時間いいですか」

 

「ドローンか。そっちは問題ないか?」

 

「致命的な問題はありません。この状況に到達すれば、後はケースさんたちが生きていればなんとかなります」

 

ドローンは気楽な様子で肩をすくめた。

 

「鉄国の治安維持艦隊のまともな艦隊司令に目撃されたのが大きいです。これで、ケースさんが聖国の戦力を撃破したことが公になりました」

 

「あれが主力とは思えないが」

 

「僕もです」

 

ドローンがあっさり頷く。

 

「でも聖国の艦隊と何かなのは事実です。捕虜もそう言ってましたよね」

 

「言うというか、まあ……」

 

言葉で意思疎通できなくても、文字なりジェスチャーなりが使えるからな。

 

手間取ってはいるが事情聴取は順調だ。

 

鉄国のパイロットや一般人の待遇ではなく、ケース契約国の一般客の待遇にするだけで情報を大量に吐き出すようになった。

 

「手下の待遇も下げすぎるとああなるっていう見本だな」

 

「僕はうまくやります」

 

凛々しい表情になるドローンだが、言っていることは超ブラック企業の若手幹部っぽい。

 

「ほどほどにな」

 

「はい。適度にやります。……メモリさん」

 

『うん。この星系を拠点にするかどうかだね。白ミミズが惑星に与えた影響を考えると、厳重に防御を施した基地や宇宙港でも安全かどうか分からない』

 

「はい。僕たちは聖国の技術についてほとんど知りません。オークションで値を吊り上げて他勢力に売るのはいいですが、僕たちで使うのは躊躇してしまいます」

 

なんとなく分かるような、分からないような。

 

まあ、こういうときは専門家に任せるべきだな。

 

「ハカセが技術的にいけると断言したら、この星系に拠点を移す。今の主星系は鉄国に近すぎる」

 

鉄国は味方ではない。

 

ケース契約国が価値ある物を持っているとき、その価値が奪う手間を上回るならためらいなく奪っていくはずだ。

 

「古代と変わりませんね」

 

「俺は詳しくは知らんが、ドローンが言うなら古代でもそうだったんだろう」

 

怖いな古代、いや二十一世紀前半。

 

『ケース代表! 艦内で調べるのはそろそろ限界だ! この星系に宇宙港を建設して欲しい! できれば今すぐ!!』

 

強引に通信を繋いできたハカセは、物理的には目が血走っていないが、目が血走っているようにしか見えなかった。

 

  ☆

 

それから十日が過ぎても星系内の惑星にも宇宙船にも異常は見つからず、俺たちはこの星系に宇宙港を建設することにした。

 

『大きいね、マスター!』

 

「ああ。感覚が狂いそうな大きさだ」

 

相棒も俺も、アホみたいに大きなエントランスで、宇宙が見える透明な天上を見上げていた。

 

「あれ、まだ生きてるよ」

 

切り分け役はナイアTECの弩級艦から、鉄国から直接派遣された大型調査船に変わっている。

 

聖国の技術情報を徹底的に搾り取るつもりなのだろう。

 

『『ケース様、メモリ様』』

 

相変わらず見分けのつかないナニー……どちらも同じ名前を使っている機械人間が、宇宙港の奥から現れる。

 

今日は女中姿だ。

 

最初に出会ったときとデザインは変わらないが、服装の使用中のパーツもずいぶんと高価なものに変わっている、らしい。

 

『『不用心です。ケース契約国で今、飛び抜けて価値がある財産はケース様です』』

 

『マスターを物あつかいするのに抗議したいけど事実すぎて抗議できない……』

 

機械人間三人の会話は漫才じみているが嘘は一言も言っていない。

 

「列強ならオリジナルを大量に確保していると思っていたんだがな」

 

『『鉄国が出し渋っているだけの可能性もありますが、ケース様は最も最近の戦いで能力を証明されましたから』』

 

『ドローンもカノンも見えるっぽいんだけど、安定しないんだよね』

 

俺の目には白ミミズに見えても、カノンやドローンの目には怪獣じみた何かに見えた。

 

ただしそれは最初に見たときだけだ。

 

俺にとっては常に白ミミズだが、カノンとドローンは、非常に体調が良いときだけ白ミミズに見えてそれ以外では別の別の何かに見えていた。

 

「しかしあれは何なのかね。かなり距離がある惑星の地表から人間とか色々消しちまうんだろ?」

 

俺たちは、宇宙港のエントランスであり、ケース契約国の玄関口でもある巨大な空間から奥へ進む。

 

『惑星改造用の生物兵器って説もあるみたい。あっ。今ハカセが元ハカセになった』

 

研究職AIの議論を通信越しに聞いていたらしい相棒が、なんとも表現しづらい顔になる。

 

「学問の世界は日進月歩か」

 

『『列強ですと数百年停滞するのが一般的です。そのためケース契約国に帰化してから「はしゃぐ」方が多く……』』

 

『治安維持担当は大変だよね。お世話になってます!』

 

相棒とナニーたちの仲は良好のようだ。

 

独裁者の妻と秘密警察込みの警察のトップなんてもっとどろどろしてそうなのにな。

 

『マスター、そういう子なら最初から話をもちかけないって』

 

最近の相棒って、俺の表情と気配から思考を読めるんだよな。

 

「良い友人が多そうでいいな」

 

相棒が楽しいと俺は楽しい。

 

多数の機械人間に厳重に警備された扉を通過すると、そこに見慣れた景色が広がっていた。

 

個人の買い物としては高額だが、国家施設としては平凡といって良い舞台とその観客席。

 

丁寧に清掃されてはいるが、機材の搬入や熱心な演技の際についた傷がいくつもある。

 

『マスター、たまには一緒に踊ろうよ!』

 

相棒が俺に手を伸ばす。

 

整った爪も指も腕も、何もかもが俺と違う。

 

「お手やわらかに、な」

 

迷わず手を伸ばし、握りしめる。

 

相棒は俺の手の拘束を受け入れるだけでなく利用して、ふわりと俺に近づいた。

 

『駄目! 今日は舞台で汗を流すの!』

 

俺を中心にくるりと回る。

 

操縦室で寝泊まりしているとき以外は毎晩一緒にいるんだ。

 

お互いの呼吸は熟知しているから、動きをあわせるのは簡単だ。

 

口元が綻ぶ。

 

相棒のステップが速くそして華やかになる。

 

俺たちは、心ゆくまで夫婦の時間を楽しんだ。

 

  ☆

 

「条約締結まで持ってこれたのはドローンのお陰だ。この功績をたたえて評議会議長の座はドローンへ引き継がせる」

 

「仕事から逃げないでください」

 

ドローンの返事は、久しぶりに冷え冷えとしていた。

 

「しかしだな、もう俺の頭ではついていけないぞ」

 

情けないことを堂々と言う俺だが、複数の列強や巨大企業を相手にしながら内部の統制までするのは、この宇宙で鍛えられたとはいえ元は凡人未満のPvP好きには大変すぎる。

 

「ケースさんが引退したらその日のうちに皆好き勝手を始めてケース契約国は分裂の末に消滅します。皆、ケースさんだからまとまっているんです」

 

ドローンが冷たい。

 

「分裂を回避できたとしたら、国家主席の親族として儀式の場所への出席が義務になりますね。……そんなことを強要されるくらいなら、聖女たちと一緒にもとの時代に帰ります」

 

カノンはしおれている。

 

『『我々は常に弟様とカノン様のために存在します』』

 

ナニーは忠臣面をしてはいるが、明らかに状況を楽しんでいる。

 

「「「どうでもいいが俺たちの老後の保証はしろ」」」

 

相変わらず凄腕パイロットな三人組は、政治闘争には無関心を貫いている。

 

「「「「「あの、あの時代の地球に帰るまでの支援はお願いしますね?」」」」」

 

SFあるいはスペースオペラじみた宇宙で聖女をしている五人が、俺に対して少し不信感を持ったようだ。

 

『わたくしは、いつまでもケース様に活躍してほしいと思っています!』

 

ディーヴァが席から身を乗り出して自己主張する。

 

『俺は研究できれば誰が国家元首しても気にしないぜ!』

 

元ハカセを研究で蹴落としてハカセを襲名した現ハカセはこんなありさまだ。

 

「会議の前の雑談はこの程度でいいですよね、ケースさん?」

 

ドローンの顔には「これ以上アホなこと言うならマジでクーデターするぞこのクソ親父」と書かれているようだった。

 

「はい……」

 

議席と財産を確保した上で面倒はドローンに解決してもらうという野望は、砕けた。

 

『じゃあドローン、今どうなっているか説明してもらっていい?』

 

相棒は俺より堂々としている。

 

「はい、メモリさん」

 

ドローンは穏やかに微笑んで、舞台の上にケース契約国とその周辺の星系全てを表示する。

 

俺たちが座っているのも舞台に設置された椅子だ。

 

客席には当然のように機械人間たちが見物に集まっている。

 

「メモリさんの「地図」からの情報です。最近制圧した星系を、聖国は全て放棄したと思われます」

 

聖国風の名前になっていた星系が、もとの名前か少なくとも聖国風ではない名前に変わっている。

 

「また、現ハカセの研究で判明したことがあります」

 

『俺の出番だな! 雑に要約すると、聖国の技術は対鉄国にメタを張ったものだ。同等規模の戦力で戦えば確実に聖国が勝つ』

 

理系の学者が確実にそうなると断言するのは、よほど強烈な根拠があるときだけだ。

 

ドローンが、ハカセから説明を引き継ぐ。

 

「この研究成果を元に鉄国から譲歩を引き出しました。鉄国は我々ケース契約国に、鉄国と聖国の緩衝地帯の領有、および聖国の切り取り自由を認めました」

 

「従属的同盟ってとこか?」

 

俺が聞くと、ドローンは真剣な目で頷いた。

 

「直接に税金や兵役を課されることはありませんが、特許使用料や高度技術製品の輸入でケース契約国から資金が流出する関係になります。「芋」の需要は未だ強烈ですが聖女たちは立ち去る予定で、ケース契約国の技術水準も鉄国そのものと比べると発展途上です」

 

「「「譲歩しすぎじゃないか? 聖国のあれ相手に勝ったのは後輩のおかげだろ」」」

 

三人組が懸念顔だ。

 

「ケースさんが白ミミズと護衛艦隊に気付いたから鉄国にまともな交渉を強要できたんです。そうでなければ全部奪われておしまいでしたよ」

 

ドローンがうんざりした顔で言う。

 

「列強の一つである聖国のメンツを潰したからな。列強を続けるつもりなら確実に俺たちを殺しに来る。鉄国が攻めて来ないなら完璧以上の成果だ。さすがドローン。これからも頼りにしてるぜ」

 

俺の発言は全て本音で事実ではあるが、ドローンに気分良くなってもらって実権を押しつけたいという意図もある。

 

「はい。ケースさんの操縦と指揮を頼りにしています。今後も聖国相手に力を発揮してください」

 

「はい……」

 

俺は、今後もパイロットとして酷使されるらしい。

 

『ナイアTECは? ナイアCEOが大人しくしているとは思えないから、ひょっとしてクロさんあたりを怒らせて処分された?』

 

ナイアCEO嫌いな相棒が露骨に期待している。

 

「残念ながら健在です。サーフボード型巡洋艦の設計図と設計ログの全てと引き換えに、ケース契約国への支社設立を希望しています」

 

『ログもか! 代表! 設計途中の情報があれば設計の改変も艦の建造も楽になる。すごくいい取り引きだぞ!』

 

現ハカセは乗り気だ。

 

サーフボード型巡洋艦は前回の戦いで大活躍した。

 

パイロットやパイロット志願の機械人間からの評価も非常に高い。

 

使い続けることができるのは助かるが、どうせ、ケース契約国国内で利益を貪る気なんだろうな。

 

「これで終わりか?」

 

「後一点だけです。鉄国から、駐在武官としてワンオ氏とお付きのAI二人の派遣を打診されています」

 

『『監視ですね』』

 

『聖国から得た情報を鉄国に送る役割かぁ』

 

ナニーと相棒が小声で話している。

 

「以上が現時点での交渉内容です。ケースさんの許可があれば即発効する状態になっています」

 

「文章で頼む」

 

俺はディスプレイに表示された文面に目を通し、相棒をちらりと見る。

 

俺とは比較にならない速度で読み、検証し、判断していた相棒が、深く頷いた。

 

「この内容で頼む」

 

印鑑も署名も、網膜も遺伝子すら偽造可能な世界だ。

 

言葉だけで話は進む。

 

「承知しました。今連絡したので鉄国でも条約の締結と条約内容が公開されます。ケース契約国では国営放送ですね」

 

『俺の初解説だ!』

 

『アナウンサーに呼ばれているので行って参ります。体調にお気をつけください、ケース様』

 

現ハカセとディーヴァが、新しく建設された放送局へ向かう。

 

『これで準列強だね、マスター!』

 

相棒の笑顔がまぶしい。

 

「相棒の目的の体と、子供の生産がどんどん縁遠くなっていくけどな」

 

条約の条文には、技術移転を邪魔しまくるって意図があからさまだった。

 

『マスターならなんとかできるでしょ?』

 

相棒の態度は、盲信ではなく信頼だ。

 

「もちろん!」

 

相棒と仲間と一緒なら、俺はどこまで飛んでいける。




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